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【全アルバムレビュー】UNISON SQUARE GARDENのストーリーを流線形にしたい【祝・20周年】

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さて、これは時事的なトピックですので、なんとしても急ぎ投稿せねばなりません。

まさに今日、2024年の7月24日、私が心から愛するロック・バンド、UNISON SQUARE GARDENが結成20周年を迎えます。バンドにとっても大きな節目であるこのアニバーサリーに祝祭の鐘を鳴らすべく、「20年目のプロローグ」と題したプロジェクトがingで少しずつ進行中。

で、そこに私もちょっくら便乗してみようかなと。このブログでUNISON SQUARE GARDENのことってほぼほぼ言及してこなかったんですけど、過去に投稿した「私を構成する42枚」みたいな企画で最重要の8枚に彼らの3rd『Populus Populus』を、MJやクイーン、ビートルズといった面々の中でピックアップする程度にはこのバンドが大好きなんですね。今見返してもすごく場違いな感がありますけど、紛れもなく偽らざる本心です。

ということで、久しくやってこなかったアルバム・レビューの形式で彼らの20年を振り返り、そのフルカラーなキャリアを私なりに総括していきたいと思います。今回は長くなるかと思いますが、最後までよろしくどうぞ。

『新世界ノート』/『流星行路』(2008)

Full Color Program (D.A Style)
『流星行路』収録のテイクがオフィシャルでは聴けないので、10周年記念アルバム『DUGOUT ACCIDENT』に収められた再録バージョンを。

まずは彼らがインディーズ時代に発表した2枚のミニ・アルバム、『新世界ノート』『流星行路』から。この2枚、メジャーデビュー以前ということもあってサブスクリプション・サービスでは聴けないんですよね。結構好きな作品なんですけど。

この時期の音楽性って、所謂「下北系」みたいなニュアンスが比較的強いと思っていて。田淵智也の作曲ポテンシャルはこの時点から相当に高いですし、ニューカマーにしては演奏技術も高いとは思うんですけど、まだ今のUNISON SQUARE GARDENが示すハイ・カロリーなロックとポップの中間地点みたいな領域には至ってないというのが率直な感想ですね。

『新世界ノート』収録の『アナザーワールド』『サーチライト』、『流星行路』収録の『2月、白昼の流れ星と飛行機雲』といったバラード群にそれが顕著かな。今の作風だとありえない、ものすごくオーソドックスなロック・バンドによるバラードって感覚です。これはインディーズゆえにプロダクションやミックスがどうしてもチープになってしまうから、サウンド面で強化できないという側面もあると思うんですけど。

とはいえ、後にデビュー・シングルとなる『センチメンタルピリオド』や完全無欠のロックンロールこと『フルカラープログラム』、あるいはUNISON SQUARE GARDENの音楽性の特徴の1つである「やたらとキメを多用する」性格が表れた最初の楽曲『箱庭ロック・ショー』なんかには、この時点からバンドの向かうべき方向性が示されているような気がします。

個人的にこの2枚からフェイバリットを挙げるなら『MR.アンディ』という曲で。これ、すごく面白いんですよね。構成としては四つ打ちのミディアム・ナンバー、クラップも入っているので聴きようによってはフェス・アンセムっぽくもなるんですけど、ものすごくぶっきらぼうで投げやりなんですよ。キャッチーでポップなのにエッジィというか。このちょうどいい温度感、UNISON SQUARE GARDENのスタンスそのものって感じでしっくりくるんですよね。

『UNISON SQUARE GARDEN』(2009) ~ロックバンドは、楽しい。~

UNISON SQUARE GARDEN「センチメンタルピリオド」MV

さあ、ここからはメジャー・デビュー後のアルバムです。記念すべき1stアルバムはセルフ・タイトルですね。洋楽ならいくらでも挙げられますけど、邦楽ロックで1stをセルフ・タイトルにしてるバンドってあんまり思いつかないですね。

ただ、これはもう満を持してセルフ・タイトルに相応しい作品。というのも、デビュー以前のアマチュア時代からライヴで演奏してきたレパートリーを一挙大放出という内容なんですね。先ほど名前を挙げた『センチメンタルピリオド』と『箱庭ロック・ショー』は再録音されて収録されていますし(流石メジャー盤、音の肉付きがまるで違います)、古株でいけば『デイライ協奏楽団』『等身大の地球』『クローバー』なんかがあります。

