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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.8

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またしても遅れてしまいましたが素知らぬ顔で投稿しましょう、「オススメ新譜5選」のコーナーです。バックナンバーは↓からどうぞ。

ケンドリック・ラマーいよいよ再始動か!?とか、Glass Animalsがとうとう全米1位!とか、語りたいトピックは色々あるんですけど、それぞれ別の切り口で遠回しに触れる予定なので。片方はやたら準備に時間かかってしまうので気長に待っていてください。

今日のところはひとまず先週リリースのアルバムから5枚ピックアップしてレコメンドしていく、いつもの奴です。それでは張り切ってどうぞ。

“The Opening, Or Closing Of A Door”/Kristine Leschper

Kristine Leschper – "Ribbon"

真っ先にオススメしたい作品ですね。このブログやTwitterをよく読んでくださる人が聴くと「如何にもコイツが好きそうな音楽」となること請け合い、Kristine Leschperのソロ1st、“The Opening, Or Closing Of The Door”

バロック・インディー・プログレッシヴ・ポップスって感じですかね、一言で言うと。ね、私が好きなもの全部盛りでしょ?ひそやかで神秘的なポップスではあるんですけど、その目も眩む世界観の大きさにはプログレッシヴ・ロックのそれを感じてしまうし、サウンドの質感はバロック・ポップの範疇にあります。

ところどころに顔を出すパーカッシヴなビートもポイントで、このリズムの刺激が本作に密林の中の原始宗教のような厳かさと触れがたさを与えていると思うんです。ただスピリチュアルに世界観を広げるのではなく、そこに肉体性のようなものをしっかりと生み出す。アルバム前半の“Figure And I”から“Blue”にかけての展開なんて正にそんなベクトル。

かと思えばその直後にこれぞバロック・ポップと言わんばかりのオルガンに導かれた耽美的コーラスが待ち構えているんですからもう大好物じゃないですか。結構強引な展開も多い中、それらを世界観の調和で綺麗にコラージュしてみせる、この手腕もプログレ的だなぁと思ったりなんかして。

彼女の歌いっぷりもいいんですよ。ケイト・ブッシュエリザベス・フレイザーのような、徹底的に霊的な歌声。作品との相性がズバ抜けてしまっています。どのメディアも諸手を挙げて大絶賛!……となるアルバムじゃない気もしますけど、ここまで個人的にドンピシャのアルバム、新譜に限らずなかなか久しぶりなくらいですよ。年間ベスト行き確定です。

“If My Wife New I’d Be Dead”/CMAT

CMAT – Nashville (Official Lyric Video)

これまでシングルを散発していたニューカマー、CMATの初となるフル・アルバム“If My Wife New I’d Dead”です。

いやあ、個人的にモロ好みな作品です。1曲目の“Nashvile”でノックアウトされましたね。シンセを主体とした華々しいサウンド・プロダクションには私の原風景である80’sポップスと共通する色合いを感じるし、それでいてアコースティックな生感も楽曲によってはある。何より個々の楽曲にしっかりとしたキャッチーさがありますからね。

私は常々、「ポップであることはロックであることの何倍も困難」だと思っているんですけど、本作にもかなり「ポップであること」の努力が垣間見えるというか。楽曲のアレンジも意図的に凝っているのが伝わってくるし、新人とは思えない職人気質なポップネスがあると思います。

その中で面白いのがCMATの歌唱の部分ですね。結構エキセントリックというかクセのある歌声なんですけど、それが緻密なポップス・サウンドと混ざり合って独特な表現になっています。

今年は既にMitskiやティアーズ・フォー・フィアーズが秀逸なポップスを聴かせてくれていますけど、そこと並べたってなんら遜色ない1枚が出てきてくれたなという印象です。このブログにどれだけポップス好きが足を運んでくれているかわからないですけど、そういう人には漏れなくリーチしそうな作品です。

“How Is It That I Should Look At The Stars”/The Weather Station

The Weather Station – Marsh (Official Visualizer)

The Weather Stationによる、昨年多くのメディアで年間ベストにも取り上げられた傑作“Ignorance”と対になるアルバム、“How Is It That I Should Look At The Stars”です。

なるほど確かに”Ignorance”とは対の作品ですね。ガッチリとしたビートを元に、ホーン・セクションなんかも効果的に導入してインディー的に表現した前作と異なり、本作にはまったくドラムが登場しませんから。ピアノを軸に、とにかく嫋やかでソフトなサウンドです。

カナダでフォーク、それでいて女性アーティストで通底したソフトさとなると、やはり想起するのがジョニ・ミッチェル本作は彼女のレガシーと地続きに考えてもまったく違和感がありません。あの大名盤『ブルー』と比較したって言い過ぎではありませんからね。

