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ピエールの選ぶ、「2022年オススメ新譜5選」Vol.21

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今回は「オススメ新譜5選」、やっていきます。バックナンバーは↓からどうぞ。

……皆さん忘れてたでしょ、この企画。かく言う私が2ヶ月にわたって放置しちゃってました。やりたい企画がどうにもクラシカルな方向性になりがちだったり、単純に仕事とのバランスが取れずに新譜まで追いかけるエネルギーが出てこなかったり、まあ色々な理由があったんですけど。

ただ、2022年も終わりが見えてきて、年間ベストをゆっくりと見据えるようなタイミングに入ってくるとうかうかしてられないと奮起しましてね。ここまで取りこぼしちゃった作品は必ずやどこかで拾っていきますけど、ひとまず最新のリリースへの注目は再開していきます。

“Weather Alive”/Beth Orton

Beth Orton – Weather Alive (Official Music Video)

個人的に先週のベストはこれでしょうか。イギリスの女性SSW、Beth Ortonの第8作“Weather Alive”

古色蒼然とした女性フォークの名盤、そんな風格を纏った1枚ですね。しかもジョニ・ミッチェルの全盛期の諸作をも彷彿とさせる完成度で。50代に入った彼女の歌声は老熟を感じさせる見事な掠れ方で、霧がかかったかのような幻想的な美しさを放つサウンドスケープとあいまって思わずうっとりとしてしまいます。

と、こう表現するとどこか懐古的な1枚にも思われるかもしれないですけど、しっかり現代的な強度もある作品ですね。ジャズの人脈を客演に招いたことで全体として清浄な気品が漂っているんですが、それはインディー的な陶酔と捉えることもできるし、きめ細やかな音響の広がりにしてもすごく近年の音楽トレンドに合致していて。

実際あのピッチフォークも随分高く買ったようじゃないですか。如何にもあのメディアが好みそうな作品ではありますし納得なんですけど、だからといって決して小難しいアルバムでもないんですね。サウンドの意匠はともかく、やっぱり根っこには彼女のソング・ライティングがあるので。透き通ったメロディが一定している、実に自然体かつ如才ない作曲です。

女性インディー・フォークがここ数年の大きなトレンドではある中で、ここまで威厳ある名盤を出してくるのは流石です。今のところこの手の作品だと優河が一番好みだったんですけど、これはそこに食ってかかるだけの1枚になってくる気がしてますね。

“Guitar Music”/Courting

Courting – Loaded (Official Video)

デビューALだというのにバンドのTwitterアカウントで「年間ベスト!!……かもね」と大胆不敵に宣言してみせた、イギリスのバンドCourting“Guitar Music”。いやはや、宣言通りの1枚です。

アルバムの開幕を飾る“Cosplay/Twin Cities”はビッグ・ビートをロック・バンドで無理くりやっちゃうという面白さがあるんですけど、”Guitar Music”というこれまた大胆なタイトルには反する聴き味で。「皮肉かしら?」……なんて思いもしましたが、聴き進めればまさしく本作は“Guitar Music”なんですね。

“Loaded”なんて、直近のポストパンクにも通ずるフリーキーさをギターでもって堂々と表現しているでしょ?なのにエレクトロ的な文脈でも鑑賞できる、新しい時代を感じさせる代物で。ここまで攻めてて新奇なギター・アルバム、なかなかお目にかかれるもんじゃありません。

しかもちゃんとロックしてるんですよ。もちろんそれはオルタナティヴなスタンスという意味でもそうですけど、“Famous”に見られるアンセム的なスケールの大きさ“Jumper”キャッチーさなんかもそう表現できます。鳴ってる音は現代的だし、それゆえに閉鎖的なインディーらしさもありつつ、どこか古き良きロックの懐かしさをすら思わせる力強さ。この両立がまたとんでもない。

ジャンルで語ることが難しそうな作品ですけど、それゆえにロックの可能性を感じさせてくれる。ポストパンクの勢いを借りながら、その個性と鋭さは他に類を見ませんね。今後にすごく期待が持てる新人が出てきてくれましたし、1stでこの完成度は本当に素晴らしい。

“God Save The Animals”/Alex G

After All

現代インディーでも屈指のソングライターと名高いAlex G。この“God Save The Animals”を引っ提げて、インディー・シーンが活況に沸く2022年にとうとう彼もお出ましです。

文句なくいいインディー・ミュージック、そう端的に断言しちゃっていいでしょうね。骨子となるのはやはり彼が紡ぐメロディなんですけど、飾り気のない素朴さがじっくりとした歌声とあいまってすごくナチュラルに響いています。聴き手を振り回すフリーキーさもインディーの面白さですけど、私としてはこういうポップネスをこそ支持したいです。

ただ、じゃあ本作がFleet FoxesBon Iverにそのまま接続できるのかというと果たしてそうではない。サウンド・プロダクションでしっかりと緩急をつけて、一筋縄ではいかない捻りを加えてきますからね。これがまたメロディの持つ真っ直ぐさをわざわざ否定するかのようにトリッキーで、単純にメロディに乗っかって楽しむだけでは済まされない奥行きを生んでいます。

