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ピエールの選ぶ、2020年代上半期エッセンシャル・アルバム10×5

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ついこの前まで年間ベストをこねくり回していたと思えば、もう2025年ですか。本年も、ピエール並びに「ピエールの音楽論」をどうぞよろしくお願いいたします。

過去2年くらいにわたっての恐るべき怠惰の清算はまだ済んでないんですが(とっととMJ全アルバム・レビューと80’s洋楽史解説を終わらせろという話です)、せっかく2025年を迎えた訳ですし、今回はこんな企画を。2020年代ディケイド・ベスト、その中間発表です。

とはいえ、もう折り返しではありますが裏を返せばまだ折り返し。今後シーンがどうなるかもまだまだ分からないですし、今のうちからガチガチのランキングを組むのはちょっとお手つきが過ぎるかなとも思います。

なので今回は順位はつけず、2020年から2024年までのそれぞれの1年を代表する、エッセンシャル・アルバムとでも呼べるものを10枚ずつ選んできました。のべ50枚、なんとなくこの辺が5年後も話題になってるんじゃない?という私なりの俯瞰の記録という訳です。

ということは、2021年から毎年やっている年間ベスト、あれの上位がそっくりそのまま登場するという感じでもないことは予め言っておきましょう。私個人としてはイマイチしっくりこないけど、でもどう考えてもその1年の顔だった作品はいくつもありますからね。

そしてそれぞれの作品にレビューしていくというより、時代の温度感を振り返りながらその中で作品についてもコメントしていくような、それこそ洋楽史解説シリーズのフォーマットに近いものにします。気合入れたレビュー付きのランキングは5年後のお楽しみということでね。それでは早速、2020年から見ていきましょう。

2020年の10枚

早速なんですが、2020年当時の私は新譜なんてものを聴こうとしておりません。X、当時はTwitterでの名盤レビューはこの年に始めたんですけど、洋楽オンリー、しかもそのほとんどがかつてのローリング・ストーン誌史観丸出しのラインナップでね。相当に頑固で黴臭いリスナーでした。あれでよくドヤ顔で名盤レビューなんかやってたな……若さゆえの勢いだったんでしょうけど。

おっと、身の上話が過ぎました。要するにここに挙げている10枚はほとんど後追いで聴いたものばかりなんですが、やはり2020年を語る上で新型コロナのパンデミックを避けて通ることはできません。あらゆる意味で閉塞感が世界に蔓延し、先のことなんて誰にも分からない暗澹とした時代。その中でどういう作品が生まれたかですね。

そうなると、“Folklore”/Taylor Swiftは外せないでしょうね。現代ポップスのトップ・スターが、Bon IverThe Nationalを招いて展開したインディー・フォーク。この内省のムードは2020年という特異点ならではだったと思います。それに、10’sから新譜チェックしてる方の認識とはズレがあるかもしれませんが、この作品を起点にインディー・フォークが盛んになった印象もあるんですよね。

そしてこれは個人的な心情として、シーンを語る上でヒット・アルバムの存在を蔑ろにはしたくない。しっかり中身の伴ったものであれば、ポップであることは作品の価値を下げるどころかむしろ保証するものであると考えるからです。”Folklore”、というよりTaylor Swiftはその観点からもマストかな。

そういう文脈でいくなら、“After Hours”/The Weeknd“Future Nostalgia”/Dua Lipaも必要なピースです。2人とも10’sの時点で十分な評価を受けていた訳ですが、コロナ禍のネガティヴィティの中で享楽的なポップスが人々を励ましたことの意義は間違いなくありますから。それにやはり2人とも、ただ売れ線というだけでない個性がしっかりあるアーティストでもありますし。

その一方、インディー・シーンでは才女の貢献が光った1年でもあります。というより、今のところ20’sは毎年そうなんですけどね。2020年においてそれは、2019年にアイコンとなったBillie Eilishのインスピレーションとしても再注目を集めたFiona Apple“Fetch The Bolt Cutters”、そして新世代のSSW筆頭としてかねてから目をつけられていたPhoebe Bridgers“Punisher”

