スポンサーリンク

“To Pimp A Butterfly”全訳解説 M.7 “Alright”

Pocket

今回も“To Pimp A Butterfly”全訳解説です。バックナンバーは↓からどうぞ。

今回挑戦していくのは“Alright”です。いやあ、ようやくこの楽曲まで辿り着きました。この企画を立ち上げた大きなきっかけの1つに、スーパーボウル・ハーフタイムショーでのこの楽曲のパフォーマンスにノックダウンさせられたというのがありましたから。

Kendrick Lamar Solo Live – M.A.A.D. CITY/Alright | Pepsi Halftime Show | Super Bowl LVI 2022 #NFL

この楽曲を紐解いていくには現代のアメリカの実情も抑えておく必要があるんですけど、この辺りは解説に譲ることにして。ひとまず和訳していきましょう。

“Alright”全訳

Kendrick Lamar – Alright

Alls my life has a fight, nigga

Alls my life I

Hard times like, yah !

Bad trips like, yah !

Nazareth, I’m fucked up

Homie, you fucked up

But if God got us then we goin’ be alright

俺は人生をかけて戦わなくちゃいけない

人生すべてを賭して

なんて辛いんだ 神よ!

まるでバッドトリップしちまったみたいだぜ 神様!

神よ 俺はキレてる

そうだろ お前らもキレてんだ

でも神様が側にいるなら 俺たちはきっと大丈夫さ

Nigga, we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

We goin’ be alight

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Huh ? we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

Uh, and when I wake up

I recognize you’re lookin’ at me for the pay cut

But homicide be looking at you from the face down

What MAC-11 even boom with the bass down

Schemin’ ! And let me tell you ‘bout my life

Painkillers only put me in the twilight

Where pretty pussy and Benjamin is the highlight

Now tell my mama I love her but this what I like

Lord knows, twenty of ‘em in my Chevy

Tell ‘em all to come and get me, reapin’ everything I sow

So my karma come in heaven, no preliminary hearings on my record

I’m a motherfucking gangster in silence for the record, uh

Tell the world I know it’s too late

Boys and girls, I think I’ve gone cray

Drown inside my vices all day

Won’t you please believe when I say

目を覚ますと

お前らが俺の給料を差っ引こうとこっちを見てるのに気づいたぜ

でも自己防衛のための殺人がうつむいてお前らの方を見てるんだ

サイレンサーをつけたとしても MAC-11からはどんな銃声が鳴るだろうな?

色々考えてたんだ!俺の人生について語らせてくれないか

鎮痛剤はただただ俺を黄昏た気分にさせるだけさ

肝心なのは最高のマンコとベンジャミン それっきりさ

俺はママに「愛してるぜ」って言ったけど これが俺のやりたいこと

神様はお見通しだぜ 俺のシボレーには仲間が20人も乗ってるんだ

連中に迎えに来るよう頼んでた 自分で蒔いた種は結局自分に返ってくるもんさ

だから俺の業も天国までついて回る 俺の経歴に前科はないけどさ

俺は音楽のために生きる寡黙なクソギャングスタさ だろ?

世界中に教えてやるさ もう手遅れだって俺は知ってる

俺に憧れる少年少女たちよ よく聞け 俺はトチ狂ってんだ

自分自身の悪にいつだって囚われて苦しんでる

頼むから信じてくれ 俺の言うことを

Wouldn’t you know

We been hurt, been down before, nigga

When our pride was low

Lookin’ at the world like, “Where do we go, nigga ?”

