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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.7

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今回はなんとか木曜日に間に合いましたよ。恒例「オススメ新譜5選」のコーナーです。バックナンバーは↓からどうぞ。

世界情勢がもうとんでもないことになっていて、精神的にかなり参ってしまった1週間ではあったんですけど、そんな時だからこそ私は音楽の魔法を信じたいです。変わらず音楽を聴いていくし、それを皆さんに発信して楽しんでもらうことが私にできること seeなのかなと。

……偉そうなことを言ってしまいましたが、ひとまず先週リリースの作品の中から個人的にビビッときた5枚を振り返っていきましょうか。それでは参ります。

“The Tipping Point”/Tears For Fears

Tears For Fears – Break The Man (Official Audio)

この企画で彼らの名前を挙げることができて、本当に嬉しいです。80’sエレ・ポップを牽引したグループ、ティアーズ・フォー・フィアーズの17年ぶりとなる新作、“The Tipping Point”です。

これ、私の忖度でもなんでもなく、先週リリースのどの新譜よりも素晴らしかったと心から思えるんですよ。私は当然彼らに関しては後追いなんですけど、80’sに彼らが展開したシンセ・ポップの殿堂、そこを一切悪びれることなく2022年の今提出してくるなんてね。

そもそも、80’sっぽいサウンドというのは「古臭い」とされることも多いじゃないですか。シンセがやたらめったらうるさくて、ミックスもゴテゴテしててみたいなね。その中にあってティアーズ・フォー・フィアーズってかなり普遍的というか、シックでナチュラルな味わいを当時から見せていました。

その強みって、現代のシーンと比較しても全然色褪せないことが今回ハッキリわかりました。どの曲もうっとりしてしまう美しさがあって、陰影のあるメロディがよりいっそう深みと嫋やかさに磨きをかけている。言葉にすれば簡単ですけど、こんな作品を生み出せるアーティスト、現行のシーンにそういませんから。

80’sリバイバルというのも昨今のトレンドですけど、これはリバイバルですらない。タイムスリップと言っていいでしょうね。彼らの最高傑作と名高い“Songs Of The Big Chair”と続けて聴いてもまるで聴き劣りしない、極上のシンセ・ポップです。80’sポップスをルーツに持つ私からすると、この作品のリリースに立ち会えて本当に幸せですよ。

“God Don’t Make Mistake”/Conway The Machine

Piano Love

去年は上半期に関してはいいラップ・アルバムがなくてやきもきしましたけど、今年は豊作で何より。批評筋では先週最大の注目を浴びたConway The Machine“God Don’t Make Mistake”です。

トラップが苦手(というか、どれを聴いても代わり映えしないんですよね)な私にとって、この90’sヒップホップを彷彿とさせる太いビートの感覚洒脱でダウナーなサウンド、堪らないです。ネイティヴ・タン界隈ウータン・クラン辺りからヒップホップを掴んだ身としてはなおさらね。

全体としてかなりジックリ聴かせる作品で、サイズ感も50分弱とほどよいコンパクトさ。楽曲によってはかなり力強くラップする瞬間もあるんですけど、荒々しいというよりは切実に訴えかけるようなテイストで。そこがサウンドとの一体感があって聴き入ってしまいます。

この作品に関してはこちらのnote記事

神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)|久世
はじめに まず、当アルバムのタイトル「God Don't Make Mistakes」について、少々脱線しながら話していきたい。 そのためには、2020年、自身のレベールDrumwork、Griseldaの両レベールからリリースされたソロデビューアルバム「From King To A GOD」に触れなければならない。...

で詳細に考察・解説されているので是非とも参照してほしいんですけど、リリックに関してはかなりパーソナルな言及が多いみたいですね。正直なところリリックの一言一句まで読み込めている訳ではないんですけど、こちらの記事で主張されている本作の内容ってフィーリングのレベルでも十分感じ取れます。

ヒップホップ・アルバムだと有無を言わさず暫定トップ、そう言い切れちゃう名作でした。しかもスルメ・アルバムの予感もあるので、今年1年かけて私の中でさらに評価を上げていく作品になってくれるんじゃないかと。

“Caroline”/Caroline

caroline – IWR

イギリスの8人組バンド、Carolineのデビュー・アルバム、セルフ・タイトルの“Caroline”です。

音楽性を一言で表すならば、オーガニックなサウンドで統一されたインディー・フォークといった感じでしょうか。大所帯のバンドでインディー調となるとArcade Fireを連想しますけど、言うなれば“Funeral”をもっとミステリアスに、そして牧歌的にした印象でしょうかね。

メロディの部分はかなりぼやけていて、幻想的かつどこか荒涼としたサウンドスケープに溶け込むような感覚があります。さっき牧歌的と表現しましたけど、まるで世界の果てのようなやるせなさも感じられてしまうんです。