とはいえ、こちらも名前は挙げた『フルカラープログラム』、それから今でもライヴのクライマックスの定番『ガリレオのショーケース』、このインディーズ時代きってのキラーチューンを揃って選外としているのが捻くれているというかね。『ガリレオ』なんて、「これからもずっとライヴでやって、この曲なんだろうと思って調べたら「1stシングルのカップリングかよ!」ってなったら面白そう」という理由でカップリング送りですから。

閑話休題、それでもしっかりとライヴの中で育ててきた楽曲がメインですから、先のミニ・アルバム2枚と比べると格段にレベルアップしてるのが見て取れます。ただ、ものすごく難癖をつけるなら『MR.アンディ -party style-』という打ち込みサウンドを導入したリアレンジに何やら大人の気配を感じてしまう点、あるいはアルバムの様式美みたいなところに若干の弱さがある点が気になります。

序盤はアップ・テンポな曲で小気味よく畳みかけるのが痛快なんですけど、終盤がちょっと重たいかな『WINDOW開ける』からの『マスターボリューム』でスリリングなギター・ロックを鳴らし、真摯なスロー・バラード『いつかの少年』でその熱気を抱きしめるところまではいいんですけど、そこから『箱庭ロック・ショー』でボルテージを上げるのか、と思いきや再びバラードの『クローバー』に着地する。ここがちょっと自意識がクライシス迷子になっている感覚はぶっちゃけあります。

そのいきあたりばったりな若々しさは1stアルバムの特権といえばそれまでですし、その若さが愛おしい作品ではあるんですよ。ただ、なまじある時期からのUNISON SQUARE GARDENがクレヴァーな創作に傾く分、ちょっとその荒さが目立ってしまいますね。

『JET CO.』(2010) ~可能性なら、いくらでもある。~

Eleven Twenty-five (PM)

続いて2nd『JET CO.』ですが……ごめんなさい、私はこのアルバムをあまり評価していません。記念日を祝うというのにこんなコメントしていいかわかんないですけど、僕が言うべき言葉は僕しか知らないので。

色んな要因が重なった結果、精彩に欠く作品になっているんですよね。まず、1stの時点で吐き出せるレパートリーをおおむね出し切ってしまったという点。本作のフィナーレを飾る大名曲『23:25』はインディーズ時代から切り札として活躍していましたけど、他はほとんど1st以降に作曲されてたはずですね。

そしてそこに付随して、田淵智也のスランプ。これは彼の描きたいロック像と現実の乖離に対する失望や憤りだったり、メンバー間の不和だったりが影響しているらしいんですけど、作詞にも作曲にもゴツゴツした感情が目立ってしまっています。それ自体はむしろロックかくあるべしという感じなんですが、なにぶんUNISON SQUARE GARDENってそういう棘をポップに昇華するバンドなので、その昇華の作用がじゅうぶんに働いていない。これがすごく致命的です。

楽曲単位だといいものも多いんですよ?『ライドオンタイム』『アイラブニージュー』は問答無用にハッピーで軽快なナンバーですし、チャーミングな『チャイルドフッド・スーパーノヴァ』、過去になくダークでひりついたバラードの『夜が揺れている』『スノウアンサー』と、個人的にも好きなものが多いです。

ただ、それらがどうしても喧嘩してしまっていて、アルバムとしてのまとまりを感じさせてくれない。1stの課題を解決できていないし、より散漫な作風になってしまっている感は否めません。本作唯一のシングル『cody beats』から『気まぐれ雑踏』『キライ=キライ』の流れなんてはっきり言ってものすごく不自然ですから。

そのあたりは彼らも自覚してるんでしょうね、近年のライヴでこのアルバム収録の楽曲が演奏される機会ってすごく少ないです。『23:25』は流石に定番ですけど、あとは『ライドオンタイム』か『アイラブニージュー』をたまにやってファンを沸かせる、それくらいで。聴き返す機会も正直ほとんどないアルバムです。

『Populus Populus』(2011) ~それでも、それでも明日を探す。~

UNISON SQUARE GARDEN「オリオンをなぞる」MV

さて、ちょっとネガティヴな発言が続きましたが。ここでお出まし『Populus Populus』です。個人的にUNISON SQUARE GARDENで一番好きなアルバムですね。