And we hate po-po

Wanna kill us dead in the street for sure, nigga

I’m the preacher’s door

My knee gettin’ week and my gun might blow

But we goin’ be alright

知らないはずないだろ

俺らは虐げられてきた 貶められ続けてきたんだ

俺たちが自分を誇りに思えなかったあの頃

こんな風に思いながら世界を見てきたんだ 「俺たちはどうなっちまうんだ?」ってな

ポリ公なんてクソ食らえ

連中は俺たちを白昼堂々殺したくて堪らないのさ 知ってんだぜ

俺は牧師のドアの前にいる

長いこと跪いてたから膝も限界だぜ このままじゃ銃をぶっ放すかもな

でも俺たちは大丈夫

Nigga, we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

We goin’ be alight

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Huh ? we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

What you want you, a house ? You, a car ?

40 arces and a mule ? A piano, a guitar ?

Anything, see my name is Lucy, I’m your dog

Motherfucker, you can live at the mall

I can see the evil, I can tell it I know when it’s illegal

I don’t think about it, I deposit every other zero

Thinkin’ of my partner put the candy, paint it on the regal

Diggin’ in my pocket ain’t a profit, big enough to feed you

Everyday my logic, get another dollar just to keep you

In the presence of your chico ah !

I don’t talk about it, be about it, everyday I see cool

If I got it then you know you got it, Heaven, I can reach you

Pat Dawg, Pat Dawg, Pat Dawg, my dog, that’s all

Bick back and Chad, I trap the bag for y’all

I rap, I black on track so rest assured

My rights, my wrongs, I write ‘til I’m right with God

何が望みだ? 家?それとも車か?

40エーカーと一頭のラバかな?それともピアノ? ギターか?

お前の望むものはなんでも叶えよう 我が名はルーシー お前の犬さ

クソッタレが お前はショッピングモールでも暮らせるのさ

俺には善悪くらいわかるし ちゃんと分別もつくんだ それが違法だってことも見りゃわかる

そんなこと俺は考えない 0がいくらあったって全部貯金するね

パートナーのことを考えて ビュイックをペンキで塗るのさ 法律もついでに塗りつぶしてやろうか

俺のポケットを漁ったところで お前を満足させられるものなんて入ってないぜ

毎日頭を使って ルーシー お前を側に置くためだけに金を稼ぐのさ

お前のチコ 番犬もいることだしな ああ!

そのことは話題にしないぜ そんなこと 俺はいつだって冷静に物事を見てる

俺が手に入れたもんは君のもんでもあるんだ そうすりゃ俺も天国に行ける

パット・ドッグ パット・ドッグ 俺のいとこさ あいつは俺の犬 ただそれだけ

ゆっくり休んでくれ パットも それにチャドもな 俺はお前らのためにカバンをパンパンにしてる

俺はトラックに乗ってラップするアフリカン・アメリカンさ だから安息も保証付き

自分の正しい行いも 悪い行いも 等しくリリックにするぜ 俺が神の側に行くまでずっとな

Wouldn’t you know

We been hurt, been down before, nigga

When our pride was low

Lookin’ at the world like, “Where do we go, nigga ?”

