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「RS誌の選ぶ史上最も偉大な500曲」改訂版の傾向と、「2021年的批評」の限界点

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さて、これは流石にこのブログの性質からいって触れない訳にはいかないトピックですね。

昨年名盤ランキングを改訂した米ローリング・ストーン誌が、今回は名曲ランキングの改訂版を発表し、にわかに話題となりました。

今回はコイツについて見ていきながら、2021年的批評の性質、こういう観点で語っていければと思っています。

リストの内容

まずは今回のランキングの内容から。流石に500曲全ては転載できないので、ここではTOP100をひとまず掲載しておきます。ソースはこちらから。

Respect
  • 001. “Respect”/Aretha Franklin (1967)
  • 002. “Fight The Power”/Public Enemy (1989)
  • 003. “A Change Is Gonna Come”/Sam Cooke (1964)
  • 004. “Like A Rolling Stone”/Bob Dylan (1965)
  • 005. “Smells Like Teen Spirit”/Nirvana (1991)
  • 006. “What’s Going On”/Marvin Gaye (1971)
  • 007. “Strawberry Fields Forever”/The Beatles (1967)
  • 008. “Get Ur Freak On”/Missy Elliott (2001)
  • 009. “Dreams”/Fleetwood Mac (1977)
  • 010. “Hey Ya!”/OutKast (2003)
God Only Knows (Remastered 1997 / Mono)
  • 011. “God Only Knows”/The Beach Boys (1966)
  • 012. “Superstation”/Stevie Wonder (1972)
  • 013. “Gimme Shelter”/The Rolling Stones (1969)
  • 014. “Waterloo Sunset”/The Kinks (1967)
  • 015. “I Want To Hold Your Hand”/The Beatles (1963)
  • 016. “Crazy In Love”/Beyoncé feat. Jay-Z (2003)
  • 017. “Bohemian Rhapsody”/Queen (1975)
  • 018. “Purple Rain”/Prince & The Revolution (1984)
  • 019. “Imagine”/John Lennon (1971)
  • 020. “Dancing On My Own”/Robyn (2010)
Strange Fruit
  • 021. “Strange Fruit”/Billie Holiday (1939)
  • 022. “Be My Baby”/The Ronettes (1963)
  • 023. “Heroes”/David Bowie (1977)
  • 024. “A Day In The Life”/The Beatles (1967)
  • 025. “Runaway”/Kanye West feat. Pusha T (2010)
  • 026. “A Case Of You”/Joni Mitchell (1971)
  • 027. “Born To Run”/Bruce Springsteen (1975)
  • 028. “Once In The Lifetime”/Talking Heads (1980)
  • 029. “Nuthin’ But A G Thang”/Dr. Dre feat. Snoop Doggy Dogg (1992)
  • 030. “Royals”/Lorde (2011)
The Rolling Stones – (I Can't Get No) Satisfaction (Official Lyric Video)
  • 031. “(I Can’t Get No) Satisfaction”/The Rolling Stones (1965)
  • 032. “Juicy”/Notorious B.I.G. (1994)
  • 033. “Johnny B. Goode”/Chuck Berry (1958)
  • 034. “Papa’s Got A Brand New Bag”/James Brown (1966)
  • 035. “Tutti Frutti”/Little Richard (1955)
  • 036. “Seven Nation Army”/The White Stripes (2003)
  • 037. “When Doves Cry”/Prince & The Revolution (1984)
  • 038. “(Sittin’ On) The Dock Of The Bay”/Otis Redding (1967)
  • 039. “B.O.B.”/OutKast (2000)
  • 040. “All Along The Watchtower”/The Jimi Hendrix Experience (1968)
Joy Division – Love Will Tear Us Apart [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
  • 041. “Love Will Tear Us Apart”/Joy Division (1980)
  • 042. “Redemption Song”/Bob Marley & The Wailers (1980)
  • 043. “My Girl”/The Temptations (1965)
  • 044. “Billie Jean”/Michael Jackson (1982)