前作に感じられたフラストレーションや失意、それを見事に信念をもってポジティヴに変換してみせた1枚です。1曲目の『3 minutes replay』「世界が変わる夢を見たよ」と始め、フィナーレの『シュプレヒコール~世界が終わる前に~』では「世界が終わる前に」と結ぶ。この「世界」というのは、きっとUNISON SQUARE GARDENにとっての「理想」とニアリーイコールな気がします。本当に鳴らしたい音楽、それができる間はせめて。そんな、ちょっと捨て鉢な覚悟みたいなものを感じさせます。

そして楽曲のクオリティはますます向上。今でこそUNISON SQUARE GARDENというとアニメ・タイアップがイメージとして強いですけど、その長きにわたるパートナーシップは本作から。『kid, I like quartet』『カウンターアイデンティティ』、それから『オリオンをなぞる』の3曲ですね。『カウンターアイデンティティ』に関してはタイトルこそ遷移していきましたが楽曲の原型はインディーズ時代からあるものなので例外なんですが、アニメの世界観とUNISON SQUARE GARDENのヴィジョンをクロスオーバーさせるセンスはこの時点で炸裂してます。

他にもライブでの定番中の定番『場違いハミングバード』やギター・ボーカルの斎藤宏介によるあたたかなミディアム・ナンバー『スカースデイル』、楽し気な4つ打ちナンバーの『きみのもとへ』やこけおどしなジャズ・テイストが面白い『CAPACITY超える』「ラブ・ソングの概念をぶっ壊したかった」という執念で書かれた傑作バラード『未完成デイジー』と、とにもかくにも曲のレベルが圧倒的に高まっています。

そしてそれらが、極めて流麗な展開によって紡がれていく。ここなんですよね。これまでの2作にあった展開の歪さが、本作にはまったく感じない。このアルバムとしての哲学が見て取れるのが、それこそ『CAPACITY超える』から『ハミングバード』の繋がりです。『ハミングバード』って4カウントから始まるんですけど、このカウントを前曲の『CAPACITY超える』の方に収録しているんです。要するに、シャッフル再生なんてしようもんならこのカウントが一切機能しなくなる。きっちり通して聴きなさいという言外の圧を感じさせるこだわりですよ。

展開に関しては本当に文句なしのアルバムなんですけど、特に好きなのが最終盤で。『未完成デイジー』でいったん感動のクライマックスを演じたかと思いきや、『オリオンをなぞる』でもう一度ボルテージをマックスに、そして最後は『シュプレヒコール』で大団円。このジェットコースター的展開って実は1stの締め方に似ているんですけど、こっちはさっき苦言を呈したような重たさやふらつきがまったくない。バンドの成長を感じさせます。

やっぱり『オリオンをなぞる』がものすごく特別な曲なんですよね。アニメ『TIGER & BUNNY』のオープニングに起用され、一躍バンドの名を世に知らしめた名刺代わりの傑作。だからこそ、アルバムの最終盤で満を持して登場した時の千両役者っぷりがすごいんです。もっと言うと、音としてのUNISON SQUARE GARDENを象徴する『オリオン』の後に、言葉としてのUNISON SQUARE GARDENを象徴する『シュプレヒコール』が待ち構えている。この構図が無敵ですね。

そこに加えて、『オリオン』って初めてバンド以外のサウンドを導入した意欲作でもあります。それが結果としてサウンドの説得力や分厚さに貢献していますし、よりバンドのイメージをクリアにしている。実際何かのインタビューで田淵智也も「僕の頭の中ではいつも鳴っている音だったけど、どうやらちゃんと音として表現しないと伝わらないみたい」という旨の発言をしているんですね。この『オリオンをなぞる』での挑戦なくして、バンドは次のステージには進めなかったと思います。

『CIDER ROAD』(2013) ~行き着いた先に、何もなくても。~

Chandelier Waltz

『オリオンをなぞる』と『Populus Populus』の成功、そこに続くようにしてリリースされたのが4枚目の『CIDER ROAD』です。おそらくバンドのキャリアを語るうえで最重要の1枚でしょうね。田淵智也にとってもものすごく思い入れの強い作品だということは、彼の発言の端々に感じられます。

