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歌詞で楽しむスピッツ〜爽やかすぎる変態、草野マサムネの紡ぐ名歌詞5選〜

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今回取り上げるアーティストはスピッツ

個人的に何度目かもわからないスピッツのリバイバルがきていまして、近々スピッツのアルバム・ランキングも公開する予定なんですが、今回はちょっと別の切り口で。

何かと言うと、スピッツの「歌詞」にフォーカスした内容です。

スピッツってとにかく軽やかでキャッチーなメロディが最大の持ち味ですが、見過ごしてはならないのがその詩世界です。

死とSEX」がテーマになっているなんて話も有名ですけど、ポップなメロディの裏で結構訳わからんことを歌っているんですよこのバンド

ただ、そういう文学的な部分やスピッツの闇、みたいなテーマというよりは、個人的に「いい歌詞」「すごい歌詞」と思うものを5つピックアップしてご紹介してみようという企画です。

早速、スピッツの変態的なその詩世界へ、いざ参りましょう。

『グリーン』

アルバム『醒めない』の歌詞は全体的にグッとくるものが多いんですよね、表題曲もそうですし。ただこのアルバムの中でひときわ好きなのが『グリーン』という曲の2番の歌詞。

コピペで作られた 流行りの愛の歌

お約束の上でだけ 楽しめる遊戯

唾吐いて みんなが大好きなもの 好きになれなかった

可哀想かい?

『グリーン』( アルバム『醒めない』収録)より引用

スピッツの歌詞でここまでリアルな毒づき方をするものってあまりないんですよ。楽曲自体はとんでもなく爽やかなんですけど、だからこそこの一節がすごく強調されています。

いわゆる「アンチ流行」「アンチ多数派」みたいな精神って「中二病」の一言で安易に片付けられるのかもしれませんけど、それを草野マサムネが言っているとなると、どうやら中二病で済ませられなさそうな説得力がありますよね。

そもそも『醒めない』というアルバム自体、かなり精神的に原点回帰というか、「俺たちまだまだやれるぜ」っていうおっさんの無茶苦茶カッコいい所信表明みたいな向きの作品。その中でこういう歌詞を綴ることに意味がある気がしますね。

しかも「可哀想かい?」なんて挑発的に尋ねる訳ですよ。この不敵さ、スピッツらしくないと言えるくらいです。

『恋する凡人』

アルバム『とげまる』収録のこの曲ですが、その結びの歌詞が実にスピッツらしいんです。

走るんだどしゃ降りの中を ロックンロールの微熱の中を

定まってる道などなく 雑草をふみしめて行く

これ以上は歌詞にできない

『恋する凡人』( アルバム『とげまる』収録)より引用

ロックンロールの微熱」という表現がまずもって素敵ですよね、ロックンロールの高揚と熱狂を「微熱」というのは正に言い得て妙。

この表現、ラスサビのここで初めて登場するんですよ。同じメロディ自体は3回目で、「走るんだどしゃ降りの中を」まではどのサビにも共通するんですが、最後で満を持してのキラー・フレーズです。

ただ、この曲の歌詞の醍醐味はラストの

これ以上は歌詞にできない

これに尽きます。

歌詞の中で「歌詞にできない」と歌っちゃうその反則感。「言葉にできない」なんて表現はよく見かけますが、「歌詞にできない」なんてそのフレーズこそ歌詞にしがたいですよね。

普通に受け取れば「思いが溢れすぎてとても歌詞にならない」みたいなものでしょうけど、私なんかはこの部分を「言いたいことがヤバすぎて(エロすぎて?)歌詞にできるようなものじゃない」という風にも捉えてしまいます。

おっぱい』なんて曲を書く人ですから大抵のものは歌詞にできちゃう気がしないでもないですが、草野マサムネの爽やかな変態ぶりを知っているとそう深読みしても面白いのかなと。あくまで深読みの域を出るものではないですけどね。

