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名盤「ランキング」レビュー② ローリング・ストーン誌(2020)編

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この前投稿したローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」(2003)のレビュー記事が思いの外評判でして。調子に乗ってシリーズ化してみようと思います。

さて、今回見ていくのはローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」。いや同じじゃないかと思ったそこのあなた、残念ながらコレは別物です。

というのも、昨年この名盤ランキングが改訂されまして。しかもその改訂が凄まじいまでの価値観の転換を見せた訳です。ネットでも賛否両論、音楽界隈に激震が走ったリストなんですよ。

今回はそんな、2020年版のローリング・ストーン誌の名盤ランキングに対してレビュー、というよりああだこうだとコメントをしていきましょう。

ランキングの内容

今回も例によってランキングの内容から。トップ100はこういうラインナップです。

  • 1. What’s Going On/Marvin Gaye (1971)
  • 2. Pet Sounds/The Beach Boys (1966)
  • 3. Blue/Joni Mitchell (1971)
  • 4. Songs In The Key Of Life/Stevie Wonder (1976)
  • 5. Abbey Road/The Beatles (1969)
  • 6. Nevermind/Nirvana (1991)
  • 7. Rumours/Fleetwood Mac (1977)
  • 8. Purple Rain/Prince & The Revolution (1984)
  • 9. Blood On The Tracks/Bob Dylan (1975)
  • 10. The Miseducation Of Lauryn Hill/Lauryn Hill (1998)
  • 11. Revolver/The Beatles (1966)
  • 12. Thriller/Michael Jackson (1982)
  • 13. I Never Loved A Man The Way I Love You/Aretha Franklin (1967)
  • 14. Exile On Main St./The Rolling Stones (1972)
  • 15. It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back/Public Enemy (1988)
  • 16. London Calling/The Clash (1979)
  • 17. My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West (2010)
  • 18. Highway 61 Revisited/Bob Dylan (1965)
  • 19. To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar (2015)
  • 20. Kid A/Radiohead (2000)
  • 21. Born To Run/Bruce Springsteen(1975)
  • 22. Ready To Die/Notorious B.I.G. (1994)
  • 23. The Velvet Underground And Nico/The Velvet Underground (1967)
  • 24. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band/The Beatles (1967)
  • 25. Tapestry/Carole King (1971)
  • 26. Horses/Patti Smith (1975)
  • 27. Enter The Wu-Tang (36 Chambers)/Wu-Tang Clan (1993)
  • 28. Voodoo/D’Angelo (2000)
  • 29. The Beatles/The Beatles (1968)
  • 30. Are You Experienced/The Jimi Hendrix Experience (1967)
  • 31. Kind Of Blue/Miles Davis (1959)
  • 32. Lemonade/Beyoncé (2016)
  • 33. Back To Black/Amy Winehouse (2006)
  • 34. Innervisions/Stevie Wonder (1973)
  • 35. Rubber Soul/The Beatles (1965)
  • 36. Off The Wall/Michael Jackson (1979)
  • 37. The Chronic/Dr. Dre (1992)
  • 38. Blonde On Blonde/Bob Dylan (1966)
  • 39. Remain In Light/Talking Heads (1980)
  • 40. The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars/David Bowie (1972)
  • 41. Let It Bleed/The Rolling Stones (1969)