前者であればPitchforkがあの”My Beautiful Dark Twisted Fantasy”以来の10点満点を出したという触れ込みもあり、後者は「陽のTaylor Swift、陰のPhoebe Bridgers」のような比較の中でコロナ禍の人々と共鳴することに成功。以降の20’sにしっかり影響の痕跡を残しているという意味でも大事です。規模はやや小さめですけど、Tik Tok経由で発見されたBeabadoobee“Fake It Flowers”もこの一群の中で語っていいかもしれませんね。

ブラック・ミュージックからは先のスター2人の他に、Amy Winehouseの継承者Jessie Ware“What’s Your Pleasure ?”Mac Millerの遺作“Circles”を選んでいます。Wareの生真面目にディスコに向き合うクラシカルなスタイルはBeyoncéの” Renaissance”の先取りのようでもあるし、”Circles”の最早ヒップホップを超越した内向的なプロダクションやビート感覚もすごく今っぽいんですよ。この2枚は、今後のシーンの動向によっては5年後もっと評価を上げてもおかしくないと思ってます。

国産音楽に関してですが、実は各年で1作品ずつ選ぶつもりでした。事実、ここから先の4年分はそうしてます。ただ2020年に関しては、Album Of The Yearのユーザー・スコア総合1位になった“アダンの風”/青葉市子は日本のシーンどうこうの前に「コアなリスナーが支持したサウンド」という観点からその年を代表すべきということで選考してます。そして“狂”/GEZANのダーク・ヒーローの如きカリスマと鋭さも、2020年における国産音楽の大きな収穫でした。

2021年の10枚

2021年はこんなラインナップを。やはりこの年の顔となると“SOUR”/Olivia Rodrigoですね。ありがちなTaylor Swiftフォロワーのギョーカイ・ポップスかと思いきや、よく聴くとインディー・ロックをやりたがっている。それこそ”Folklore”以降、20’sで何かしら優れたポップスとインディーの接続が生まれていると感じているんですが、2021年ならばこれで決まりです。

そして20’sロックを語る上で外せないMåneskinの登場もこの年の大きなトピック。“Teatro d’Ira Vol.1”ですね。あのなんともわざとらしい生意気さ、それはバンドのビジュアルも込みでですけど、それがしっかり大衆に届いたというのはロックにとって巨大な意義があったと思います。だからこそ”RUSH !”には期待していたんですが、今のところこっちの衝撃に負けている感は否めないかな。残る5年でしっかりしたアルバムを出してくれれば文句なしです。

批評的な代表作ならば、UKヒップホップの女王Little Simz“Sometimes I Might Be Introvert”、それからFloating Pointsとジャズの偉人Pharoah Sanders、そしてロンドン交響楽団のコラボレート“Promises”が特に目立っていたかな。”Sometimes 〜”に関してなら、プロデュースしたInfloの陣営で客演としても参加したCleo Solは個人作“Mother”でソウルとSSWを上手くブレンドして、2024年のトレンドに繋がるサウンドを生み出しもしています。

それからLittle Simz、そして今回は選外としましたがDaveのようなUKヒップホップが躍進する中、肝心のUSがずっとトラップを引きずってしまって、停滞続きだったのは語っておいた方がいいですね。アンダーグラウンドなラッパーは頑張ってもいたんですけど、その中でメインストリームで孤軍奮闘したTyler, The Creator“Call Me If You Get Lost”2021年の良心と言える1枚でした。ましてこの年まで、10’sの才能が揃いも揃って沈黙してましたから。

さて、この年の才女枠にはArlo Parksの1st“Collapsed In Sunbeams”を。女性に忖度するつもりは毛頭ないんですけど、客観的に見て毎年誰かしら衝撃的な女性が登場した5年間だったことは間違いありませんから。このアルバムも彼女の外見からするにネオ・ソウルかと思いきや(我ながら差別的な連想です、今後の反省点の1つ)、蓋を開ければポストRadioheadなスタイルでね。かなり騒がれていたのを覚えています。

