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5枚de入門!「渋谷系」編〜邦楽史上最も濃密なムーヴメント〜

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久しぶりにやっていきましょう、「5枚de入門」シリーズ。

改めてどんな企画か紹介しておくと、「名前は聞いたことあるし聴いてみたいけど、なんかとっつきにくそう……」という音楽ジャンルに対し、「ここから沼にハマってください」という勧誘をする大変胡散臭い企画となっております。

第1回がプログレ編という段階で、この企画が如何に危険なものかはおわかりいただけるでしょう。バックナンバーはこちらからどうぞ。

で、今回は「5枚de入門」シリーズ初となる邦楽について扱っていきましょう。テーマとなるのは「渋谷系」。名前は知っていても実際どんなものか、案外ふわっと理解されている方も多いのではないでしょうか。

そんな渋谷系に入門するに相応しい名盤を、極めてミーハーに5枚レコメンドしていきます。それでは参りましょうか。

「渋谷系」って何なの?

まずはこっから取っ掛かりましょうか。そもそも「渋谷系」って何なのさ?という素朴な疑問。

……これがまずもって答えにくくはあるんですよね。何せ一時期はスピッツやMr.Childrenまでもが「渋谷系」に括られていた訳で。そもそもの定義が曖昧だし、音楽のみならず様々なカルチャーに派生したムーヴメントでもありますからね。

ただ、あえて言葉で定義づけようとするなら、

「オシャレでゆるくてカッチョいい、渋谷のナウでヤングな洋楽好きアーティストがやっていた音楽」

こんな感じで説明しておきましょうか。ちゃんとした人に怒鳴られそう(ちゃんとした人って誰だ)ですけど、影響元と派生した先が広すぎて特定の音楽ジャンルで括る訳にもいかないものでして。

その上で、あえて共通項を見出すならば、

YOUNG, ALIVE, IN LOVE – 恋とマシンガン – / FLIPPER'S GUITAR【Official Music Video】

やっぱりフリッパーズ・ギター(FG)が軸になってくるのかなと。

小沢健二小山田圭吾のタッグによるこのユニットの作品、あるいは解散後の2人のソロ・キャリア、ここが「渋谷系」のルーツとなっているとするのは評論の中でテンプレート化している構造ですからね。

ただ、FGが解散した1991年の段階で、「渋谷系」という表現は存在していません。1993〜4年頃に最も盛んになるジャンルですからね。あくまで先駆者ではあったけれども、FGを「渋谷系」に直接括りつけるのはちょっと乱暴なのかなと。なので今回選出した5枚のアルバムには、FGの作品は含まれていません、ご了承を。

そろそろ前置きも長くなってきたので、こっからは作品に触れてもらった方が早そうですね。「渋谷系」を代表する5枚のアルバムを、いざ見ていきましょう。

①『LIFE』/小沢健二 (1994)

小沢健二 featuring スチャダラパー – 今夜はブギー・バック(nice vocal)

何を置いても「渋谷系」を理解するならここからでしょうね。少なくともとっつきやすさの観点では。フリッパーズ・ギターの片翼、「オザケン」こと小沢健二のソロ2ndとなる『LIFE』です。

そもそもアルバム・タイトルの題字がスライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバム、『ライフ』からのモロパクリであることからも明らかなように、「渋谷系」の特徴である「多様な音楽性のミクスチャ」がわかりやすく取り入れられています。本作はその中でもソウルに接近していますね。

ベース・ラインなんてもろにモータウンっぽさがあるし、ブラス・セクションも古き良きソウルを彷彿とさせるクラシカルな使用感。その中で、オザケンのメロディ・メーカーとしての魅力がフルパワーで発揮されているのが素晴らしい。ほぼ全曲シングル・カットされていることからも、本作のポップスとしての完成度は折り紙付きです。

特筆すべきは『今夜はブギー・バック』ですね。スチャダラパーをゲストに迎え入れたこの楽曲、もはや「「渋谷系」のアンセム」と言ってもいいくらいに掛け値なしのクラシックですから。邦楽史上でも屈指の名盤でもある本作、当然「渋谷系」を代表する1枚な訳です。

『風の歌を聴け』/ORIGINAL LOVE (1994)

ORIGINAL LOVE(オリジナル・ラブ)/朝日のあたる道-AS TIME GOES BY-

田島貴男率いるORIGINAL LOVEからは名盤『風の歌を聴け』をチョイスしましょう。ベスト盤が多くリリースされていて、とっかかりとしてはソッチの方がいいかもしれませんが、あくまでオリジナル・アルバムで理解してほしいという企画なので。

当時の田島貴男は「渋谷系」と呼ばれることを嫌っていたようですけど、後述のピチカート・ファイヴへの参加経歴やFGの2人が田島の音楽を好んで聴いていたことからも、彼が「渋谷系」の中心だったことは紛れもない事実でしょうからね。この企画趣旨からいって外す訳にはいきません。

「渋谷系」はサブ・カルチャーとしての側面が強いムーヴメントですけど、この作品に関してはかなり「正統派」なサウンドです。ソウルファンクだったりジャズだったりの要素がかなり強いんですよね。この辺り、「元祖「渋谷系」」とも称されることのある山下達郎との類似を指摘できると思います。

そう、この「山下達郎感」というのがすごく大事だと思っていて。多様な洋楽的エッセンスの中で、その上で日本的な音楽性に変換する。これ、私にとって邦楽の至上命題なんですが、それを「渋谷系」は継承しているんですよ。本作の場合は、ソウルやジャズというモードの中で達成している。それでいてORIGINAL LOVEのオリジナリティを打ち出してもいますからね。

③『オーヴァードーズ』/ピチカート・ファイヴ (1994)

