30〜21位
第30位 “Helter Skelter”
「マッカートニーの卑怯なメロディ」シリーズなんてもの作っといて恐縮ですが、あの怪物はバラードだけじゃないんですよ。ビートルズで最も攻撃的なこのヘヴィ・ロックだって彼の作曲です。
もろクリームやジミヘンに影響を受けたバッキバキのロックなんですけど、ブルース・フィーリングは薄いというのが特徴的ですよね。ものすごくハードでヘヴィなんだけど、ZEPのようなハード・ロックに直接繋がるかというと少ししっくりこない。実はかなり独特なロック・ナンバーです。
この曲のベースはレノンが演奏しているんですが、このベース・プレイがまた堪らんのです。マッカートニーのご機嫌なラインとは違う、ものすごく直線的でアグレッシヴなプレイ。この曲のベースをもしマッカートニーが弾いていたら、もっとお気楽になっていたかもしれません。
第29位 “Here Comes The Sun”
『アビー・ロード』におけるジョージ・ハリスン会心のナンバーのうちの1曲。もう1つはもっと上に控えてますのでご安心を。
アコギ主体に軽やかで美しいメロディとなるとマッカートニーの独壇場かと思いきや、この晴れ晴れとした爽快感やスピリチュアルなブリッジの運び方はジョージ・ハリスンにしか出せない妙味です。つくづく『アビー・ロード』のハリスンはゾーンに入ってますね。
すごく正統派のポップスの中に、しっかりとインド音楽の要素を取り入れているのも彼の成長の証ですよね。それまでのインド楽曲はむせ返るほどエスニックですけど、ここまでスッキリと、それでいて温かな質感の中に潜ませることで深みを生み出すなんてとんでもないですから。
第28位 “Two Of Us”
アルバム『レット・イット・ビー』って実は相当名盤なんじゃないかと思っているんですが、その根拠としてこういうこじんまりした楽曲の存在があるんですよ。
レノン=マッカートニーがハモり続ける構成ってそれこそ初期以来で、「ゲット・バック・セッション」のコンセプトがあったからこそ実現したスタイルだと思うんですけど、やっぱり格別ですねこの2人のハーモニーは。しかもマッカートニーのメロディ・センスは円熟の域に到達している訳ですから。
マッカートニー曰く「僕とリンダの関係について歌った」らしいんですけど、露骨にレノンへのメッセージですよね。レノンはどんな気持ちでこの曲を歌ったんでしょうか……牧歌的なメロディとあいまって独特の切なさがあります。
第27位 “Baby’s In Black”
レノン=マッカートニーの黄金のようなハーモニーが楽しめる逸品ですね。私の大好きな『フォー・セール』の冒頭3曲がうちの1曲。
今までこの曲が大好きって人にあんまり出会ったことがないんですけど、私だけ違う世界線にいるんですかね?恐ろしくいい曲でしょコレ。マッカートニーの柔らかくもハリのある高音、そしてレノンの如何にも皮肉っぽく枯れた歌声、その相性の良さが最大限発揮されているんですから。
全編2人のハーモニーで展開する楽曲も考えてみれば結構珍しいですね。3声のコーラスなら他にもいくつか思いつきますけど。2人の天才シンガーの絆みたいなものすら感じられる最高のハーモニーです。
第26位 “Hey Jude”
ビートルズ最大のヒット曲で、御大のコンサートのフィナーレを飾り続ける大名曲『ヘイ・ジュード』。
この曲、個人的に『天国への階段』だったり『ホテル・カリフォルニア』みたいな「1曲完結型のロックの大作」のフォーマットを決定づけた楽曲だと思っていて。優しく語りかけるようなバラードから導入して、最後のコーラスのパートなんてパレードのような盛り上がりを演出してるでしょ?