田淵智也にとってのアルバムの美学に、「一度聴いた後、もう一回聴き直したくなるような作品」を理想とするというものがあるんですけど、その美学を達成するためにアルバムはなるべくコンパクトに、具体的な数字を出すと50分以内にまとめるという傾向があります。これはほぼすべてのアルバムで徹底されているんですけど、その例外が『CIDER ROAD』で。1時間オーバーの作品ってこのアルバムだけなんですよ。

ただ、収録曲数は前作と同じ全13曲。じゃあなぜこんなに長いのかというと、どの曲も展開の詰め込み、やりたいことを全部やったみたいなカロリーの高さが原因です。自身の中での美学を捨てざるを得ないほど、この作品で鳴らすべき音楽があるという意地を感じますね。

オープナーにしてこれぞUNISON SQUARE GARDENといった弾けるポップス『to the CIDER ROAD』からスリリングなアンサンブルの応酬『ため息shooting the MOON』にシームレスに繋ぎ、さらにシングル『リニアブルーを聴きながら』を畳みかける。これだけでお腹いっぱいなんですけど、さらにホーン・セクションを大々的に取り入れた『like coffeeのおまじない』、そして「命を削って書いた」とまで述懐される渾身の名曲『お人好しカメレオン』へ。この前半戦5曲の熱量とポップネス、ちょっとゾーンに入ってますね。

一方でバラードにもいい楽曲が並んでいて、『光のどけき春の日に』『君はともだち』、ややアップ・テンポではありますけど『クロスハート1号線 (advantage in a long time)』やシングルの『流星のスコール』みたいなラインナップですね。これらも全部「1番2番ブリッジ大サビ」というコッテコテの構成です。本当に手を抜いていない、肩に力の入りまくった作曲。

そしてクライマックスの『シャンデリア・ワルツ』。これもまたライブでずっと演奏されている代表曲なんですけど、『フルカラープログラム』や『センチメンタルピリオド』、『オリオンをなぞる』と並んで「これがUNISON SQUARE GARDENです」と言わんばかりの火の玉ストレートみたいな曲でね。歌詞もいいんだな、前作『Populus Populus』で「世界が終わる前に」と歌い、もがきながらも行き着いた『CIDER ROAD』で「世界が始まる音がする」と歌う。この完璧なアンサー、痺れますね。実際、本作以降これまでの迷いや葛藤みたいな成分って彼らの音楽からどんどんなくなります。

「これを聴いて、J-Popの人が土下座しにこないかな」なんてことを冗談半分に(ということは半分本気で)思っていたというこの『CIDER ROAD』、この作品によってUNISON SQUARE GARDENにとっての「ポップス」とは何かが完全に提示されたような気がしますね。『Populus Populus』で掴みかけた光を、しっかりと『CIDER ROAD』で体現する。このストーリーがあってこそ、今のUNISON SQUARE GARDENはあると思っています。

『Catcher In The Spy』(2014) ~事件ならとっくに起きてる。~

UNISON SQUARE GARDEN「桜のあと (all quartets lead to the?)」MV

続いて5th『Catcher In The Spy』ですけど、ここからのUNISON SQUARE GARDENのディスコグラフィってすごく面白いんですよ。というのも、前回のアルバムに対してどういうアプローチをぶつければ刺激的になるかという計算によってコンセプトが構築されています。

『CIDER ROAD』が『Populus Populus』でのアプローチを発展させた、バンド外のサウンドも大々的に取り入れたムッキムキでニッコニコのポップスであったのに対して、この『Catcher In The Spy』は「いや、でも俺らロック・バンドなんで」と言わんばかりにソリッドなバンド・アンサンブルに照準をあてた、ひりついたロック・アルバムに仕上がっています。

リード・トラックにしてこちらもライヴの定番『天国と地獄』にそれは明らかですよね。4つ打ちナンバーですしサビなんてライヴではシンガロングの対象になるんですけど(個人的にそれがイヤで、この曲はあまり得意ではないですが)、それ以上に切れ味のいい演奏と挑発的なヴォーカルが突き放した印象を与えます。こういうロック・チューンだけでも、『サイレンインザスパイ』『流れ星を撃ち落せ』、ちょっとテイストを変えたヘンテコなものだと『蒙昧termination』なんかがありますね。

