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独断と偏見と愛で選ぶ、「2021年間ベスト・アルバムTOP30」

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第10位 “By The Time I Get To Phoenix”/Injury Reserve

Injury Reserve – Superman That

中心メンバーだったStepa J. Groggsの早すぎる死を乗り越えて発表した、Injury Reserveのアルバムです。

初めて聴いた時の感想としては「難しいアルバム」でしたね。ビートを中心にかなり手数の多いサウンド・メイキングをしてあって、情報量がかなり多いんですよ。その情報量、カロリーと言い換えてもいいですけど、それがそのまま作品の圧力に変換されてます。

その圧力を増強するかのような世界観も素晴らしい。とにかく息苦しくて、ヘヴィなんです。暗い作品愛好家ですけど、この作品は今年聴いた中ではトップクラスの闇の深さですね。

まるで砂嵐の中を必死に抜け出そうと彷徨いもがくような混乱、それをこの作品には感じます。アルバムの後半にはその砂嵐の終わりが予感できるような抒情的な瞬間もキチンと用意されていて、音としてのストーリー性も如才ない。

すごく抽象的なアルバムですし、先に言ったように難解です。一発で「いい!」ってなるにはこういう音楽への造詣が深くないと厳しいんじゃないかな。ただ挑戦する価値は大いにある、とりとめのない傑作だと幸運にも私は気付けました。

第9位 “An Evening With Silk Sonic”/Bruno Mars, Anderson Paak & Silk Sonic

Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic – Leave the Door Open [Official Video]

これもグラミー取りそうな作品の筆頭ですね、ブルーノ・マーズアンダーソン・パークによる企画、シルク・ソニックのアルバムです。

ブルーノ・マーズというアーティストの性格が、そもそも「マイケル・ジャクソンの正当後継者」じゃないですか。ものすごく丁寧にポップス化されたブラック・ミュージックという意味でね。

実際本作でもそういう手法は健在なんですけど、アンダーソン・パークとのコラボレートでそこにファンクやヒップホップみたいな、荒々しいブラックネスの成分がより強く出ているのがこれまでのブルーノ・マーズにはなかったテクスチャです。

リード曲の”Leave The Door Open”こそフィリー・ソウル感満載の、それこそ絹のような質感でしたけど、それだけで作品のイメージを持っちゃうのは惜しいですね。結構こってりした瞬間もあって、でもそれすらブルーノ・マーズのセンスとリスペクトが見事に表現しています。

とにかくブラック・ミュージックの美味しいとこどり、それをやってのけた素晴らしい作品ですね。こういうみんな大好きなアルバム、批評なんかでは軽んじられる傾向にありますけどいいもんはいいですから。

第8位 “Teatro d’ira: Vol. I”/Måneskin

Måneskin – I WANNA BE YOUR SLAVE (Official Video)

今年のロック・シーンにおける最大の収穫は彼らをおいて他にはいないでしょう。イタリアからやってきた期待の新星、マネスキンの2ndアルバムです。

音楽的にはザ・ホワイト・ストライプス的というか、ロックンロール・リバイバルを通過した後のストレートなギター・ロックという感じですね。そういう意味では現代的と言ってもいいでしょう。

ただ、そこに乗っかる仰々しさが彼らの面白いところで。もう自信満々というか、それこそデヴィッド・ボウイやフレディ・マーキュリーがかつて放っていた妖艶な自己陶酔のムードをムンムンに感じさせます。

ちょっとハイプ的になってきている部分はあるなとは正直思うんですけど、それでもこのアルバムから感じる「ロックってカッコいいだろ?」っていう説得力ったらないです。ここを起点にロックのリバイバル起こってもいいと本気で思ってますから。

インディーやオルタナだって好きなんですけど、やっぱり頭空っぽにして大音量で聴くのがロックの古き良きマナーの1つだと思うんです。そのモードに現代的サウンドでのっとった素晴らしいロック・アルバムですね。

第7位 “Hey What”/Low

Low – Days Like These (Official Video)

アメリカはミネソタ州の夫婦によるデュオ、Lowの通算第13作。

サッドコアというジャンルからスタートしたアーティストで(勉強不足でどういうジャンルなのかはちょっと把握できてません、来年に持ち越しの課題ですね)、かなりキャリアは長いみたいなんですが、ここ数年でキャリア・ハイをマークしている異色の経歴です。

50代とは思えないキワッキワのサウンドですよね、個人的にはアンビエント成分を追加したファウストのような印象を持ちました。そりゃいいに決まってます。

すごく無機質でノイジーな音像なんですけど、案外メロディはキャッチーで。その辺シューゲイズ的でもあります。そのメロのキャッチーさもインディー感のあるもので、もう攻めた音楽てんこ盛りですよ。

