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独断と偏見と愛で選ぶ、「2021年間ベスト・アルバムTOP30」

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第20位 “Afrique Victime”/Mdou Moctar

Mdou Moctar – "Tala Tannam" (Official Music Video)

ニジェールのギタリスト、「砂漠のジミヘン」ことエムドゥ・モクターのアルバムです。

「ロックといえばギター!」みたいな価値観も流石にカビ臭いなとは思うんですけど、このアルバムを聴いていると「ギターってカッコイイ」という、忘れかけてた当たり前の事実を思い出させてくれます。「砂漠のジミヘン」は伊達じゃないですね。

ギターが作品のど真ん中にあるんですけど、アフリカ的感性なんでしょうか、いわゆるロック・ギターとは違ったエスニックな香りや土着的旋律を色濃く感じさせますね。私がワールド・ミュージックに求めるところの、「異国の祝祭」のイメージにすごく符合するものがあります。

そう、祝祭的なんですよね。実際ライヴ映像なんかだと、ストリートで演奏してアフリカの子供達大熱狂みたいなことになってるんですが、あの濃密な享楽性、有無を言わせず楽しませるハッピーさ、それをあくまでギター・アルバムとして成立させてるのがアツイじゃないですか。

「新譜」のランキングですからどの作品も現代的ではあるんですけど、それ故に見落としがちな最も原始的な音楽の楽しさが詰まったアルバムだと思ってます。

第19位 “Strides”/小袋成彬

Nariaki Obukuro – Work

小袋成彬の3rdアルバムです。Twitterでもリリース当日からかなり色んな人に聴かれていた注目作でしたね。

「あれ、ディアンジェロ聴いてたっけ?」と錯覚しちゃうほどのセクシーで黒いグルーヴに、日本人にしか出せない歌心の共存がとにかく気持ちいいですよね。どなたかが「宇多田ヒカル・ミーツ・ディアンジェロ」なんて表現してましたが正に言い得て妙。

ヒップホップ的なアプローチもあるんですけど、それもあくまで日本的、もっと言えば歌謡的です。韻の踏み方がすごくいなたくて、日本語の持つ「野暮ったさ」を見事に引き出しているんですよね。

当然メロディアスな部分も素晴らしくて。矛盾するようですけど、すごくブラック・ミュージック的な歌謡性なんですよね。メロディにカチッと言葉を乗せるのではなく、R&B的な空白があるという点で。

洋楽を愛好するからこそ、邦楽の「日本性」というのは個人的にすごく大事なテーマなんですが、この作品はドンピシャです。国産R&Bとしてこれ以上ない名作ですよ。

第18位 “The Art Of Losing”/The Anchoress

The Art of Losing – The Anchoress

イギリスの女性SSW、ジ・アンカレスことキャサリン・A・デイヴィスのアルバムですね。

濃厚な陰影、そしてそこから生まれる豊満な美。そういうある種クラシカルなサウンドを基調としている作品です。彼女マニックスの大ファンを公言していますけど、ちょうどリッチー・エドワーズが在籍していた頃のマニックスみたいな沈鬱なヴィジョンがあります。

ただ、そこに彼女の感性と女声の艶やかさでもってある程度の軽やかさ、あるいはしなやかさみたいなものを獲得しているのがいいですね。聴いてて息苦しくなるような閉塞感はなくて、アートとして成立する濃度にとどめています。

そういう世界観の構築が見事なアルバムなんですよね。ひっそりと囁くように表現したかと思えば、禍々しさを纏って大仰にしてみせたり。その緩急というのを心得ています。いい意味での予定調和、ある種プログレ的な構成なのかななんて思ったりね。

最初に聴いた時から好みのアルバムだったんですけど、その世界観に踏み込めば踏み込むほどに心地よくなる、スルメな1枚でしたね。まだまだしばらくはしがんでいようと思います。

第17位 “DIALOGUE+1″/DIALOGUE+

【DIALOGUE+】「おもいでしりとり」Music Video Full ver.【4th Single】

洋楽の作品をメインで扱うこのリストでは浮いて浮いてしょうがないんですけど、あくまで個人的なものですから。悪びれずに紹介しますよ。日本の声優ユニット、DIALOGUE+の1stフル・アルバムです。

