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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.18

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前回大遅刻したのでもうコレを更新するのかって感じなんですが、木曜日ですんでね。「オススメ新譜5選」、やっていきます。

この企画立ち上げてからこっち、「2022年は豊作だ」って話を何度も何度もしてきました。でもあらためて言わせてください。2022年、おかしいですって。先週でハッキリしました。

もうね、ここまで密度が高いとこっちも追いかけるの大変なんですよ。特に先週は年間でも目玉級のリリースが2つに、その他もしっかり名作揃い。コレは困った。

そこから5枚を拾い上げていく訳なので、正直今回はかなりベタなチョイスになっちゃいますけどご勘弁を。ひとまず、見ていきましょうか。

“Mr. Morale & The Big Steppers”/Kendrick Lamar

Kendrick Lamar – N95

はい、コレはもうどうしたって真っ先に紹介しないとダメですね。ケンドリック・ラマーの実に1855日ぶりの帰還となったアルバム、“Mr. Morale & The Big Steppers”です。

音楽ファンから各種批評媒体から、もう誰も彼もこの作品につきまとわれた1週間だったんじゃないでしょうか。かくいう私もその1人なんですけど、やっぱりケンドリック・ラマーってシーンの中で存在感が図抜けてしまってますね。昨年のカニエ・ウエストですらこうはならなかった訳ですから。

作品の内容に関しては個別でのディスク・レビューを予定しているのでそっちに譲りたいとは思うんですけど、個人的には彼のカタログの中で“To Pimp A Butterfly”の次につける1枚じゃないかと思っています。すごく厳粛で、いわゆる「名盤のオーラ」ってやつをここまでビシビシと放っている作品、現代でそうないですよ。

そもそもが、「ケンドリック・ラマーが新作を出す」ってだけで一大事じゃないですか。しかも比較対象は最低でも“DAMN”で、当然“good kid, m.A.A.d city”“TPAB”とも比べられてしまう。そのハードルに応えるのって限りなく無理難題なはずなんですけど、今回は「ちゃんと傑作出してきたな」ってな安心感畏怖を彼に抱いてしまいました。

是非本作は普段ヒップホップを聴かないという方にもオススメしたいですね。間違いなく年間ベストで常連になる、2022年を代表する1枚という意味でもですし、ソウル的に触れてもしっかり楽しめる作品に仕上がっていると思うので。コレを見逃すのは音楽ファンとして本当にもったいないですよ。

“A Light For Attracting Attention”/The Smile

The Smile – Free in the Knowledge (Official Video)

レディオヘッドトム・ヨークジョニー・グリーンウッド、そしてUKジャズを中心に多彩な活動を見せるドラマーのトム・スキニーによるユニット、The Smileの1stアルバム“A Light For Attracting Attention”です。

本作の必然性というか、「コレはレディへじゃダメだったのか?」という部分で割と賛否両論ありましたが、私としては大満足の1枚でしたよ。もちろん多分にレディオヘッド的ではあるんですけど、でも「コレ聴くならレディオヘッドでいいや」とは少なくともならないです。

レディオヘッドとThe Smileを差別化する最大の要因は、そのリズムのアプローチ。レディオヘッドは“Kid A”トリップホップエレクトロニカの無機的なビートを獲得して以降、冷淡さにどうやって肉感的な筆致を加えるかというのが命題になっていると思うんです。ただThe Smileでは、やはりトム・スキニーという熟達のドラマーの参加によって前提となるビートが既に人間的なんですよ。

そうなってくると、「ロック」な印象も強くなるんですよね。レディオヘッドが提示する「コレもロックだ」ではなく、「うん、コレはロック」と納得できてしまうフレンドリーさというか。当然、トム・ヨークの神経質で霊的な表現、そしてジョニー・グリーンウッドのサウンドメイカーとしての指向はそのままに。

そりゃ、「じゃあその新しいモードをレディオヘッドでやってくれ」という気持ちは痛いほどわかります。ただ、このラインナップとこのスタイルでないと描けない景色だったからこその作品と理解する方が作品に素直に向かい合える気もするんですよね。それに単純に音楽として素晴らしい、それは事実ですから。

“This Is A Photograph”/Kevin Morby

Kevin Morby – A Random Act Of Kindness (Official Video)

ラマーにThe Smileとくれば、次は話題性からいってFlorence and The Machineかなとも思うんですけど、作品の内容ならこのKevin Morby“This Is A Photograph”です。

一言で表現するならばハートランド・ロックになるんでしょうね、アメリカ大陸のおおらかさとそこはかとない荒凉とした佇まいを描いた、実に懐の深い1枚という印象です。本作の着想は彼の家族への回想に始まっているみたいなんですけど、それをしっかりと普遍的に仕立てていますね。