『歌ウサギ』

この曲はシングル集『CYCLE HIT 2006-2017』に収録された3曲の新曲のうちの1つで、確か映画の主題歌にも起用されていたと記憶しています。

歌詞の全体像としては如何にもスピッツらしい曖昧なラヴ・ソングなんですが、1回目のブリッジの歌詞が本当に秀逸で。

「何かを探して何処かへ行こう」とか

そんなどうでもいい歌ではなく

君の耳たぶに触れた感動だけを歌い続ける

『歌ウサギ』( アルバム『CYCLE HIT 2006-2017』収録)より引用

まず、「何かを探して何処かへ行こう」と歌う歌を「どうでもいい」と断じてしまう力強さがいいですよね。

面白いのが、この歌詞はスピッツの『青い車』の歌詞を自虐したものなんですよ。

君の青い車で海へ行こう

おいてきた何かを見に行こう

『青い車』( アルバム『空の飛び方』収録)より引用

この曲自体は心中を歌ったものという説があるくらい意味深な歌詞なんですけど、それを自分の曲の中で皮肉ってしまうのがなんとも草野マサムネらしいというか。

そしてその続きですね、

君の耳たぶに触れた感動だけを歌い続ける

なんて繊細で控えめな表現なんでしょう。おおよそラヴ・ソングにおいて「耳たぶ」をここまで象徴的に歌ったものはないと断言していいと思います。

それこそ「死とSEX」をテーマにするスピッツの歌詞には、もっと露骨というかインモラルな表現はいくらでもあるんですよね。「耳たぶ」の部分は別に「体」でもいいし「髪の毛」でもいいと思いませんか?

そこで「耳たぶ」を選べる感性、これがもうとんでもなく素晴らしい。絶妙にいじらしく純愛で、そしてやっぱりどことなく変態的という完璧さです。

『フェイクファー』

次にご紹介するのは、アルバム『フェイクファー』のラスト・トラックであり表題曲の『フェイクファー』。

これ、個人的に草野マサムネ節の真骨頂だと思っている歌詞なんですよ。

ちょっとコレは構造上全文を引用しないとうまく伝えられないと思うので、ひとまず歌詞全文を見ていただきましょう。

柔らかな心を持った はじめて君と出会った

少しだけで変わると思っていた 夢のような

唇をすり抜ける くすぐったい言葉の

たとえ全てがウソであっても それでいいと

憧れだけ引きずって でたらめに道歩いた

君の名前探し求めていた たどり着いて

分かち合う物は 何も無いけど

恋のよろこびに あふれてる

偽りの海に 身体委ねて

恋のよろこびに あふれてる

今から箱の外へ 二人は箱の外へ

未来と別の世界 見つけた

そんな気がした

『フェイクファー』( アルバム『フェイクファー』収録)より引用

さて、全文引いてみたものの、実際に紹介したいのはたった一文。

どこかというと、本当に最後の歌詞。

そんな気がした

ここです。

実際に楽曲聴いてもらえればわかるんですが、ここに向けてこの楽曲は一気に盛り上がるんですよね

その盛り上がりのピーク、この楽曲、ひいては『フェイクファー』というアルバムの印象を決定づけるであろうその言葉が、

そんな気がした

って。気がしただけかよ。「恋のよろこびにあふれてる」なんて言っといて気がしただけなのかよ

この自信のなさというか、隠しきれない弱気な部分、これが実に草野マサムネらしいと思っています。

『チェリー』でも

「愛してる」の響きだけで 強くなれる気がしたよ

『チェリー』より引用(強調はピエールによる)

