今回は名盤ランキングをレビューしていく企画の第3弾。これまでの2回で最も著名かつスタンダードなローリング・ストーン誌のものを見ていきましたが、今回はイギリスの老舗雑誌NMEが2013年に発表したランキングを見ていきましょう。これまでのランキング・レビューはカテゴリからご覧になっていただければ。
このリストはね……冒頭であまりネタバラシをするのもつまらないので匂わせるだけにしておきますが、個人的には愛憎入り交じる思いがあるんですよ。まあ、見ていけば私が何を言っているのかは理解できると思います。
さて、前置きはこの辺にして、早速このリストの内容を見ていくことにしましょう。では、参ります。
ランキングの内容
例によってまずはTOP100を引用するところから。NMEのオフィシャル・ページが見当たらなかったので、rockin’ onのページを引用元としてリンクを掲載しておきます。全リストを確認したい方はそちらをどうぞ。
- 1. The Queen Is Dead/The Smiths (1986)
- 2. Revolver/The Beatles (1966)
- 3. Hunky Dory/David Bowie (1971)
- 4. Is This It/The Strokes (2001)
- 5. The Velvet Underground & Nico/The Velvet Underground (1967)
- 6. Different Class/Pulp (1995)
- 7. The Stone Roses/The Stone Roses (1989)
- 8. Doolittle/Pixies (1989)
- 9. The Beatles/The Beatles (1968)
- 10. Definitely Maybe/Oasis (1994)
- 11. Nevermind/Nirvana (1991)
- 12. Horses/Patti Smith (1975)
- 13. Funeral/Arcade Fire (2004)
- 14. Low/David Bowie (1977)
- 15. Let England Shake/PJ Harvey (2011)
- 16. Closer/Joy Division (1980)
- 17. It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back/Public Enemy (1988)
- 18. Loveless/My Bloody Valentine (1991)
- 19. Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not/Arctic Monkeys (2006)
- 20. OK Computer/Radiohead (1997)
- 21. My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West (2010)
- 22. Parklife/Blur (1994)
- 23. The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars/David Bowie (1972)
- 24. Exile On Main St./The Rolling Stones (1972)
- 25. What’s Going On/Marvin Gaye (1971)
- 26. Pet Sounds/The Beach Boys (1966)
- 27. Screamadelica/Primal Scream (1991)
- 28. Back To Black/Amy Winehouse (2006)
- 29. Marquee Moon/Television (1977)
- 30. Enter The Wu-Tang (36 Chambers)/Wu-Tang Clan (1993)
- 31. Dog Man Star/Suede (1994)
- 32. Paul’s Boutique/Beastie Boys (1989)
- 33. Modern Life Is Rubbish/Blur (1993)
- 34. Abbey Road/The Beatles (1969)
- 35. In Utero/Nirvana (1993)
- 36. Blood On The Tracks/Bob Dylan (1975)
- 37. Forever Changes/Love (1967)
- 38. Never Mind The Bollocks/Sex Pistols (1977)
- 39. London Calling/The Clash (1979)
- 40. Unknown Pleasures/Joy Division (1979)
- 41. Daydream Nation/Sonic Youth (1988)
- 42. Innervisions/Stevie Wonder (1973)
- 43. Rubber Soul/The Beatles (1965)
- 44. The Holy Bible/Manic Street Preachers (1994)
- 45. Parallel Lines/Blondie (1978)
- 46. Debut/Björk (1993)
- 47. Strangeways, Here We Come/The Smiths (1987)
- 48. Hounds Of Love/Kate Bush (1985)
- 49. Sound Of Silver/LCD Soundsystem (2007)
- 50. Dusty In Memphis/Dusty Springfield (1969)
- 51. Rumours/Fleetwood Mac (1977)
- 52. Let It Bleed/The Rolling Stones (1969)
- 53. Station To Staton/David Bowie (1976)
- 54. Remain In Light/Talking Heads (1980)
- 55. Sticky Fingers/The Rolling Stones (1971)
- 56. After The Gold Rush/Neil Young (1970)
- 57. Die Mensch-Maschine/Kraftwerk (1978)
- 58. Surfer Rosa/Pixies (1988)
- 59. In Rainbows/Radiohead (2007)
- 60. Blue Lines/Massive Attack (1991)
- 61. The Clash/The Clash (1977)