コアなロックについて言及すると、20’s前半はサウス・ロンドンのポスト・パンク・シーンが盛り上げてくれました。明くる2022年にそのピークを迎えはしますが、2021年時点で期待できるバンドが一気に登場した印象がありますね。肌感覚としてこの段階で一番騒がれていたのは“Bright Green Field”/Squidだったかな。この話は次の2022年でも引き続き触れるのでこの辺で。

残る作品は、誤解を恐れず言えばスノビッシュ枠。プレスの評価というよりは、リスナーの生の支持が強かったアルバムです。韓国から突如現れた宅録シューゲイズの“To See The Next Part Of The Dream”/Parannoul、そして日本からは“時間”/betcover‼︎。この若き才能たちがインディー・リスナーに深く突き刺さったのは、リリース当時から今時点に至るまで絶えずメンションされていることからも明らかです。

そしてこう振り返ると、やっぱり2021年も内向きな作品が多いですよね。まだまだコロナ禍は継続していた時期でもありますから仕方ないとは思うんですが。そしてその創作的/精神的エネルギーが爆発して大豊作の2022年に繋がる、今にして思うとこういう伏線でもあったのかなと。

2022年の10枚

そう、さっきチラッと触れましたが2022年がとにかく当たり年でね。まずもって上段の5枚、どれも1年を代表するヒット作でもあり、批評的にも文句なしですから。

まずはこの2枚。リリースが12月ということでその年の年間ベストでは目立たなかったものの、2023年にかけてヒット・チャートを独占したSZAのカム・バック“SOS”、そしてTDEのレーベル・メイトKendrick Lamarのこちらも久方ぶりのアルバム“Mr. Morale & The Big Steppers”10’sブラック・ミュージック最大規模の才能が揃ってシーンに帰還した高揚感ったらなかったですよ。

そして現代ポップスの女帝、Beyoncé“Renaissance”も素晴らしかった。ダンス・ミュージックの歴史をひとつなぎにする大胆さは、彼女の本領発揮というだけでなくパンデミックの閉塞感を打ち破るブレイクスルーとしても時代の空気を物語っていたものだと思います。ほら、SZAもLamarも根っこが内向きのアーティストですからね。

そしてこの年の良質ポップスとして“Harry’s House”/Harry Stylesを。元One Directionのメンバーのソロ作なんて……と思いきや、Princeの文脈を汲み取った密室ポップスにインディーの空気感、そしてアイドルらしい華を見事に共存させていました。メジャー・シーンのポップスがここまで刺激的なものだと気づかせてくれたという意味で、個人的にも重要な1枚。

そしてそして、こうした重要作品を抑えて2022年のビルボード・チャート年間1位となった“Un Verano Sin Ti”/Bad Bunnyも忘れちゃいけません。その年一番売れたアルバムがレゲトンというのは、近年ますます進むポップスのボーダレス化、ここには当然K-Popも含まれる訳ですけど、その観点から絶対に語らないといけないトピックです。

ロックに目を向ければ、2021年時点で盛り上がりつつあったサウス・ロンドンのシーンがここにきて創作的なピークに達します。それはBlack Country, New Roadが00’sにおけるArcade Fireのポジションへと至った記念すべき瞬間“Ants Up From Here”black midiが変態的ポスト・ロックにとうとうプログレッシヴ・ロックの嫋やかさまでを獲得した“Hellfire”の2作品が象徴していますね。

それにBC, NRに関しては直後にヴォーカルのIsaac Woodが脱退、black midiに至ってはバンドが解散してしまうという、この瞬間にしか生まれ得なかった作品という意味でも語り継がれてほしいものです。もっとも、BC, NRの新体制でのステージングや昨年話題を呼んだGeordie Greepのソロ作品“The New Sound”なんかを見るに、しっかりこれからも存在感を発揮してくれるでしょうけど。

