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“To Pimp A Butterfly”全訳解説 M.11 “How Much A Dollar Cost”

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今回もやっていきましょう、“To Pimp A Butterfly”全訳解説。バックナンバーは↓からどうぞ。

来るべきXデー、5/13に間に合うようにブーストをかけていかないといけませんね。今回挑戦していくのは“How Much A Dollar Cost”。この楽曲のリリック、これまでに見てきた内容とはちょっとテイストが違っていまして。

どういうことかというと、物語の体裁を取っているんですよ。ストーリーがあって、なんならオチまである。そういうスタイルもあって、リリックの内容はかなり取りやすいんじゃないかな。早速見ていきましょう。

“How Much A Dollar Cost”全訳

How Much A Dollar Cost

How much a dollar really cost ?

The question is detrimental, paralyzin’ my thoughts

1ドルの価値ってのは実際にはどれくらいなんだろうな

そんな質問はろくなもんじゃない 思考を鈍らせるからな

Parasites in my stomach keep me with a good feeling, y’all

Gotta see how I’m chillin’ once I park this luxury car

金ってのは腹の中に寄生して 俺をずっと最高の気分にさせてくれる

高級車をはべらせるだけで 見てみろよ 俺がどんなにゾクゾクするか

Hopping out feeling big as Mutombo

20 on pimp six dirty Marcellus called me Dumbo

20 years ago, can’t forget

金があれば 俺はまるでムトンボになったみたいにビッグな気分になれるのさ

6番のガソリンを20ドル分 薄汚いマルケルスは俺のことをダンボって呼んでたよな 俺の耳がデカイから

20年前のことさ 忘れもしない

Now I can lend all my eat or two how to stack these residuals

Tenfold, the liberal concept of what men’ll do

今じゃ俺はその耳をいくつでもくれてやれるぜ 残りはいくらでも並んでるからな

10倍なんてもんじゃない 何をするかってことを自由な発想で考えるのさ

20 on 6, he didn’t hear me

Indigenous African only spoke Zulu

My American tongue was slurry

6番のガソリンに20ドルを 彼には聞こえなかったか

生粋のアフリカ生まれはズールーしか話さないから

アメリカ人の俺にはズールーなんてちゃんと話せないのさ

Walked out the gas station

A homeless man with a silly tan complexion

話にならないからガソリンスタンドを出て行った

するとそこには日に焼けて変な肌になってるホームレスの男が1人

Asked me for ten rand Stressin’ about dry land

Deep water, powder blue skies that crack open

A piece of crack that he wanted, I knew he was smokin’

そいつが俺に言ってきた「1ドル恵んでくれないか 土地が痩せてどうにもならない」

そいつが欲しいのは金じゃなくてクラック・コカインだろ ヤクをヤってることくらい見りゃわかる

He begged and pleaded

Asked me to feed him twice, I didn’t believe it

そいつは随分しつこく頼んできた

恵んでくれって2回も言ってきたんだぜ でも俺はそんな言葉信じない

Told him, “Beat it”

Contributin’ money just for his pipe, I couldn’t see it

言ってやったよ「失せろ」ってな

ヤクをやるための金を恵んでやるだって?あり得ない

He said, “My son, temptation is one thing that I’ve defeated

Listen to me, I want a single bill from you

Nothin’ less, nothin’ more”