このアルバムに限らず、このグループの活動をほとんどすべて手がけるプロデューサーが田淵智也という人物なんですよね。UNISON SQUARE GARDENのベーシストで、LiSAを筆頭としたアニソン業界にも多数楽曲提供を行なっています。

で、もうこの田淵らしさ、「田淵イズム」がダダ漏れのアルバムなんですよ。田淵智也の作曲ってレンジが広いタイプではなくて、ある意味定型の構成なんですが。それが大好物の私からすると全編楽しめます。

その「田淵イズム」とアニソン特有の様式美、それからアイドル的な可愛らしさやドラマ性、そして古式奥ゆかしい電波ソングの系譜にも連なるフリーキーな展開。そういう成分がブレンドされています。

アルバムの緩急もまた見事でね。コテコテなんですけど、楽曲の強度のバランスがいいから聴いていて疲れない。音楽的にもかなり如才ない1枚だと思ってます。結構本気で。

第16位 “Skin”/Joy Crookes

I Don't Mind

今年のソウル系統はイギリスの圧勝ですね、彼女もその一例。ジョイ・クルックスの作品です。

ものすごく渋いアルバムなんですよね、これ。第一に彼女の歌声ですよ。年齢をまるで感じさせない、妖気のようなものを纏った表現力。これだけで作品に釘付けにされてしまいます。

その声質だけでかなり得しているんですけど、歌い上げ系のバラードもこなせちゃう歌唱力もあって。作品の方向性を歌声で決定づけちゃうエネルギーが感じられます。そういう作品、他にはなかった気もしますね。

それに音楽性もやっぱり渋い。UKネオ・ソウルらしいセクシーさ、USほどに露骨ではない品のよさがある感覚です。そこにレゲエっぽいビートがあるのもやっぱりUK的ですよね。クラシカルと呼ぶには最近の音楽性ではありますが、こういう王道感のあるネオ・ソウル、やっぱりいいもんです。

とにかくシックで渋くてアダルト。そういうソウル、どうせ皆さんお好きでしょ?当然私も好きな訳ですよ。作品の展開にも隙がなくて、いい意味で新譜らしくないじっくりした名盤じゃないでしょうか。

第15位 “Call Me If You Get Lost”/Tyler, The Creator

SIR BAUDELAIRE

上半期ベストの時はリリースのタイミングの折り合い悪く選外としましたが、年間ベストからこれを外すのはちょっと無理がありますね。

タイラー・ザ・クリエイターというと“IGOR”が10年代の名作として有名ですし、私もあの作品から入った口なんですが、あの作品すごく苦手だったんですよ。ヒップホップど素人の時に聴いたのもあってね。

それでおっかなびっくりこの作品聴いたんですけど、すごくいいんですよこれが。一言で表すと「現代ヒップホップの王道」みたいな印象ですね。ソウルの風味もあるし、ちょうどいい塩梅に自信満々で、それでいて内省的なダークさも感じられて。

“IGOR”で感じられる強烈な個性、それがいい意味で薄い作品です。というより、ヒップホップの美味しいところにより彼の才能を溶け込ませることに成功していると評価すべきでしょうか。トラックの遊び心なんかは流石のセンスです。

ゴリゴリのヘッズの方はどう思うか私には分からないですけど、個人的にはただただ上質なラップ・アルバムだなと。数年前までラップ大嫌いだった私がよくもまあ「上質なラップ・アルバム」なんて言ってるなとは思うんですけど、いいもんはいいですから。

第14位 “How Beautiful Life Can Be”/The Lathums

Circles Of Faith

デビュー作にしてUKアルバム・チャート初登場1位を獲得した期待の新星、The Lathumsの作品です。

音楽性を一言で表すならばインディー・ロックということになるんでしょうけど、すごく王道のインディーですね。R.E.M.に始まりニュートラル・ミルク・ホテル、そしてアーケイド・ファイアに繋がっていく系譜の中にある作品だと思います。

そしてこの作品、とにかくメロディがいいんですよ。先に挙げたインディーの歴史ってUSの文化ですけど、この作品はそのモードの中で英国的なパターンのメロディを展開します。ELO、は少し言い過ぎですけど、ああいう「イギリスっぽい」メロディ・センス

R.E.Mの世界観で英国式メロディって最高だと思いませんか?最高なんですよね。今年聴いたロック・アルバムでも、メロディの純度でいうと最高峰だと思います。こういうクラシカルなポップネス、「新譜」として聴くとすごく新鮮でした。