その楽曲のテンションにこれ以上なく寄り添ったマッカートニーの歌唱も見事ですよね。甘い歌声からロック全開の絶叫まで、1曲の中でここまでの振れ幅を見せられるシンガーってかなり稀有ですよ。
第25位 “I Want To Hold Your Hand”
アメリカ征服を成し遂げた名曲、『抱きしめたい』。
ザ・ビートルズってどうしても「アーティスト」というか、革新の歴史に目を向けがちになってしまうんですよね。ただこの曲はもうそんなしちめんどくさいこと抜きに、最強のポップスだと思います。ややダークなミドル・エイトからいきなりポップにブチ抜ける展開なんてもう鳥肌もので。
レノン=マッカートニーのコーラスもバッチリですよね。このコーラス・ワークこそ、他の「ブリティッシュ・インヴェイジョン」のバンドとザ・ビートルズを分ける個性だと個人的には考えています。これがあるとないとではこの曲の親しみがグッと変わるように思いませんか?
第24位 “Tomorrow Never Knows”
ピッチフォークとかが選ぶとこの曲が最上位に来そうですよね。最高傑作『リボルバー』を締めくくる『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』。
レノン・ワールド全開の壮大なサイケデリック・ロックというと他にもいくつかありますけど、かの名盤『リボルバー』の終焉としてこれ以上ない楽曲です。当時の録音技術の粋を集めた極彩色のサイケデリックは、どこかモノトーンな印象もあるあのアルバムの中ではとてつもなく異質だというのに。
「チベットの高僧の大合唱」を意図したサウンドなんてロック史上この曲くらいでしょうね。本当にマジカルでスピリチュアルで、この世のものとは思えない美しさと幻惑に満ちた名曲です。
第23位 “Oh! Darling”
マッカートニーのソウル風味ロックでは間違いなくトップでしょうね、『オー!ダーリン』です。
とにかく歌声のパワフルさったらないですよ、正直なところヴォーカリストとしてはジョン・レノンの方が好きなんですけどこの曲は別格です。実際レノンも「あいつにセンスがあればこの曲は俺に歌わせたはずさ」なんて皮肉たっぷりにこの曲を褒めちぎってますからね。
みの氏が何かの動画で「1960年代後半のロックのブルースへの接近、パワフルなサウンドの追求についていけたのがポール」みたいな仮説を唱えていたんですが、この曲を聴くとさもありなんという感じです。ブルースではないけれど、とにかくエネルギッシュですからね。
無茶苦茶細かい話なんですけど、ブリッジに入る前のドラムが個人的に大好きなんですよね。こんな細かい6分のフレーズ、なかなかビートルズにはないですから。こういう繊細なプレイもこなすのが我らがリンゴ・スターです。流石ですね。
第22位 “While My Guitar Gently Weeps”
イントロのピアノの段階で名曲オーラをバシバシに感じます、いや全編通じて名曲なんですけどね。
こういう侘しさと美しさの入り混じった正統派ロック・バラードって、実はレノンにもマッカートニーにもないテクスチャなんですよね。ハリスンの思索的な性格が作用した結果なんじゃないかと見ています。
そして何よりこの曲の聴きどころはエリック・クラプトンの泣きのギターでしょう。ハリスンには弾けないから親友であるクラプトンに依頼した、そんなエピソードで有名ですけど、ハリスンにだって弾けると思うんです。彼は下手くそでもなんでもない訳ですから。
ただ、何せギター泣かせれば天下一品のクラプトンですからね。彼に頼んで大正解でしょう。実際この曲のギター・ソロってクラプトンのベスト・プレイの1つですし、ロック史有数の名ギター・ソロになっちゃってますから。
第21位 “Norwegian Wood”
『ノルウェーの森』も大好きな曲です。これより20曲も好きな曲あるとか信じられませんね。
シタールを導入したロック史における最初期の楽曲という重要性を一旦無視したとして、この曲のレノン節ったらないですよね。皮肉っぽい、人を食ったような歌声に枯れたメロディがもう極上です。
