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ピエールが本気で選ぶ、邦楽史上最も偉大なアルバム・ランキングTOP100

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第20〜11位

第20位『3』/キリンジ (2000)

特定のシーンから登場した訳でも、J-Popとしてヒットを記録した訳でもなく、しかし邦楽の歴史において大きな存在感を示す異端児がキリンジです。彼らが何故これほどに支持されるのか、その理由が代表作『3』にはパッケージされています。

今やスタンダード・ナンバーとなった名曲『エイリアンズ』のしめやかな美しさは、この作品の氷山の一角に過ぎません。ブラスやストリングスをフィーチャーした緻密なサウンドスケープにしろ、複雑でいて耳触りのよい絶妙なソング・ライティングにしろ、すべての面で堀込兄弟の才能が十全に発揮されています。

しばしばシティ・ポップの文脈でも評価される本作ですが、この時のシティ・ポップが意味するところはそれは『プラスチック・ラブ』的というよりはむしろスティーリー・ダン的。J-Pop通過後のAORとも表現し得る、この上なく洗練されたまったく隙のない名曲集です。

第19位『ギヤ・ブルーズ』/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT (1998)

ロックを日本へと輸入する時、そこには多くの場合大衆的な翻訳の作業が伴います。しかしTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTは、どこまでもストイックにガレージ・ロックを炸裂させ続けました。その熱量の頂点が、この4th『ギヤ・ブルーズ』です。

アベフトシのナイフのようなギター、チバユウスケのヒロイックなしゃがれ声、猪突猛進するリズム。どこまでもシンプルでソリッドですが、これほどまでに贅肉を削ぎ落としてなおクールというのはロック・バンドの理想像そのもの。とりわけ本作は過去になくアグレッシヴでヘヴィなサウンドを獲得し、フル・スロットルで畳み掛けるロックンロール・ラッシュはあまりに痛快です。

これほどにストイックなロック・アルバムが、2000年代に英米で巻き起こるガレージ・リバイバルに先んじたものである事実を我々は誇らねばなりません。第2回フジロックフェスティバルの伝説とともに、1990年代における国産ロックの高揚をありありと伝える重要な資料です。

第18位『氷の世界』/井上陽水 (1973)

2年連続で年間ベスト・セールスを記録し、邦楽史上初のミリオン・アルバムとなった井上陽水の『氷の世界』。この驚異的な売上はフォーク全盛の影響も手伝っていますが、何よりも彼のソング・ライターとしての才覚ゆえでしょう。

アコースティックなサウンドや、社会や生活を切り取る歌詞表現。そうしたフォークの定型の中に、最早この作品はありません。表題曲はスティーヴィー・ワンダーの『迷信』を踏襲したファンクネスを表現し、その卓越した詩情は如何にも井上陽水らしい言語感覚によってシリアスであってかつ謎めいた独特の響きを有しています。

また作品冒頭のシームレスな展開には、当時のロックに顕著だったコンセプチュアルな志向の影響を見て取れます。フォークを下敷きにしながらロックへ接近し、それまでにない表現に辿り着いた本作は、まさしく語義通りのニュー・ミュージック。

第17位『POP VIRUS』/星野源 (2018)

ミュージシャンとしてのみならず、俳優、ラジオ・パーソナリティー、文筆家……その多彩な才能によって、星野源は今や国民的スターとして誰もに承認されています。しかしそのキャッチーな態度に潜む彼の強かな野心が、この『POP VIRUS』では表明されているのです。

モータウンからディアンジェロ、そしてコンテンポラリーR&B。ブラック・ミュージックの半世紀に及ぶ歩みを、彼は大胆にも本作に落とし込みます。『恋』や『アイデア』といったシングル群でもそうしたハイ・コンテクストな音楽性は打ち出されていますが、彼はそこに極めてJ-Pop的な愛嬌を加え、難なく大衆的なポップスへと昇華してしまっています。

ポピュラー音楽の源流たるブラック・ミュージックの研究と、歌謡的なポップネスの折衷。これは細野晴臣による「イエロー・マジック」の21世紀的表現と理解されるべきであり、まして時代を象徴するヒットまで生み出すその抜け目ない天才性は声を大にして指摘せねばなりません。

第16位『THE BLUE HEARTS』/THE BLUE HEARTS (1987)