ロックからはもう1枚、USインディーの最高峰Big Thiefによる“Dragon New Warm Mountain I Believe In You”を。ここは“Being Funny In A Foreign Language”/The 1975でも“The Car”/Arctic Monkeysでも、いくつか代替案を思いつきはするんですが、アメリカーナという分野を上手くインディー・サウンドでまとめる手腕とアイデアの豊かさ、その辺を買ってやりたいかなということで。

で、これはちょっと私の主観が出ているかもしれません。Rina Sawayama“Hold The Girl”です。この作品、さっき”Renaissance”のところでも語ったコロナ禍との訣別、それを最も力強く表明したポップ・アルバムだと思っています。性的マイノリティのアジア人女性というキャラクターに釣られて彼女を評価するのは多様性への配慮として完全な誤り、そう断りを入れつつ、インディーのフィールドにいたアーティストがスタジアム・ロックのスケールでポップスをやっちゃったエネルギーはあまりに眩しいものがありました。

……なんて色んなことを語りつつ、少なくとも私にとっての2022年が“BADモード”/宇多田ヒカルの年であったことは否定できません。この年から本格的にやりだした年間ベストでも1位にしていますからね。

ここで再びFloating Pointsが登場する訳ですけど、国際的に見ても最上位のプロダクションを従え、リズムの豊かさも損なわず、正々堂々J-Popとして叩きつけられたこの作品の重みはちょっと桁が違います。何度でも言いますけど、近い将来これが宇多田の最高傑作となるでしょうし、邦楽名盤ランキングみたいなものでも最上位の常連となっているはずです。

2023年の10枚

2023年はこういう10枚になりました。ちなみに、一番選ぶのに難儀した年でもあります。なかなか重要作品が見えてこないというか、私の好きなものと世間の評価の乖離が大きかったような印象ですね。新譜チェックを怠っていた時期でもあったので、手痛いしっぺ返しです。

その中でも、まず間違いなく入るアルバムというのはあります。“The Record”/Boygeniusがまさにそういう作品ですね。Lucy DacusJulien Baker、そして再びの登場ですがPhoebe Bridgers。このUSインディーを牽引する3人娘によるスーパー・バンド、そんな話題性に違わぬ名作でしたし、女性の才能が大きなキーワードだった20’s前半戦を代表するロック・アルバムでしょうからね。

続いてもロックからなんですが、「本当にこれが2023年のエッセンシャル?」という疑問を持つ方も少なくないでしょう。なにせ“Hackney Diamonds”/The Rolling Stones“But Here We Are”/Foo Fighters、ベテランもベテランの作品ですからね。ただ2023年のテーマは「おじさんの本気」だったと思っていて、他にもBlurの復帰作、国内だとくるりスピッツMr.Childrenなんかも力作を発表していました。

それにどちらも作品のクオリティとしてバンドのキャリアを通じても上位にあたる出来栄えだったし、ロックの耐用年数が確かに長くなっていることを示す格好の材料でもあったと思っています。そんな中、シューゲイズとカントリーを掛け算した期待の新人、Wednesday“Rat Saw God”があったのもロック・シーンにとっては追い風だったかな。

さあ、そんな「おじさんの本気」の一方で、オルタナティヴなポップスでは相変わらず女性が大活躍。“The Land Is Inhospitable And So Are We”/Mitskiはその筆頭でした。インディー・ロックとして脚光を浴び、2022年の”Laurel Hell”ではシンセ・ポップに接近し、さらにここでLana Del Rey顔負けのアメリカーナ・スタイルのサッド・ガール・アピールですから。ここまでやるのか!という衝撃は今でも覚えていますね。