  • 045. “Alright”/Kendrick Lamar (2015)
  • 046. “Paper Planes”/M.I.A. (2008)
  • 047. “Tiny Dancer”/Elton John (1972)
  • 048. “Idioteque”/Radiohead (2000)
  • 049. “Doo Wop (That Thing)”/Lauryn Hill (1998)
  • 050. “Gasolina”/Daddy Yankee (2010)
Walk on By
  • 051. “Walk On By”/Dionne Warwick (1964)
  • 052. “I Feel Love”/Donna Summer (1977)
  • 053. “Good Vibrations”/The Beach Boys (1966)
  • 054. “The Tracks Of My Tears”/Smokey Robinson & The Miracles (1965)
  • 055. “Like A Prayer”/Madonna (1989)
  • 056. “Work It”/Missy Elliott (2000)
  • 057. “Family Affair”/Sly & The Family Stone (1971)
  • 058. “The Weight”/The Band (1968)
  • 059. “The Message”/Grandmaster Flash & The Furious Five (1982)
  • 060. “Running Up That Hill”/Kate Bush (1985)
Stairway to Heaven (Remaster)
  • 061. “Stairway To Heaven”/Led Zeppelin (1971)
  • 062. “One”/U2 (1992)
  • 063. “Jolene”/Dolly Parton (1974)
  • 064. “Blitzkrieg Bop”/Ramones (1976)
  • 065. “September”/Earth, Wind & Fire (1978)
  • 066. “Bridge Over Troubled Water”/Simon & Garfunkel (1970)
  • 067. “Tangled Up In Blue”/Bob Dylan (1975)
  • 068. “Good Times”/Chic (1979)
  • 069. “All Too Well”/Taylor Swift (2912)
  • 070. “Suspicious Mind”/Elvis Presley (1969)
Fast Car
  • 071. “Fast Car”/Tracy Chapman (1988)
  • 072. “Yesterday”/The Beatles (1965)
  • 073. “Formation”/Beyoncé (2016)
  • 074. “Hallelujah”/Leonard Cohen (1984)
  • 075. “Common People”/Pulp (1996)
  • 076. “I Walk The Line”/Johnny Cash (1956)
  • 077. “Roadrunner”/The Modern Lovers (1976)
  • 078. “Reach Out (I’ll Be There)”/The Four Tops (1967)
  • 079. “Back To Black”/Amy Winehouse (2006)
  • 080. “What’d I Say”/Ray Charles (1957)
I'm Waiting For The Man
  • 081. “I’m Waiting For The Man”/The Velvet Underground (1967)
  • 082. “Rolling In The deep”/Adele (2011)
  • 083. “Desolation Row”/Bob Dylan (1965)
  • 084. “Let’s Stay Together”/Al Green (1971)
  • 085. “Kiss”/Prince (1986)
  • 086. “Tumbling Dice”/The Rolling Stones (1972)
  • 087. “All My Friends”/LCD Soundsystem (2007)
  • 088. “Sweet Child O’ Mine”/Guns N’ Roses (1987)
  • 089. “Hey Jude”/The Beatles (1968)
  • 090. “(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”/Aretha Franklin (1967)
UGK (Underground Kingz) – Int'l Players Anthem (I Choose You) (Director's Cut) ft. Outkast
  • 091. “Int’l Players Anthem (I Choose You)”/UGK feat. OutKast (2007)
  • 092. “Good Golly, Miss Molly”/Little Richard (1958)
  • 093. “Since U Been Gone”/Kelly Clarkson (2004)
  • 094. “I Will Always Love You”/Whitney Houston (1992)
  • 095. “Wonderwall”/Oasis (1995)
  • 096. “99 Problems”/Jay-Z (2003)
  • 097. “Gloria”/Patti Smith (1975)
  • 098. “In My Life”/The Beatles (1965)
  • 099. “Stayin’ Alive”/Bee Gees (1977)
  • 100. “Blowin’ In The Wind”/Bob Dylan (1963)