サイケでのぶっ壊れぶりだったり、愛と平和の使者としてのパブリック・イメージだってジョン・レノンの大事なキャラクターですけど、このどこまでも英国的なウィットに富んだセンスこそがジョン・レノンの真骨頂だと個人的には思っています。「ディラン期」の集大成としてこれ以上ない名曲。
20〜11位
第20位 “I’ve Just Seen A Face”
一時期「ビートルズで好きな曲何?」と聞かれたらこの曲を答えてました。邦題『夢の人』ですね。
「ポール・マッカートニーにアコギ持たせればとりあえず名曲ができる」という宇宙法則の最たる例だと思います。『イエスタデイ』ほど名曲名曲してないというか、肩の力が抜けた軽やかさがまたニクイですね。
2015年の来日公演でこの曲やってくれたのをよく覚えてますけど、あの時よくわからない鳥肌が立ったんですよね。目の前で鳴ってる意味がわからないほど素晴らしいメロディに打ちのめされていたのかもしれません。初めてのポール・マッカートニーのライヴでしたけど、一番のハイライトでしたね。
第19位 “Let It Be”
この曲を高い位置に置くのもなんだかニワカくさいですけど、どれだけ逆張ろうがこの曲がとんでもなく名曲なのは揺るぎようのない事実ですからね……
この曲、ポール・マッカートニー流のゴスペルだと思っているんですよ。”Mother Mary”は聖母マリアではなく彼の実母メアリーのことではあるんですけど、キリスト教圏に生きる彼がこのダブル・ミーニングを意識しないはずもありませんから。
もうザ・ビートルズは終わる。その事実に打ちのめされた彼がたどり着いた境地が”Let It Be”。どれほどの苦悩が彼にあったか凡人の私には知る由もないですが、徹底的に美しい楽曲の中に彼の諦念が沈んでいるように思えてなりません。
第18位 “Here, There And Everywhere”
アルバム『ペット・サウンズ』を人類史上の至宝とまで主張するこの私が、もろ『ペット・サウンズ』的なこの大名曲を嫌いなはずがありません。
ザ・ビートルズだって屈指のコーラス・グループな訳ですけど、この曲の荘厳で神秘的なハーモニーは完全にブライアン・ウィルソンの和声論から着想を得ていますね。ただそこに難解さを全く含ませず、いい意味でインスタントな名曲に仕立てちゃうのがポール・マッカートニーの化け物たる所以で。
レノンもマッカートニーもこの曲のクオリティには太鼓判を押してますが、この曲にケチをつけるというのは作曲した本人であってもかなり無理難題でしょうね。なにしろこの曲の美しさは不可侵な領域に到達してしまっていますから。
第17位 “Across The Universe”
これもジョン・レノン以外には生み得ない大名曲ですね。自他共に認める傑作、『アクロス・ザ・ユニヴァース』です。
あまり洋楽を聴く時に歌詞は気にしないタチなんですけど、この曲には意識しようがしまいが否応なしに言葉が頭の中に滑り込んでくる凄まじいパワーがあります。一旦メロディを脇に置いておいて、詩としてのエネルギーならばザ・ビートルズの最高傑作なんじゃないでしょうか。
で、脇に置いたメロディだって当然のことのように非凡で。アコギと歌だけというスタイルならばマッカートニーに軍配が上がるでしょうけど、まさしく宇宙的なエフェクトをたっぷりとかけることで哲学的な領域に楽曲を押し上げてしまっています。
第16位 “I Saw Her Standing There”
初めてアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』を聴いた時、この曲が始まった途端稲妻に打たれたような衝撃が走ったのを今でも覚えています。
いわゆる初期ビートルズの典型的なビート・ロックなんですけど、その中にあってもこの曲の疾走感とキャッチーさは突き抜けてしまってます。それによくよく聴くと、ベース・ラインが相当イカツイ。ポール・マッカートニーって人が弾いてるらしいですよ、よく知らないけど多分天才ですね。
1stの勢いがたまらなく好きな私にとって、その若々しさを決定づけるこの曲はすごく大事なナンバーです。御大も未だにライブのレパートリーにしているくらいですから、その完成度には自信があるんでしょう。そりゃそうだ。
第15位 “Help!”