And we hate po-po

Wanna kill us dead in the street for sure, nigga

I’m the preacher’s door

My knee gettin’ week and my gun might blow

But we goin’ be alright

知らないはずないだろ

俺らは虐げられてきた 貶められ続けてきたんだ

俺たちが自分を誇りに思えなかったあの頃

こんな風に思いながら世界を見てきたんだ 「俺たちはどうなっちまうんだ?」ってな

ポリ公なんてクソ食らえ

連中は俺たちを白昼堂々殺したくて堪らないのさ 知ってんだぜ

俺は牧師のドアの前にいる

長いこと跪いてたから膝も限界だぜ このままじゃ銃をぶっ放すかもな

でも俺たちは大丈夫

Nigga, we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

We goin’ be alight

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Huh ? we goin’ be alright

Nigga, we goin’ be alright

Do you hear me, do you feel me ? We goin’ be alright

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

なあ 俺たちは大丈夫

そうだろ なんとかなるさ

大丈夫だぜ

聞こえるか?感じるかい?俺たちはなんとかなるさ

I keep my head up high

I cross my heart and hope to die

Lovin’ me is complicated

Too afraid of a lot of changes

I’m alright, and you’re my favorite Dark nights in my prayers

上を向いて生きなくちゃな

心に誓うよ でも死にたいんだ

自分を愛することは難しいんだ

多くの変化が俺にとってはあまりに恐ろしい

俺は大丈夫だ 君は俺の仲間 暗闇の中で祈りを捧げるぜ

解説

新たなアフリカン・アメリカンのアンセム

さて、ここからは解説です。

この楽曲、数あるラマーの名曲の中でも最高傑作と呼ぶに足るものですよね。それは2021年にローリング・ストーン誌が発表した「史上最も偉大な500曲」の改訂版リストでこの曲が45位という高順位につけていたり(この順位ですら低すぎると思いますけど)、グラミー筆頭に多くのアワードを受賞した、その事実が物語っています。

まあ勿論楽曲として、音楽として素晴らしくないことにはこんな評価は得られない訳ですけど、それと同時にリリックも極めて重要です。何故ならこの曲は、アフリカン・アメリカンのアンセムとしての地位を不動のものにしているから。

歴史的なクラシックで言えば、マーヴィン・ゲイ“What’s Going On”JB“Say It Loud, I’m Black & I’m Proud”、それにサム・クック“A Change Is Gonna Come”にも匹敵する存在感ですからね。

Marvin Gaye – What's Going On (Official Video 2019)

今例に挙げた3曲って1960年代から1970年代最初期のものですけど、この時代って公民権運動があったじゃないですか。アフリカン・アメリカンが自由と権利を求めた、人類史上における重要なイベント。その中で、アフリカン・アメリカンを代表して彼らが主張を代弁したことで、これらの楽曲は支持されてきた経緯があります。

「1960年代洋楽史解説」という企画内で、公民権運動とポピュラー音楽の結びつきについて解説しています。よろしければ↓も併せてどうぞ)

それと同じなんですよ、この”Alright”も。だってこの楽曲は、2020年に起こった「Black Lives Matter」運動の中でしばしば取り上げられ、シンガロングを巻き起こしていましたから。

We Gon Be Alright #BlackLivesMatter Rally Anthem Melbourne, Australia

ただ、ヒップホップの歴史には人種差別への抗議は何度も登場しているんですよね。パブリック・エナミーでもいいし、N.W.A.でもいい。何故ケンドリック・ラマーなのか?それは同時代性も大きいでしょうけど、その上でこの楽曲のリリックにヒントがある気がしています。

何度も繰り返される「俺たちは大丈夫だ」というリリック。このシンプルさが重要なんですよ。ともすれば陳腐にも思えますけど、極めて洞察力と表現力に優れた詩人であるケンドリック・ラマーが、あえてこれほどに平易な表現をしている。

そしてそのメッセージは底抜けにポジティヴときたもんです。決して能天気な訳じゃないですし、「ポリ公なんてクソ食らえ」のように暴力的なリリックやネガティヴな事実の告発もされています。その上で、「でも俺らは大丈夫」と言い切ることがどれだけの同胞に希望を抱かせたことでしょう。

ケンドリック・ラマーの苦悩とアフリカン・アメリカンの苦悩のグラデーション

で、この楽曲に込められたメッセージの大枠は今語った通りなんですけど、その表現の仕方が流石のケンドリック・ラマーと言わざるを得ない巧妙なもので。

何度も言及している、「ミクロとマクロ」の2つの筆致。これがこの楽曲でも当たり前のように登場してくるんですよ。ケンドリック・ラマー個人の主張が、そのままアフリカン・アメリカンのレペゼンとして提示される。この重ね合わせが素晴らしい。

「だから俺の業も天国までついて回る 俺の経歴に前科はないけどさ」という箇所によく出ているんですけど、彼のコンプトン時代の悪事に対する懺悔もこの楽曲ではされていて。それがアフリカン・アメリカンの置かれる境遇、犯罪に走らなければならない貧困や冷遇という現状が前提にあることをも示唆するものになっているんですよ。