相変わらずタマラ・リンデマンの歌声も素晴らしくてね。ただ、ここでもアプローチが前作とは違っていて。比較的ドラマチックで、女優としての彼女のキャリアを窺わせる瞬間もあった前作とは対照的に、ここではよりフォーク・シンガーとして朴実な歌唱が目立つというか。

ただ、控えめかつ効果的なホーンの色気だったり、あるいは濃厚な陰影による美の表現だったり、そういう部分では前作との連続性もあって、The Weather Stationというアーティストの通奏低音を感じ取ることもできます。何故かレビューの点数は低いんですけど、十分先週のハイライトたる1枚だったと私個人としては思いますね。

“In The Sun In The Rain”/Fieh

Fieh – Telephone Girl (Official Music Video)

ノルウェーのインディー・ポップ・グループ、Fieh“In The Sun In The Rain”です。Twitterでたまたま見かけて聴いたんですけど、これはいい偶然に恵まれました。

すごく都会的で洗練された、それでいてインディー的な鋭さのあるポップスじゃないでしょうか。シンセサイザーでデコレーションされたサウンドとメロディには幻想的な表情もあるんですけど、そういうインディー・ポップにありがちな浮世離れした世界観に終始しないんです。

というのも、リズムがすごくいいセンスしてるんです。ファンキーさがメインではあるんですけど、曲によってはのっぺりとしたビートだってあるし、楽曲が大きく膨らむとそれにあわせてフレーズも広がりを見せていく。作品の屋台骨として、ちょうどいい塩梅の存在感を発揮していて。

ネオ・ソウル的に、それこそハイエイタス・コヨーテなんかと比較することも可能でしょうけど、そこに加えてジャズの要素も見逃せませんね。このグループ、地元のジャズ・シーンでも注目されているみたいですけど、いわゆる「引き算の美学」に根付いたサウンドの構築が素晴らしい。

そういう精密さのある作品なんですけど、小難しさはないのも不思議でね。北欧の音楽となると真っ先に連想するスウェーディッシュ・ポップス、あそこまで人懐っこくはないんですけど、ある種北欧のポップスの伝統を現代的にソフィスティケートした作品と言ってしまってもいい気がしています。

“Reason To Smile”/Kojey Radical

Reason to Smile (feat. Tiana Major9)

いやあ、今年はヒップホップが豊作じゃないですか?それともスーパーボウルに私が感化されているだけでしょうか。何はともあれ、Kojey Radical“Reason To Smile”です。

紛れもなくヒップホップではあるんですけど、個人的に本作はソウル的に解釈している作品です。Kojey Radicalの重心の低い迫力抜群のラップもクールなんですけど、それ以上にベースラインが実に秀逸で。オープニングのタイトル・トラックなんて客演のTiana Major9の歌唱もあって実にセクシー。

マイルドな質感のヒップホップが個人的には好みんですけど(それこそ前回紹介したConway The Machineなんかもそういうタイプです)、ラップそのものは結構ハードなんですよね。でもそこにトラックの繊細さが乗っかることで私好みなバランスになってくれていて。

これまでにこのシリーズで紹介したラップ・アルバムはどれもシックな表現が持ち味でしたけど、このアルバムに関しては結構オルタナティヴな感覚もあって。というより振れ幅が面白いんですよね。”War Outside”辺りは現代的な尖りも感じられて、でもその上でグルーヴ感はソウルで聴いても楽しめるという。

52分という個人的にアルバムとして咀嚼するにはギリッギリのサイズ感ではあるんですけど、前提としてのソウル的魅力と手を替え品を替え提供される質感の豊かさでうまいこと誤魔化されました。如何にもマッチョなラップとしなやかなサウンドの妙を楽しんでいただける1枚ではないでしょうか。

まとめ

さあ、先週のリリースからの5枚のチョイスはこんな感じで。今回はいつも以上に私の好みが強く出ていますね。

先々週も凄かったですけど、今週の特にここに挙げた5枚はもう堪んないですね。個人的に「いい音楽」に求めたいものをそれぞれ分担して聴かせてくれている、そう言いたくなるくらいです。

そういう意味で、私のTwitterでも特にオルタナ系統を好まれる方々が絶賛していたNilüfer Yanyaの”PAINLESS”は選外なんですよ。いいアルバムだなとは思いますけど、やっぱり私の軸足って80’s以前にあるので。

温故知新の逆ですよね、新しいものに触れる中で自分にとってのルーツや本質的な部分が見えてくる。なんか企画の最終回みたいなまとめ方しちゃいましたけど、それくらい重要なリリースが多かった1週間でした。

こうなるといきおい今日のリリースはハードル上がりますよ。願わくばこのテンションが持続することを祈って、今回のところはこの辺でお暇します。

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