この曲は知名度抜きにこういう位置にきちゃいますね。代表曲『ヘルプ!』がこの位置に。
とにかくこの曲はコーラス・ワークが素晴らしい。山びこのように主旋律をなぞるコーラスが穏やかながらに楽曲にとてつもない密度を与えていますよね。
演奏や楽曲の展開に目を向けても、イントロとヴァースを結ぶアルペジオだったり、3度目のヴァースでグッとテンションを落とす瞬間だったり、作り込まれ方が尋常でない。
この前知人に「今の時代にこんなの聴いて本当にいいと思ってるのか」なんて苦言を呈されましたが、私に言わせれば「今の時代にこそこれを聴いていいと思えないのか」ってなもんです。55年も経ってこれを超えるポップ・ロックはない訳ですからね。
第14位 “I’ve Got A Feeling”
この曲も破茶滅茶に好きなんですよね、直近の来日で演奏してくれてとても嬉しかったのを覚えています。
「ゲット・バック・セッション」で作られた曲とだけあって、ものすごくストレートなロックです。マッカートニーの歌声ももうロック・スター全開ですね。こういうソウルフルな歌唱、彼の才能としてしっかり認識されるべき部分です。
そして後半、レノンのパートが混ざって2つの曲が同時に進行するという離れ業がまた素晴らしい。2人の楽曲の融合はいくつか例がありますけど、この曲は無理やり感がなくて、本当に調和が取れていて。でも2人の心の距離みたいなものも滲んでしまって。
「ルーフ・トップ・コンサート」の音源とだけあって、サウンドがものすごくラフで生々しいのもいいんですよ。特にドラムとギターですね。テレキャスターの鋭い音がすごく肉感的じゃないですか?
第13位 “Don’t Let Me Down”
後期レノンの枯れ果てた美しさみたいなものの極致はこの曲だと思っています。ザ・ビートルズ最高のラヴ・ソング、『ドント・レット・ミー・ダウン』です。
こういう曲って、絶対にマッカートニーには書けないんですよ。彼の音楽って基本的に3人称ですから。ここまで赤裸々に「俺をがっかりさせないでくれ」と泣き叫んでみせることができる人間味に溢れたソウルは、ジョン・レノンの精神性無くしてあり得ません。
そのまま『ジョンの魂』につながるような、全人間的な叫び。このナイーヴで危うい姿こそ私にとってのジョン・レノンなんですよ。なぜここまでアイコニックな曲をアルバム『レット・イット・ビー』に入れなかったのか理解に苦しみます。
『ゲット・バック』のB面というのもすごく示唆的ですよね。レノンに対して「帰ってこい」と叫ぶマッカートニー、そしてヨーコに対して「俺をがっかりさせないでくれ」と訴えるレノン。同じ魂の叫びなんですけど、もう2人の向いている方向が決定的に違うことを暗示するかのようで。
第12位 “She Loves You”
初期シングルの中では1番好きですね。何しろテンションの高さがハンパじゃないですから。
のっけからいきなりサビで始まる展開は当時としては革新的らしいんですが、この曲はいきなりヴォルテージMAXじゃないとダメでしょうね。あの”Yeh! Yeh! Yeh!”のコーラスの頭空っぽ感が実に楽しいです。
この曲も初期シングルの御多分に洩れず常にレノン=マッカートニーがハモっている訳ですが、ポール・マッカートニーの高音ハーモニーってなんでこんなに気持ちいいんでしょうね?個人的なイチオシはアウトロの”Yeh! Yeh! Yeh!”に入る直前の”glad”、ここです。ここのとびきりノーテンキな高音がこの曲のテンションをものすごく象徴していますよね。
第11位 “I Am The Walrus”
初めて聴いた時の衝撃でいうと『レボリューション9』を超えてくるんじゃないでしょうか。ジョン・レノン屈指の怪曲、『アイ・アム・ザ・ウォーラス』です。
私は音楽理論に明るくないんですが、私の敬愛するみの氏曰くこの曲は「音楽理論的に破綻寸前のレベル」だそうです。まあ、素人の耳で聴く限りでも相当トんでるのは明らかなんですけど。
そこをどういう訳か、奇跡的にポップスに落とし込んでるのが信じがたい神業です。いや、この曲がポップかと聞かれると怪しい節もあるんですが……イかれてる曲なのにあり得ないくらいキャッチーじゃないですか。
サイケというジャンル自体私はものすごく好きですけど、楽曲単位で見るとこれかドアーズの『ジ・エンド』かってくらいには突き抜けてると思います。サイケ期のレノンの最高到達点ですね。
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