そしてコーラスに入る直前の「俺は牧師のドアの前にいる 長いこと跪いてたから膝も限界だぜ このままじゃ銃をぶっ放すかもな」というリリックも同じように2つの主張のミックスと理解できるものです。

彼が牧師のドアの前にいるのは、彼個人の罪を懺悔するためでもあり、アフリカン・アメリカンの地位の向上を祈るためでもある。ただ、どれだけ長い間祈ろうと何も変わらない。堪え兼ねたラマーは銃による暴力をも示唆してしまう訳ですけど、これって「BLM」が一部で暴徒化したことを予言するかのようでしょ?

それでいて、2ndヴァースではアルバム序盤、“Wesley’s Theory”“For Free ?”で語られた彼に対する搾取が再び告発されます。「40エーカーと一頭のラバ」がここでも登場しますし、「お前はショッピングモールでも暮らせるのさ」という表現も既出のものを再度引用する格好ですから。

これ、もちろんメーンとしては彼個人の苦悩なんですけど、この楽曲全体を貫くメッセージを踏まえると、奴隷制の時代から続くアメリカによるアフリカン・アメリカンへの搾取をも表現しているんですよ。この表現としての幅と強度、これこそケンドリック・ラマーの真骨頂です。

そうしたエンパワメントとしての意義があるからこそ、ラマーはこの楽曲で搾取に対し強靭に反論します。俺は惑わされない、俺には分別がある、とね。”Wesley’s Theory”では税制によって破滅することを暗示していましたが、ここに至って彼はそうした卑劣な搾取に屈しないことを表明しているんです。

で、”Wesley’s Theory”では搾取してくるのはアンクル・サムでしたけど、この楽曲では「ルーシー」というキャラクターが登場します。ただ、これは「ルシファー」のことですね。「サタン」のことで、要するに悪魔です。

当然これは比喩で、彼に擦り寄る人間の醜悪さを描いたものですけど、アンクル・サムとの類似を見れば、アメリカという国家の暗部そのものを「悪魔」と批判しているものでもあるんです。この痛烈さが流石ですね。そうそう、この「ルーシー」は次曲でも重要な存在ですので、頭の片隅に置いておいてください。

そして、この楽曲では彼のラッパーとしての矜持にも触れています。ここまでの楽曲でいうならば、“King Kunta”で登場したテーマですね。

「自分の正しい行いも 悪い行いも 等しくリリックにするぜ 俺が神の側に行くまでずっとな」で顕著ですね。彼は死ぬまで公平性を持った誠実なラッパーであることを宣誓しています。

この楽曲がプロテスト・ソングとしてアンセムになった事実、これもこの彼の矜持故だと思うんです。前作“good kid, m.A.A.d city”でケンドリック・ラマーが示したリリシストとしての才覚は、パーソナルで自伝的なものでした。手法でいうと、“Illmatic”でのナズに近いものと言えます。

そこにメッセンジャーとして、リーダーとしての存在感をも追加してみせたのがこの“To Pimp A Butterfly”であり、その象徴がこの“Alright”である。そんな分析も可能じゃないでしょうか。

まとめ

さあ、これで語りたいことは概ね語れましたかね。如何だったでしょうか?

アフリカン・アメリカンへの差別というのは2022年になってもなお根強く残っています。悲しいことですけどね。で、ヒップホップを筆頭にコンシャスなポピュラー音楽では絶えず差別への抗議は行われてきました。

この部分、絶対に見落としてはいけません。ましてヒップホップ、その上ケンドリック・ラマーを聴くとなればね。ドクター・ドレーからバトンを受け継いだ、現代における「主張する黒人」な訳ですから。

今回の解説で、そこのところを汲み取ってもらえればすごく意義のあるものになると個人的には思っています。それでは次回、”For Sale” (Interlude)でお会いしましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました