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5枚de入門!ジャズ編〜ジャズの帝王とその配下から挑戦する「世界一難解」なポピュラー音楽の世界〜

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このシリーズも4回目ですか。音楽ジャンル入門のための第1歩となる作品を5枚レコメンドしていくという企画です。バックナンバーはカテゴリ「5枚de入門」からどうぞ。

5枚de入門
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今回入門していくテーマはジャズ。ロックを筆頭としたポピュラー音楽より遥かに歴史が長く、どうにも難解なイメージがつきまとうジャンルですよね。

「ジャズなんて俺にはわからないから……」、そういってこのジャンルから遠ざかる人は何人もいると思います。ええ、私のことです。

聴いてみて直感的に「いいな」とは思えるんですよ。ただ、ロックやR&Bのように、その「いい」を言語化するのが本当に難しいジャンルで。

言語化できないということは自分の中で咀嚼できていないということで、ついつい聴くのを後回しにしちゃってたんですよね。

ただ、ジャズの影響力ってとてつもないですからね。私が偏愛するプログレもそうだし、ロックと接続して生まれたフュージョンは様々な形でポピュラー音楽に足跡を残し、ロバート・グラスパーが「ジャズはヒップホップの母だ」と言ったようにヒップホップの世界でもジャズは参照されてきたジャンルです。

なんとかしてジャズの世界に入門したい、そういう方のためにジャズが苦手だったこの私が厳選した5枚の名盤をご紹介していきたいと思います。それでは、早速参りましょう。

「帝王」マイルス・デイヴィスの一派こそを理解しよう

さて、実際に作品を見ていく前に、この記事のコンセプトをまず明らかにしておきます。

すなわち

マイルス・デイヴィスを中心に聴き進める

です。

ジャズに明るくない方でもマイルス・デイヴィスの名前はご存知でしょう。「ジャズの帝王」、言わずと知れたジャズの巨人です。

あとで紹介しますが、彼の最高傑作と名高い『カインド・オブ・ブルー』は一般にジャズの全ての作品の中でも最高の評価を受ける1枚ですし、数々のポップスの名盤と並んで史上最高のアルバム作品とみなされる、ジャンルの垣根を超えたマスターピース。

となるととりあえず『カインド・オブ・ブルー』は必修科目になる訳ですが、さらに次の作品もこの作品を軸に考えてみようというのが私の狙いです。

というのも、デイヴィスのバンドに参加したジャズ・マンというのは、もう逐一史上最高峰のミュージシャンなんですよね。

ジョン・コルトレーンビル・エヴァンスアート・ブレイキーといった古豪も彼と共演していますし、いわゆる「電化マイルス」の時代にはチック・コリアジョン・マクラフリンといったフュージョン界のレジェンドが揃い踏みです。

つまり、マイルス・デイヴィスとその周辺を足がかりとすることで、かなりの天才の足跡を同時に追うことができるんです。目のつけどころがシャープでしょ?

こういうコンセプトを基に、ここからはいよいよ作品についてご紹介していきます。

“Kind Of Blue”/Miles Davis (1959)

Miles Davis – So What (Official Audio)

やっぱりまずはここからでしょうね。先ほども名前を挙げた、ジャズの最高傑作『カインド・オブ・ブルー』です。

ハード・バップというジャンルから発展し、デイヴィスが追求したモード・ジャズ。その表現の極致がこの作品です。

ジョン・コルトレーンビル・エヴァンスキャノンボール・アダレイという錚々たる面々が集結した作品で、この顔ぶれが一堂に会したというだけでジャズの最高傑作と呼ぶに相応しいと思います。

もちろん内容だって当然素晴らしい。テーマがあり、パート毎にソロを回していくというジャズの展開に根ざした作品ではありますが、その演奏がもうとんでもなく洗練されているんですね。

第一印象としては「静けさ」があると思いますが、聴き込んでいくとその静謐さの中に燃え盛る青い炎が感じ取れると思います。その尋常でない緊張感はジャズでしか表現し得ない類のものでしょう。

