今回お届けするのは、満を持してのこの企画。
ズバリ、「史上最高の洋楽名盤ランキング」です。
このブログでも過去に何度か名盤ランキングのレビューというのは敢行していますが、毎回毎回外野から「このアルバムが高すぎる」だの「この価値観は偏ってる」だの文句をつけてきました。
批評なんて自分のことを棚上げしてナンボだと思うのでそれ自体を悪いことだとは思いませんが、それでも自分で何も示さずに偉そうにするのは不健全でしょう。
ということで私ピエールもこの無理難題に挑むとしましょう。炎上覚悟で作成する、最高の名盤ランキングです。かなりのボリュームとなりますが、最後までお付き合いください。それでは、どうぞ。
- 100位〜91位
- 第100位 “Bridge Over Troubled Water”/Simon & Garfunkel (1970)
- 第99位 “Sound Of Silver”/LCD Soundsystem (2007)
- 第98位 “Back In Black”/AC/DC (1980)
- 第97位 “Hounds Of Love”/Kate Bush (1985)
- 第96位 “Master Of Puppets”/Metallica (1986)
- 第95位 “Grace”/Jeff Buckley (1994)
- 第94位 “Paul’s Boutique”/Beastie Boys (1989)
- 第93位 “Superfly”/Curtis Mayfield (1972)
- 第92位 “Catch A Fire”/The Wailers (1973)
- 第91位 “Daydream Nation”/Sonic Youth (1988)
- 90位〜81位
- 第90位 “Endtroducing….”/DJ Shadow (1996)
- 第89位 “A Night At The Opera”/Queen (1975)
- 第88位 “Funhouse”/The Stooges (1970)
- 第87位 “Hotel California”/Eagles (1976)
- 第86位 “Hunky Dory”/David Bowie (1971)
- 第85位 “3 Feet Hugh And Rising”/De La Soul (1989)
- 第84位 “Lemonade”/Beyoncé (2016)
- 第83位 “Otis Blue/Otis Redding Sings Soul”/Otis Redding (1965)
- 第82位 “Astral Weeks”/Van Morrison (1968)
- 第81位 “Murmur”/R.E.M. (1983)
100位〜91位
第100位 “Bridge Over Troubled Water”/Simon & Garfunkel (1970)
フォーク・デュオ、サイモン&ガーファンクルの最終作にして最高傑作がこの『明日に架ける橋』。
冒頭に配された表題曲、A・ガーファンクルの独唱で見せる壮大さは作品全体においてはむしろ異色で、フォークを前提とした素朴なサウンドが光る作品です。P・サイモンが生み出す繊細なメロディを、2人の奇跡的なハーモニーによって誠実に紡ぐ様は惚れ惚れとしてしまうほど。
豊かで美しく、それでいて淋しげな本作の音像は、深まる秋の情景を連想させられます。澄み切った美しさが胸に沁みる感動的名盤。
第99位 “Sound Of Silver”/LCD Soundsystem (2007)
LCDサウンドシステムの代表作であり、00’sを象徴する名盤の1つ。
エレクトロニカとロックの融合は古くにはデヴィッド・ボウイの「ベルリン3部作」にも見られる挑戦ですが、本作はそのスタイルを00’s的に翻訳しています。ダンサブルでもありながらポスト・パンクのような閉塞感も内包したサウンドは、タイトルの通り冷たく銀色に光るかのよう。
エレキ・ギターの代わりに電子音を、唸るグルーヴの代わりにデジタル処理されたビートを打ち出した作品ですが、滲み出る焦燥感は紛れもなくロック。21世紀的ロックの名作です。
第98位 “Back In Black”/AC/DC (1980)
オーストラリア最大のアーティスト、AC/DCの代表作。世界第3位の売上記録を持つメガ・ヒット作品でもあります。
