さあ、今週も木曜日ということで、恒例の「2022年オススメ新譜5選」やっていきましょう。バックナンバーはこちらからどうぞ。
前回の結びでも予告したんですけど、先週のリリースは注目作品が目白押しでした。2022年、これはかなり豊作になりそうですよ。
ただ、それって聴かれるべき作品が次々に誕生しているということでもありますから。少しでも気を抜くとついていけなくなるという恐怖をも孕んでいます。是非ともこの記事でおさらいしていただけると。
とはいえ選考基準は「ピエールが気に入ったかどうか」、すなわち極めて個人的かつ独善的なラインナップではあるんですが。それでは早速、先週リリースの作品から是非ともレコメンドしたい5作品を見ていきましょうか。
① “Dragon New Warm Mountain I Believe In You”/Big Thief
やっぱりこれは外せませんね。USインディーの雄、ビッグ・シーフのニュー・アルバム“Dragon New Warm Mountain I Believe In You”です。
フォークやカントリーを基調としたインディー、こう書くと如何にも並一通りですけど、本作はバンドにとってのキャリア・ハイと言ってしまっていい傑作だと思います。その「よくある」サウンドの純度が尋常じゃあない。
ものすごくシンプルで、「疎」を重要視したサウンドスケープなんですけど、その1つ1つがとてつもない必然性をもって響いているんですよね。メロディだって掛け値なく素晴らしいんですけど、本作はあくまでそのノスタルジックな世界観こそを楽しむべきアルバムだと思っていて。
とはいえ、“Time Escaping”のパーカッシヴなギター・サウンドのようなトリッキーなことも平然とやってくるのがニクらしい。4ヶ所のスタジオでのセッションを元にした作品で、そのセッションそれぞれに方向性が違うのが面白いです。それぞれに個性があって、それがコンセプチュアルに収録されていないからこそ生まれるマリアージュが作品中いくつも感じられてね。
ここまでサウンドで魅了する作品を作れるロック・バンド、現代にはなかなかいませんよ。それも「疎」なサウンドで。1時間半にもわたる長大さが全く気にならない、むしろもっと聴きたくなるその求心力たるや。これは年間ベストでもかなり高い位置につけたくなりますね……
② “Lucifer On The Sofa”/Spoon
こちらもビッグ・シーフ同様今週の目玉でしたね、2000年代のUSインディーを牽引したスプーンの“Lucifer On The Sofa”です。
とにかくソリッドで生々しいロック・アルバム、というのが聴き始めてからの第一感でした。オープニングの“Held”からの展開なんて、不必要なサウンドが何一つ鳴っていない、ロックとして成立し得るギリギリのバランス感覚が実にヒリヒリさせてくれます。ガレージ・ロックのお手本のような音像ですね。
ただ、アルバム後半になるとピアノが目立つ瞬間や、バラード的な楽曲も登場したりして。勢いだけで押し切るワイルドなアルバムという印象を前半では覚えるんですけど、アルバム全体としては振れ幅が効いていてね。ここが面白いところです。まあ、そういう楽曲でもギターのサウンドなんて実に猥雑でクールなんですけど。
最後の表題曲なんて、シンセサイザーが主体かつリズムはコンパクトでダンサブルというね。ちょっとアルバムの中では浮いている感も実際あるんですけど、いやにアダルティな質感が癖になります。こんなカードも切ってくるのか!という斬新さが最後に待っているのもいいじゃないですか。
危うげなロック・チューンあり、泣きのミドル・ナンバーあり、ダンサブルな楽曲あり、そしてしっかりギターが鳴っている。こういう真っ当なロック・アルバム、こと新譜で聴くと新鮮でね。期待を裏切らない、いいアルバムでした。
③ “The Kick”/Foxes
イギリスのシンガーソングライター、Foxesの3rdアルバム“The Kick”。日本でそこまで騒がれている感もないんですけど、これは今週のリリースを語る上でど定番2つの次にくるべき作品じゃないですか?