  • 42. OK Computer/Radiohead (1997)
  • 43. The Low End Theory/A Tribe Called Quest (1991)
  • 44. Illmatic/Nas (1994)
  • 45. Sign O’ The Times/Prince (1987)
  • 46. Graceland/Paul Simon (1986)
  • 47. Ramones/Ramones (1976)
  • 48. Legend/Bob Marley And The Wailers (1984)
  • 49. Aquemini/OutKast (1998)
  • 50. The Blueprint/Jay-Z (2001)
  • 51. The GreatTwenty-Eight/Chuck Berry (1982)
  • 52. Station To Station/David Bowie (1976)
  • 53. Electric Ladyland/The Jimi Hendrix Experience (1968)
  • 54. Star Time/James Brown (1991)
  • 55. The Dark Side OF The Moon/Pink Floyd (1973)
  • 56. Exile In Guyville/Liz Phair (1993)
  • 57. The Band/The Band (1969)
  • 58. IV/Led Zeppelin (1971)
  • 59. Talking Book/Stevie Wonder (1972)
  • 60. Astral Weeks/Van Morrison (1968)
  • 61. Paid In Full/Eric B. & Rakim (1987)
  • 62. Appetite For Destruction/Guns N’ Roses (1987)
  • 63. Aja/Steely Dan (1977)
  • 64. Stankonia/OutKast (2000)
  • 65. Live At The Apollo/James Brown (1963)
  • 66. A Supreme Love/John Coltrane (1965)
  • 67. Reasonable Doubt/Jay-Z (1996)
  • 68. Hounds Of Love/Kate Bush (1985)
  • 69. Jagged Little Pill/Alanis Morrissette (1995)
  • 70. Straight Outta Compton/N.W.A. (1988)
  • 71. Exodus/Bob Marley And The Wailers (1977)
  • 72. Harvest/Neil Young (1972)
  • 73. Loveless/My Bloody Valentine (1991)
  • 74. The College Dropout/Kanye West (2004)
  • 75. Lady Soul/Aretha Franklin (1968)
  • 76. Superfly/Curtis Mayfield (1972)
  • 77. Who’s Next/The Who (1971)
  • 78. The Sun Sessions/Elvis Presley (1976)
  • 79. Blonde/Frank Ocean (2016)
  • 80. Never Mind The Bollocks/Sex Pistols (1977)
  • 81. Beyoncé/Beyoncé (2013)
  • 82. There’s A Riot Goin’ On/Sly And The Family Stone (1971)
  • 83. Dusty In Memphis/Dusty Springfield (1969)
  • 84. Back In Black/AC/DC (1980)
  • 85.John Lennon/Plastic Ono Band/John Lennon (1970)
  • 86. The Doors/The Doors (1967)
  • 87. Bitches Brew/Miles Davis (1970)
  • 88. Hunky Dory/David Bowie (1971)
  • 89. Baduizm/Erykah Badu (1997)
  • 90. After The Gold Rush/Neil Young (1970)
  • 91. Darkness On The Edge Of Town/Bruce Springsteen (1978)
  • 92. Axis: Bold As Love/The Jimi Hendrix Experience (1967)
  • 93. Supa Dupa Fly/Missy “Misdemeanor” Elliot (1997)
  • 94. Fun House/The Stooges (1970)
  • 95. Take Care/Drake (2011)
  • 96. Automatic For The People/R.E.M. (1992)
  • 97. Master Of Puppets/Metallica (1986)
  • 98. Car Wheels On The Gravel Road/Lucinda Williams (1998)
  • 99. Red/Taylor Swift (2012)
  • 100. Music From Big Pink/The Band (1968)