フロント・マンであるボン・スコットの急逝という悲劇を受け、新たなシンガーにブライアン・ジョンソンを迎え入れ新体制で発表した初のアルバムですが、そうした背景をいささかも感じさせない痛快なハード・ロックの応酬には恐れ入ります。
史上屈指のリフ・メイカー、アンガス・ヤングのプレイも冴え渡り、ロックンロールのフィールの中で展開されるギター・ロックの数々はどこまでもあっけらかんとして楽しげ、そしてパワフルです。
第97位 “Hounds Of Love”/Kate Bush (1985)
80’sのポップスにおいて異彩を放つアヴァンギャルドなディーヴァ、ケイト・ブッシュの最高作。
A面にはコンパクトなシングル性の強い楽曲が並び、B面にはコンセプチュアルな組曲が収められている、そうした構造はプログレッシヴ・ロック的でもあります。スピリチュアルなサウンドと霊的な響きを持つブッシュの歌唱が、本作の厳かさをいっそう高めるかのよう。
ガール・グループ的ポップ・アイコンでもロックの女帝でもない、アーティスティックな女性性を高い音楽性と共に打ち出した本作は、ポピュラー音楽における女性の活躍の歴史の中で重要な意味を持つものでしょう。
第96位 “Master Of Puppets”/Metallica (1986)
メタリカの代表作にとどまらず、スラッシュ・メタル、あるいはメタル全体における最高作とも見なされる1枚。
切り刻むようなギター、凄まじい推進力を生み出すリズム、そして大仰なほどにドラマチックな展開。いずれもメタルに必要な要素ですが、それらをここまで高いレベルで成立させた作品は決して多くありません。
技巧的でありながらテクニックに耽溺した自己陶酔が感じられず、高い攻撃力をストレートに聴き手に伝播させる表現力はメタルの枠を超えた普遍性を示します。メタルの金字塔と称されるのも納得できる名盤です。
第95位 “Grace”/Jeff Buckley (1994)
夭逝の天才シンガー、ジェフ・バックリィが生前残した唯一のオリジナル・アルバム。
実父は60’sに活躍したティム・バックリィですが、父譲り、あるいはそれ以上の天性の歌声が本作では惜しげもなく披露されています。甘さ、繊細さ、力強さ、危うさ……優れた歌声に求められる全ての成分を兼ね備えた彼の歌唱は言葉では言い表せないほど至上です。
「天使の歌声」とも称される彼の歌唱ですが、天使と聞いて連想される優美さは実際には本作では希薄。むしろ人間的歌唱の極致とでも言うべき、魂の打ち震える音を肉声によって表現した印象をこそ抱くのです。
第94位 “Paul’s Boutique”/Beastie Boys (1989)
ハードコア・パンクとヒップホップの融合という、ビースティ・ボーイズが挑戦した音楽性の円熟が見られる2ndアルバム。
サンプリングにはザ・ビートルズやピンク・フロイドといったロック・クラシックを使用する点がユニークで、ロック・ミュージックのエネルギーとサンプリング・センス、そしてアグレッシヴなマイク・リレーが三つ巴の様相を呈しています。
リリース当初は商業的に失敗したことも有名ですが、作品の完成度を思えば不思議でなりません。白人の音楽感性によって表現されたラップ・アルバムとしては有無を言わさぬ名作でしょう。
第93位 “Superfly”/Curtis Mayfield (1972)
マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーの諸作と並び、ニュー・ソウルの巨人としてブラック・ミュージックの躍進を支えた名盤です。
同名映画のサウンドトラックとして制作されたこの作品は、しかし独立した音楽作品としても実に非凡。パーカッシヴなビートは心地よいファンクネスを生み出し、熱烈なグルーヴが本作を満たしています。
アフリカン・アメリカンのエンパワメントとして映画作品も文化史上重要な意味を持ちますが、そのエネルギーを音楽で彩った本作もやはり重要。ヒップホップのシーンでも参照され、後続のブラック・ミュージックに今なお影響を与え続けています。
第92位 “Catch A Fire”/The Wailers (1973)
レゲエの神にしてアフリカ系民族の中では史上最大のカルチャー・アイコンの1人、ボブ・マーリーがその名を世界に知らしめたアルバムです。