とはいえポップなUNISON SQUARE GARDENも健在で、ホームラン級のシングル『桜のあと (all quartets lead to the ?)』に『23:25』に対するセルフ・オマージュがニヤリとさせられる『instant EGOIST』、これはバラードですけど『TIGER & BUNNY』三部作のラスト(ラスト?)を務める、ピアノをフィーチャーした『harmonized finale』、この辺はしっかり前作からのリスナーを引っ張り上げるナンバーになっていますね。

それと個人的なこのアルバムの聴きどころが2曲目の『シューゲイザースピーカー』。これもUNISON SQUARE GARDENのロック・サイドを反映した楽曲ですし、田淵が言うところの「M2勢」でもあります。この「M2勢」について解説しておくと、本作以降しばらくUNISON SQUARE GARDENのアルバムって「1曲目で変なことをして、2曲目で一気に剛速球を投げることでリスナーを揺さぶる」というギミックが常套手段になっていきます。この剛速球にあたるナンバーを「M2勢」と表現する訳ですけど、『シューゲイザースピーカー』はいわばその第一号。

加えてこの曲は歌詞がいい。特にラスサビに入る直前ですね。

どんなヒットソングでも救えない命があること 

いいかげん気づいてよねえ だから音楽は今日も息をするのだろう

『シューゲイザースピーカー』より引用 (作詞:田淵智也)

ここがもう最高でね。私のXのプロフィールにも引用しているんですけど、音楽の意味、少なくとも私にとってのそれをピシャリと言い当てた素晴らしい歌詞です。そしてここまでがむしゃらな歌詞、たぶんこれが最後じゃないかな。

最後の『黄昏インザスパイ』もいい味を出していてね。前提としてアグレッシヴなロック・アルバムである本作を、しかし過去に類を見ないほど優しいバラードでまとめていく。どうしても見え隠れする、UNISON SQUARE GARDENのポップネス。まるでスピッツの『ハヤブサ』のようなアプローチじゃないですか?そして『ハヤブサ』同様ちょっと歪な作風の印象もあるんですけど、その危うさみたいな部分も本作の空気感にとってはむしろプラスでね。そういう「崩し」の技法をやる余裕みたいなものも、この作品で初めて獲得した性質な気がします。

『Dr. Izzy』(2016) ~どこを晒すか、どこを隠すか。~

UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」MV

さあ、『Cather In The Spy』を経て、UNISON SQUARE GARDENは何気ない記念日、10周年のアニバーサリーを迎えます。初となる日本武道館公演やセレクション・アルバム『DUGOUT ACCIDENT』、そして『シュガーソングとビターステップ』のスマッシュ・ヒット。そうしたいいこと尽くめの1年を走り抜け、次なる一手としてバンドが示したのが『Dr. Izzy』

これがまた最高にUNISON SQUARE GARDENらしい仕上がりなんですよ。表現を選ばずに言うと、ものすごく斜に構えたアルバム。なにしろ1曲目の『エアリアルエイリアン』が不穏なシンセサイザーを主体とした複合変拍子のナンバーですからね。『シュガーソング』で初めてUNISON SQUARE GARDENに触れたリスナーに、「それはそうと俺らに変な期待はしないでね」と一方的に三行半を突きつけるという捻くれに捻くれた開幕です。

そこに続く『アトラクションがはじまる (they call it “NO. 6”)』はUNISON SQUARE GARDENの王道をいく疾走感のあるポップスですし、『場違いハミングバード』のリメイクといった感もある『オトノバ中間試験』やエッジィな『パンデミックサドンデス』、それからイズミカワソラがピアノとコーラスで参加した『mix juiceのいうとおり』と、幅広くもキャッチーな楽曲はしっかり収録されています。そしてもちろん、『シュガーソングとビターステップ』も。

いい曲をしっかり作る、そういう点でしっかり「通常営業」ではあるんですけど、随所に感じる「ああ、こいつら売れる気はないんだな」という気概が気持ちいい。例えばそれは対となる『マイノリティ・リポート (darling, I love you)』『マジョリティ・リポート (darling, I love you)』だったり、アルバムのスパイスとなっている『BUSTER DICE MISERY』だったり、この辺の曲ですかね。いい意味で「アルバム曲」っぽい、言ってみれば『CIDER ROAD』の頃の作風とはずいぶんと違う肩の力が抜けた作曲。

