今週も「2022年オススメ新譜5選」、やっていきましょう。バックナンバーはこちらから。
先に言っとくと、今週はかなり新譜のチェックをゆる〜くやるつもりでした。何せこっから2週間がヤバすぎるので、ちょっと充電期間というかね。ただ、それを許してくれない名作の連発で。ホントに今年の充実度はどうかしている。
ということで、息つく暇のない新譜リリース、今回も振り返っていきましょうか。
“Emotional Eternal”/Melody’s Echo Chamber
まずはフランスのドリーム・ポップ・バンド、Melody’s Echo Chamberの“Emotional Eternal”を。
オープニング・トラックを聴いた時、Cocteau Twinsをすぐさま連想しましたね。とびきり甘美な女性ヴォーカルと、幻想的な世界観でうっとりさせる作品という意味です。ただ、サウンドが実に肉感的で、これは単にシューゲイズ/ドリーム・ポップの好盤とするのは浅い気にもなってくるんです。
特にベースですね。すごく前に出てきていて、その存在感はヴォーカルと並列する勢いですよ。そのことで作品像に空間的な奥行きが生まれるというか、シンセやノイズで密に展開していくジャンルの一般論には当てはまらない美学を感じさせます。ここがとても面白くて。
バンドのアンサンブル自体もとても軽妙でね。さっきも書いた通りベースが一番目立ってはいるんですけど、他の演奏だって適切なタイミングで適切な主張をしています。全体的にノスタルジックな印象もあって、バンド名に引っ張られたつもりはないですけどチェンバー・ポップ的な華やかさも感じ取れる。
気品と陶酔感に満ちた極上のポップ・アルバム、そんな絶賛を誇張なくできてしまう作品です。ある種サイケ的にも聴けるでしょうし、きっとフレンチ・ポップとしても楽しめるんじゃないかな。もちろんドリーム・ポップとしてもね。
“i don’t know who needs to hear this…”/Tomberlin
続いても女性アーティスト、こちらはアメリカはケンタッキーを中心に活動するSSW、Tomberlinの“i don’t know who needs to hear this…”です。
「誰がこれを聴きたがっているのかは知らないけど……」というタイトルからもうナイーヴさが全開ですけど、作品像も負けず劣らず繊細で。とにかく疎なサウンド・プロダクションが徹底していて、行間を読むようにアルバムの世界に没入できる求心力が堪らないじゃないですか。
で、そのサウンドがいちいち適切なんですよね。さっき言った通り徹底して「疎」なんですけど、その色彩感覚、あるいは濃淡と表現した方が妥当でしょうか、そこのところが巧妙です。通奏低音としての侘しさはあるんですけど、表情のつけ方が見事で。全く退屈しないんですよね。
最初流しながら聴いていたんですけど、その時は「よくあるインディー・フォークだな」ぐらいの感想でね。ただじっくり面と向かって聴いてやると、すごく微妙な意匠の数々に惚れ惚れしてしまいます。これを「よくあるインディー・フォーク」なんて、あまりに短絡的な感想ですよまったく。
近年、この「女性インディー・フォーク」というフォーマットから名作が数多くリリースされていますけど、このアルバムだってそこと同列に語って何一つ不思議ではありません。むしろ繊細さと緻密さでいけば、かなり高水準の1枚なんじゃないでしょうか。
“Profound Mysteries”/Röyksopp
今度はノルウェーのエレクトロ・アーティストを。いい感じにグローバルなチョイスになっていて個人的には嬉しいですね。Röyksoppの“Profound Mysteries”です。
どっかで見たことあるアーティスト名だと思ってたんですが、“Melody A.M.”のアーティストだったんですね。00’sの名盤を深掘りしてる時期に出会った作品で、エレクトロが苦手な私でも楽しめるアルバムだったので印象に残ってました。で、本作もしっかりと楽しむことができましたよ。
彼らの展開する電子音って、どこかナチュラルで情景描写が巧みな印象があるんですよ。本作でもそれは感じられたんですけど、同時に現実離れしたものも脳裏によぎるというか。幽玄じみた、というとちょっと固い物言いですけど、「ここではないどこか」を連想させるのは事実です。