目立つのは大袈裟なほどにデジタルなアプローチだったり、癖のあるビートだったりでしょうか。これほどいい曲を書けるんだから、本来ならばそこを活かすべく牧歌的にまとめあげるのが常道だと思うんですよ。実際そういうテクスチャの楽曲もあるんですけど、要所要所でハッとさせられる展開を準備している。“Blessing”というナンバーに象徴的ですよね。

こういう楽曲があるからこそ、“After All”“Immunity”といった正統派の楽曲がより引き立つ。アルバムの構築という点でも澱みない、実によく練られた1枚じゃないでしょうか。インディー・ファンなら間違いなく聴かなきゃ損ですね。

“In These Times”/Makaya McCraven

Makaya McCraven – In These Times

ジャズからも紹介しておきましょう。私がとんとこのジャンルに疎いせいでこの企画では無視しがちだったんですけど、これは一聴して気に入りましたからね。ジャズ・ドラマー、Makaya McCraven“In These Times”

構想からリリースになんと7年もの歳月を要したとてつもない難産の1枚だったらしいんですが、それもそのはずという完成度です。静謐な叙情性はこれぞジャズという仕上がりなんですけど、注意深く観察すると細やかなビートに対する上物の余裕綽々な合わせ方や、とりわけハープに感じる押し引きのバランス感覚が絶妙で。

同時多発的にそのプレイは展開されるんですけど、そのことが本作の途方もない深度を決定づけているように感じますね。どこか一点にフォーカスするのではなく、ミクロとマクロが併走するその進行。これ、よほど繊細に扱わないと破綻しちゃうアプローチだと思うんですけどね。しかも楽曲はコンパクトにまとめられてるので、雄弁に説明することすら許さないという厳然さ。

それにヒップホップ通過後のジャズとしても素晴らしくて、やはり彼がドラマーだからなんでしょうけどビートの質感が巧みなんですね。有機的な揺らぎ、ローファイな鳴りはしっかりとジャズ調なんですけど、仄かに打ち込み的な冷徹さを表現している。繰り返しにはなりますけど、そこにあくまで嫋やかなサウンドが乗っかるのがとびきりに卑怯です。

7年間の録音をエディットして完成した、いわば編集作品であることも驚愕ですよ。プロダクションにおいてもアルバム作品としての通奏低音においても、このトータリティを独立した素材から引き出すのは並大抵のことじゃない。ジャズに疎い私でこうも感動するんですから、ジャズ畑の方は今頃椅子から転げ落ちてるのでは?

“Hyper-Dimentional Expansion Beam”/The Comet Is Coming

The Comet Is Coming – TECHNICOLOUR

最後に紹介するのも、これは一応ジャズになるのかな?少なくとも個人的にはジャズだと思って受け止めた1枚ではあります。The Comet Is Coming“Hyper-Dimentional Expansion Beam”

ジャズと言いつつ、徹底してエレクトロニックな作品ではあるんですよ。こういう電子音って、カラフルな陽の表情と厳粛な陰の表情にキッパリ二分されるんですが、本作は紛れもなく後者。スピリチュアルなまでに広大ではあるものの、人工的な冷たさがハッキリと主張されていて。

特にビートにわかりやすく表れてますかね。実に堅牢で、作品の軸を絶対にブラさない安定感があります。こういうテイストは電子音の強みですけど、その上に乗っかってくるサックスがこれでもかと気まぐれでね。その硬いビートをからかうかのように自在に踊っていて、意図的にリズムから外れる捻りも随所で聴かせてくるんです。ここがジャズらしいと感じた部分なんですが。

サックスの音色だってある程度エレクトロ的に処理されていて、決して聴き味としてネイキッドではないんですが、あくまで音楽的に有機的という印象です。サウンドの上での統一感と、音の配置の上での遊び心、それが共存していることで安心感のある意外性を楽しめるんですね。なかなか面白いアプローチだし、研ぎ澄まされた意図が見事に功を奏している。

エレクトロニカ系統特有の人を選ぶサウンドの質感だったり、あるいは全編インストゥルメンタルという取っつきにくい構成だったり、そこのところで万人受けはしないのも事実だとは思うんですがね。ただ音楽作品としては間違いなくよくできていますし、新譜をわざわざdigる方にはさほど抵抗もない要素でもあるでしょうし。満を持してオススメできる作品です。

まとめ

とんでもなくご無沙汰なせいで探り探りではありましたが、Vol.21はこんな感じでお届けしました。

新譜を追いかけられてなかった期間に関しても、最低限のトピックくらいは横目に見てたんですよね。ただ上半期ほどの慌てふためきはリアルタイムの声としてそこまで観測できなかったというか、シーンとしては小休止の状態にあったのかなと。

でも、それも9月中旬くらいから再びやかましさを取り戻している感覚はあって。リナ・サワヤマの新譜辺りからでしょうかね。いやぁアレはよかった。あの作品を聴いて「やっぱ新譜聴くの楽しいな」とモチベーションを取り戻したくらいですから。

もしかしたらまた不定期連載に逆戻りするかもしれないんですけど、力の及ぶ限りは継続していきたいと思っています。なので一応、また来週と締め括っておきましょうか。

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