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『ピエールが本気で作った「史上最高の洋楽名盤ランキングTOP100」』解説編

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先日投稿したこちらの記事、ご覧いただけましたか?

いやあ、いい記事ですね。

もうびっくりするくらい大変な作業でしたけど、やり遂げた達成感と内容の自信がすごいです。やってよかった。

さて、今回はこのランキングの解説編ですね。

個人の範疇ですが、あのランキングは「好き嫌い」を可能な限り排除した「批評」として成立するものにしたつもりです。当然主観は大いに介入してしまうんですが、姿勢としてね。

その「批評」を成立させる上での、私の価値観みたいなものをここで種明かししておこうと思います。こっちを読んでから元のランキングに当たるともっと面白くなるような、コメンタリーのような内容になるかと。それでは、ゆるりと参りましょう。

「2021年的批評」への挑戦

これは私がしばしば用いる独自の表現なんですが、「2021年的批評」というもの。

そもそも今回の「ぼくのかんがえたさいこうのめいばんらんきんぐ」制作の発端って、昨年発表されたRS誌の名盤ランキング改訂版なんですよね。

RS誌の名盤ランキングは新旧版共にレビューしたんですが、やっぱりあの価値観の転換は相当衝撃的だったでしょ?私も個人的な知人とかなり議論をしましたから。

オールド・ロックのファンがかなり感情的に批判するのも目にしましたし、個人的感情だけで話すならあの改訂は腑に落ちないところもかなりあるんですけど、でも「価値観の転換」というのは一定の評価をしないといけないなとは思ったんですよ。

やっぱり今日においてロックの存在感が減退しているのは事実な訳で。じゃあポピュラー音楽そのものが衰退したのかというと、ロックにとってかわってソウル/R&Bだったりヒップホップだったり、ブラック・ミュージックが支配的なシーンとして成立している。

ここまで様変わりしちゃうと、これまでみたいに「ビートルズ神!ディラン神!」みたいな歴史認識は盲目的なのかもしれないですよね。そこで、「2021年的批評」という新たな軸の成立は絶対に必要なのかなと。(あのリストは2020年のものですけど)

ただ、現代シーンを受けての価値観の転換が「過去の名盤の軽視」にも繋がってしまっているのがRS誌のいただけないところで。

ブラック・ミュージックに根差した評価軸を打ち出すことと、ZEPやフロイドの歴史的意義を貶めることは同義ではないですから。そこは両立して然るべきです。

いわば「現代シーンへの直接的影響力」「現代シーンに至るまでの歴史を生み出した偉業」の2点を、できるだけ並立させようと。

そこに挑戦したのが私のリストです。

ここからは私の考える「2021年的批評」の性質をいくつか。

ブラック・ミュージックを考える上で軸にすべき2人の天才

TOP10にブラック・ミュージックが3枚入ってますね。『ホワッツ・ゴーイング・オン』『サイン・O・ザ・タイムズ』『スリラー』です。

『ホワッツ〜』は言うまでもなく表現としてのソウル/R&Bの原点にして頂点ですから高く評価しておくとして、プリンスとMJを現行の批評よりもっともっと評価したいんですよ。

空間的な表現をすると、プリンスは縦軸=「深化」の方向に巨大な貢献を残し、MJは横軸=「大衆化」の方向に寄与しています。

Starfish and Coffee
Beat It

この対照的な方向への発展を同時代に展開してみせたことで、グッとブラック・ミュージックの幅は広がったはずなんです。どちらがより偉大かとかはありません。

だからここは絶対に同じレベルで評価したい。というより近年のプリンス再評価の波にMJが置いていかれているのが理解できない。40位台に『オフ・ザ・ウォール』『パープル・レイン』が並んでランク・インしているのも実は結構意図的で。

Michael Jackson – Off the Wall (Audio)
Purple Rain

欲を言えばこの2人の天才が共に師と仰ぐジェームス・ブラウンもリストに入れたかったんですが、ライヴ盤を入れるのも個人的にしっくりこない(というよりスタジオ録音のアルバム作品とは性質がまるっきり違う)し、JBはシングル主体の活動ということもあり今回はスルーとしました。

今後のブログのネタバレにもなるんですけど、「JB史観」というテーマを最近ずっと考えていて。いずれシリーズものとして展開していく予定なんですけど、ここを軸に見ていくとスッと理解できる部分はあると思うんですよね。

