第5位 “★” (2016)
ここからいよいよTOP5の発表ですが、ここで登場です。デヴィッド・ボウイの遺作、『★』ですね。
私がリアルタイムで聴いた最初で最後のボウイ作品なんですよね。リリース当初に聴いて、「……わかりにくいけどすごいことはやってるなこの人」という感覚になりました。当時はロック小僧で、本作のインスピレーション元として重要なケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』も通っていなかったので。
そう、この「すごいことやってるな」感、これがすごいんですよ。ボウイは本作が遺作になる心算はあったはずで、キャリアの総決算のような回顧録になっても文句は出ないはずです。でもそこで極めて挑戦的、イノヴェーティヴな表現に振り切ったんです。
現代ジャズの要素を取り入れて、アダルトではあるんだけれども野心的、複雑でミステリアスなサウンドスケープを構築したこの作品で、彼は「アーティストとしてのデヴィッド・ボウイ」の意地を見せつけました。ここにボウイの本質を私なんかは垣間見てしまいますね。
『ラザレス』なんて暇乞いそのものだし、今にして思えば死の匂いが豊満に漂ったアルバムなんですが、それを気取らせない見事な表現。最後の最後に残した『アイ・キャント・ギヴ・エニシング・アウェイ』(「私は何も与えられない」、あるいは「私は何も明かすことはない」)なんて、逆説的ですけどフレディ・マーキュリーの『ショウ・マスト・ゴー・オン』にも比肩する最高の遺言じゃないですか。
第4位 “Hunky Dory” (1971)
惜しくもTOP3を逃した格好になりましたね、第4位に『ハンキー・ドリー』です。
いやあ、いいアルバムですよね。ボウイの中では一番わかりやすいアルバムだと思ってます。すごくキラキラした、グラム・ロックの「陽」の部分を抽出したような作品じゃないかと。このサウンドにかなり大きい部分で貢献しているのが、のちにイエスで大活躍することになるリック・ウェイクマンのピアノですね。
ただ、シンプルに作曲という点で見つめても素晴らしい作品です。ボウイの才能ってひょっとするとトリッキーな表現にばかり注目されがちですけど、この時期の「正統派ロック・ミュージシャン」な楽曲は本当に素晴らしい。
なにせ『チェンジズ』に『火星の生活』という、もうボウイそのものと言ってもいい名曲が収録されているだけでなく、『流砂』や『ユー・プリティ・シングス』、『アンディ・ウォーホル』といったオツな楽曲がいちいち秀逸ですからね。作曲だけならキャリア・ハイかもしれません。
デヴィッド・ボウイという才能を理解するのは本当に難しいですし、どの作品も彼の玉虫色の表現の側面の1つに過ぎないんですけど、本作が最も「デヴィッド・ボウイ」を掴み取るのに最適なアルバムという気もしていますね。次作で異星人のペルソナを被る直前という意味でも。
第3位 “Low” (1977)
ランキングも終わりが見えてきました、ここからはTOP3。第3位は「ベルリン3部作」の嚆矢となった『ロウ』です。
人気という意味ではわかりやすいアンセムが収録された次作『ヒーローズ』に一歩劣る感もあるんですけど、音楽としての完成度ならこっちですかね。というより、B面のインスト・パートの充実度が『ヒーローズ』より遥かに優れていると思っています。
そもそも「ベルリン3部作」って、ボウイがドラッグでボロボロになったタイミングでベルリンに逃避したところから始まるプロジェクトでしょ?そのどうしようもない退廃や危うさがより克明に残っているのが『ロウ』という作品な気がしていて。鬼気迫る迫力が冷酷に滲んでいるんですね。
それに「歌モノ」(歌モノにしてはあまりにアーティスティックですが)が収録されたA面だって文句なく素晴らしい。流石にここは『ヒーローズ』に譲る格好にはなりますけど、『ステーション〜』からの変貌という意味でもハッとさせられる瞬間が本当に多くてね。
現代から俯瞰するとボウイって「とっつきにくいアーティスト」の一角になっちゃってますけど、その最大の要因はある意味では本作にあると思います。これ、悪い意味ではなくボウイのキャリアをより一層多彩で重厚なものにしたってことですから。すごく重要な1枚だし、重要になるに足る傑作ですね。
第2位 “Station To Station” (1976)