(全ランキングはこちらから)

ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選 | 2020年改訂版 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン)
米ローリングストーン誌が「500 Greatest Albums of All Time」(歴代最高のアルバム500選)の最新バージョンを公開した。ローリングストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」(以

2003年のものと見比べていただければその差は一目瞭然。もうまるっきり別のランキングでしょ?

ここからは実際にこのリストの内容について細かく見ていきましょう。

ヒップホップの躍進とロックの衰退

はい、このリストの特色は間違いなくこれですね。

とにかくヒップホップが元気なランキングなんです。トップ100になんと17作5分の1はヒップホップですからね。ビヨンセやフランク・オーシャンみたいなR&B系のアーティストも入れるとそのパイはさらに巨大になります。

その分、ロックはかなり元気がなくなっています。『狂気』『IV』みたいな、従来の価値観では問答無用の大名盤がトップ50圏外。他にも上位の常連が軒並み順位を下げる格好です。

ここがまずこのリストの巨大な転換の1つですね。『ヴードゥー』のレビューの冒頭でも触れましたが、現代においてロックの影響というのは以前に比べてかなり衰退しています。そしてそれに取って代わったのが、ヒップホップやR&Bといったジャンル。

そういう、現代ポピュラー音楽の政権交代を、このリストは如実に反映させているんですね。コレを、強烈に保守的だったストーン誌がやった意味は皆さんが思う以上に大きいと思います。

アルバム作品の序列に関して、色々な議論はありますけどそれでもストーン誌のランキングというのはかなり存在感が大きかった訳じゃないですか。「なんだかんだ言っても『サージェント・ペパーズ』が1位だよね」みたいな、自分の言葉を引用すると『サージェント』史観みたいなものは確かに存在した。

それを他でもないストーン誌自身が破壊したんですよ。「いやいや、今そんなにビートルズってすごくなくない?」みたいな具合に。実際、前回トップ10に4作品という暴れっぷりを見せた絶対王者ビートルズはトップ10に『アビー・ロード』1枚のみという有様です。

The Long One (Comprising of ‘You Never Give Me Your Money’, ’Sun King’/’Mean Mr…

この手のひら返しぶりはまた後で言及しますが、とにかく今までとまったく違うリストなんだということは理解しておいてください。

ポリコレへの配慮

こういうトピックを扱うと思わぬところから噛みつかれそうですけど、触れないわけにもいかないので。

というのも、ヒップホップを筆頭にブラック・ミュージックが目立つ構成だよね、ということをさっき話しましたけど、コレって本当に音楽だけで判断してるの?という疑問が正直あるんですよ。

例えばヒップホップで最上位に来ているカニエ・ウェストケンドリック・ラマー、それにパブリック・エネミーもそうですかね。彼らの特徴って政治や社会への批判を込めたコンシャスな姿勢にあるじゃないですか。

Public Enemy – Don't Believe The Hype (Official Music Video)

当然音楽は常に社会と共にある訳ですし、ヒップホップの歴史を紐解けばそうしたメッセージ性の強い作品というのは他ジャンルよりも多くあって然るべきです。それに、彼らの音楽はもう文句なく大傑作であることにも異論はありません。

ただ、リスト全体を見渡すと、「ブラック・アメリカンと女性への忖度」がにじみ出ているようにも思えてくるんですよ。2020年のアメリカの背景も考慮に入れれば尚更に。

「ブラック・ライヴズ・マター」運動がわかりやすいですけど、近年のアメリカではこうしたリベラルなムーヴメントがとても社会の関心を集めているじゃないですか。それがこのリストには「必要以上」に反映されている気がしてならないんですよ。

わかりやすいところでいくとアラニス・モリセットリズ・フェアのランク・インですかね。もちろん素晴らしいアーティストだし、特にモリセットのこの作品に関してはメガ・ヒット作ですから今まで評価されてこなかった方が不思議と言ってもいいかもしれません。

Alanis Morissette – You Oughta Know (Official 4K Music Video)

でも、じゃあ彼女たちの作品がザ・フーやAC/DCのどの作品よりも名盤なの?となると、首を傾げたくなるのは私だけじゃないですよね?主観を抜きにしても、歴史的な意義であったり、作品の完成度であったり、そういう点で見てもちょっと乱暴な気がするんですよ。

もしかしたらそこに何らかの作為というか、「今社会でこういう空気感あるし女性アーティストも持ち上げとくか」みたいな意思があったんじゃないのか、と疑ってしまいます。

社会の変化の中で新しい観点が生まれて、見過ごされていた作品やアーティストが発掘されるというのは喜ばしいことですけど、このリストはちょっとそれを無理やりやっている印象があるのが残念です。