楽曲の強度を支える演奏も地に足がついた味のあるものばかりでね。処女作とは到底思えません。今後彼らの動向は追いかけて損はないと思いますね。

第13位 “時間”/betcover!!

piano

邦楽ではこれが有無を言わせずベストですね。ヤナセジロウのソロ・プロジェクトbetcover!『時間』です。

Rate Your Musicでも高評価みたいですけど、さもありなんという感じです。それこそRYM発で再評価が進んだフィッシュマンズの影響下にありそうなサウンドですからね。

この作品を一言で言い表すならば「厭らしい」アルバムです。それも実に日本的な厭らしさ。海外ホラーと和ホラーの違いというと伝わりやすいでしょうか?

それこそフィッシュマンズだったり、あるいはゆらゆら帝国だったりが放つサイケ由来の陶酔感とそこから生まれるおどろおどろしさ。それを見事にbetcover!の世界観の中で再解釈しています。

「エスニックな厭らしさ」とでもここでは表現しておきましょうか、それがとても心地いいんですよね。何気ない瞬間に思わずゾッとしちゃうような、そんな聴き手を油断させない構築の妙も素晴らしいです。

第12位 “An Overview On Phenomenal Nature”/Cassandra Jenkins

Hard Drive

上半期ベストで「まだまだ評価が上がりそう」なんて言いましたが、案の定年間ランキングにも食い込みました。カッサンドラ・ジェンキンスのアルバムですね。

繰り返しにはなるんですけど、テイラー・スウィフト『フォークロア』にも通ずるインディー調のカントリー作品ですね。インディーの中でも、朝靄のような幻想性を感じさせるタイプの音像です。

語りかけるように優しい歌声と、ギターの爪弾きを軸にしたサウンドの構築、それだけだとすごくクラシカルなカントリーなんですけど、そこにシンセや、時にブラスなんかが混ざってくることで一気に世界観が曖昧に広がります。その大きさの匙加減が心地よくてね。

それでいてゴツゴツしたサウンドを見せる瞬間があるのも面白いんですよ。ロック的とまでは言わないですけど、異物感のあるアプローチ。そこで一気に現実感が作品に生まれて、単に夢見心地に終始しない配慮があります。

収録時間は30分ばかりというこじんまりした作品なんですけど、その満足感たるや。むしろこのアルバムはそのひそやかさに魅力がありますね。レコード時代の音楽が主食な私なんかからすると、これくらいコンパクトな方がじっくり楽しめるんですよね。

第11位 “Drunk Tank Pink”/Shame

shame – Water in the Well (Official Video)

イギリスのオルタナ・バンド、シェイムの第2作です。RYMやBest Ever Albumみたいなポータルサイトでもかなり上位に食い込む人気作ですね。

この作品もポスト・パンクの枠で語るべきなんでしょうね、ギターのカッティングを主体とした変則的なリズム・パターンがとても面白い質感です。ただ、個人的にこの作品、かなりパンクっぽいなと思っていて。

ゴリゴリ突き進むんだけど冷笑的という部分にはザ・クラッシュのような印象もありますし、ユニークに絡みつくギター・サウンドテレヴィジョンのようでもある。そこのブランドって無茶苦茶面白くないですか?聴いたことあるようでない、独特さがあります。

でもメロディはかなり捻くれてるんですよね。UK的で一筋縄ではいかない、からかうかのような絶妙な外し方。サウンドが硬派だからこそいっそう映えている感もありますね。こういう、親しみやすいポップネスもキチンと兼ね備えているのがニクイところです。

古き良きUKロックのスタイルと現代ロックのあり方、その両立が上手い作品だと思います。私がUKロックに求めているものを見事に提出してくれた、そんな見事な1枚です。UK贔屓な節のある日本でももっと騒がれていいと思うんですが。

コメント

  1. 名無し より:

    良いランキングですね!
    ところで音楽評論をするならば、「ですます」調よりも「だ、である」調のほうが良いと思うのですが如何でしょう?

    • pierre より:

      コメントありがとうございます。
      少しでもとっつきやすさを、と思い、あえて敬体を使っています。
      常体の方が格調や説得力は増すのでしょうが……今後扱うテーマによって使い分けてみるのもいいかもしれませんね。
      ご指摘ありがとうございます!

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