当然その音楽性はレゲエで、旧来の西洋音楽には生み得ないグルーヴを強く打ち出しつつも、そこにはロックの影響を強く受けたバンド・サウンドを聴き取ることもできます。濃密なアフリカ的感性に基づく一方で、ポップスとしての完成度は非凡。
西洋ポピュラー音楽に対比するところのワールド・ミュージックの成功は、文化のグローバル化が進む今日においても重要な意味を持ち続けています。カリブの照りつける日差しを感じられる傑作。
第91位 “Daydream Nation”/Sonic Youth (1988)
80’s後期におけるオルタナティヴ・ロックの萌芽、その代表的な例として知られるソニック・ユースの超大作です。
ノイジーなギターは同時代のピクシーズやJ&MCとも共通するものですが、本作で展開される音像はより抽象的で空間的。レコード2枚、70分以上にわたる長大な作品の中で、果てしなく広がる芸術性は圧倒的と言う他ありません。
ヴェルヴェッツに始まり、イギー・ポップ、そしてテレヴィジョンへと繋がれてきたUSオルタナティヴのバトン。そのバトンを確かに継承し、アンダーグラウンドな表現を80’s的にアップデートした作品。
90位〜81位
第90位 “Endtroducing….”/DJ Shadow (1996)
トリップホップ/アブストラクト・ヒップホップの金字塔と名高い、DJシャドウの極めて音楽的な名盤。
音楽ソフトとサンプラー、そしてターン・テーブルによってのみ構成された本作は、その音像のほとんどを既存の音楽に依拠しています。しかしながら、DJシャドウの非凡なセンスと類い稀な音楽への博愛をもってして、そこに唯一無二のオリジナリティが生まれているのです。
作曲を伴わない音楽創作という離れ業をやってのけただけでも音楽史上に残すべき偉業ですが、本作で構築された音像はレディオヘッドをはじめとしたロック・シーンにも影響を与えました。
第89位 “A Night At The Opera”/Queen (1975)
ここ日本でも格別の支持を得るロック・バンド、クイーンの最高傑作と目される1枚。
初期3作で展開したバラエティ豊かな音楽性を、本作ではたった1枚のレコードに内包するという無謀な試みに挑戦しています。ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、カントリーにオペラにボードビルに至るまでを豪奢なサウンドによって「クイーン」というジャンルにまとめ上げる辣腕たるや。
世紀の名曲『ボヘミアン・ラプソディ』が示す奇天烈なようで必然性に満ちた創作、それは本作全体を貫くテーマでもあります。クイーン以外には何人たりとて表現できない、絢爛豪華な音の洪水。
第88位 “Funhouse”/The Stooges (1970)
パンクやオルタナティヴといったアンダーグラウンドなロックの直接的なルーツの1つと位置付けることのできる、イギー・ポップ率いるストゥージズの2ndアルバムです。
ブルース由来のロックでも、陶酔感に満ちたサイケデリアでもない、猥雑で凶悪なサウンドは正に壊滅的。ギターは体を掻き毟るようで、サックスは嵐のように吹き荒れる、とにかくフリーキーな音像ですが、そこにはパンクの原型どころかポストパンク的ロックの脱構築の示唆も見られます。
ヴェルヴェッツが示したアヴァンギャルドなロックの姿勢、そこに下品な暴力性をプラスしたこの作品の意義は高く見積もって困るということはありません。現代のロックの在り方を思えば紛れもない重要作の1枚です。
第87位 “Hotel California”/Eagles (1976)
アメリカで絶大な人気を誇るロック・バンド、イーグルスの最高傑作です。
ウェスト・コーストの乾いた風の匂いをパッケージしたどこまでも清々しいアルバムで、メロディ、演奏共にバンドのキャリア・ハイと断言できる内容ですが、そのムードにはどこか暗澹としたものを感じさせます。
表題曲の一節、「当方ではそのスピリットは1969年から切らしております」という痛烈な皮肉が象徴する通り、本作は大量消費の対象に成り下がったロックの未来を憂うものでもあるのです。パンク以降新たな局面を迎えるロックですが、オールド・ウェイヴの集大成こそがこの1枚。