それに、いわゆるエレクトロ的なビートの効いたナンバーもあれば、しっかりと歌モノに仕上がっている楽曲もあって、かなりバラエティに富んでいるというのがなおさらミステリアスな全体像に拍車をかけています。どことなくノスタルジックな表情もあって、聴いていて不安すら覚えてしまうというか。
「深遠なる謎」という意味深なタイトルにも思わず納得してしまう、奇妙な聴き味の1枚です。ただその奇妙さが病みつきになるんですよね。自分の中で咀嚼できないアルバムはここでなるだけ紹介しないようにはしてるんですけど、これはそもそもが首を傾げながら陶酔すべき作品なんだと思ってます。
“MAHAL”/Toro Y Moi
これは結構騒がれてましたね、Toro Y Moiの最新作“MAHAL”です。
不勉強につきこのアーティストの存在を知らなかったんですけど、どうやらキャリア初期にはチルウェイヴのシーンにいたようで。このアルバムからはそんなこと微塵も感じさせません。ファンクとサイケの幸せな結婚という、私の大好物なサウンドですからね。
ただそのグルーヴはネオ・ソウル的な現代的洗練を感じさせるし、サウンドのミニマリズムは紛れもなくインディー・ロック通過後のそれなんです。その上で、あくまでいなたいファンクというのがなかなかにユニークで。そしてサイケの陶酔感までを表現しているんですからね。
ただ、全体像としてはクラシカルなファンク/R&Bが持つ熱狂的なテイストではなく、確かに「チルい」ものであることも事実で。彼らの過去作も踏まえて聴いたんですけど、しっかりと一本の線で引いてこれるような内容なんですよ。その線ってのもやたらと曲がりくねってはいるんですけど笑
現代的なブラック・ミュージックの解釈でも楽しめて、60’sの耳でもしっかりと鑑賞できる。そういう両極端な音楽性をきちんと落とし込んでいるのはかなりスゴ技だと思います。しかもそれらをブレンドするのではなく、それぞれの個性をそのまま残してというのが唖然としちゃいますよ。
“learn 2 swim”/redveil
これ、リリースのタイミング的には前回扱うべきものなんですけどね。見落としていたことを後悔する素晴らしいヒップホップ・アルバムなので、横紙破りをしてでも紹介させてもらいます。弱冠18歳のラッパー、redveilの“learn 2 swim”です。
この作品を知った経緯として、こちらのnote記事で猛プッシュされているのを拝読させてもらったんですよ。以前にもConway The Machineのアルバムに言及されていたりと、個人的なヒップホップのdigにすごく役立っている投稿者の方なんですが。ぶっちゃけこのアルバムについて理解するならこのポスト読んでおけばこっから先読まなくてもいいです。
redveilって世代としては10’sのヒップホップが青春な訳ですけど、それがモロに反映されているのかなと。何しろケンドリック・ラマーにタイラー・ザ・クリエイターですからね。ああいう、ディープな内向性とトラックで聴かせるサウンド・メイキングの手腕をしっかりと継承しています。
そう、とにかくトラックが秀逸でね。ジャズ的なアプローチも多用しているので、ヒップホップにやや距離感を覚える人でも違和感なく聴くことができる。リリックだけでなく、音楽面でもほぼほぼ彼が単独で構築しているというのがとんでもないです。
かなりコンパクトなアルバムにも関わらず、すごく重たく聴こえるアルバムです。サウンドの充実という点でもそうだし、そのラップのシリアスさという点でも。これはもっと騒がれないといかんアルバムだと思うんですけどね。まあ、1週遅れで紹介してる私に言えたことじゃないんですけど。
まとめ
さて、今回はこの5枚。話題作を順当に、という感じではあるんですけど、騒がれているアルバムがしっかりいい内容だというのは健全なことですからね。そこにアジャストできる自分の耳も嬉しいですし。
さて、明日は全世界待望のリリースが待ち構えていますね。ええ、アーケイド・ファイアです。これ楽しみにしてない人います?いないですよね?いないってことで話を進めていきましょう。
今年に入って、アニマル・コレクティヴやスプーンみたいな00’s~10’sのインディー・シーンを盛り上げたアーティストが活発化してるじゃないですか。でも、その時代の急先鋒ってやっぱりアーケイド・ファイアでしょ。彼らの作品をリアルタイムで体験できるの、今から楽しみでなりません。そんな感じで、また次週。
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