だし、『空を飛べるはず』なんてタイトルの時点で「はず」ですからね。

この煮え切らない、ロック・ヒーローになりきれない引き腰な部分がたまらなくスピッツらしくて大好きです。

『僕はきっと旅に出る』

最後に紹介するのは、アルバム『小さな生き物』よりこちらもラスト・トラック『僕はきっと旅に出る』。

スピッツで1曲だけ選ぶなら私はこの曲になるでしょうね。それくらい好きな曲なんですが、その理由には歌詞もかなりかかわってきます。

この曲も全歌詞引用させていただきましょう。

笑えない日々のはじっこで 普通の世界が怖くて

君と旅した思い出が 曲がった魂整えてく

今日も ありがとう

僕はきっと旅に出る 今はまだ難しいけど

未知の歌や匂いや 不思議な景色探しに

星の無い空見上げて あふれそうな星を描く

愚かだろうか? 想像じゃなくなるそん時まで

指の汚れが落ちなくて 長いこと水で洗ったり

朝の日差しを避けながら 裏道選んで歩いたり

でもね わかってる

またいつか旅に出る 懲りずにまだ憧れてる

地図にも無い島へ 何を持っていこうかと

心地良い風を受けて 青い翼広げながら

約束した君を 少しだけ待ちたい

きらめいた街の 境目にある 廃墟の中から外を眺めてた

神様じゃなく たまたまじゃなく はばたくことを許されたら

僕はきっと旅に出る 今はまだ難しいけど

初夏の虫のように 刹那の命はずませ

小さな雲のすき間に ひとつだけ星が光る

たぶんそれは叶うよ 願い続けてれば

愚かだろうか? 想像じゃなくなるそん時まで

『僕はきっと旅に出る』( アルバム「小さな生き物』収録)より引用

この曲の歌詞を理解する上で避けては通れないのが、東日本大震災の存在です。

史上空前の大災害、多くの人の命を奪ったあまりに痛々しい出来事。

草野マサムネはこの震災の報道に日々触れる中、急性ストレス障害を発症。スピッツの活動が一時休止を余儀なくされてしまいます。

幸いなことに程なくして体調も戻り、スピッツの活動も再開した訳ですが、スピッツの全楽曲の作詞曲を手がける草野マサムネにとって、この一件が与えた大きなショックと悲しみは創作に影響を及ぼします。当然のことです。

震災後初となる新曲として、シングル『さらさら』のB面に収録されたこの曲にも、その痕跡は確かに残っています。

笑えない日々のはじっこで 普通の世界が怖くて

きらめいた街の 境目にある 廃墟の中から外を眺めてた

このさりげなさの中にある深い傷が、どうしようもなく悲しくなるんですよね。

ただ、その上で、「今はまだ難しい」と言いながらも

僕はきっと旅に出る

と宣言するところが本当にいい歌詞だなと。

決して悲壮に明け暮れるのではなく、辛いながらも前を向こうとするその気高さに言いようもなく感動します。

スピッツの歌詞って弱腰だったり変態チックだったり、そういうヘンテコな部分は大いにあるんですが、どこまでもポジティヴなんですよね。

その心根の部分というのが歌詞のいたるところに滲むからこそ魅力的に響くと私は思いますし、この『僕はきっと旅に出る』はその極致です。それはこの曲が、どこまでも悲痛だからこそ。

まとめ

歌詞をメインに据えた記事というのは初の試みでしたが、お楽しみいただけたでしょうか?

音楽における歌詞って、ライトな層とコアな音楽ファンで結構認識が違うと思うんですよね。

チャートで人気の楽曲は往々にして歌詞に共感する人が多いみたいですし、私も体験上オススメの音楽を教えても「歌詞がよくわからない」という理由で難色を示されたことが何度かあります。洋楽がイマイチ人気ないのもそういう理由は1つにありそうです。

ただ、ぶっちゃけ私からすると歌詞って割とどうでもいいんですよ。「自転車乗りたい」とか「ストーカーとして君をいつまでも見ていたい」とか「私は環状交差点になるだろう」とか、まあまあ訳わかんなくても曲としていいならオールOK。

ただ、だからと言って歌詞を軽んじるのもそれはそれで違うのかなという気がしますね。特に日本は「歌」の文化ですから。それは歌唱という意味だけでなく、歌われる言葉もまた重んじてきた文化と言っていいでしょう。

そこを絶妙なバランスで、「ようわからんし聞き流しても音として気持ちいい、でもよく読むといい歌詞」という風にしてくれるスピッツの非凡さはすごいんですよね。

是非今後スピッツを聴くとき、そこのところを意識していただけると嬉しいですね。それではまた。

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