「なあ ドラッグの誘惑なんてものには俺は打ち勝ったんだ

聞いてくれよ 俺が欲しいのはたったの1ドル

それ以上でもそれ以下でもないんだ 頼むよ」

I told him I ain’t have it and closed my door

Tell me how much a dollar cost

「手持ちがない」俺はそう答えて会話を打ち切った

教えてくれよ 1ドルの価値ってのはどれくらいなんだろうな

It’s more to feed your mind

Water, sun and love, the one you love

All you need, the air you breathe

汝の心を満たすにはまだ足りぬ

水 太陽 愛する者からの愛

必要なものは 汝が吸う空気だけなのだ

He’s starin’ at me in disbelief

My temper is buildin’, he’s starin’ at me, I grab my key

あの物乞いときたら 俺の方を訝しげにじっと見てやがる

イライラするぜ まだ見てくるのかよ 俺は車のキーを取った

He’s starin’ at me, I started my car and tried to leave

And somethin’ told me to keep it in park until I could see

まだ見てるぜ エンジンをかけて立ち去ろうとしたその時さ

まだここに留まるべきな気がしたんだ

A reason why he was mad at a stranger like I was supposed to save him

Like I’m the reason he’s homeless and askin’ me for a favor

どうして奴は 俺みたいな他所者に お前が俺を助けてくれるはずじゃないのかって怒ってるのか

お前のせいで俺はホームレスになって こんな物乞いをする羽目になってるんだとでも言いたげに

その理由がわかるまでは留まるべきな気がするんだ

He’s starin’ at me, at his eyes followed me with no laser

He’s starin’ at me, I notice that his stare is contagious

あいつはまだこっちを見てる 虚ろな目でな

まだ見てやがる あの生気のない目が俺にも感染るんじゃないかってくらいに

Cause now I’m starin’ back at him, feelin’ some type of disrespect

If I could throw a bat at him, it’d be aimin’ at his neck

だからこうして奴を睨み返してる ある種の軽蔑を込めた視線でな

もし奴にバットを投げていいなら 迷うことなく首を狙ってたぜ

I never understood someone beggin’ for goods

Askin’ for handouts, takin’ it if they could

物乞いの気持ちなんて俺には一生分かりやしない

何を持ってるか尋ねて よろしければそれを恵んでくれませんかなんて

And this particular person just had it down pat

Starin’ at me for the longest until he finally asked

それに 特にこういう奴に限って物乞いのなんたるかを熟知してやがる

奴はずっとこっちを睨んでたが とうとう口を開いた

Have you ever opened to Exodus 14 ?

A humble man is all that we ever need

Tell me how much a dollar cost

「出エジプト記の14章を読んだことはあるかね?モーセが海を割る まさにあの場面だが

モーセのように慎ましやかな人物こそ 我々にとって必要な存在なんだ」

教えてくれ 1ドルの価値ってのはどれくらいなんだ

It’s more to feed your mind

Water, sun and love, the one you love

All you need, the air you breathe

汝の心を満たすにはまだ足りぬ

水 太陽 愛する者からの愛

必要なものは 汝が吸う空気だけなのだ

Guilt trippin’ and feelin’ resentment

I never met a transient that demanded attention

罪悪感が襲ってきて 腹が立ってきた

人目を気にしないホームレスなんて会ったことがない

They got me frustrated, indecisive and power trippin’

Sour emotions got me lookin’ at the universe different

イライラするし 判断力を鈍らせるし 尊大な気分にもさせられる

この嫌な感覚が 俺に全く新しいものの見方を与えてくれた

I should distance myself, I should keep it relentless

My selfishness is what got me here, who the fuck I’m kiddin’ ?

So I’ma tell you like I told the last bum

このホームレスと関わるべきじゃなかった あしらい続けるべきだったんだ

俺がここにいるのは俺の勝手さ 誰かにバカにされるようなことじゃない

どうしようもないあの物乞い野郎に言ったことを もういっぺん言ってやる

crumbs and pennies, I need all of mines, and I recognize this type of panhandlin’ all the time

I got better judgement, I know when nigga’s hustlin’

Keep in mind, when I was strugglin’, I did compromise

どんな小銭だって そいつは俺のもん それにこういう物乞いのことだってよくわかってんだ

俺は正しいことをした 奴らが頑張ってた時のことも知ってる

辛い時だって心を強く持ってた 妥協だってしたさ

Now I comprehend, I smell grandpa’s old medicine

Reekin’ from your skin, moonshine and gin

Nigga your babblin’, your words ain’t flatterin’

今わかったぜ お前から古い酒の匂いがする

お前酒臭いぜ 密造ウィスキーとジンでも飲んだんだろ

お前は酔っ払ってんだ そんな奴の言葉なんてお世辞にもなりやしない

I’m imaginin’ Denzel be lookin’ at O’Neal

Cause now I’m in sad thrills, your gimmick is mediocre, the jig is up

『ラスト・ゲーム』でシャキール・オニールを見てる時のデンゼルはこんな気分なのかもな

悲痛でゾクゾクするような気分さ 俺が今感じてるような奴 お前のやり口はありきたり 万事休すだな

I seen you from a mile away losin’ focus

And I’m insensitive, and I lack empathy

1マイル先から見てたぜ お前がラリってるのをな

俺は非情な人間だ 同情なんてしない

He looked at me and said, “Your potential is bittersweet”

