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マイケル・ジャクソンという世界で最も過小評価されている人物

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以前こんな記事を投稿しました。

クイーンの人気と評価の格差、その原因を探るというテーマの記事なんですが。

で、こういう「大衆と批評における温度差の乖離」が発生しているアーティストっていうのは他にも散見されるんです。

その中でもクイーンってかなり極端な方なんですけど、彼ら以上にひどいのがこの人です。

そう、マイケル・ジャクソンですね。

もうこの人の過小評価っぷりは酷い。いや、厳密には評価されていない訳ではないんですけど、正直この人の才能や功績ってザ・ビートルズやプレスリー、ディランにも匹敵するポピュラー音楽史上最大規模のはずなんです。

今回は何故彼が過小評価されているのか、その原因とあまりに多くの人が見過ごしている彼の偉大さについて余すことなく語っていこうと思います。それでは参りましょう。

過小評価の要因①「事実無根の偏見とゴシップ」

まあ、ここは語らない訳にはいきませんね。正直言ってこんなことに労力を割くこと自体不愉快極まりないんですが、それも責務と思って遂行しましょう。

「マイケル・ジャクソン」という存在に今なおつきまとう悪いイメージ、「常識のないセレブリティ」だったり「整形依存症」だったり「小児性愛者」だったりです。ああ腹立たしい。

音楽とは関係ない部分なのでこれらの偏見の事実確認は別の機会に譲りますが、とにかくこれが彼の晩節を無意味に汚したことは事実です。そう、音楽とは関係ないのに。

百歩譲って、これらの偏見が事実だったとしましょう(事実ではないんですけどね)。だからといって彼の作品に何かケチがつきますか?そんなはずがない。人気はまだしも、客観的批評はこういう外部的要因を排除せねばならないからです。

だというのに、最早マイケル・ジャクソンについて語ること自体がタブーのような空気が2000年代には蔓延していた。これ、本当に反省すべき汚点ですよ。その突破口になったのが彼の死というのもムカムカするんですよね。生前に彼の偉大さを正当に評価してやれなかったことは人類史上の恥と言っていい。

過小評価の要因②「あまりに売れすぎた」

さて、ようやく音楽的に彼を語れます。まずはこれですね、彼とにかく売れすぎたんですよ。

代表作『スリラー』7000万枚という前人未到のセールスを成し遂げたことは余りに有名ですが、続く『バッド』『デンジャラス』もそれぞれ3000万枚以上の売上を記録していますから。この時点で余裕の1億オーバーですよ。

彼の遺作となった『インヴィンシブル』だって、一般には商業的に失敗したなんて言われますけど、それでも1400万枚売れている訳です。この破格っぷり。

もっと言えば、ジャクソン5としてデビューするや否や4曲連続でチャート1位を掻っ攫っていますから。全生涯のセールスをまとめると天文学的な数字になりますよ。

で、これがよくないんです。批評家って、売れ筋を嫌いがちですから。

ザ・ビートルズやツェッペリンのように、先駆的サウンドを提示しながら商業的にも成功したならばともかく、あくまでMJって全力で売れにいくタイプのアーティストです。なにせ『バッド』制作時の目標、「1億枚売れるレコードを作る」ですからね。スケールが違いすぎてもうようわからんです。

この「売れにいった」アーティストを毛嫌いする傾向、本当に批評家のよくない性質だと思っています。少なくともマイケル・ジャクソンはただ売れた訳じゃない、売れるべくして売れた、中身の伴ったビッグ・スターですからね。

過小評価の要因③「ダンサーとしても巨大」

これも大きいですね、彼の才能の巨大な部分を占めるダンサーとしての素養、これが音楽評論の上で厄介なんです。

というより、あそこまで高いレベルで踊れちゃうとマイケル・ジャクソンが「歌手」であり「ミュージシャン」であるという事実をうっかり忘れてしまうんですよ。

MJの歌手としての才能はジャクソン5時代の『フーズ・ラヴィン・ユー』を聴けば一発で理解できますし、ミュージシャンとしても『ビリー・ジーン』『今夜はビート・イット』『バッド』といった代表曲は彼の作曲ですからね。作曲家としても非凡なんです。

ただどうでしょう、このパフォーマンスを見せつけられるとその印象も薄らいでしまいませんか?