デイヴィス、コルトレーン、アダレイという管楽器演奏者3人の気迫に満ちたプレイ、そして情感溢れるタッチのエヴァンスのピアノ、ここも勿論聴きどころではあるんですが、彼らの演奏を支えるドラムのジミー・コブとベースのポール・チェンバーズの貢献も忘れてはならないポイントですね。

特にコブのプレイなんて凄まじいですよ、この強烈なスウィングが作品全体に絶妙な躍動感を与えています。それも作品の苛烈さを邪魔立てしない、ギリギリのラインでのスウィング感。

1文字も言葉を交わすことなく、最高純度の演奏のみによってどんな音楽よりも雄弁な表情を見せる作品ですね。ジャズ入門としても必聴でしょうし、もっと単純に歴史的名盤としても触れてほしい1枚です。

“A Love Supreme”/John Coltrane (1965)

A Love Supreme, Pt. I – Acknowledgement

名盤ランキングなんかでもよく目にする作品ですね。ジョン・コルトレーンの最高傑作『至上の愛』です。

個人的に、ロック・ファンがジャズに入門するなら『カインド・オブ・ブルー』よりむしろコッチかなって気がしていて。というのも、極めて洗練された緊張感とジャズ的なオーラの漂う『カインド・オブ・ブルー』に比して、この『至上の愛』はかなり野性的感情的なアンサンブルと熱烈な表現が感じ取れるからです。

コルトレーンが神に捧げた組曲、そういう制作背景や『至上の愛』という題が象徴的ではあるんですが、音楽だけからもその熱情というのはひしひしと伝わってきます。

コルトレーンのサクソフォンが嵐のように苛烈に吹き鳴らされ、それに呼応するように展開される演奏もやはり熾烈。この作品のリズムはしばしばアフリカやインドの民族音楽からの影響を指摘されますが、感覚的にもすごく腑に落ちるんですよね。

薄暗いステージでしかめっ面をしながら如何にも……という私が勝手に抱いていたジャズのイメージ、そんなものこの作品にはありません。鬱蒼とした樹海の中で、最も神秘的に保存されている原始音楽。そんな印象すら浮かんでくるほどで。

それにロックへの影響もかなり大きいんですよね。例えばオールマン・ブラザーズ・バンド『フィルモア・イースト・ライヴ』での即興演奏なんて、本作でのコルトレーンの理論にかなり影響を受けていそうです。そういう意味でも、ロック的耳で鑑賞し得るジャズ・レコードなのではないかと。

“Waltz For Debby”/Bill Evans (1961)

My Foolish Heart

ジャズ界隈の空気感ってものを個人的に理解できている訳ではないんですけど、日本でのビル・エヴァンスの評価の高さって結構ズバ抜けてるものがあると思います。そんな彼からは『ワルツ・フォー・デビー』をセレクト。

この作品はまず1曲目の『愚かなり我が心』。これでブチ抜かれていただきましょうか。

エヴァンスはクラシックからの影響を強く受けたピアニストですが、この演奏から感じられる格調高さは正にクラシックを思わせます。それでいて、より優雅で開放的で。とにかく美しいですよね。

彼が日本でひときわ支持されている理由の1つに、彼のピアノに「歌心」があるからだと思うんですよね。メロディアス、というと少し俗的な表現になりますけど、まるで甘く囁きかけるような親しみやすさがそこにはあるような気がします。

表題曲の『ワルツ・フォー・デビー』も非常に愛らしいナンバーです。スウィングともちょっと違うんでしょうね……跳ねるように、あるいは踊るように、軽やかに進行する小気味良さが堪りません。

スコット・ラファロポール・モチアンというエヴァンスのキャリアでも最良のリズム隊の演奏も素晴らしいんですよね。それこそ『ワルツ・フォー・デビー』でラファロが聴かせるベース・ソロなんてもう格別で。

“Somethin’ Else”/Cannonball Adderley (1958)