その点でいけば、今まではアルバムの最後って気合の入った名曲でクロージングしていたところを、頭空っぽで爆走する『Cheap Cheap Endroll』が担っているのも面白い。しかもサビの歌詞、「君がもっと嫌いになっていく」ですよ?この不親切極まりない、しかしバンドとリスナーのちょうどいい温度感を提示するぶっきらぼうさがスタンスとして天晴れ。

そうそう、アルバムのコンセプト意識という点で言うと、もう一度『mix juiceのいうとおり』には触れておいた方がいいですね。この曲、実は『Catcher In The Spy』の時点で完成していたんですけど、アルバムの空気感に合わないという理由でリリースが先延ばしになったという経緯があります。このキャリア屈指の名曲をあえて温存し、『シュガーソング』とともに次作の切り札として最も有効に機能させる。この計算高さが、彼らの創作がブレない最大の根拠なのかなと。

個人的に最愛のアルバムはさっきも明かしたように『Populus Populus』ですし、バンドにとって最重要の1枚は『CIDER ROAD』だとも思うんですけど、UNISON SQUARE GARDENの入門に一番相応しいのって実はこの『Dr. Izzy』のような気がしています。サウンド面でもそうですし、バンドのスタンスが一番くっきりとしている1枚なのでね。

『MODE MOOD MODE』(2018) ~かくして万事は気分の仕業。~

UNISON SQUARE GARDEN「君の瞳に恋してない」MV

『Dr. Izzy』で無事(?)セル・アウトを回避したUNISON SQUARE GARDENですが、それでもシーンからの支持はどうしても高まります。そりゃそうだ、UNISON SQUARE GARDENちゅうのは、すげえバンドですからね。『Izzy』以降、配信限定シングル『Siren Libre Mirage』を含めて実に5曲のシングルをリリースするという精力的な活動を見せた後に発表したのが『MODE MOOD MODE』です。

これも『Dr. Izzy』に対する逆張りから出発しているアルバムなんですが、その答えとして提示されたのは「全力で振りかぶったド派手なポップス」です。前回でバンドの「通常営業」ははっきりさせた、だから今回はちょっくら寄り道。そういう狙いですね。

それは4曲のシングル、『Siren Libre Mirage』、『10% roll, 10% romance』『Invisible Sensation』『fake town baby』という手札を大盤振る舞いしたという点でもそうですし、それ以上にアルバムの軸となる2曲、『オーケストラを観にいこう』『君の瞳に恋してない』盛大なバンド外サウンドを鳴らしている点で表現されています。前者はタイトル通りオーケストラを、後者はホーン・セクションをサウンドの軸にしていますからね。

で、この6曲を入れるとなるとかなりアルバムのコントロールは難しくなるじゃないですか。4番バッター級の楽曲がアルバムの半分を占める、これってアルバムという物語の中ではときに弱点になりますから。しかしそこは流石の名采配、グランジ調の『Own Civilization (nano-mile met)』やアダルティなシティ・ポップ風『静謐甘美秋暮抒情』、どんちゃん騒ぎのロック・チューン『MIDNIGHT JUNGLE』といった名脇役を適切な位置に配置することで見事な緩急とドラマを生んでいます。

特に面白いエピソードがあるのが『フィクションフリーククライシス』ですね。この曲、『Invisible Sensation』へとノンストップで繋がるギミック的な作用があるんですけど、当初ここには『ラディアルナイトチェイサー』という楽曲が収録される予定でした。ただ、そうなるとアルバムが重たくなりすぎるという懸念があったようで、急遽差し替えで1日で作られたナンバーとのこと。こういう配慮が、UNISON SQUARE GARDENのアルバム・メイクへの信頼感に繋がるんですよね。ちなみに『ラディアルナイトチェイサー』はシングル『春が来てぼくら』のカップリングという位置に収まりました。

そう、この話の延長線上で『春が来てぼくら』の話もしておきましょう。この曲、アニメ『3月のライオン』のテーマ・ソングとして『MODE MOOD MODE』以前にリリースされたものなんですけど、本作には収録されていません。それもさっき触れたアルバムのバランス感覚の問題で、「シングル5曲はアルバムとしての美学に反する」という思いから収録を見送ったとのこと。『春が来てぼくら』は田淵智也にとっても会心の一撃だったはずなんですけど、この曲を最大限に輝かせるのは『MODE MOOD MODE』ではない、だから見送る。この判断、流石です。