ヒップホップをちゃんと評価したい

私は音楽感性がパンク以前のロックに洗脳された悲しきロートルですが、それでも現代的な音楽批評をする上でヒップホップを評価しない訳にはいかないと思っていて。

実際、私のランキングには15枚のヒップホップ作品が登場します。最高順位はパブリック・エナミーの2ndですね。黎明期の重要作は選外なんですが、商業音楽として洗練され始めた80年代以降の作品はかなり満遍なく有名どころを落とし込んだかと。

私が折に触れて言及する、『サージェント・ペパーズ』に端を発する「アルバム文化」という概念。こことヒップホップって距離があるカルチャーなんですよね。もっとシンプルに言うとロックとヒップホップの差なんですけど。

だからヒップホップの世界から、ロック脳的名盤というのはどうしたって生まれにくいんです。ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』はそういう意味だとかなり異色なんですが。

King Kunta

ただ、もうそこは同じ評価軸じゃなくていいのかなと。「ロック的名盤」と「ヒップホップ的名盤」、ここの2つを同時にバトルさせても面白いと思うんですね。というより、そうせざるを得ない。

ビギーの『レディ・トゥ・ダイ』なんてかなり長いアルバムですけど、ヒップホップを聴きこなしていくとまあまあとんでもない傑作ですからね。そのヒップホップ的感性が今日のシーンで持っている発言権ってかなり大きいですから、そこも掬い取っていきたいんです。

Big Poppa (2005 Remaster)

その上でロックも大事に

で、ブラック・ミュージックをどこまで積極的に評価するか、これが「2021年的批評」における肝要なテーマだとは思うんですけど、それ以上に大事にしたいのがロックの存在。

というより、ブラック・ミュージックとロックをきちんと共存させるランキングにしたかったんです。

これは私の音楽嗜好の問題もあるでしょうけど、でも冷静に考えてくださいよ。ほんの10年前までは史上最高峰の名盤とされた作品群が、いきなり大きく順位を下げるのは恣意的すぎるでしょ?

「ヒップホップとかソウルの方がいいからビートルズはもういいや」、それは乱暴が過ぎます。「ヒップホップやソウルもいいよね、でもビートルズだって当然いいよね」と、こうあるべきじゃないですか?

なのでそこはちょっと作為的に、これまで名盤とされてきた御歴々はしっかりと高順位につけています。

ただ強いて言うなら、そのロックの中でもクラシック・ロック偏重は避けていこうとは。

もう少し具体的に言うならパンク以降のロックですね、オルタナだったりインディーだったり、そこもしっかり評価したいんです。だって現代的に批評するならむしろこっちこそ本流でしょ?

ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』は当然ああいう位置にいくとして、ザ・スミスだったりマイブラだったりニュートラル・ミルク・ホテルだったり。そういう「陰キャのロック」も強く押し出してみました。

when you sleep

USとUKのバランス感覚

ここも他の媒体のリストだと違和感のあるところで。

英米のメディアが選出すると、自国贔屓の傾向が強いんですよね。RS誌はどうしてもアメリカのアーティストが多いですし、NMEやQ誌はもうイギリス臭が強烈にするラインナップ。

ただ、私は幸いなことに日本人ですから。別にUSもUKも国として特別な思い入れがある訳ではありません。

音楽とは外側の、自国文化への誇りのようなものを排除できるというのは私のランキングの重要な性質かと。

今回選出した作品の国籍をまとめてみると、USの作品が63枚、UKの作品が37枚、残りがドイツだったりカナダだったりオーストラリアだったりの諸外国です。

USが圧倒的なように思えるかもしれませんが、やっぱりブラック・ミュージックを高く評価するとこうなっちゃいますね。ソウルもファンクもヒップホップも、アフリカン・アメリカンによる偉大な発明ですから。

あと、これは日本の洋楽ファンに見られる傾向なんですが、90’sのUKロックへの異常なまでの愛。これもちょっと批判的にこのリストでは表現しています。

ストーン・ローゼズの1st(リリース自体は89年ですけど性質はほとんど90’sです)やオアシスの『モーニング・グローリー』はリスト入りこそしてますが、結構順位としては低迷してますよね。

Wonderwall (Remastered)

どうしても世界的なポピュラー音楽のシーンを俯瞰した時、この辺の作品って全世界的なものではないのかなと。そもそもブリットポップというのが英国内で閉じたカルチャーな訳ですから。

その代わり先に触れたように『ラヴレス』のような作品は高く評価しています。そこでバランスをとったつもりなんですが、ロック・ファンには違和感を持たれても仕方ない部分ではありますね。この場を借りて言い訳しておきます。

幅広いジャンルを取り入れたリストに

最後にここも言及しておきます。あのリスト、かなりジャンルレスに選出したつもりなんですよ。

勿論ロックやソウルが中心的ではあるんですが、ボブ・マーリーでレゲエを、クラフトワークやLCDサウンドシステムで電子音楽を、サイモン&ガーファンクルでフォークをといった具合ですね。