PIZZICATO FIVE / 東京は夜の七時

オザケンに田島貴男と、弩級の才能が飛び出した「渋谷系」。その中でも最も巨大な存在って、実はピチカート・ファイヴな気がするんですよね。『ボサ・ノヴァ 2001』と並び最高傑作の1つに数えられる『オーヴァードーズ』を紹介しましょう。

冒頭で申し上げた「渋谷系」の特徴、それをマルッと表現しているのがこの作品だと思ってもらって結構です。オシャレでゆるくてカッチョいい、この作品のためにあるような言葉ですね。驚異的な音楽マニアでもあるブレーン、小西康陽のセンスが光るんですけど、鼻持ちならないひけらかしではなく、とにかくナチュラルで心地よい。高等なのに高尚じゃない、この塩梅が素晴らしいじゃないですか。

その心地よさを支えるのが、バンドの3代目ヴォーカリストの野宮真貴です。悪戯っぽいのにどこか気品があって、その相反する成分って、「渋谷系」を表現するのに最適なんですよね。そこを見事に活かす小西のセンスも、やはり流石なんですけど。

で、このアルバムに関してはやっぱりコレですね。『今夜はブギー・バック』に匹敵する「渋谷系」屈指の名曲、『東京は夜の七時』。あんまり個別の楽曲の存在でアルバムを評価したくはありませんが、「渋谷系」入門でこの曲に触れないのは何かが間違っているので。

④『5th WHEEL 2 the COACH』/スチャダラパー (1995)

Summer Jam '95

先ほど紹介したオザケンの『今夜はブギー・バック』でフィーチャリングされたヒップホップ・グループ、スチャダラパーのアルバムですね。

「渋谷系」の影響元の筆頭ってネオアコで、どちらかというとロック/ポップス寄りのジャンルではあったんですけど、そもそも「様々な音楽性のミクスチャ」である以上ヒップホップだって取り入れられた訳です。そのわかりやすい例が彼らですね。

ヒップホップってどうしてもマッチョでワイルドでワルのイメージがつきまといがちですけど、この作品はそんなものとは一切無縁です。洋楽でいうと「ネイティヴ・タン」に感化されたゆる〜いナードなフィール。『ノーベルやんちゃDE賞』という曲を聴けば、如何に彼らがふざけまくっているかおわかりいただけるかと。

ユーモラスな脱力感に満ちた音楽性であるんですけど、トラックの秀逸さはホンモノです。音楽としてふざけている訳では断じてない。実にキッチュで、デジタル感の希薄なロー・ファイさがいいですよね。それこそ「ネイティヴ・タン」的で。今回は「渋谷系」の中で語りましたが、単に国産ヒップホップとしても素晴らしい名盤です。

⑤『MINI SKIRT』/カジヒデキ (1997)

ラ・ブーム~だってMY BOOM IS ME~ / カジヒデキ【Official Music Video】

最後にご紹介するのが、ブリッジというバンドで「渋谷系」の中心的存在として活躍した後、ソロ・アーティストとしても成功を収めたカジヒデキのソロ1st、『MINI SKIRT』です。

ここまでに紹介した4作品と比べるとやや影が薄いのかなとも思いますが、この作品、ともすれば今回紹介する5作品の中で最も「渋谷系」らしいサウンドなのではないかと。「ミスター・スウェーデン」という異名の通り、スウェーデン・ポップからの影響をたっぷりと受けた軽妙なキャッチーさが如何にもですね。

ブリッジ時代にはネオアコを志向していた流れもあって、ネオアコ的な瞬間、それこそFGにも通ずるような質感で、そういう意味でも「渋谷系」を語る上では避けては通れないのかなと。絶妙にメインストリームに絡まない、それでいて絶妙に王道感のあるサウンドでね。

1997年くらいになると、サニーデイ・サービス『東京』アンチ「渋谷系」的サウンドを展開したり、Corneliusが大名盤『FANTASMA』ポスト「渋谷系」的ミクスチャに成功したり、かなりスタンダードな「渋谷系」サウンドは失われつつありますけど、その中でこの作品の放つ「渋谷系」らしさはすごく面白いのではないかと思いますよ。

まとめ

さて、今回は「渋谷系」入門のために必聴級の5枚の名盤をレコメンドしていきました。

邦楽を扱う機会が少なすぎるのも問題かなと思ってまして。読者の方々のニーズとはズレるかもしれないという恐怖もあるんですが、「音楽の聴き方がアップデートできる」ブログらしいのでね。色々模索してみましょうよお互いに。

そうそう、オザケンをチョイスしながらCorneliusについて触れなかったのは、何も例の騒動に忖度した訳ではありません。そんなに私は流されやすいタチではありませんよ。

というのも、「渋谷系」全盛期の小山田圭吾ってレーベルの主催者やプロデューサーとしての活躍がメインで、彼個人の名義での作品となると今回挙げた5枚に枠を譲ってしまうのかなと。重要アーティストではあるんですけどね。

で、最後にはなるんですけど、この記事を書くにあたって色々調べものしていると、大変素晴らしい画像が見つかりましてね。

これを見ていただければ、「渋谷系」の広大さがよくわかるかと。「アキバ系」にまでその影響は波及していますし、「ネオ渋谷系」なんてジャンルものちに登場しますから。

その余りに広大な「渋谷系」の世界を旅する地図として、この記事を利用していただければ嬉しいですね。とりあえずこの5枚聴けば損しない、それくらいミーハーかつ本質的なチョイスだと思うので。それではまた。

コメント

  1. […] この前「渋谷系」のレコメンド記事を投稿しましたが、その流れでアルバム・レビュー、いきたいと思います。 […]

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