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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.22

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連載再開する気満々だったのに、気がつけば3週間ぶりになってしまいました。「オススメ新譜5選」、やっていきます。

いえね、この2〜3週間、新譜はそれなりに聴いてはいましたよ。Björkは相変わらずエクスペリメンタルでスピリチュアルだったし、Alvvaysの瑞々しいポップネスにも感動させられました。ただ諸々の準備があって、ちょっと記事にまとめるには時間と余裕が足りず。

その辺りは年末の年間ベストで振り返れたらいいなと思うんですが、ひとまず振り落とされないように最新リリースのチェックからやっていきましょう。

“Being Funny In A Foreign Language”/The 1975

The 1975 – Happiness (Official Video)

……まあ、これについて語らない訳にはいきませんね。SUMMER SONIC 2022ではヘッドライナーを務めたことも記憶に新しい、The 1975待望のニュー・アルバム“Being Funny In A Foreign Language”

白状すると、個人的に日本国内でのThe 1975への激賞はちょっぴり乗り切れていなかったんですよ。確かにいいバンドだと思うし、最高傑作とされる『ネット上の人間関係についての簡単な調査』なんて10’sロックでは指折りの名盤だとも。ただ「アルバム」というフォーマットが不得手なバンドという認識もあってね。いかんせんアルバムが長くなりがちで、その結果作品としてのまとまりにはやや欠けるのかなと。

ところがどっこい、今作はもうピッチピチにまとまってるじゃないですか!44分という、ロック・レコードとしてはベストなサイズ感。それで音楽としての広がりが失われると元も子もないんですが、なんなら音像のスケールは過去最高値を更新してますよ。

Bon Iverのようなインディー・フォークへの接近もありつつ、しっかり80‘sのソフィスティ・ポップへの憧憬は残っていて、そこにフィル・スペクター的な壮麗さから“The Joshua Tree”にも似た広大さまで乗っかってる。この緻密なサウンドヴィジョン、当然バンドの底力もあるでしょうけもプロデューサーのJ・アントノフの貢献でもあるでしょうね。

それでいてメロディ・ワークもまったく隙がない。弾けるようなキャッチーさから、心の奥に寄り添う親密さ、それにアンセム的なパワフルさ。「ポップ」と一口に言ってしまうのが惜しくなるくらい、そのメロディの領域が広いんです。それもあって、アルバムとしてパリッとまとまっていながら個々の楽曲のアピールがすごく強い。「名曲集」的なインスタントな魅力まで兼ね備えていやがるんです。

リリース前からのとてつもない盛り上がりと注目に、私としては若干斜に構えていた節もあったんですけどね。こんな強力な名盤聴かせられると、ちょっと恥ずかしくなります。間違いなく年間ベスト行きは必至、それもかなりな上位に居座る予感がしてますね。

“Here Is Everything”/The Big Moon

The Big Moon – Wide Eyes

で、The 1975に我々が浮かれている間にも面白いリリースがいくつもありまして。その中で一番ピンときたのがコレ、The Big Moon“Here Is Everything”です。

イギリスのインディー・ガールズ・バンドなんですけど、UKインディーと聞いて連想されるサウンドの質感としては、The 1975以上にしっくりくるものがあります。あっちはやっぱりド級のスケールとポップネスを兼ね備えた普遍的ロック・アルバムでしたけど、この作品から感じる「UKっぽさ」も実にいい。

それこそUKインディーとなるとThe Smithsですけど、そこにも繋がってくる印象があるんです。ポップではあるんだけどウェッティでもあって、それにビートやギターのアプローチでしっかり彩色する構築っぷりにしても。ボーカルのJuliett Jacksonの歌声が絶妙に内向的なのも「らしい」じゃないですか。

でも、決してダウナーなアルバムでもないんですよね。むしろスッキリとした美しさがあります。思うに、サウンドの重心がしっかりしているんですよ。ストリングスだったり、さっきも触れたビートやギターの仕事が華やかではあるんですけど、じっくりと広がる腰の据わった感覚が軸になっている。だから全体としてまとまって聴こえるし、聴き味として爽快なんでしょう。

インディー・ロックとなるとすごく現代的なイメージもあるでしょうけど、このアルバムに関しては鳴っている音がすごく有機的なのでロック・クラシック的にも楽しめます。そこもいいんですよ。これぞUKロック、そう思える真っ当な名作です。

“iay !”/Lucrecia Dalt

Lucrecia Dalt – No tiempo [Official Video]

これ、リリースまでまったく意識してなかったアルバムなんですが結構各所でベタ褒めだったので聴いてしまいました。拾えてよかった1枚ですね、Lucrecia Dalt“iay !”です。

なんでしょう、この唯一無二の心地よさエレクトロ・ラウンジと言われればそんな風にも聴こえるし、ラテン・ジャズの要素だってはっきりと感じ取れる。ただ、それにしてはエキゾチックが過ぎるし、同時にヨーロピアンな気品も濃厚に漂っていて……ものすごく複雑な作品なんですけど、全てが混ざり合って美しく成立しています。