Autumn Leaves

これまた『カインド・オブ・ブルー』に参加しているジャズマン、キャノンボール・アダレイによるハード・バップの傑作です。

ただこの作品、クレジットこそアダレイ名義なんですけど、実態はマイルス・デイヴィスの作品なんですよね。契約の都合か何かでデイヴィスの名前が使えなかった……みたいな経緯があったと記憶しています。

「ハード・バップの傑作」と表現しましたけど、このジャンルが行き詰まりを見せた結果生まれたのがモード・ジャズであり『カインド・オブ・ブルー』なんですね。言ってしまえば「行き詰まり」を感じざるを得ないほど熟した作品なんです。

まず冒頭に配された『枯葉』ですね。それこそビル・エヴァンスを筆頭に、多くのプレイヤーに愛されてきた普及のスタンダードですが、元はシャンソンであるこの曲をジャズの世界に持ち込んだ最初期の録音とされています。そして同時に、数多ある『枯葉』の中でも最良のテイクとも。

「枯葉」と聞いて想起される、侘しさや淋しさ、それに秋の終わりの澄んだ空気、その切り裂くような美しさや徐々に重くなる雲の色、そんなものを演奏だけで十全に表現しています。素晴らしい名演ですよ。

もちろん他の楽曲だって隙がありません。個人的にはアート・ブレイキーのドラムが本当に秀逸だと思っていて。なんでしょうねこの気配りの聴いたプレイは。出るところは出るけど、あくまでアダレイとデイヴィスをメインに据える絶妙な主張。流石「ハード・バップの傑作」というだけのことはあります。

“Return To Forever”/Chick Corea (1971)

Sometime Ago / La Fiesta

今年2月に惜しくも亡くなってしまったチック・コリアですが、いわゆる「電化マイルス」の時期、作品でいうと『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチェズ・ブリュー』といった重要作に参加しています。

さあ、そんな彼がソロ名義で発表したこの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』、後に彼が結成するフュージョン・バンドの名前の由来にもなったアルバムですけど、ここまでに紹介した4枚とはかなり毛色が違うんですよ。

何しろガッツリ電子音を取り入れ、1曲目の表題曲から10分を優に超えるインタールードを展開しますから。私なんかからすると、同時代に隆盛を極めたプログレッシヴ・ロックと同質なものも十分に感じられますね。

やっぱりエレ・ピアノを主体に構築することでサウンドが一気にカラフルになるんですよね。やっぱりモード・ジャズやハード・バップって、素晴らしいのは当然としてその色彩感覚はモノトーンというか、言うなれば水墨画のように濃淡で魅せる音楽な気がするんです。少なくともロック畑の人間からすると。

ただこの作品のメリハリは非常に明快で、ある種極端と言ってもいい。すごくわかりやすい代物だと思います。2曲目の『クリスタル・サイレンス』なんて題そのまま、水晶が煌めくかのような優美な静寂を演出していますね。そのトーンの移行がジャズ・ビギナーにもすごく心地よく感じられると思います。

それでいて、ラストの『サムタイム・アゴー』なんてもう鬼気迫る即興演奏の応酬で。この展開の仕方なんてやっぱりプログレ的だなぁと思うわけです。そう、私にとってこの作品は「プログレ的」に解釈することで咀嚼できた1枚なんです。

まとめ

さあ、今回はジャズ入門のための5作品をご紹介していきました。

とはいえ、ジャズってそれこそ戦前くらいから歴史のあるジャンルですから。現代ジャズまで包含してしまうとその歴史は80年とか、それくらいのレベルです。

実際、マイルス・デイヴィスだけでももっともっと聴いてほしい作品はありますから。それに私がジャズで一番好きなのキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』ですから。

ただ、やっぱり1つのジャンルを知ろうとする時に何かしらの指標は必要だと思うんです。プログレなら「5大バンド」だったり、サイケなら1967年という時代だったりね。

今回はあくまでマイルス・デイヴィスを軸に話を進めていきましたが、もしこの5枚でジャズの世界に関心を持っていただければ、そこから一気に違うジャズの世界を探求してみるのもいいかもしれませんね。それではまた。

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