個人的にハッとさせられたのがMorbyの歌唱の部分なんですよ。線が細くて、寂しげな男の肖像といった表情なんですけど、ある瞬間に浮かび上がる鼻にかかった独特の質感がまるでボブ・ディランのようで。

その上でサウンド・プロダクションもよく練られているんですね。ストリングスやブラス、それにピアノを導入した徹底的に嫋やかな方向性の楽曲もあれば、ひょっとするとスワンプ・ロックなの?ってくらい無骨でタフなロックの表情もある。それらすべてが、「アメリカ的」という統一感で堪能できます。

名前の挙がったボブ・ディランであったり、あるいはハートランド・ロックの大御所たるブルース・スプリングスティーントム・ペティ、そういうアメリカン・ロックにピンとくる人は必聴の1枚じゃないでしょうか。心地よい古き良きロック・アルバムとしては、今年でも有数の出来栄えだと思いますよ。

“Dance Fever”/Florence & The Machine

Florence + The Machine – King

で、当然この作品も紹介する訳です。Florence & The Machine“Dance Fever”ですね。

ホントにツイてないアルバムだと思いますよ、ラマーとThe Smileにぶつかってしまったせいで、全然話題になっていない感があります。もっと普通の週にリリースしてればその1週間の目玉確定だったのにね。それは彼女のこれまでの評価でもそうだし、本作のクオリティを考えてもね。

ゴージャスなサウンドを纏って、気品ある存在感を放つFlorence Welch。その彼女の存在感を軸にしたスタイルが常ではありますけど、この作品に関してはその纏っているサウンドが実に素晴らしい。絢爛豪華な宮殿を想起させる堅牢さです。Glass AnimalsDave Bayleyがプロデュースで参加しているのも本作の注目トピックですけど、やはりサウンド・メイキングに相当な実りを感じさせます。

で、それにFlorence Welchが負けてないんですよ。むしろこの圧巻のサウンドを見事に着こなし、より彼女自身の風格を大きなものとして演出している。軸がブレることなくスケール・アップしているんです。この力の入りよう、キャリアの中でもトップ・クラスじゃないかな。

私含め、今週はずっとケンドリック・ラマー聴いてるみたいな人もいっぱいいると思うんです。ただ、あのアルバムとにかく難しいじゃないですか。なのでちょっと箸休めに、この不遇の注目作を聴いてみてくださいよ。箸休めにはちょっとハイ・カロリーですけど。

“Preacher’s Daughter”/Ethel Cain

Hard Times (Official Visualizer) – Ethel Cain

最後の1枠はかなり悩んだんですけど、順当に評価の高いところから選んでおきましょう。Ethel Cain“Preacher’s Daughter”ですね。これまでも2枚アルバムは出してるんですけど、どちらも30分ほどのコンパクトな作品だったので、フル・レングスとしてはコレが初かな?

まあ、コレは実に私好みの1枚ですよ。「バロック・ゴシック・オルタナティヴ」とでも呼称してみましょうか。バロック音楽的な荘厳さのもとでゴシックな陰影が終始表現され、しかしそこにはクラシカルな響きはなく、むしろオルタナティヴ/インディーに通ずるトゲがあってね。

アルバムとしては1時間超えの超大作なんですけど、艶やかな緊張感とでも表現すべき特有のムードと気品がトータリティを生み出しています。流石にプログレとまでは言わないですけど、際立ったキラー・チューンがなく、作品としての貫禄で聴かせる手法は古き良き名盤の佇まいですから。

しかもそれでいてポップなんだなこのアルバム。サウンドだったり、彼女のヴォーカルだったりはむしろ幻想的である種の距離感を覚える(この距離感というのも優れた音楽の特質ではありますけどね)類のものなんですけど、そのメロディによくよく耳を傾けると、全く肩肘張らないナチュラルな美しさがあって。

荘厳でポップって、それこそ『ペット・サウンズ』『危機』のような個人的音楽体験における最高傑作群に共通する表現なんですよ。決してそれらと本作を同列に語るつもりもありませんし、そこまでの評価をしているとは流石に言えませんけど、でも私にとってのツボをむやみやたらにおさえた作品です。

まとめ

ハイ、今回はこんなチョイスでどうでしょう?ぶっちゃけ、まだ私でも聴き漏らした作品がありそうでちょっと怖いんですけど。というかまだtofubeatsの新譜聴けてませんし。

いや、もうとにかくケンドリック・ラマーに時間を取られていまして。ちょっと前まで”To Pimp A Butterfly”について書き散らかしていた手前、もう2ヶ月くらい彼が生活の中心になっちゃってます。

“Mr. Morale & The Big Steppers”含め、個別レビューしたい作品がいくつかあるんですけど、でも明日も結構楽しみな作品あるんだよなぁ……鬼が出るか蛇が出るかという感じで、明日のリリースを楽しみにしておこうと思います。それではまた次回。

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