突然ですが皆さん、音楽ディグってますか?
ディグるって表現、実は一般的じゃないみたいですね。音楽だったり映画だったり、そういう特定のコンテンツに執心する人々、まあ要するにオタクですね、の間では当たり前に共有されている概念ではあるんですけど。
今一度説明しておきます。ディグるというのは、あるコンテンツをより深く、より詳細に知る行為を指す造語ですね。より深く、より詳しくというのがまるで掘る(=dig)ようであると。
今回は音楽をディグりたい皆様に捧げる企画です。私ピエールがどうやって音楽をdigっているか、それをここで公開しておこうという訳ですね。
最初に断っておくと、基本的に有名なサイトばかりになるかとは思います。ただ、このサイト7つを小まめに巡回するだけでかなり痒いところに手が届くんじゃないかな。それでは参りましょうか。
①Rate Your Music
まずは一番有名どころを。世界最大のポータル・サイト、Rate Your Musicですね。
ユーザー参加型のサイトで、レビュー・スコアを元にランキングが生成されていくというフォーマットです。その他、各ユーザーが作成したリストも無数に存在しているので、遠い異国の音楽マニアがどんな音楽を聴いているのか、これで簡単に察知できるという優れものですね。
ジャンル毎のディグにも対応しているんですよね。各アルバムにジャンルが紐付けられていて、そこからRate Your Music内におけるジャンル内の勢力図もチェックできます。マイナー盤を探すなら、この機能相当便利ですよね。
それと、極めてゴーイングマイウェイかつボーダーレスなのも面白い点。フィッシュマンズが海外で激烈に評価されているというのは最早一般常識になりましたけど、それもこのサイトきっかけの現象ですからね。現状だと他に椎名林檎も徐々にスコアを伸ばしているようで。
ただ、個人的にこのサイトの価値観への信頼性はちょっと低くて。というのも、あまりにオルタナティヴ・フレンドリー過ぎる。クラシカルな名盤への評価が少し足りないという意味でもそうですし、圧倒的にブラック・ミュージックへの配慮が足りないんですよ。オールタイムのランキングで『スリラー』が272位ですよ?ちょっと暴力的な数字ですよね。
スノッブ感が如何せん拭えないというか、バランス感覚としては危ういのかなという感じです。参加型のメディアなので何かしらのバイアスはかかって当然なんですけどね。まあ、音楽マニアの「生の声」を知るという意味では重要なサイトであることは事実です。
②Best Ever Albums
お次もRate Your Musicと同じくユーザー参加型のポータル・サイト、Best Ever Albumsです。
フォーマットもRate Your Musicとほぼ同じなんですけど、こっちはもっとバランスの取れた価値観なのかなと思います。それでもブラック・ミュージックは冷遇されているんですけど、サイト内のオールタイム・ランキングに関しては納得感は比較的強いかなという印象。
年間ベストなんかも、大衆的な成分が強いというかね。実際2022年の年間ベスト、現状BCNRですから。ロック中心主義とはいえ、すこぶる素直です。そういう素直さとニッチさの共存という意味で、価値観として見習うべき部分はRate Your Musicより多いと思っています。
ジャンル毎の検索だったりはできないので、サイトとしての利便性ではやや劣るんですけど、国籍毎の検索ができるというのが強みでしょうか。どうしても英米の音楽が支配的な中で、じゃあドイツはどうなの?MPBの勢力関係ってどんな感じ?みたいな疑問にはこっちの方が対応できる感はあります。
英米日を離れると、私もほとんど門外漢に等しいんですけど、そういう未知のジャンルに対する第一歩としては参考にできるサイトじゃないかな。あと、海外で日本の音楽がどういう序列で評価されているのかという客観的なデータとしても見ていて面白いですね。
③Acclaimed Music
個人的に一番お世話になっているサイトですかね。膨大なデータ量でも有名なAcclaimed Musicです。
このサイト最大の特徴は、その圧倒的な公平性。何しろここで公開されているオールタイム・ベストは、世界中で発表された各種ランキングを数値化し、統合したものですからね。言わば究極の共通認識の形成に成功している訳です。しかもオールタイムのランキングは全3000作品ですから、四の五の言わずにこの3000枚聴いていれば十年くらいは問題なく有意義な音楽ライフが遅れると思いますよ。
もっとも、その公平性故にマイナー作品を掘り起こすのには不向きという弱点もあります。1年毎のリストも抽出されてはいるので、ある程度まではディグれるんですけど、それも結局は「一般的に評価されている」順なので、特定のジャンルや国籍に対して徹底的なアプローチをかけたいのであれば弱いサイトではありますね。
そういう意味で、私はこのサイトを「洋楽リスニングの教科書」だと思っているんですよ。専門書ほどの詳細さはないものの、全体を俯瞰してある程度の理解をする上では極めて適切という。
④これだけはおさえたい 洋楽名盤列伝!/邦楽名盤列伝!