「ロックとは何か?」……あまりに陳腐、それでいてあまりに本質的な問いかけです。もしその答えが迸る衝動と情熱にあるとするならば、このTHE BLUE HEARTSの1st以上に回答として適切な作品はこの国にないと断言してしまっていいでしょう。

甲本ヒロト/真島昌利という日本のジャガー/リチャーズが放つ楽曲は、どれも極めてシンプルでストレート。あらゆる修辞を廃した誠実さが胸を打つ歌詞、そして真っ直ぐに手を差し伸べるかのようなヒューマニティ溢れる甲本の歌声もあって、ひたむきなパンク・ロックの応酬はこれ以上なく優しいロック・レコードとして提示されます。

かつてエルヴィス・プレスリーが、ザ・ビートルズが、セックス・ピストルズが人々に示したロックの輝き。THE BLUE HEARTSが本作で見せたエネルギーは、彼らに匹敵するものです。多くの少年少女をロックに目覚めさせた、あまりに罪深い傑作。

(サブスクリプション未解禁)

第15位『FOR YOU』/山下達郎 (1982)

シティ・ポップの第一人者として、山下達郎の才能は今日では日本国内のみならず世界中で知られています。前作『RIDE ON TIME』の成功に続いて発表されたこの『FOR YOU』は、山下にとっての最高傑作にしてシティ・ポップ最良の1枚、そして日本の夏の永遠のサウンドトラック。

開幕を告げるギターのカッティングを聴くや否や、爽やかな風が体を撫で、眩いばかりの海の情景が眼前に広がる。この素晴らしい瑞々しさは、オールディーズからザ・ビーチ・ボーイズ、そしてファンクまでを熟知した山下の見識あってこそ。軽快なグルーヴと突き抜けるように伸びやかな歌声、豊かなメロディはポップスとしてあまりに上質です。

鮮やかな青を基調とした鈴木英人のアート・ワークも含め、本作は一貫して心地よい清涼感を表現し続けます。そのサウンド・ヴィジョンを前にして、誰とでもなく「夏だ、海だ、タツローだ!」と喧伝されるようになったのはあまりに自然なことに思えます。

(サブスクリプション未解禁)

第14位『ハチミツ』/スピッツ (1995)

空前のCDバブルの追い風を受け、スピッツはこの『ハチミツ』で大ヒットを記録します。しかしそのセールスや一聴して爽やかなメロディ・ライン、伸びやかな草野マサムネのヴォーカルばかりに気を取られては、この作品への理解としては片手落ちです。

軽快な聴き味のこの作品を見渡すと発見できるのは、ニュー・ウェイヴに由来する捻くれたアプローチの数々。そうした棘を春の昼下がりを思わせる温もりで包みこみ、ロック・バンドとしての表現とJ-Popとしてのポピュラリティを両立してみせた本作をもって、今日の我々が思い描くところのスピッツの音楽性が確立されました。

そうした陰と陽の絶妙なバランス感覚の極致こそ、本作収録のさりげない傑作『ロビンソン』。クレバーでありながらも突き詰めれば単に優れた音楽という一点のみで商業的成功を勝ち取ってみせたこの作品のキャラクターは、時代の中でも極めて稀有なものと言えるでしょう。

第13位『無罪モラトリアム』/椎名林檎 (1999)

多くの才媛がシーンを彩った世紀末においてもなお、椎名林檎の鬼才ぶりには突出したものがあります。彼女の存在を世に知らしめた処女作『無罪モラトリアム』での刺激的な表現力は、その物々しいアートワークとともに人々に衝撃をもって受け入れられることになります。

オルタナティヴ・ロックを基調としつつジャズや歌謡といった分野も包含する貪欲な楽曲の数々は、多くが彼女が10代の頃に書かれたもの。この早熟な作曲能力もさることながら、さらに驚くべきは既に「椎名林檎」というディーヴァが確立されている点です。その蠱惑的な妖気が、本作を魔性の名盤たらしめています。

想い人にキスをせがむ少女の心情を歌ったかと思えば歌舞伎町の女王を嘯く、そのどちらにも虚仮威しのリアリティを生み出す作家性は瞠目に値します。サウンド面では紛れもなくロック調の本作ですが、その筆致を思えばこのアルバムの本質はオルタナティヴな歌謡とも言えるのかもしれません。

第12位『泰安洋行』/細野晴臣 (1976)