分析①ブラック・ミュージックの躍進

ここからは実際にリストの分析に移りましょう。

とにかくこれにつきますね、「ブラック・ミュージック1強」です。

以前のリストって1位が『ライク・ア・ローリング・ストーン』、2位がストーンズの『サティスファクション』でモロにロック・クラシックに価値観が寄ってたんですよ。(この2つに関してはRS誌にかけたシャレという可能性もなくはないんですけど……)

ところがどっこい、今回はTOP3が全てブラック・ミュージック。TOP10だけ見ても実に6曲がブラック・ミュージックです。これは名盤ランキングの時と非常に近い変化と言えますね。

ただ、これは名盤ランキングほど違和感ないんですよ。

アルバムというものを重要視してきたロック・ミュージックと比べて、ソウル/R&Bやヒップホップは楽曲主体のカルチャーであることは事実ですから。

実際『リスペクト』『チェンジ・イズ・ゴナ・カム』あたりは納得感強くないですか?以前のリストでも最上位にいた楽曲ではあるんですけど。

それと、トレイシー・チャップマンディオンヌ・ワーウィックなんていう女性R&Bシンガーが健闘しているのはこのリストの大きな特色でしょうね。こういう先達の存在あってこそ、ビヨンセみたいなスターが生まれた訳ですから。その文脈の再評価は適切でしょう。

先達ということだと、プリンスの無双っぷりはいっそ清々しいですね。圧巻の3曲がTOP100入り。『1999』や『アドア』なんかもTOP100圏外にランク・インしてましたからね。現代シーンの開祖みたいな存在なので妥当ではあるんですが、この勢いの凄さは10年前にはないものです。

それならMJはどうなってんだって感じですが、未だにしょうもないスキャンダルで評価しにくい部分あるんでしょうかね。これに関して触れ出すと語気が荒くなるのでこの辺にしときますけど、MJを無視してブラック・ミュージックが支配的な現代シーンを見渡すことなんて不可能なはずですよ……

そうそう、ブラック・ミュージックならヒップホップの躍進も凄まじいですね。というより以前のリストではほぼ無視されていた領域なんですけど。TOP10にパブリック・エナミーミッシー・エリオットアウトキャストがランク・インしています。

というかミッシー・エリオットとアウトキャスト強すぎるでしょ。ヒップホップのシーンを俯瞰で見ても、N.W.A.界隈やウータン界隈、ネイティヴ・タンみたいな歴史的一派を抑えての評価ということですからね。

分析②ロック観の新陳代謝

ここも今回の改訂の重要な部分でしょうね。これまでパンク以前のロックに重きを置いてきたRS誌が、一気にポストパンク(ジャンルのことではなく歴史的タームとして)のロックに接近してきています。

ジョイ・ディヴィジョンだったりオアシスだったり、この辺ってこれまでのRS誌はこれ見よがしに黙殺してきた訳でしょ?それをしっかりTOP100にセレクトするというのは、実はヒップホップの躍動以上にこのリストの重要な性格なのかもとすら思います。

ただオアシスよりパルプの『コモン・ピープル』の方が上なのかよ……というのはロック畑出身の率直な感想。この曲は結構アメリカでもヒットしたみたいですし、そういう地域性もあるんでしょうけどね。

そして一見納得のいく最上位に関しても、ニルヴァーナがロックでディランに次ぐ位置というのは実はとてつもない快挙じゃないですか?