- 62. Blonde On Blonde/Bob Dylan (1966)
- 63. Blue/Joni Mitchell (1971)
- 64. Highway 61 Revisited/Bob Dylan (1965)
- 65. Automatic For The People/R.E.M. (1992)
- 66. The Bends/Radiohead (1995)
- 67. (What’s The Story) Morning Glory ?/Oasis (1995)
- 68. Astral Weeks/Van Morrison (1969)
- 69. Murmur/R.E.M. (1983)
- 70. Up The Bracket/The Libertines (2002)
- 71. Harvest/Neil Young (1972)
- 72. Transformer/Lou Reed (1972)
- 73. Bringing All Back To Home/Bob Dylan (1965)
- 74. Illmatic/Nas (1994)
- 75. Dookie/Green Day (1994)
- 76. Discovery/Daft Punk (2001)
- 77. White Blood Cells/White Stripes (2001)
- 78. Suede/Suede (1993)
- 79. Kind Of Blue/Miles Davis (1959)
- 80. Raw Power/Iggy & The Stooges (1973)
- 81. Trans-Europe Express/Kraftwerk (1977)
- 82. Tapestry/Carole King (1971)
- 83. The Band/The Band (1968)
- 84. Live Through This/Hole (1994)
- 85. Born To Run/Bruce Springsteen (1975)
- 86. Grace/Jeff Buckley (1994)
- 87. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band/The Beatles (1967)
- 88. For Your Pleasure/Roxy Music (1973)
- 89. The Miseducation Of Lauryn Hill/Lauryn Hill (1998)
- 90. A Grand Don’t Come For Free/The Streets (2004)
- 91. Purple Rain/Prince & The Revolution (1984)
- 92. Radiator/Super Furry Animals (1997)
- 93. Songs For The Deaf/Queen Of The Stone Age (2002
- 94. Beggars Banquet/The Rolling Stones (1968)
- 95. Spirit Of Eden/Talk Talk (1988)
- 96. Fear Of A Black Planet/Public Enemy (1990)
- 97. The Smiths/The smiths (1984)
- 98. In The Aeroplane Over The Sea/Neutral Milk Hotel (1998)
- 99. The Libertines/The Libertines (2004)
- 100. Hatful Of Hollow/The Smiths (1984)
露骨なUK贔屓
さあ、ここからはリストの内容にツッコんでいきます。まずはコレでしょうね、とにもかくにもUK贔屓がスゴイ。ちょっと露骨、やり過ぎなくらいです。
なにせ1位がザ・スミスの『クイーン・イズ・デッド』。いや、確かに大名盤ですし私も大好きなアルバムではありますけど、これがこの世の全てのアルバムの中で最も秀でいている、とはなかなか言えないですよね。
別にUKアーティストを1位にしたいなら、ザ・ビートルズという反則技があるじゃないですか。実際2位に『リボルバー』ですしね。ただ、何が何でも「イギリスっぽい」アルバムを1位にしたいみたいな強靭な意志を感じてしまいます。確かにスミスってどこまでもUK的なアーティストですから。
NMEのスミス愛は本当に凄まじいものがありますね、TOP100に彼らの作品は『ミート・イズ・マーダー』以外ほとんど入ってるんじゃないですかコレ。そこまで持ち上げなくても……と思わないでもないです。
それにパルプの『コモン・ピープル』が6位ですよ。そりゃブリットポップはイギリスから見たロック史の中ではすごく大きなムーヴメントですけど、でもオアシスがいる訳でしょ?オアシスだって1stが10位とかなりの高順位ではあるんですが、そこであえてパルプ。いやあ、露骨です。
ただ、単にUKロックを上位に入れまくるみたいな傾向なのかというとそうでもなくてですね。よくよく見るとレッド・ツェッペリンにピンク・フロイドが揃ってTOP100圏外。全世界的に巨大なセールスを記録し、批評筋からも常に大絶賛、そんなアーティストを上位に配置しないというのは結構面白い。
コレは次のチャプターでも触れていく傾向なんですけど、「UK贔屓」という観点ならばこういう指摘をしておきましょうか。すなわち、UKという範疇を越えたビッグ・アーティストはNMEの中で「UK」という判断をされていないんじゃないか、という。
スミスにパルプ、それにオアシスやブラー、ジョイ・ディヴィジョン、レジェンドでいくとデヴィッド・ボウイもですね、こういう面々って、やっぱりUKロックって感じじゃないですか。世界的アーティストでは勿論あるんですが、それ以上にイギリスのアーティストとしてのアティチュードが強い面々でしょ?
そういう、単に国籍ではなく、精神的に、音楽的にブリティッシュな作品を重く見ているリストだと言っていいんじゃないでしょうか。例外はやはりザ・ビートルズですけど、まあ、アレはもう規格外なので。
権威への逆張り
コレもこのリストの重要な性格です。いわゆる「名盤ランキング」、ものすごく単純化して話せばローリング・ストーン誌の名盤ランキング、ここへの反発ですね。
さっきも話したZEPとフロイドのTOP100選外、それにマイケル・ジャクソンの『スリラー』やイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』みたいな一般的に名盤とされる作品も選外です。
上位を見渡しても、『ペット・サウンズ』や『ホワッツ・ゴーイング・オン』は少し物足りない順位に思えなくもないですね(十分高い順位なんですが)。そして何より、
『サージェント・ペパーズ』が87位!