コレは日本のサイトですね、OKmusicが連載している企画、「これだけはおさえたい 洋楽名盤列伝!/邦楽名盤列伝!」。
洋・邦合わせてのべ800枚以上のアルバムをレビューしている驚異的なボリュームの連載コラムです。どちらもクラシカルな作品がメインなんですけど、とにかくいいチョイスをしているんですよね。洋楽なんて思わず唸っちゃうラインナップです。
ただ、洋楽に関して言うと「古き良き日本の洋楽観」にものすごく忠実なのがちょっと危うい気もしますけどね。ハード・ロックやプログレ、それにSSWにAORみたいな選出がメインで、オルタナティヴ以降の音楽にはそこまで対応できていません。
それこそRate Your Musicあたりと並列してディグるとすごくバランス取れると思うんですよね。小難しいオルタナやインディーは海外サイトに任せて、如何にも日本人好みのロック・ポップスのコアな部分はこちらで網羅というのが健全な気もします。
あと、邦楽名盤列伝はいわゆる「ヒット・アルバム」にもかなり好意的で。批評では見落とされがちな作品にも目配せしているのが嬉しいですよね。日本の音楽批評ってただでさえ脆弱なのに、売れ線のJ-Popだったり歌謡の世界だったりはかなり冷遇されていますから。ここを入り口にするのは結構オススメです。
⑤Pitchfork
こっから先はどちらかと言うと新譜情報のチェックによく巡回するサイトなんですけど……一応触れておきましょうか、アメリカの音楽メディア、Pitchforkですね。
いやね、このサイトの影響力というのは最早ローリング・ストーン誌にも匹敵するものだとは思うんです。少なくとも2000年代以降のロック・シーンに関して言えば、このPitchforkの評価というのは無視できない一つの指標になっていますから。
その上で言いたいのが、個人的にはオススメしません。私が批評の上で求めたい客観性や妥当性がどうしても感じられないからですね。それがこのメディアの強みだとは思うんですけど、もう好きなバンドはべらぼうに高得点だけど嫌いなジャンルに対してはもうべらぼうに当たりが強い。
でも、新譜の情報に関してPitchforkをアテにした試しはほぼないんですけど、旧譜に関しては一定の評価をすべきかなと。つまり、インディー/オルタナティヴ的価値観で60’sや70’sの名作をどう評価するのかというのは面白い発見があったりする訳ですよ。
pitchforkはオールタイム・ベストというのを実は一度も発表していないんですけど、年代毎のランキングはあるんですよね。そっちは「名前は知ってるけどそんな評価高いのコレ!?」みたいな作品がちょくちょくあって面白いです。あくまで一般的な洋楽観を養った上で、半分物見遊山ってな感覚で見るのがこのサイトとのうまい付き合い方かなと。
⑥Album Of The Year
で、Pitchforkに信頼を置いていない私がどうやって新譜をディグっているかというと。基本的にはこのAlbum Of The Yearにお世話になっています。新譜をdigるならとりあえずここ見ておけばなんとかなる、それくらい万能なサイトです。
このサイト、いわゆるレビュー・サイトではなくてですね。世界中にあるレビュー・サイトのスコアを集計して、集合知的に作品の評価を数値化しているんですよ。つまり、各メディアの「クセ」を莫大なデータ母数によってマイルドにした上でフラットな評価を下している訳です。コレは便利ですよ。
それにサイト内でのユーザー・スコアも表示されるので、たまにある「批評家は激推しするけど全然ウケてないアルバム」みたいなものも浮き彫りになってくるんですよ。逆も然りですね。この批評的な評価と大衆的な評価を一望できる点がすごく気に入っていて。
こういう各種レビューの総合サイトだと、最大手はMetacriticになるとは思うんですけど、なんとなく肌感覚に合うのはAlbum Of The Yearの方です。Metacriticはちょっと批評の色が強すぎて、個人的に首を傾げたくなるスコアが何度か出ていたりするのでね。
⑦みのミュージック
ここで趣向を変えてYouTubeのチャンネルを。みのミュージックですね。
私は知人から「みのキッズ」と揶揄される程度には注意深く彼の動画を視聴していますけど、かなりタメになるんですよ。ガンガン音楽レビューをする訳ではないので、直接作品にアクセスする情報量としてはここまでに挙げたwebサイトには劣るんですけど。digの上で持っておきたい姿勢という観点で実に示唆的です。
音楽を体系的に理解する、批評的に向き合う、そういう姿勢ってこと日本ではすごく希薄な気がして。それを一概に良い悪いとは言えないかもしれませんけど、みのミュージックではそういう価値観を強く打ち出しているんですよね。
もちろん直接音楽に触れる動画もあって、「入門シリーズ」なんかはその最たる例ですね。ザ・ビートルズだったりクイーンだったり、「名前は知ってるけどその実態がわからん。ただ今更誰にも聞けない」みたいなアーティストの解説をしてくれていて、かなりビギナーに優しい設計です。
このブログに音楽ビギナーがどれくらいいるのかは果たしてわかりませんが、音楽を「学ぶ」上ですごく有意義なチャンネルだと思います。みの氏の著作、『戦いの音楽史』も併せて是非。(ブログで書評もしていますのでそっちもよければどうぞ)
⑧Twitter
最後に紹介するのがこちら、Twitterです……いや、ふざけている訳じゃなくてね。
試しに週末に「新譜」と検索してみてくださいよ。日本全国、津々浦々の音楽オタクたちが有り余る情熱でお気に入り作品の情報をアップしてくれています。英語で調べようもんならその情報量って本当に天文学的なレベルで。
それに、Twitter上には精神と時の部屋にお住まいとしか思えないレベルの知識量の方々がわんさかいます。ここで個別にTwitterアカウントを晒すのは礼儀知らずが過ぎるので控えますけど、いわゆる「音楽界隈」をフラフラしてると定期的にそういう人って見つかるのでね。
かく言う私だって彼ら彼女らの恩恵に与った機会がどれほど多いか、ちょっと数えるのも億劫なくらいですよ。高度情報社会で音楽をdigれるという未だかつてなく恵まれた環境に我々は生きている訳ですから、この辺も有効活用していくべきで。
もしTwitterアカウントをお持ちでない方がいたら今すぐ作りましょう。手始めにフォローすべきアカウントとして……そうですね、ピエール(@pierre_review)なんてフォローしてみるとどうでしょう。なんか毎日名盤レビューしてるみたいですよ。
まとめ
ということで、今回は音楽をdigるのに最適なwebサイト8選をお届けしました。
気に入ったものだけを聴き続けるってのも全く悪くないし、実に素直な音楽体験ではあると思います。そこに貴賎の差があろうはずもない。ただ、どうせ音楽好きなら色々知りたくなるじゃないですか。だってロックに限っても、その歴史って70年とかそのレベルですよ。
我々が生まれる遥か以前から音楽は不変の芸術として存在しているし、我々が死んだ後にも、人類文明が存在する限りそこに素晴らしい音楽は誕生します。そう思うと、人間が一生で聴くことのできる音楽の量なんてチンケも良いところで。
でも、だからこそその絶望的なまでの遺産に立ち向かいたいじゃないですか。人生なんて死ぬまでの一休みだとかの一休さんも言っています。どうせ休むなら良い音楽を聴いたってバチが当たることもないでしょ。
本来であれば弊「ピエールの音楽論」もその仲間入りをさせてやりたいんですが、まだまだメディアとしてはコンテンツが不足していますから。いつかは誰かに「あのブログなかなか良いよ」なんて言っていただけると嬉しいです。そんな淡い期待を胸に抱きつつ、この辺りで。
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