ソロ活動を始めてほどなく、細野晴臣はエキゾチカ・ミュージックに魅了されます。理想化された東洋への憧憬に対する東洋からの回答、そうしたコンセプトから生まれた「トロピカル3部作」の最大の成功例がこの『泰安洋行』です。

ニューオリンズ・サウンドから沖縄民謡までを横断した本作のごった煮の音楽性を、ちゃんこ鍋とファンキーをかけて「チャンキー・ミュージック」と細野は称しました。あくまで彼が元来志向するアメリカン・ポップス由来の愛嬌はありつつも、オリエンタルで賑やかな聴き味はそれまでの作品と一線を画すユニークぶり。

異国情緒を満喫できる面妖な楽しさに溢れながらも、その異国は世界地図のどこにも存在しない、細野が独創したこの唯一無二の東洋音楽は奇天烈に躍動しています。彼が提唱した「イエロー・マジック」の理念を象徴する重要な作品の1つです。

第11位『ひこうき雲』/荒井由実 (1973)

19歳の少女のどこか儚げな肖像、そして後のJ-Popを代表するシンガー・ソングライターの原石。その2つが同居した奇跡的瞬間を見事に切り取ったのが、荒井由実のデビュー作にしてニュー・ミュージックの金字塔と誉高い『ひこうき雲』です。

幼い頃から触れていたクラシック音楽と現代的なポップスの融合をプロコル・ハルムに見たとは荒井自身の言ですが、まさしく軽やかで都会的な作曲には西洋的な気品が色濃く映っています。控えめかつ適切に華を添えるキャラメル・ママの演奏もあって、本作には当時流行のフォークにはない驚くべき洗練の要素があるのです。

伸びやかで優雅な楽曲の数々はいまだに色褪せぬエヴァーグリーンな輝きを帯びていますが、それはひとえに、この作品から時代や生活の匂いがしないためです。「有閑階級サウンド」を標榜した彼女の何と賢明なことか、普遍的な軽妙さを誇る邦楽史上最良のSSWアルバムこそがこの1枚。

第10〜1位

第10位『First Love』/宇多田ヒカル (1999)

800万枚という邦楽史上最大のセールスを記録した事実、それだけでこの『First Love』は未来永劫語り継がれるべき名盤です。しかし我々が真に目を向けるべきは、宇多田ヒカルという15歳の少女がもたらしたJ-Popにおける巨大な転換についてではないでしょうか。

日本とアメリカを行き来する幼少期を送った彼女にとって、歌謡とR&Bはどちらも等しく親しむべき音楽。だからこそ、本作にはJ-Popとコンテンポラリーなブラック・ミュージックが違和感なく同居しています。それはメロディとリズムの調和とも換言でき、それまでの邦楽にはなかった先駆的なアプローチにシーンは震撼しました。

1990年代のJ-Popは数多くのヒットに彩られた黄金時代であった一方、それらにはガラパゴス的なクリシェも散見されました。その停滞を打ち破り、革命的な音楽性と弩級のポップネスによってJ-Popを新たな地平へと導いた『First Love』は、邦楽史上における極めて重要な発明の1つです。

第9位『LIFE』/小沢健二 (1994)

フリッパーズ・ギター解散後、「「渋谷系」の王子様」とまで持て囃された小沢健二。その異名は彼の飄々とした出立ちだけでなく、チャーミングでいて同時に知的な音楽性にも由来します。その彼の個性が最も色濃く表れた傑作こそが、2ndアルバム『LIFE』。

本作を表面的に観察すれば、単にキュートなラヴ・ソング集という印象が浮かぶでしょう。しかしホーン・セクションが主張するサウンドやアルバムの題字までを隈なく見通した時、そこには彼のソウル・ミュージックに対するリスペクトが発見されます。そのスタイリッシュなオマージュの数々は、やはり「渋谷系」の態度そのもの。

収録楽曲のほとんどがシングル・カットされた事実が物語る通り、この作品はキャッチーなJ-Popとしても実に非凡。スノッブな表現に陥ることなくポップスとして丁寧に練り上げられた本作には、小沢健二が「渋谷系」のアイコンたる所以が刻印されています。

第8位『空洞です』/ゆらゆら帝国 (2007)

ゆらゆら帝国の音楽は、そのすべてが一見奇天烈でいてその実必然の時間軸上に定義されます。それは初期の猥雑なサイケ・ガレージにしろ、『しびれ/めまい』の実験性にしろ。その時間軸の終末に待ち構えるこの『空洞です』で、バンドは「完全に出来上がってしまった」のです。