あとで語るんですが、やっぱりこういうリストに入れるべき名盤って歴史的な価値も重要になってくるので、あまりポピュラー音楽の本流でない部分に忖度するのはリストの性格がぼやける懸念もあるにはあるんですよ。

ただ、もはや近年の音楽はかなりジャンルの垣根を超えたシーンが形成されていると思うんです。カニエ・ウェストとボン・イヴェールがコラボしちゃう訳ですから。

Lost In The World

なのでそこにも一応目配せしておこうかなと。ボブ・マーリーの選出は我ながらオシャレなチョイスだと勝手に思ってます。それもウェイラーズ名義の『キャッチ・ア・ファイア』ってのがいいですよね。

Concrete Jungle

「名盤」の基準

さて、あのリストの批評的性格はこんな感じで。次に話したいのは私が何をもって「名盤」としたか、その選考基準ですね。

突き詰めれば「いいアルバムかどうか」に尽きるんですけど、音楽的に優れているかどうか以外にも一応軸は設定してます。そうじゃないと私の愛聴盤が100枚並んでハイおしまいですから。

こっからはそのあたりの話を突っ込んでみていきましょう。

歴史的かどうか

まあ、批評ですから。革新性や後進のアーティストへの影響のような、歴史的意義は無視できませんね。

この観点から高く評価した作品は、ディアンジェロの『ヴードゥー』、サバスの『パラノイド』、スライの『暴動』、この辺りでしょうか。この辺の作品が大手メディアの名盤ランキングよりは好位置につけているのはそういう理屈です。

Feel Like Makin' Love

で、この3作に共通して言えるのって、近年のシーンにおいてこそ歴史的重要性を増しているんですね。

『ヴードゥー』に関してはリリース自体が2000年ですから当たり前として、サバスなんてのはメタルのガラパゴス的発展とカルト的支持の源流でもあり、同時にオルタナ的な文脈でも、それこそニルヴァーナを筆頭にもろ影響与えてます。

Iron Man (2012 – Remaster)

スライの『暴動』もリズム・マシンを使った最初期の音楽作品という点は見過ごせませんし、やっぱり彼のDNAってプリンスに引き継がれて、そっからディアンジェロだったりフランク・オーシャンだったりに繋がるものだと思うので。

Luv N' Haight

最上位にいる常連さん方、『ハイウェイ61』ヴェルヴェッツの1stもこういう側面から今なお高く評価すべきだろうということです。

時代性を反映した作品かどうか

「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉が象徴するように、音楽というのはしばしば時代の写し鏡となります。

その時代性の反映、ここもこのリストで重視した性格の1つ。

R.E.M.の最高傑作って大体の場合90年代に入ってからの『オートマティック・フォー・ザ・ピープル』が挙げられると思うんですよ。で、実際音楽的にはバンドのキャリアでもトップ・クラスの名盤なんですね。

Everybody Hurts

ただ私のランキングでは1stの『マーマー』を選出しています。レビューでも言及しましたが、あの作品は狂乱の80年代のギラついた光が生み出す影を表現していると思うんです。その時代の空気を閉じ込めた部分を重く見たい。

ザ・ビートルズの最高傑作を『リボルバー』としているのも、ポピュラー音楽がいよいよ芸術に変質しつつある60年代の混沌とした才能のうねりを端的に捉えた作品だからという意図があったりして。これは半分こじつけで私が『リボルバー』シンパだからというのもあるんですけど。

Eleanor Rigby (Remastered 2009)

UKロックの文脈でいうとストーン・ローゼズの1stだったり、近年の作品ならばビヨンセの『レモネード』なんてこういう性質を強く打ち出した作品です。当然、このリストでは重要作品としてチョイスしました。

Sorry

まとめ

さて、解説はこのあたりにしておきましょう。まだ書き足りないんですけど、あくまでオマケですからね。

冒頭にも書きましたが、あのランキングはもう我ながら惚れ惚れとする出来栄えです。これから洋楽を体系立てて聴きたいという方があれば、あの100枚聴くところから始めろと言いたいくらいに。

それは単に私個人の価値観の押し付けからある程度離れた意味合いを持つと思うんですよね。納得感の強いリストにしたいという思いもありましたし、それなりに洋楽全般を考察した上で構築した価値観に基づいた選出でもありますから。

あのリストが洋楽名盤ランキングの1つの模範、スタンダードになり得るものだと私は確信しています。改めて、是非ともご覧いただければと。それではまた。

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