第86位 “Hunky Dory”/David Bowie (1971)
デヴィッド ・ボウイの才能が開花した最初期の作品で、あの『ジギー・スターダスト』と同時期に制作された1枚です。
先述の『ジギー・スターダスト』では異星人のロック・スターを憑依させたボウイですが、本作ではむしろ等身大のD・ボウイというアーティストを音楽で表現し尽くしている感があります。煌びやかなグラム・ロックのスタイルの中で、メロディアスな佳作をコンパクトに展開する耳触りのいいアルバム。
アルバムの開幕を告げる楽曲は、その名も『チェンジズ』。死の直前まで己を維新し続けた流動形の天才、デヴィッド・ボウイの本質を捉えた作品と言えるのかもしれません。
第85位 “3 Feet Hugh And Rising”/De La Soul (1989)
80’s末から勃興したグルーヴィーなヒップホップを追究する一派、ネイティヴ・タンの中心的グループが生んだ傑作アルバムです。
ギャングスタ・ラップやコンシャス・ヒップホップが見せるシリアスな態度、そうしたエッセンスは本作には希薄です。ジャンルを横断するサンプリングとどこか脱力したラップによって、徹底して楽しげでキャッチーなサウンドを展開しています。
ナードな親しみやすさを本質とするこの作品は、ヒップホップの歴史における屈指の娯楽作品です。ともすればマチョイズムに支配されがちなこのジャンルにおいて、独特の存在感を放つ1枚。
第84位 “Lemonade”/Beyoncé (2016)
現代ポピュラー音楽における女帝、ビヨンセの最高傑作として10’sを代表する名作アルバムです。
現代的R&Bのサウンドを伴った圧倒的な歌唱力は本作においてビヨンセのカリスマに還元され、威風堂々とした風格を感じさせます。楽曲に込められたメッセージも「女性」や「黒人」であることの誇りを高らかに歌ったもの。
現代社会が抱える様々な問題を、天性の歌声と上質なブラック・ミュージックによって真摯に切り取ったこのアルバムは時代の代弁者として完全に機能しています。2021年的批評において非常に重要な作品。
第83位 “Otis Blue/Otis Redding Sings Soul”/Otis Redding (1965)
スタックスが誇る絶世のシンガー、オーティス・レディングの名演が堪能できるソウルの大名盤です。
野性味溢れるブラックネスと類稀な歌唱力によって表現される楽曲は、オリジナルは勿論としてモータウンやストーンズのカバーまで多岐に渡ります。いずれもブラック・ミュージックの範疇にはありますが、レディングの手にかかればより一層タフでソウルフルな質感に。
ソウル/R&Bにとどまらず、ロックの歌唱法にもこの作品が与えた影響は絶大でしょう。メイル・ヴォーカリストの最高峰、その真髄が余すことなく感じられる作品です。
第82位 “Astral Weeks”/Van Morrison (1968)
ブルーアイド・ソウルの古豪、ヴァン・モリソンが発表したポピュラー音楽の金字塔と誉れ高い1枚です。
アコースティック・ギターを主軸とした滋味豊かなサウンドの中で、モリソンの特徴的な甲高くも奥深い歌声が繊細なメロディを紡ぐ。ただそれだけの作品ながら、その全てが高い純度をもって表現されることで究極的にエヴァーグリーンなアルバムとなっています。
音楽史上空前の傑作という評価には再考の余地がある一方で、本作が極めて優れた音楽作品であることは疑いようのない事実。聴けば聴くほどに沁み渡る深みを持った名作。
第81位 “Murmur”/R.E.M. (1983)
MTVにHR/HM、絢爛豪華な音楽が席巻した80’sのUSシーンにおいて、ひときわ異彩を放つのがこのR.E.M.のデビュー・アルバムです。
インテリジェンスでニヒルなオーラを纏った本作の温度感は実に特殊。ハイ・テンションとは程遠く、とはいえダウナーでもない、言うなれば極めて常温の音楽が過不足ない演奏やメロディによってアーティスティックに展開されています。
インディー・ロックの嚆矢としても高く評価される作品ですが、より時代性に照らし合わせるならば、80’sの狂騒が生み出したある種の疎外感を的確に掴み取った音楽として、ある意味では80’sを象徴する1枚です。
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