サイケデリック・ロックのとろけるような退廃、歌謡曲のレトロなムード、クラウトロックの反復性、そうした要素を煮詰めた先に彼らが描いたのはタイトルの通りの「空洞」。仏教における「空」の概念にリンクする、実体のないままに存在するという難解さをこの作品は聴覚によって我々に訴えかけています。

本作は紛れもなくゆらゆら帝国の最高傑作であり、邦楽史上の大名盤です。しかしながら、『空洞です』がバンドや日本の音楽を代表する1枚とは言い難いのも事実。後にも先にも似通ったアルバムのない、何人にも到達し得ぬ表現を見せた日本ポピュラー音楽の突然変異こそがこの1枚。

第7位『空中キャンプ』/フィッシュマンズ (1996)

メガ・ヒットに沸くメジャー・シーンの一方で、1990年代の邦楽は水面下で数々の才能が芽吹いてもいました。その中でひときわ異彩を放っていたのがフィッシュマンズであり、「世田谷三部作」の第1作『空中キャンプ』は彼らの異端ぶりを示す孤高の傑作です。

レゲエやダブを導入したリズムは特有のフックを表現しつつ、ドリーム・ポップ的なサウンドと旋律は甘い浮遊感を演出。このように要素のそれぞれを特定の音楽性に結びつけることは可能ですが、それらが一体となって生む陶酔は奇跡的な個性を生み与え、この広い宇宙の中でも当時の東京は世田谷にしか構築できぬ美を体現しています。

ピントのぼけた街並みを浮遊するメンバーという本作のアートワークは『空中キャンプ』の音楽性だけでなく、邦楽史におけるフィッシュマンズの存在感をも象徴します。夢と現を彷徨う、その非日常的なトリップが今や世界中から支持されるのも無理からぬことでしょう。

第6位『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』/イエロー・マジック・オーケストラ (1979)

細野晴臣が掲げた、日本独自の音楽「イエロー・マジック」の理念。この構想は坂本龍一と高橋幸宏という個性的な才能と化学反応を起こし、YMOの2nd『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』においてテクノ・ポップという意外な結末を見ることになりました。

1stの時点ではディスコやオリエンタル・ミュージックの要素も強かった彼らですが、本作では英米でのニュー・ウェイヴの台頭に反応し、よりキャッチーかつエレクトロな統一性に傾倒。その結果、電子音楽の大家たるクラフトワークにも匹敵する先駆性を、どこか東洋的なニュアンスを残したまま鮮やかに表現することに成功しています。

そしてこれほどチャレンジングな創作物が、こともあろうにカルチャー全般を巻き込む一大センセーションを生んだ事実も特記すべき。リリース当時から今日に至るまで、ヴォコーダーが無機質に告げる「TOKIO」の一言を聴けばそこには立ち所に永遠の未来都市が広がることでしょう。

第5位『FANTASMA』/Cornelius (1997)

フリッパーズ・ギターの片翼、Corneliusこと小山田圭吾はソロ・キャリアにおいてその貪欲な探究心を拡大していきました。彼の最高傑作『FANTASMA』でその冒険と野心は最高潮に達し、理路整然とした音の乱気流として結実することになります。

ハード・ロック、ドラムンベース、ボサノヴァ、果てはザ・ビーチ・ボーイズからバッハまで、本作で彼がモチーフにした音楽性はあまりに多彩。この大胆な横断は、「渋谷系」における引用の文化の集大成とも言えるでしょう。そこから生まれたカオティックな楽曲は未来的なエレクトロによって結びつけられ、驚くべき必然性に満ちたアルバムとして成立しています。

ブライアン・ウィルソン、ベック、リチャード・D ・ジェームス……彼らのような卓越した音響感覚に、この『FANTASMA』は邦楽作品としての独自の視点から到達してみせました。本作を契機にCorneliusの名は世界が知るところとなりましたが、それも当然の結果です。

第4位『SONGS』/シュガー・ベイブ (1975)

後のシティ・ポップ・ムーヴメントを牽引した山下達郎と大貫妙子が在籍したバンド、シュガー・ベイブ。その唯一作として大滝詠一傘下のナイアガラ・レーベルからリリースされた『SONGS』は、国産ポップスの源流としてこれ以上ない1枚です。