だってビートルズやストーンズのどの曲よりも『スメルズ・ライク〜』の方が偉大だと言っているんですよ?こういう主張をRS誌がした意義はかなり大きい気がします。

00年代以降のロックも『セヴン・ネイション・アーミー』で最低限フォローしていますし、ロックと言っていいか微妙ですがLCDサウンドシステムなんかも入っていますから。この辺は過去にない試みですね。ここは特に反論の余地なく、素直に受け入れていいと個人的には納得できる部分です。

分析③「ヒット曲」への配慮

これも面白い部分ですね。このリスト、以前のものに比べると破格に大衆的なんですよ。

上位で見ればF・マックの『ドリームズ』や、クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』みたいな楽曲のランク・インはそういう性質を反映させていますね。ブラック・ミュージックで言うと『アイ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー』『セプテンバー』のTOP100入りなんてなかなか面白い。

「歴史的意義が云々の前に、みんな好きなんだからいいじゃん?」みたいな、そういう主張を感じます。

21世紀以降のポップス、具体的に言うとテイラー・スウィフトだったりビヨンセだったり、その辺りの顔ぶれが登場するのもそういう理屈なのではないかと。

ただ不思議なのが、現代って音楽が売れない時代じゃないですか。だからこそ、大衆性の部分は音楽批評で薄れていく指標なのかと個人的には思っていたんですが。私の予感の真逆をいく傾向なんですよね。

音楽が売れないこと自体へのカウンターなのか、それとも音楽が売れた時代への懐古なのか……いずれにしても、徹底して「現代的」なポジションからの批評であるこのリストにおいてこうした傾向は意味のあるものだと思うんです。

分析④依然として残る歪さ

さて、このリストに関してここまで結構褒めちぎってきましたけど、最後はシビアにいきましょうか。

というのもね、やっぱり「かつて偉大とされた」楽曲の順位をいたずらに下げるというのは個人的には腑に落ちないんですよ。

そりゃあ今まで評価してこなかった楽曲が上位に来るならかつての上位の順位は下がるんですけど、そのバランスが名盤ランキング同様やはり歪。

『天国への階段』より偉大な曲が60曲も存在するってのはやっぱり無理筋じゃないですか?どれだけ時代が移り変わろうと、かつてこの曲が音楽史上最も偉大な楽曲の1つだった事実に変わりはないですから。

それと、ヒップホップがやたらと上なのも正直しっくりきません。価値観の提示として一定の意味はあるんでしょうけど、名盤ランキング同様かなり社会情勢への忖度の色が濃いというかね。

それがタイトルにもつけた、「2021年的批評の限界点」なのかなと。

極端に言ってしまえば、ビートルズとカニエ ・ウェストを並列して議論することにまだまだ不慣れなんですよ。これは別にRS誌に限った話でもなく、音楽評論の世界全体に言えることです。

ロック史観によって培われてきた指標に、その外側から出てきたヒップホップの文化、そしてその両方を継承した現代のシーンを折衷するというのは考えるだけで身震いする難題ですからね。

だから、これは「RS誌はクソ!」みたいな結論に向かうものではなく、かなり保守的なメディアであるところのRS誌がこの限界に挑んだこと自体を一旦は評価すべきだと思うんですよ。

そしてその上で、この挑戦を受けて音楽観をどのようにアップデートすべきかということを我々音楽ファンが見つめ直す契機だと思っています。

まとめ

何度か言及しましたけど、RS誌のこの転換というのは昨年の名盤ランキングで既に大々的に打ち出されたものだったので、あの時ほどの波乱はなかったように思いますね。

とてつもなく強引な解釈をすれば、このRS誌の価値観が1年の間にある程度人口に膾炙したと言えるのかもしれません。そこへの賛否はあるでしょうけどね。

ランキングを扱うたびに言っている気がしますが、ランキングそのものはほとんど口実というか、それ自体に意味のあるものじゃないんですよ。

それを受けて、我々の中でどう咀嚼するか。それが一番大事です。少なくとも色んな音楽を「好き嫌い」だけで判断しない人にとってはね。

ビートルズが偉大なことくらい百も承知なんですよ。じゃあその上で、「今」の音楽にとってカニエやフランク・オーシャンみたいなアーティストとそういうバランス関係にあるの?ってところを考えるのは無意味だとは思いません。

「音楽観をアップデート」なんて大それたことを打ち出している弊ブログにとって、こういう指摘はくどいほどしておいた方がいいのかなと思ってます。それではこの辺で。

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