音楽性を一言で言ってしまうとエレ・ポップなんですけど、そのサウンドが実にナチュラルで。私が苦手とする、打ち込みのサウンドが何もかもギッタンバッタンやかましいあの手合いとはまるで違います。アッパー・チューンに関しても、シンセサイザーの音がとても優しいんですね。
そしてその上で、本作の軸に彼女の歌唱があるというのが嬉しいところ。歌モノとしてしっかり成立するだけの歌唱力とメロディそのものの強度があるんですよね。ホーンが特徴的な”Body Suit”なんて、見事な歌い上げバラードですから。
惜しむらくは、斬新さには欠けるところでしょうか。いい意味でも悪い意味でも「古き良きシンセ・ポップ」って感覚なので、今更感を覚える方も中にはいるんじゃないかな。もっとも、私にとってはどこか懐かしいけれど鮮やか、そんな絶妙なバランスで聴こえるんですけどね。
この企画でここまで真っ直ぐポップなアルバムを紹介するの、初めてな気がしますね。だいたいロックだったりフォークだったり、その文脈の上でポップですけど、これに関してはど直球でポップスやってます。うん、たまにはいいもんですね。
④ “The Sea Drift”/The Delines
アメリカはオレゴン州のアメリカーナ・バンド、The Delinesの“The Sea Drift”です。さっきFoxesの時に「斬新さに欠ける」なんて指摘しておきながらここでアメリカーナ選ぶあたり、まったく批評性のないラインナップですね。
聴いていて心がじんわりと温かくなるような、そんな1枚です。ルーツ・ミュージック的で、ホーンやストリングスを大々的に導入してはいるものの、そこにゴテゴテした派手さは全くありませんからね。サウンドも親近感が湧く温かさがあって、まるでスタジオ・ライヴを間近で観ているような親密さが心地いい。
それこそビッグ・シーフと似たような方向性の作品ではあるんですけど、こちらの方がよりクラシカルで飾り気がないですね。メロディとアコースティックなサウンドで勝負という作品ですし、本作に感じる壮大さもインディー由来というよりはやっぱりアメリカーナ由来のものでしょうから。
あと、Amy Booneの歌声がいいんですよ。深みのある歌唱なんですけど、臭みが全然ない。メロディを引き立たせる滋味豊かな響きがあります。キャロル・キングにも通ずるような素朴な歌声です。この歌唱が、本作をより親しみやすいものにしている気がしますね。
キャロル・キングの名前を出しましたけど、1970年代のシンガー・ソングライターがお好きな方には是非とも聴いていただきたい作品です。インディー通過後の現代性も感じられつつ、あくまで質実剛健とした奥深いロック/ポップスですから。
⑤ “In A Middle English Town” (EP)/Home Counties
最後に紹介するのはEPですね、ブリストル出身のポスト・パンク・バンド、Home Countiesの“In A Middle English Town”です。EPを扱うのどうかな?とは思いつつ、素晴らしい内容だったのでここは紹介させてください。
またイギリスのポスト・パンクかよ……となるかもしれませんけど、これはその中でもとびきりフリーキーですね。電子音がひっきりなしに、そしてしっちゃかめっちゃかに鳴り響く中、ごった煮のサウンドが自由に動き回る。1970年代末のクラシカルなポスト・パンクにかなり近い何でもありっぷりです。
リズムに注目してみると、ファンキーな躍動感を感じさせつつも一筋縄ではいきそうにない捻りが効いていますし、シンセサイザーが暴れている分ギターがリズミカルに機能しているのも面白い。そこに人を食ったようなヘンテコUKロックの系譜にあるヴォーカルが乗っかってくるんですからもう破茶滅茶。
このやり過ぎなくらいの電子音、初期のテクノ・ポップ的な印象もあるんですよね。あちらもパンク以降の脱構築のムーヴメントと理解すれば距離感はそう遠くないんですけど。「上手いな」って印象はなくて、「もう勝手にしてよ」ってな風に匙を投げたくなるやりたい放題が癖になります。
全4曲収録のEPという実にコンパクトな作品なんですけど、そんなこと気にならなくなるくらい濃密でハイ・カロリーです。フル・レングスのアルバムが楽しみな反面、これを40分も聴いてられる自信はそこまでないですね……それくらい独創的な1枚でした。
まとめ
さあ、今回はこの5枚を紹介していきました。1枚でも興味を持ってもらえていたら嬉しいんですけど。
ビッグ・シーフがとにかく圧倒的でしたね。今のところ、『BADモード』と並んで2トップ状態です。これ、上半期ベスト選ぶときにかなり苦労しそうですね……
ただ、他のアルバムも十分粒ぞろいですからね。最後に紹介したHome Countiesなんて、インパクトだけで言えばダントツですから。あと個人的にはThe Delinesはかなり好みですし、この5枚はどれを聴いてもらっても損はさせないかと思います。
明日のリリース、とりあえずBeach Houseは注目として、他にも気になるタイトルがいくつかありますからね。Metronomyの新譜なんて結構楽しみにしてます。それでは、また来週をお楽しみに。
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