「コンセプト」から「人間としての主張」へ

このリストから感じる主張ですね、「もうアルバム単位でテーマがどうこうとか、古くない?」みたいな。

それこそコンセプト・アルバムの金字塔、世界初のコンセプト・アルバムと謳われる『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の順位の極端な下がりっぷりがこの主張を明確にしていると思います。

アルバムで音楽を聴かせる、単なる楽曲集ではなく1つの作品としてのアルバム、そういう価値観が60年代中期から登場して、パンク以前までの音楽というのはこのイデオロギーの中で発展してきました。ただその価値観はもう現代において音楽のメイン・ストリームじゃないよね、とローリング・ストーン誌は言う訳です。

サブスクリプションやYouTubeの発展が、音楽の聴き方をかなり大きく変化させたのは事実です。かつてアルバムという物語の中で結びつきをもって展開された音楽は、今再び独自性をもって楽曲そのもののパワーで勝負する時代へと移り変わっている。

この辺もロックの衰退と関係あると思うんですよね、ヒップホップなんてそういうロック中心で発展した音楽の外側から出てきた文化ですし。コレは良し悪しじゃなく、事実としてまず理解しないといけないものです。

で、そのコンセプトやテーマ性以外でアルバム作品を評価しようとした時に、ストーン誌はその指標を「人間性」に見出したのかなというのが個人的な考察です。

さっきヒップホップの話した時にも出しましたが、メッセージ性みたいな部分はこのリストかなり重んじていると思うんですよ。なにせ『ホワッツ・ゴーイング・オン』なんていう、黒人のメッセージ・アルバムの元祖みたいな作品を1位にしているくらいですから。

Marvin Gaye – What's Going On (Official Video 2019)

こういう、アルバムとしての評価軸を新たに提示しているのは面白いと思います。しっかり現代的な感性も踏まえた上でですからね。作品の絶対的な質は前提として、ですが。

過去と現在を結びつける挑戦の第一歩

ここも触れた方がいいでしょうね。ここまでのトピック全般とかかわってくる話でもあるんですが。

要するに、「新しい価値観を示すのはいいけど、だからといってこれまでの名盤をないがしろにするのは違うんじゃないか?」という話です。

確かにビートルズは2003年当時よりその影響力を失っているかもしれません、かつてのように誰も彼もが『狂気』を聴いている時代ではないかもしれません。ただ、そういった時代の上に、現代の音楽文化は成立しているはずなんですよ。

そこがちょっと短絡的というか、「2020年の音楽」からの視点が大きすぎる気がするんですね。そういうものと割り切ればいいのかもしれませんが、権威あるローリング・ストーン誌ならばもっと踏み込んでほしいという気持ちもあります。

ただ、これはある意味可能性のある話だとも思うんです。このリストによって、「これまでの価値観はもう通用しない」ということをストーン誌は提示することに成功した訳ですが、過去と現在を結びつけたフォーマットの形成にはまだ至っていないですからね。

これは我々にとっての課題なんでしょうね。現代が音楽史上における転換点であることに自覚的であらねばならない、そして新たな音楽論を発見せねばならないという。

まとめ

この企画本当にスピンオフのはずなのに書くことが多すぎて毎回ボリュームがとんでもなくなってしまいます。今回も楽しんでいただけたでしょうか?

このリストが賛否両論を生んだという話をしましたが、それもこういうランキングの1つの役割なのかなと思うんですよ。さっきも言いましたが、音楽ファンそれぞれがそれぞれなりの音楽論を構築するための議論のきっかけと言いますか。

批判するのは簡単です。私だって最初見た時にいきなり500位にアーケイド・ファイアの『フューネラル』が出てきてまあまあ荒れましたからね。

ただ、その向こう側にある主張や意図みたいなものは無駄じゃないはずなんです。学び取れるものは決して少なくないと思いますし、どうせ議論するならただ叩くだけじゃもったいないとも思います。

そういう、ある種の学びや発見の入り口にこの記事がなればいいなと、傲慢ながら思ったりもする訳です。

ホワッツ・ゴーイン・オン+2(SHM-CD)

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