それほど攻めていながら、聴いていてすごく心地いいというのも面白いんです。安らかな作品じゃあないのに、やたらと陶酔感がある。圧のある夢見心地なんてそう体験できる感覚じゃないですから、この感覚を求めてついついヘビロテしちゃう中毒性大のアルバムです。

第6位 “Blue Weekend”/Wolf Alice

The Beach

上半期ベストの時聴き漏らしてしまっていたんですが、これを外しているあの記事が恥ずかしかったらないです。全英1位を獲得したウルフ・アリスの3rdです。

今日のロックの勢力図からしてインディー系統が支配的なのは当然なので、今年結構な数のインディー・アルバムは消化したつもりですがこの作品はかなり秀逸です。サウンドスケープの広がり方、光と闇のバランス、その辺りが実に私好みで。

サウンドの質感としてかなり肉感的というか、ローファイなのがまたいいじゃないですか。シンセサイザーで世界観を広げてくる中で、土台はしっかりロックしてる。ほら、なんだかんだロックが主食なので私。

それでいて全体像は掴みどころがなくて。生命力にも近い瑞々しい美しさを放ってはいるんですが、冥界の淵を覗いているような冷たさもそこにはあるんです。音楽性としてもシューゲイズっぽいものやバキバキのパンク、それにラップ・ロックとかなり多彩でね。

聴くたびにひらひらと翻弄される作品だからこそ、その尻尾を掴んでやろうと躍起になって聴き込んでしまう深み、そしてその追及に耐えるだけの普遍性のある1枚だと思っています。

第5位 “We’re All Alone In This Together”/Dave

Dave – Clash (ft. Stormzy)

イギリス出身の新進気鋭のラッパー、デイヴの2ndアルバム。イギリスでは話題独占の1枚だったようです。

タイトルからも滲み出ているんですけど、このアルバムのテーマって「孤独」だと思うんです。それは彼自身の問題でもあり、あるいはコロナ禍にある社会の問題でもあるんでしょうけど。

シリアスなムードが通底した作品ですし、サウンドは全体としてシックで落ち着いた質感なんですけど、そこに潜む物語性が素晴らしいですね。説得力というか、リリックを追わずとも作品に同調できちゃう吸引力があるんです。

その物語性というのが一貫して悲劇的なんですよ、胸が締め付けられるような侘しさがあります。デイヴのラップもいいですよね。すごく誠実で、切実で、それでいてメロディアスで。素晴らしい表現力です。

カニエ・ウェストとドレイクの新譜には正直ガッカリさせられた反面、UKラップの名作に救われました。リリースのタイミングも近かったですし、それにもう1枚とてつもないのがありましたしね。

第4位 “Cavalcade”/Black Midi

black midi – John L

上半期はサウス・ロンドン発のポスト・パンクがかなり音楽ファンを騒がせていましたが、個人的にはこのブラック・ミディの2ndが頭1つ抜けて大好きですね。

1970年代後半のキング・クリムゾンとの類似はよく言及されますし、実際私も「クリムゾンっぽい!」と思って好きになった口なんですが、じゃあこの作品がプログレなのかというとそうじゃないと思うんですよね。

フリー・ジャズ的な成分もかなりあるし、本作に関してはヴァイオリンのような楽器が参加してより上品さを獲得してはいるんですけど、あくまでポスト・パンク的な「ロックの再構築」を感じさせます。

これはバンドの超絶技巧のなせる技でしょうけど、アンサンブルがすごく複雑かつ立体的に広がるんですよね。特にドラムの好き勝手の具合がなかなかどうしてヤバイと思います。

そのパラレル感がより狂気を増幅させてるのが流石です。このギリギリのバランス感覚、若手バンドとは思えない熟達ぶりですよ。老獪さすら感じさせる見事な1枚です。

第3位 “Sun Outside My Window”/Strawberry Guy

Strawberry Guy – I'll Be There (Official Audio)

リヴァプールのSSW、Alex StephensのStrawberry Guy名義によるアルバムです。フル・レングスのものはコレが初なのかな?