そしてエレクトロでは“Desire, I Want To Turn Into You”/Caroline Ploachekが批評的に成功し、2024年のアレに繋がる流れを生み出しもしたし、さらには完全に不意をついて現れたChapell Roanだって忘れちゃいけません。リリースからフック・アップまでタイムラグがあったので年間ベストなんかでは目にしなかったですけど、グラム・ロックのエレ・ポップ的解釈“The Rise And Fall Of A Midwest Princess”はTLDPとともにフィメール・ロック新時代の曙になるであろう傑作ですから。

ブラック・ミュージックはというと、前年の10’sレジェンドの一斉カムバック、そこに合わせるようにSamphaが2nd“Lahai”でUKソウルの現状の素晴らしさを提示したのが一番大きな話題かな。2023年もUSは低調だったと言わざるを得ませんが(JPEGMAFIAはちょっと支持がスノビッシュすぎるということで一旦選外にしてます)、ガッチガチの左派でもある女性ラッパーNonameによる“Sundial”はそのリリックやシビアなサウンド、そしてアメリカ社会の今とあわせて鮮烈な1枚だったと思います。

そして国産音楽からは“e o”/ceroなんですが。この前Xで開催されたオールタイムベストの投票企画、あれで20’s最高順位がこれだったんですよね。かなり内向きでアブストラクトな作品だと思っているので、ここまで支持されるのはやや意外でした。ただ、単にポスト・コロナというより、秩序を求めるがゆえに無秩序に、多様性を叫ぶがゆえに息苦しくなる、社会の空気感そのものとリンクしたサウンドだからこその評価なのかもしれません。

2024年の10枚

さて、昨日までは今年だった2024年はこんな10枚にしてみました。前回投稿した私個人の年間ベストに入ってないアルバムが4枚もありますね。個人リストなんてそんなもんです。

何を置いても、2024年は“brat”/Charli XCXイヤーだったことは明らかですよね。もうどのメディアが出す年間ベストでも軒並み1位、Album Of The Yearの集計ポイントでは2位に余裕のダブルスコアです。エネルギッシュなエレクトロを小気味よく畳み掛ける、文句なくいい音楽なんですけどね……でも好きになれないんだなぁ……

ただ、”brat”が音楽すらを飛び越えカルチャーとして2024年の目玉であったことは紛れもない事実ですし、こんな広がり方をしたアルバムって2020年代においてなお他にまだ例がありません。このポジティヴさと向こう見ずさはポスト・コロナを象徴しているとも解釈できるでしょうし、間違いなく、2024年の顔と言うべき作品でしょう。

ポップスのフィールドはというと、近年だとそれこそOlivia Rodrigoがやってのけた「ディズニー・ドラマ出身の女の子による本気のポップス」に生まれたさらなる素敵な前例が“Short n’ Sweet”/Sabrina Carpenter。2024年のヒット・チャートでは絶対的な主役でしたし、うるさ方の音楽ファンでも無視できっこないウェル・メイド・ポップスの応酬。この辺にはHarry Stylesからの流れを感じたりもします。

そしてもう1つが、現代シーンの最重要人物の1人、Billie Eilish“Hit Me Hard And Soft”。これまで彼女の音楽にキチンと反応できたことってなかったんですけど、このアルバムでエヴァーグリーンなポップスとしての強度がグッと増したことで私でもキャッチできましたし、それってエキセントリックな天才少女として時代のアイコンになった彼女の成熟の歴史においても大きな転換になるんじゃないかな。

続いても女性アーティスト、The Last Dinner Party“Prelude To Ecstasy”です。「ロックって本来これくらい派手でわざとらしいものだったよね」というルネッサンスを巻き起こすに足る作品でした。インディー・ロックの巧妙さだって素晴らしいけれど、ほんの40年前までロックは一大規模のエンターテイメントだった訳で。その側面を継承するMåneskinとTLDPがいてくれる20’sロック・シーン、すごくワクワクさせられますね。

で、それでもチャラチャラしたロックなんて!という一本筋の通ったオルタナ・リスナーにも「いや、ロックは華やかなもんだぜ」と教えてくれたのが“Romance”/Fontaines D.C.。この批評的にも文句なしな2枚があったことで、長らく叫ばれてきたロック復権はいよいよリアリティを増していると思います。これが5年後どんな結果をもたらすか、楽しみでなりません。

そして20’sはカントリーが一気に勢力を拡大した時期でもありました。それもTaylor Swiftのようにポップスへと接近するものだけではなく、あくまでロック・ライクなスタイルのものもね。そのトレンドを見てBeyoncéが“Cowboy Carter”を発表したという背景はあると思っているんですけど、今回は“Tiger’s Blood”/Waxahatcheeとしました。WednesdayのギタリストMJ Lenderman参加という点で、カントリーの勢力圏以外にもリーチする名作でしたから。

同じくSSW系統では、こっちはもっとインディー的ですけど“Charm”/Clairoもよかったですね。さっき触れたCleo Solからの潮流を感じる、ささやかなソウル・フレーヴァーのSSW作品。前作でJack Antonoff陣営に参加するかと思いきや、違うアプローチでさらに成長してみせた気骨も買いたい部分です。それこそMitskiやBillie Eillishのように、今後何をしでかすか分からないエキサイティングな才媛になってくれましたから。

インディー・リスナーが好みそうなところだと、私が年間1位にしたFrikoでもよかったし、マニアックな面白さを評価してCindy Leeでもよかったんですが、その辺を全部まとめて“Two Star & The Dream Police”/Mk.geeとしました。過去の遺産を絶妙な配合でブレンドし、音楽的なテクニックによって調和の取れたものにする「カクテル・ミュージック」とでも呼びたくなる、そんな掛け算のセンスが大きな意味を帯び始めたシーンを象徴している作品なんじゃないでしょうか。

さて、2024年のヒップホップはというとKendrick LamarとDrakeのビーフが一番のトピックでした。そうなると“GNX”を選びたくもなるし、あるいはそのコンスタントな制作に敬意を表して“CHROMAKOPIA”/Tyler, The Creatorとする手もあるんですが、既にこの2人は別の作品を取り上げてますからね。ということで、ここはあくまでニュー・カマーを。“Alligator Bites Never Heal”/Doechiiは久しぶりに見込みのある作品でしたから。来るフル・レングスが名盤であればそちらに置き換えることになるでしょうが、暫定的にピックアップしてみました。

最後に日本から。これは満場一致で“Your Favorite Things”/柴田聡子ですね。この作品を掴みきれてない私からすると情けなくなるくらいの大絶賛、それに昨今のインディー・フォークの流れをきちんと掬い取ったプロダクション、背後にいる岡田拓郎の抜け目なさ、どこを切り取っても2024年の国産音楽最重要作品だと思います。

まとめ

こんな感じで、私ピエールが選んだ2020年代上半期のエッセンシャル・アルバム10×5、如何でしたでしょうか?

年間ベストの時ともまた違う、ある程度客観性やバランスも意識したチョイスではあるんですが、いやはや、なんと楽しい5年間なんでしょう。投稿のトップに並べた50作品の画像を見るだけでウキウキするというのに、それでも語ることはまだまだあるし、個人の好みで言えば贔屓してやりたい作品は山ほど控えています。お前らのことだぞThe Lemon Twigs。

冒頭でも書きましたが、きちんとしたランキング(それを「独断と偏見と愛」シリーズにするか、はたまたオールタイム・ランキング的に批評性を意識するかはまだ決めてません)は2030年のお楽しみ。多分これを読んでくださった誰よりも私が楽しみにしてます。もしかすると、この50枚を遥か過去へと追いやるほどの転換が起こるかもしれないんですからね。

ということで2025年も、「ピエールの音楽論」ではしっかり新譜レコメンドを継続していきます。どんな音楽に出会えるか、それをどうやって皆さんと共有するか、今からワクワクしますね。それでは今回はこの辺りで。

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