山下・大滝両名を筆頭に並々ならぬ音楽マニアが集ったこの作品とあって、その構成要素はいずれもアメリカン・ポップスを志向したもの。小気味よく跳ねるリズムに軽やかなメロディ、美しいハーモニーは当時支配的だった歌謡の手法とは一線を画しています。そして当然、山下と大貫の滑らかで洗練された作曲能力は本作の時点で実に秀逸。

歌謡でもGSでもフォークでもニュー・ロックでもない、そのあまりに画期的な音楽性は当時の市場に受け入れられることなく終わる結果となりました。しかしその新奇性はニュー・ミュージック、シティ・ポップ、そして今日のJ-Popへと継承されているのです。結果として『SONGS』が表現するのは正に、J-Popの原風景そのもの。

(サブスクリプション未解禁)

第3位『風街ろまん』/はっぴいえんど (1971)

細野晴臣、大滝詠一、鈴木茂、松本隆、それぞれに邦楽の発展に巨大すぎる貢献を果たした才能が集結した奇跡こそがはっぴいえんど。彼らの2nd『風街ろまん』は、様々な議論を生みながらも一般には邦楽史上における最重要作の地位をほしいままにしています。

バッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープを参照したルーツ志向は、当時では異端とも言える音楽性です。その中でも、捻りが効きながらも素朴な味わいの三者三様の作曲、そして都市開発によって失われゆく東京の情景を「風街」に託した松本の作詞は、断じて日本にしか生み得ない風情を本作に与えています。

本作に対する「日本語ロック論争」に終止符を打った決定的名盤という評価にはしばしば批判の声が挙がり、「はっぴいえんど中心史観」に関しても再考の余地があることは事実でしょう。しかし、本質的に日本のフォーク・ミュージックと言える『風街ろまん』が極めて優れた作品であることもまた、明白な事実なのです。

第2位『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』/フリッパーズ・ギター (1991)

1990年代サブ・カルチャーの象徴、「渋谷系」の震源地として、フリッパーズ・ギターは大衆をユーモラスに楽しませ続けました。その彼らの最後の悪戯こそが、突然の解散の直前にリリースされたこの作品です。

再生するや否や聴こえてくるのは、ザ・ビーチ・ボーイズの名曲『神のみぞ知る』。その当惑のままに、本作は無数のサンプリングによってコラージュ的に、摩訶不思議な世界観を構築していきます。その中で明示されるアシッド・ハウスやシューゲイズといったUKシーンの最先端からの影響は、2人の驚異的な嗅覚の賜物です。

『ラヴレス』や『スクリーマデリカ』といった本国の記念碑的名盤より僅かばかり先んじてリリースされたこの作品が示すのは、邦楽が国際的なフロンティアに立ち得ることを証明した記念すべき瞬間。無許可のサンプリングゆえ廃盤の憂き目にある本作は、その唯一無二の先進性と個性を誇って今もなお粛然と聳え立っています。

(サブスクリプション未解禁)

第1位『A LONG VACATION』/大滝詠一 (1981)

商業的にも大きな成功を掴み、大滝詠一の名を世に知らしめた大名盤『A LONG VACATION』。しかし実際にこの作品が提示するのはただの高品質なポップスではなく、大滝詠一という1人の学究の徒が見出した音楽的挑戦の集大成に他なりません。

それまでのソロ・キャリアで目立ったノベルティ・ソングのユーモアは鳴りを潜め、大滝が神妙にポップスへと立ち向かった本作。その爽やかなメロディ・センスを存分に発揮するための舞台に彼が選んだのは、フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」を借用した堅牢かつ壮麗な音のリゾートです。

しかしながら、あくまでこの作品の本質はメロディであり歌唱。盟友・松本隆の天晴な詩才も手伝って、『A LONG VACATION』は多くのオールディーズを引用しながらも一貫して邦楽的な表情を浮かべています。その表情は聴き手に非凡な親しみを抱かせ、それゆえに本作は日本初のミリオンセラーCDになり得たのでしょう。

途方もない音楽への知識と執着をもってして、ポピュラー音楽における先進国である英米の音楽を日本の歌謡的感性のうちに再構築してみせる。J-Pop、ひいては邦楽の至上命題を達成した本作を、日本音楽史上の最高傑作とするのはまったくもって妥当です。

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