アルバム後半で聴くことのできる即興演奏の部分なんて、フォーキーな通奏低音こそあるものの現代音楽的ですからね。かなりフリーキーで、プログレッシヴ・ロック的と言ってもいい。実際、バンドのバックボーンにはミニマル・ミュージックのような現代的な感性も根付いているようで、懐の深さをうかがわせてくれます。

アルバムというフォーマットの中での世界観の構築、それが非常に優れた1枚だと思います。これは年間ベストにも残ってくる予感がしますね。アコースティックでノスタルジック、それでいてミステリアス、そんなの嫌いな訳ないですからね。インディー・ファンからそれこそプログレッシヴ・ロックを愛好する方まで、幅広くオススメしたい作品です。

“Black Radio III”/Robert Glasper

Over

現代音楽における最重要人物の1人と言ってもなんら大袈裟ではないロバート・グラスパー。そんな彼の代表作“Black Radio”シリーズの第3作となる“Black Radio III”です。

グラスパーの面目躍如である、ジャズとヒップホップの融合。そこをしっかり感じられるアルバムになっています。どちらもロック/ポップスを愛好する身からするとやや取っつきにくくはあるんですけど、グラスパーはもっと深く、それこそゴスペルブルースのレベルでブラック・ミュージックを網羅している才人ですから。そこに普遍性が生まれています。

面白い偶然なんですけど、ティアーズ・フォー・フィアーズの名曲『ルール・ザ・ワールド』のカバーが収録されているんですよね。この辺からも本作の範疇の広さがお分かりいただけるかと思います。ヒップホップとジャズをクロスオーバーさせながら、平然と80’sシンセ・ポップも吸収しちゃうんですから。

『ルール・ザ・ワールド』にもう少し言及すると、このメロウなポップスにラップを突っ込んでるんですよ。それがすごくロバート・グラスパー的だなと。他の楽曲でも感じられるんですけど、ジャンルの意識がいい意味で希薄で、だからこそそういう大胆な縦断に躊躇がない。そして奇をてらった感もなくてすごくナチュラルに聴けちゃうんです。

とにかくブラック・ミュージックの美味しいところを詰め込んだアルバム、そんな印象で、”Black Radio”シリーズだと一番聴きやすい気がします。ポップス的な意味でね。もっと本格的にジャズを楽しんでいる方はどう思うかわからないですけど。

“Squeeze”/SASAMI

SASAMI – The Greatest (Official Video)

ダサいというかえげつないというか、妖怪・濡れ女をモチーフにしたジャケットのインパクトでも注目を集めたSASAMIのアルバム“Squeeze”です。

彼女は日系アメリカ人なんですけど、USインディーで日系アーティストの躍進目覚ましいのは日本人としてはやっぱり嬉しいですね。ミツキもそうだし、去年で言うとジャパニーズ・ブレックファストもね。

アルバムの開幕はニュー・メタル的で、聴いた瞬間「あ、苦手だコレ」となってしまいました。メタル得意じゃないんですよ。アルバム全体のサウンドのカラーもヘヴィかつデジタルなロック調で、コレはまたしても話題作を選外にせざるを得ないか……と腹を括っていたんですけどね。

2曲目の“The Greatest”初期レディオヘッドのような情感的ギター・オルタナが聴こえてきて、コレは評価を決めつけるには早いなと。そこから聴き進めると、本作のカバーする領域の広さに飲み込まれていきます。なにせ11曲収録ながら32分の作品ですからね。登場する発想の多彩ぶりは素晴らしいものがあります。

カントリーっぽいことをする瞬間もあり、モロにポップな展開もあり。それでいて彼女の神秘的な表現力ヘヴィ・ロックの統一感がとっ散らかっている印象を与えず、矢継ぎ早に才能を誇示する痛快さを生んでいます。危うく見落とすところでしたけど、32分とは思えぬ充実のある名作でした。

まとめ

いやあ、今週はかなり濃厚なリリースでしたね。聴くアルバムがどれもよくて、ハズレを引かされない1週間でした。

年末に向けてチェックした新譜はプレイリストにまとめてザックリとランキング形式にしているんですけど、「ああ、この並びは崩れないだろうな」という上位陣が次々に陥落していく驚きが今週は特にあった気がします。なにせTOP10に、今週のリリースで3作品が現状入ってきていますから。

コレで明日はThe Weather Stationの新譜もあるんでしょ?とんでもないことになってますね。3月末には四半期ベストをまとめられたらなぁとは構想していますけど、かなり骨の折れる作業になりそうで。音楽好き冥利に尽きますよ。それではまた来週。

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