I looked at him and said, “Every nickel is mines to keep”

そのホームレスは俺を見ながらこう言った「お前の可能性って奴はいいやら悪いやらだ」

俺は目をそらさずに言い返した「5セントすら俺のもんだ くれてやる気はない」

He looked at me and said, “Know the truth, it’ll set you free

You’re lookin’ at the Messiah, the son of Jehova, the higher power

The choir that spoke the word, the Holy spirit, the nerve of Nazareth,

奴は俺を見据えてこう返す「真実に目を向けろ お前を楽にしてくれるだろう

お前の目の前にいるのはメシア エホヴァの子 偉大なる存在

俺の言葉には精霊とキリストの意志が宿っている

and I’ll tell you just how much a dollar cost

The price of having a spot of Heaven, embrace your loss, I am God”

さあ お前に1ドルの価値を教えてやろう

1ドルにはお前が天国に行けるかどうかがかかっているんだ 過ちを悔い改めろ 俺は神だ」

I wash my hands, I said my grace, what more do you want from me ?

Tear of a clown, guess I’m not all what is meant to be

俺は手を洗い 神の恩寵を口にした これ以上何をお望みですか?

本心を包み隠してきた きっとこれはあるべき姿ではなかったんだ

Shades of grey will never change if I condone

Turn this page, help me change, so right my wrongs

もしこの行いを見過ごしてしまったら この僅かな違いは二度と埋まることがない

聖書をめくる どうか神よ 私が変わることを支えてください 過ちを正します

解説

前回の“Hood Politics”も主張している内容は取りやすかったですけど、今回も素直に理解できる部分が大きいかと思います。とはいえそこに込められたラマーの主張を理解するには様々な前提が必要ですから、ここからは解説を。

この楽曲の背景にあるのは、ラマーのアフリカ旅行での経験。語りそびれたのでここで補足しておくと、“Alright”のインスピレーションもこのアフリカ滞在にあったみたいですね。

アフリカン・アメリカンとして極めて自覚的なラマーですから、自身のルーツであるアフリカでの経験は大いに影響を与えたことでしょう。ただそれは、単にニグロ・アイコンとしての自意識だけでなく、やはりスターの苦悩や、宗教的な葛藤も滑り込んでくる。その辺りにフォーカスしていきましょう。

「1ドルの価値とは?」と問う、ラマーの不信

まず見ていきたいのが、タイトルにも掲げられ、楽曲の中で何度も提示されるラマーの質問「1ドルの価値ってのはどれくらいなんだろうな」。ここには色んな意味が混在していて。

1つに、スターとして巨万の富を得たからこそ直面する、カネの不毛さ。ビッグにはなったものの、彼の財産を目当てに「アンクル・サム」「ルーシー」といった存在が彼にすり寄ってきたことをラマーはこのアルバムで告発していますからね。

物質的には豊かになったけれど、そこに幸福はない。幸福をもたらさないなら、カネの価値ってのはどこにあるんだ?こういう主張です。

そこに加えて、この楽曲のリリックの中心となっているホームレスとの問答ですね。ラマーはこの物乞いに嫌悪感をはっきりと表していて、「もし奴にバットを投げていいなら 迷うことなく首を狙ってたぜ」とまで言っています。

物乞いの気持ちなんて分からないし分かりたくもない、そうまでして欲しがるこの1ドルの価値ってのはなんなんだ?とね。

さらに言うと、同時にラマーは自分の財産に誇りを持ってもいます。“For Free ?”で何度も繰り返された「俺のチンコはタダじゃない」というリリックには、自身の成功を男性器になぞらえ、その重みを強い言葉で主張する彼の自負が滲んでいましたよね。

実際この楽曲の中でも「どんな小銭だって そいつは俺のもん」と語っていますし、そこから続く一連のリリックは彼が如何にして成功を手に入れたかを物語っていますから。俺のカネは俺のものだし、ジャンキーのホームレスにくれてやるつもりはないと。

つまりこの「1ドルの価値ってのはどれくらいなんだろうな」という問いかけはラマーの自問自答でもあり、誇りを捨て物乞いに堕した男への批判の意味合いもあるのではないかと。俺が手に入れた成功を恵んでもらおうなんて、お前はその価値を本当に知っているのか?というニュアンスです。立場こそ違いますが、それこそ”For Free”にも出てきた彼の主張とリンクする部分ですね。