「ボン・イヴェールの世界に春がやってきた」、そう第一感で思ったのを覚えています。ものすごく儚くて、透き通っていて、美しい。インディー・ポップの中でも私が一番好きなタイプのサウンドスケープなんですけど、通底する淡い光や優しい温もりが秀逸で。

ストリングスの効果が実に巧みなんですよね。ゴージャスにはなりすぎることはなく、絶妙に彩りを添えて世界観を開いてくれるというか。言うなればウイスキーにほんの少しの水を垂らすことで、その本質を損なわず香りが一層華やかになる、あの感覚です。

コレを書いている時にふと気づいたんですけど、私の中でこの作品、ゾンビーズの傑作『オデッセイ・アンド・オラクル』と同じ場所にカテゴライズされています。この作品はサイケではないんですけど、とにかく美しくて繊細な小品的名盤としてね。

聴いていてジンワリと胸が暖かくなる、それでいてどこか切なくて涙ぐんでしまう。少なくとも私にとってはそれくらいドストライクなアルバムでした。琴線を優しく撫ぜる、この感覚なんですよね。私が音楽を聴かないといけない理由は。このために生きてるんです。

第2位 “To See The Next Part Of The Dream”/Parannoul

파란노을(Parannoul) – 아름다운 세상(Beautiful World)

第2位には韓国のインディー・アーティスト、Parannoulがbandcamp上でリリースしたこの作品。今では各種サブスクリプションでも聴けるようですね。

ジャンルとしてはシューゲイザーなんでしょうけど、それこそ『ラヴレス』や『スヴラキ』のような陶酔のイメージではないですよね。もっと残忍でリアルで、それゆえに人間的な作品。

抽象的な表現ですけど、すごく透明度の高い作品です。ピュア、というのともちょっとニュアンスが違うんですけど、作品を通じてアーティストの精神世界だったり、あるいはそこに投影して見えてくる自身の心情みたいなものだったりがものすごくクッキリ見えてくる。

青春への憧憬、過去への未練、現実への拒絶、そして未来への恐怖。そういう、「ある種の人間」が持つ持つどうしようもない性。それを残酷なまでに十全に描出した作品です。

そして「ある種の人間」である私にとって、この作品が突き刺さるのは当然の帰結なんですよね。

第1位 “Sometimes I Might Be Introvert”/Little Simz

Little Simz – Introvert (Official Video)

栄えある第1位、私ピエールにとっての年間最優秀アルバムはこちら。Little Simz“Sometimes I Might Be Introvert”でした。

この作品に関しては以前にディスク・レビューを敢行していて(こちらからどうぞ)、そこでも「年間ベスト大本命」なんて大胆にも言っています。結局私の中でその評価は覆らず。

とにかく素晴らしいアルバムです。イントロの堂々たるドラム・ロールから、ラストの内省的な小品に至るまで、縦横無尽の展開を見せながらも隙がない。必然性に満ちた多様性とでも言いましょうか。

ラップ・アルバムでは当然あるんですけど、ネオ・ソウル的な瞬間も多くて、それでいてディズニー映画のようなとびきりメルヘンな意匠を作品の重要な分岐点で挿入するコンセプト・アルバムのような側面もある。またそのどれもがニクいくらいに上質で。

それに極めて人間的な作品なんです。タイトルからそうですし、個々の楽曲のリリックを切り取ってみてもそれは明らかで。そういう自叙伝的な作風って古今東西に見られるスタイルですが、本作は非常にオープンなんですよね。

聴き手への発信にすごく自覚的で、だからこそ色んなエッセンスを加えて音楽的に優れた作品に仕立てている。それでいてこのアルバムはLittle Simz個人の所有物として保全されている。この両立ったらないですよ。

この作品を聴いて以降「これを超える名作に出会えるか?」というのが新譜を聴く楽しみにもなっていたんですが、とうとうこの作品の牙城を崩すことはできませんでしたね。掛け値なく、最高のアルバムです。2020年代のディケイド・ベストの候補にもあがってくると思いますね。

まとめ

さて、これにてピエール的2021年ベスト・アルバムTOP30の発表は終了です。お楽しみいただけましたか?

このブログって基本的にクラシカルな音楽を扱うことが多くて、実際この前まで「1970年代洋楽史解説」なんて連載をしてたくらいなんですけど、だからといって現代の音楽を蔑ろにしたい訳ではないんです。

これは上半期の時にも言いましたが、日々素晴らしい音楽がこの世に生まれている、その感動的な体験が本当に嬉しかったんです。現代にはZEPもフロイドもボウイもいないけど、でもLittle SimzやParannoulやマネスキンがいるんですよ。

なんだかんだかなり有名作ばかりがノミネートした感もあるんですけど、もし聴いていない作品があれば年内中に触れていただけると嬉しいです。さあ、来年はどんな音楽に出会えるのか、今から楽しみですね。

コメント

  1. 名無し より:

    良いランキングですね!
    ところで音楽評論をするならば、「ですます」調よりも「だ、である」調のほうが良いと思うのですが如何でしょう?

    • pierre より:

      コメントありがとうございます。
      少しでもとっつきやすさを、と思い、あえて敬体を使っています。
      常体の方が格調や説得力は増すのでしょうが……今後扱うテーマによって使い分けてみるのもいいかもしれませんね。
      ご指摘ありがとうございます!

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