第2位は1976年発表の『ステーション・トゥ・ステーション』。最近の批評界隈でメキメキ再評価の進んでいる1枚ですよね。実は今のところ、このブログで唯一個別にレビューしたボウイ作品でもあります。
ソウル期と「ベルリン3部作」の橋渡しになっているアルバム、なんて評価が一般的ですし、実際私のレビューでもその折衷としての面白さを中心に語っているんですが、それがまずすごくないですか?ソウルとクラウトロックを結びつけるって、かなりな離れ業ですからね。
で、こういう「過渡期の作品」にありがちなどっちつかずな中途半端さ、「やりたいことはわかるんだけど……」感、それが一切ない。むしろソウルネスでいうとそれまで以降に濃密だし、そこにクラウトロックの反復性やヨーロピアンな艶まであるんですから。
全6曲というのもいいんですよね。アイデアが実に濃厚で、アルバムとして全くブレない。それこそ「ベルリン3部作」の『ロウ』や『ヒーローズ』ではB面を全部インストにして、結果的にある種のとっつきにくさが生まれた訳ですけど、アルバムとしてのトータリティが本作では保たれているのがプラス材料です。
数年前まで、「デヴィッド・ボウイの名盤」って『ジギー・スターダスト』と『ハンキー・ドリー』、それから『ロウ』の3大巨頭って感じだったと思うんですけど、これからは『★』と本作もそこに加わっていくんでしょうね。余計わかりにくいアーティストになりそうですけど、その謎めいた実態もボウイらしいと思いませんか?
第1位 “The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars” (1972)
ごめんなさい、1位はどうしてもベタになってしまいました。ピエールの選ぶデヴィッド・ボウイの最高傑作は、波乱なく『ジギー・スターダスト』ということになります。
この作品を「ボウイの最高傑作」とすることに実のところ懐疑的ではあるんですよ。並外れた名作ではあるけれど、「このアルバムがボウイを象徴しているの?」と聞かれると答えに詰まります。それよりは『ハンキー・ドリー』だったり、『ステーション〜』だったりが本質的な気はしていて。
でもそういう小難しい議論を抜きに、もうロック・アルバムのあるべき姿そのものだと思うんですよ『ジギー・スターダスト』って。実はアンサンブルがかなりシンプルで、ロックとしてとってもストレート。だからグラムのスタイルに乗っかっても時代がかって聴こえないんです。
その上でボウイの絶望的なカリスマが乗っかって、ソング・ライティングも『ハンキー・ドリー』以来続く絶好調ですから。そう、とにかく楽曲がいいんだなこのアルバム。『5年間』で開幕し『ロックン・ロールの自殺者』で狂乱のフィナーレを迎えるまで、全く無駄がない。名盤として言うことなしなんですよね……
ボウイくらいなんでもやってるアーティストになると日によって結構フェイバリットは入れ替わるんですけど、根っこの部分でロック小僧な私にとって、アヴェレージが一番高いアルバムということでこのアルバムを1位にさせてもらいました。ランキングの最後に面白みには欠けてしまいましたがご容赦を。
まとめ
これにてデヴィッド・ボウイ全アルバム・ランキング、完結です。いやあ、長いですね。お読みいただいた方はお疲れ様でした。私も疲れましたからね。
キャリアを追って一気にデヴィッド・ボウイという人物を振り返ると、本当にこの人の才能を思い知らされます。スランプだってありますし、作品に好き嫌いはどうしたってありますよ。盲目的に「全部好き!」と言えるアーティストでは、少なくとも私の中ではないのも事実です。
ただそんなことどうでもよくなるくらい個性的で独創的で、唯一無二の人物なんです。数日に分けてのボウイを追いかける旅の最後に『★』を聴くと、うっかり泣いてしまいましたよ。
もうこの世界にデヴィッド・ボウイはいません。でも、彼の作品は不滅です。そしてその作品の中には、火星からきたロック・スターや、白く痩せた公爵、安寧を求めベルリンに隠遁する賢人に、史上最も影響力のあるアーティスト、そんな彼の無限の個性が息づいているんです。
デヴィッド・ボウイよ、偉大なるマエストロよ、どうか永遠なれ。私が願うまでもないことですが、最後に彼への心からの敬意と感謝を表明して、この記事を締めくくろうと思います、それではまた。
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