ラマーの抱える、宗教的な葛藤

さて、ここからは話題を変えて。何度も言及していますが、”To Pimp A Butterfly”はミクロとマクロのアルバムなんです。その詩情においてね。時に社会の暗部を貫き、誇り高きエンパワメントをしてみせる一方で、ケンドリック・ラマーという一人の人間の弱さをも語ってみせる、そういう作品。

その性質はこの楽曲でも出ていて、ここで明らかにされるのはラマーの宗教的葛藤です。

ケンドリック・ラマーという人物を知る上で宗教とは非常に重要なモチーフ。彼がコンプトンで生き抜いていけた大きな拠り所の1つは信仰ですし、彼のリリックには何度も信仰への言及は出てきます。

その上で”How Much A Dollar Cost”に立ち返れば、この楽曲の随所に宗教のテイストが発見されますね。分かりやすい部分であれば、ホームレスがラマーに尋ねたこの一節、「出エジプト記の14章を読んだことはあるかね?モーセが海を割る まさにあの場面だが」

和訳の段階で踏み込んで出エジプト記14章の内容も盛り込んでいますが、有名なモーセが海を割ってユダヤ人をエジプトから解放するあのシーンです。

続けて物乞いは「モーセのように慎ましやかな人物こそ 我々にとって必要な存在なんだ」と語ります。モーセのように苦しむ者を導く行いを、ラマーにも期待したい(要するに1ドル恵んでくれ)ということですね。

あるいは楽曲の中で突然サウンドの質感が変わり、神秘的なレイヤーが加わる瞬間があるでしょう?ここでの語り部は神そのものだと思うんです。「1ドルの価値ってのはどれくらいなんだろうな」という問いかけに、お前の渇きを満たすのは財産ではなく、空気や水、太陽、そして愛といった本質的に横たわるものであるという諭し。

ただ、ラマーは耳を傾けません。あるいはこの神の語りはモノローグのようなもので、ラマーには届いていないのかもしれませんが。

そして、物乞いとの問答はあまりに意外な結果を迎えます。「お前の目の前にいるのはメシア エホヴァの子 偉大なる存在」このホームレスは神だったのです。なんか日本の昔話みたいな展開ですよね。

そして神は、ラマーが再三問いかけていた疑問に答えます。「1ドルにはお前が天国に行けるかどうかがかかっているんだ」その1ドルを苦しむ者へ分け与えるか、猜疑心や嫌悪感から分け与えないか。それが天国への道を閉ざすかどうかを決定づける分水嶺であると。

巨大な成功を収めたことで芽生えた傲慢さや不信感が、知らず知らずのうちに神の国への道を閉ざしていた。宗教が大きな意味を持つ彼にとって、この事実はあまりに絶望的でしょうからね。そして最後に彼は神に罪を告白し、赦しを乞うのです……

なんて、寓話的な結末ではあるんですけど。あくまで事実ベースで考えると実際に起きた出来事はホームレスとの遭遇まででしょうね。ただ、そこでのやりとりが彼にとって「善とは何か、何に価値があるのか」という問い立てになったことまでは推察が可能です。

“These Walls”で彼は復讐の鬼となりながら、自身の行いを激しく悔やみます。そして“u”では、ラッパーとして成功した裏で誠実さを失っていたことで猛烈な自己嫌悪に陥っている。その文脈で考えるならば、苦悩に溺れる余り、彼は本質的な美徳を見失っていることに気づいたのでは?その告白として、”How Much A Dollar Cost”は機能していると私は考えています。

まとめ

さて、今回は”How Much A Dollar Cost”の全訳解説に挑戦しました。

トラウマ級のリリックだった”Momma”以来こっち、意味自体は取りやすい楽曲が続いていてかなり有り難いです。ただ、こっから先がなかなか不穏で。残り5曲というタイミングではあるんですけど、かなり骨の折れる楽曲が待ち構えています。

ただ、そうでなくてはこの企画の意味がない。その難解さに挑戦し、その真価を浮き彫りにすることこそが目的ですからね。ということで次回は”Complexion (A Zulu Love)”ですね。またいずれ。

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