パーカッシヴなリズムだったり、木管楽器やストリングスの音色だったり、この辺りはまるっきり民族音楽的です。より明確に表現すると、ラテン的でトロピカルな色彩がある。全体として奇妙にも空疎なサウンドヴィジョンなので、その異物感がいやにハッキリと目立っているんですよ。

ただ、そのラテンやトロピカルという語彙が包含する陽気さはこれっぽっちもない。むしろ極めて陰惨で、底知れぬ不吉さを纏ったアルバムでして。またタチの悪いことに、その不吉さには気味の悪い訴求力があるんです。片時も耳を離せない、魔力のようなものを感じさせる1枚でね。

何かをしでかしているのは明白なんですけど、その実験精神の旺盛さゆえに全容はまったく見えてきません。ここまで深遠な作品、ちょっと今年のリリースには見当たらないくらいで。ただ、間違いなく美しい傑作なんですよね。是非皆さんにも頭を抱えてもらえれば。

“Maladaptive Daydreaming”/sonhos tomam conta

corpos gelados, manhãs de sol

お次はシューゲイズ・シーンから。5月のリリースだったんですけど結構ぶっ飛んだので無理矢理紹介しますね。ブラジルはサンパウロで活動する宅録シューゲイズ・アーティスト、sonhos tomam conta“Maladaptive Daydreaming”

このアーティスト、昨年ParannoulAsian Glowとコラボレート・アルバムを発表しているのでご存知な方も多いでしょうか。なにせParannoulは去年のリリース群で台風の目に近い存在でしたからね。ただ、このアルバムを聴けばsonhos〜だって全く侮れないのがよくわかります。

轟音に呑まれながら表現される神秘性、こう言うとすごく素直なシューゲイズに思えますけど、その轟音が素晴らしい。ギターだけでなく、シークエンス音からリズムに至るまで、もう何もかもがしっちゃかめっちゃかに暴れています。特にドラムですね、すごく金属的な硬さがあって、それが爆発してる訳ですから破壊力が抜群で。

でも聴いていてまったく不愉快にならない、しっかりと美しさを保った作品なのがお見事です。特に私はほうぼうで主張しているようにメタルが苦手なもんで、あんまりガチャガチャされると煩わしくもなるんですが。あくまで美麗なアルバムなので、その壊滅的な爆音ですら舞台装置として機能している。

そうそう、日本人としては唐突にアニメのサンプリングが入るのもニヤリとしますね。作品名まではわからないんですが……まあそれは余談だとして、去年Parannoulに打ちのめされた方であればこちらもチェックして損はないと思いますよ。

sonhos tomam contaの「Maladaptive Daydreaming」をApple Musicで
アルバム・2022年・9曲

“Quiet The Room”/Skullcrusher

Skullcrusher – Whatever Fits Together (Official Video)

最後にご紹介するのがこちら。リリース前から注目する声はちらほらと聞こえていましたね、Skullcrusherの1st“Quiet The Room”です。

女性インディー・フォーク……もう一体何回この語彙を本シリーズで持ち出したか分かったもんじゃないですが、でもそのカテゴリに入る作品ではありますね。共同プロデューサーにBig ThiefBon Iverとの仕事でも知られるAndrew Sarloを迎えたとあって、そのサウンドスケープは実に静謐で清らか。

ただ、そこにアンビエント/エレクトロニカ的な質感が強く感じられるのが本作の魅力でしょうかね。フォークって結局は肉体性の音楽だと思いますし、実際アコースティック・ギターを主体としてはいるんですけど、意匠としての曖昧さや無機性があることで幻想的に楽しめる。

その中に、ある種の瑞々しさみたいなものも感じ取れるのがまた面白い。これは彼女の歌声が貢献していると思うんですけど、すごく女の子っぽい細い歌唱なんですよね。それが実に人間的なリアリティがあって、さっき書いた幻想性の部分をあくまで脇役にしてしまえる。きっちりフォークとして聴かせるだけの筋の通った作品に仕上がっているような気がします。

ぶっちゃけ女性インディー・フォークもそろそろ食傷気味というか、好きなカテゴリではあるんですけど供給過多なきらいもあるんですがね。でもちゃんといい作品は拾っていきたいし、このアルバムはそうするに足る1枚だと思います。まだ1stですから、今後に期待も持てますしね。

まとめ

とまあ、今回はこんな感じで。結構話題作やビッグネームのリリースもあったんですけどね。いつまで経ってもレッチリは私の中でしっくりこないことが今週も判明しました。

さて、結構このポスト駆け足で書いてるんですけども。というのも、明日以降に引っ張っちゃうと話題性が霞むんです。なにしろArctic MonkeysとTaylor Swiftの新譜が明日に控えていますからね。

書いてる今からこっち、このビッグ・リリースが楽しみでなりません。来週のこの企画でどう取り上げるか、あるいは取り上げられるのか、そこんところもワクワクしてます。それでは、今回はこの辺りで。

コメント

  1. 匿名 より:

    Maladaptive Daydreamingのサンプリングは、serial experiments lainからのサンプリングですね。カルト的な人気があるアニメです。
    ジャケットもlainですね。

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