このブログではしつこいくらい言及してる作品ですが、やっぱりこの作品はマスターピースとして確固たる地位をそれこそリリース以来常に見せている1枚じゃないですか。そんな作品、ましてイギリスのアーティストのアルバム、コレを87位なんてところに置く反骨精神は強烈です。
コレは面白いですよね、これまで存在した権威というものに敢然とノーを突きつける。オルタナティヴ・ロックに好意的なメディアであるNMEの精神性みたいなものが浮き彫りになっています。
権威づいていないからこその柔軟さ
前章の話と関連してきますけど、そういう権威づいた序列を否定したこのリストがじゃあどういった作品を重く見ているのかというと、やはりオルタナティヴ・ロックだったりインディー・ロックだったりといった新しさ。
4位にいきなりストロークスの1stですよ。この時点で現代的なロックの感性をしっかりと表明してくる訳です。そういう意味ではバキバキにサイケでコンセプチュアルな『サージェント・ペパーズ』の低迷というのは、2020年のストーン誌の改定に先んじた価値観とも言えるでしょうか。それでもやり過ぎな感はありますが。
アーケイド・ファイアやPJハーヴェイ、アークティック・モンキーズあたりが高い位置にいるというところからも、このリストが現代的な姿勢を見せているのは明らかです。個人的にはLCDサウンドシステムのランクインは嬉しいところ。
それにオルタナティヴの原脈たるヴェルヴェッツの1stが高順位というのも象徴的ですね。古いところだとストゥージズの『淫力魔人』やパティ・スミスの『ホーセス』みたいなオルタナティヴ・クラシックはしっかりとTOP100入りしています。
それから、ロック以外にも最低限の目配せをしているのもプラス評価。ヒップホップからもナズやウータンといった定番作品はしっかりとセレクトしているし、2013年の段階でカニエ・ウェストの『MBDTF』をここまで高い位置にしているというのは結構スゴイことじゃないでしょうか。まあこの作品はリリース当時から大絶賛ではありましたけど。
他にもクラフトワークがTOP100に2作品もリスト入りしていたり、ダフト・パンクやビョークみたいな英米以外のアーティストもきっちり拾っている。そういう裾野の広さというか、柔軟さみたいな部分はストーン誌のリストにはない強みですね。
どこまでいっても普遍的ではない
ここまで割とこのリストを肯定的に評価してきましたが、それでもこのリストが完璧なのかと言われると腑に落ちない部分もあるんですよね。
だってやっぱり『クイーン・イズ・デッド』が1位はおかしいですもん。
一個人が「『クイーン・イズ・デッド』が一番好きだ!」って言うのとは話が違いますからね。如何に反骨精神溢れるNMEとはいえ、NMEにだって巨大すぎる権威はある訳ですから。
自国を贔屓する感覚だってごくごく自然ではあるけれど、適切とはいえません。このリストの作品を全て聴いたことのある人のうち、一体何人が『ペット・サウンズ』よりパルプの『コモン・ピープル』を上位に置くんでしょうか。面白い価値観ではあるけれども、客観性に関してはストーン誌のリストに劣る部分があるのは事実です。
本当に惜しいんですよね。2013年の段階でここまでワールドワイドなチョイスをしていて、オルタナティヴな感性もしっかりと肯定しておきながらその偏りだけが気になってしまう。もう少しフラットな視点があれば文句ないリストになったはずなんです。
もうストーン誌に関しては「保守的」の一言で片付けてしまえるハッキリとした個性がありますし、ピッチフォークの価値観だって面白いけれどもう半分ジョークみたいな部分も個人的には感じる訳ですよ。あのメディアに完全に公平なレビューというのははなから求めていないというかなんというか。
でもNMEなら私が求める完全なリストを提示できたんじゃないのかと思ってしまうんですよね。なまじ反権威的だからこそ。コレが冒頭で触れた、私がこのランキングに対して常々抱いている複雑な心境の正体です。
まとめ
このあたりで一旦まとめておきましょう。
このNMEのリストは、過去二回に渡って見てきたローリング・ストーン誌の名盤ランキングとはまったく異なる価値基準で選考されています。そういう意味で、この2つのメディアは表裏一体というか、2つのランキングを同時に見比べた時に面白い発見があるような気がしているんですが。
幸いにもこのブログではその対比ができるようになっているので、私のせせこましいコメントこそありますが、是非ともストーン誌のリストと比べていただきたいですね。
前にも書いた気がしますが、こういうランキングなんて音楽にとっては何の意味のないものだと思うんです。何々のランキングで何位だった、そんな後付けの評価で価値が揺らぐような音楽はそもそも高い評価を受けるはずがないですからね。
だから、こういったリストに意味があるとすれば、それは音楽の聴き手である我々にとってです。様々な価値観に触れ、ああでもないこうでもないと不毛な議論を繰り返す。その中で何か新しい気づきや、まだ見ぬ素晴らしい作品と出会うことだってあるかもしれません。
そういう機会を、この記事で生むことができればもう音楽ブログ冥利に尽きるというものです。次回は海外サイト、「Rate Your Music」のランキングを見ていく予定です。それでは、また。
ザ・クイーン・イズ・デッド
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