Michael Jackson Dangerous Live 1995 MTV 4K

事かというくらいカッコいいんですが、それって音楽としての評価だけじゃないんですよね。当然音楽も優れているからこそなんですけど、彼の凄さの根っこの部分が霞んじゃうというのは本当にもったいない。

MJの功績①「ソウル/R&Bをポップスに変えた」

おおよそ彼の過小評価の要因は上の3つだと私は考えています。で、ここからはそれを乗り越えた先に見えてくる彼の偉大さに関して。

ここでは「音楽が魅力的」というのは一旦度外視します。そんなのここで語るまでもない、以前にMJのディスク・ガイドは2回敢行しているのでそっちをお読みください。

さて、ポピュラー音楽の歴史を俯瞰した時に見えてくる彼の功績、その最大のものがソウル/R&Bをポップス化したという事実なんです。

MJ以前のソウル/R&Bって、作り手の側はもちろん聴き手の側でも黒人層が支配的でした。どこまでいっても黒人のもの、そういう価値観が差別意識とも結びつきつつ定着していたんです。

その因習を最初に突破したのがモータウン・レーベル。偶然にもMJの古巣ですね。モータウンはソウルを甘く味付けし、商品として小綺麗にまとめ上げることで白人層へのリーチに成功しました。これも当然偉大なんですけど、モータウンはどこまでいっても「ブラック・ミュージック」なんですよ。

ただ、MJの挑戦はもっと大胆で。というのは、ソウル/R&Bやファンクという彼のルーツに大胆に「白人音楽」を導入することで、人種の壁をサウンドから取り払ったんです。この試みが結実した作品こそ、あの『スリラー』なんですが。

これ、単なる偶然の産物じゃないんですよね。MJって1970年代末から名だたるロック・スターに接近しているんです。ミック・ジャガーだったりフレディ・マーキュリーだったり、それこそ『スリラー』でもコラボレートしているポール・マッカートニーだったりですね。どうです、この錚々たる面々。

The Jacksons, Mick Jagger – State of Shock (Official Audio)
There Must Be More To Life Than This (William Orbit Mix)
Say Say Say

5歳の時には既にJBを師と仰ぎ、ジャクソン5時代にはモータウンの職人の仕事を間近で見てきた訳ですから、彼の中でブラック・ミュージックの理解というのはかなり深いレベルでできていたんですよ。年端もいかないうちにそれっていうのが結構化け物じみているんですけど。

だからこそ、ブラック・ミュージックがブラック・ミュージックでしかないことに歯痒い思いをしていたと思います。実際、実質的ソロ1stの『オフ・ザ・ウォール』が批評的に低迷したことにかなり不満だったようですし。

ならばどうするか?白人音楽であるロックもブレンドして、全人類が楽しめる最強のポピュラー音楽、つまり「ポップス」に昇華しようという訳です。一発で成功しちゃうのはもう天才としか言いようがないんですけど。

この「ブラック・ミュージックのポップス化」の一例として、『ビリー・ジーン』のヒットが挙げられます。彼のキャリアでも最大のヒット曲なんですけど、このヒットの背景にはMTVでのヘビー・ローテーションがありました。

Michael Jackson – Billie Jean (Official Video)

ただ、当初MTVは「黒人のビデオは流さない」という極めて前時代的な方針を取っていたんです。つまり『ビリー・ジーン』も放送の対象外。しかし、大衆はそれをよしとしませんでした。「なんで『ビリー・ジーン』を流さないんだ!」という抗議が殺到し、MTVはこの方針の撤廃を決定。以降MJはMTVの基幹コンテンツとすら言えるほど蜜月な関係になっていきます。

これ、とんでもない偉業ですよ。私が冒頭でMJが本来並び立つべきとしたザ・ビートルズやプレスリー、ディランもこうしたブレイクスルーを起こしていますから。プレスリーが一番性質としては近いですね、彼もまたブラック・ミュージックであるロックンロールを全人類的な音楽にした訳ですから。

MJの功績②「音楽を観るものに変えた」

黒人音楽のポップス化ってだけで尋常ではないんですが、彼の功績はもう1つあります。それは、音楽を聴くものから観るものに変えたという点です。

これに関しては単にMJ1人の貢献という訳でもなく、1980年代のMTV文化全般に言えることではあるんですけど、その中でもMJの存在感って頭1つ抜けてますからね。

彼は自身のミュージック・ビデオを「ショート・フィルム」と呼称していたんですけど、その表現が全てですよね。映像作品として成立してしまうだけのものを彼は提示しようとしていたんです。

先ほど例に挙げた『ビリー・ジーン』ではストーリー仕立てのビデオを、続く『今夜はビート・イット』では『ウエスト・サイド物語』をモチーフにしたバック・ダンサーを従えてのダンスを、そして極めつけの『スリラー』ではホラー映画そのものの素晴らしい映像作品を、わずか1年の間に立て続けに発表しています。

Michael Jackson – Beat It (Official Video)
Michael Jackson – Thriller (Official Video)

価値観の転換という意味では、これって本当に重要だと思っていて。音楽の在り方を根本的に変えてしまう、それって前例で言うとフィル・スペクター「プロデューサー」という発想や、またもザ・ビートルズですが『サージェント・ペパーズ』の「コンセプト・アルバム」という概念、そのレベルの偉業じゃないですか。

それに、音楽は観て楽しむという発想は今日においても全く廃れていない。カニエ・ウェストのリスニング・パーティなんてまさしくその延長線上でしょ?この貢献、歴史的にもっと高く買わないとダメだと思うんです。

(完全に余談ですけど、以前MJの追悼企画として彼のビデオの傑作10本をレコメンドしたnote記事を投稿していますのでよろしければどうぞ)

ビデオで振り返るキング・オブ・ポップの伝説|ピエール
今日6月25日は、マイケル・ジャクソンの11度目の命日です。彼が亡くなってそれほどの時が経ってしまったと思うと時の流れの残酷さを思い知ります。 彼の早すぎる死は世界にとってあまりに大きな損失でした。彼の無念や彼が今後生んだであろう数々の音楽のことを考えれば今でも胸が張り裂けそうになります。しかし、ただ彼の死を嘆くこと...

MJの功績③「アフリカン・アメリカン最初のスター」

これはもう音楽関係なく文化史としての偉大さですね。彼ってアフリカン・アメリカンで最初に頂点に上り詰めた人物なんです。

そんなことないと思うでしょ?確かにそれまでも素晴らしいアフリカン・アメリカンのスターはいますよ。JBサム・クック、それからマーヴィン・ゲイもそうですね。ただ彼らは、極めて優れたアーティストであり人気者ではあったものの、頂点とまでは呼べない存在です。否定したいんじゃないんです、客観的な規模の比較として。

ただどうです、マイケル・ジャクソンというスターのスケールって、本当に歴史上唯一無二でしょ。まさに「キング・オブ・ポップ」、王者なんです。

その王者たる所以はともかく、アフリカン・アメリカンが王者になった。この事実がとにかく重要で。黒人層のエンパワメントとしてこれ以上ない意義があります。少し遅れてスターになったNBAの伝説、マイケル・ジョーダンもですけどね。

近年でもBLM運動が起こってしまうほどに、黒人差別はアメリカ社会に深く食い込んだ病巣です。だからこそ、マイケル・ジャクソンが黒人初の世界的・絶対的スターである事実はもっと注目しないといけません。彼がいなければ、バラク・オバマは大統領になれなかったとすらされているんですから。

まとめ

まだまだ書き足りない感もありますが、どうせMJは今後も折に触れて語る存在ですから今日はこのくらいにしておきます。

Twitterでフォローさせていただいている音楽ファンの方々ってとにかく知識量も情熱も凄まじいんですけど、そんな方々ですらマイケル・ジャクソンをキチンと評価できていない感があって。本当に歯痒いんですよその現状が。

ここまで巨大な人物になってしまうと、今更面と向かって評価しにくいというのはあると思うんですよ。ただ、だからこそもう一度まっさらな気持ちで彼の才能にぶつかってほしいんです。そうするだけの価値はある人物ですから。

もちろん、イマイチMJについて知らないという方にもこれは言えますよ。つまり全人類が向かい合うべきアーティストということです。ファンの戯言と思わず、どうか、どうか今一度彼について知ってほしい。その一心での記事です。もっとも、近いうち彼についてはまた語る場を準備していますけどね。

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