こうして緻密に作られた本作、リリース前の謳い文句に「わからずやには見えない魔法を、もう一度」とありました。これ、『CIDER ROAD』収録の『シャンデリア・ワルツ』の一節「わからずやには見えない魔法をかけたよ ねえ、ワルツ・ワルツで」の引用なんですよ。この歌詞を書いたとき、田淵はうっかり泣きそうになったというほどお気に入りのパンチラインなんですけど、それをここで持ち出す意味。それは『MODE MOOD MODE』が『CIDER ROAD』の続編、より詳細に言えば「今のUNISON SQUARE GARDENが作る『CIDER ROAD』」みたいなコンセプトがあったんじゃないかと考察しています。

当時のUNISON SQUARE GARDENが出し得るすべてを注ぎ込んだ入魂の1枚『CIDER ROAD』で、彼らにとってのポップスとは何たるかが確立されたと先ほど書きました。では、そこから7年を経た今のUNISON SQUARE GARDENのモードでできる最大限のポップスとは?その答えがこの『MODE MOOD MODE』じゃないかと思っています。

『Patrick Vegee』(2020) ~食べられないなら、残しなよ。~

101kaime No Prologue

さあ、『MODE MOOD MODE』というヘヴィ級の名作をドロップして、UNISON SQUARE GARDENは結成15周年を迎えます。大阪は舞洲の特設会場で行われた記念ライヴ『プログラム15th』、B面集『Bee Side Sea Side』、そして初のトリビュート・アルバム『Thank You, ROCK BANDS !』と2日間にわたって開催されたトリビュート・ライブ。あくまで通過点だった10周年と打って変わって盛大に浮かれまくった充実の1年を送った訳ですが、その翌年から件の新型感染症が大流行、バンドの活動も否応なしに足止めを食らう中で発表されたのがこの『Patrick Vegee』

ここで言い切ってしまいましょうか、UNISON SQUARE GARDENの最高傑作はこの1枚です。ええ、『Populus Populus』でも『CIDER ROAD』でも『MODE MOOD MODE』でもなく。何故こう断言できるのかというと、彼らのカタログ中「アルバム」としての美意識がピークに達した作品だからです。

本作に収録されたシングルは3曲。原点回帰的な『Catch up, latency』にUNISON SQUARE GARDENの変態的アンサンブルの極致『Phantom Joke』、そしてここで待望の登場、田淵智也の作曲の最高到達点『春が来てぼくら』です。この三者三様の魅力を持つシングルを軸に構築されるアルバムなんですが、この主役を引き立てるための技巧が面白くて。

『latency』の前曲『スロウカーヴは打てない (that made me crazy)』では「凸凹溝を埋めています つまりレイテンシーを埋めています」、『Phantom』の前曲『夏影テールライト』ではに消えたなら つまりジョークってことにしといて」、『春が来てぼくら』の前曲『弥生町ロンリープラネット』では「そして僕らの春がくる。このように、シングルへと繋がる歌詞で楽曲が結ばれているんですね。

この小さじ一杯のカラクリによって、シングルという主役にスポットを当てつつ、アルバムの緩急をはっきりとつけている。しかし一方でこの手法の弱点として想定される、前曲が「引き立て役」になってしまうという部分を見事に回避しています。『スロウカーヴ』はしっかりとUNISON SQAURE GARDENらしいチャーミングかつ毒っ気のあるポップ・チューンだし、『夏影テールライト』はハーモニー・ワークとメロディにこだわり抜かれたミディアム・ナンバーの名曲、そして『弥生町』は初期の雰囲気も醸した素朴ながらに力強いバラードと、しっかり楽曲としてのプレゼンスが強いものを配置していますから。

ただ、このアルバム真の主役はこのシングルのどれでも、リード曲の『世界はファンシー』でもありません。フィナーレを飾る大作『101回目のプロローグ』です。まるでプログレッシヴ・ロックかのように次々と展開していく中で歌われる「君だけでいい」「よろしくね はじまりだよ」「世界は七色になる」といった力強い宣言の数々は、この曲に込められた並々ならぬ想いを象徴しています。この絶対的な完結に向けて、本作は明確な意図をもって粛々と進行していく訳です。

『春が来てぼくら』と『101回目』の間に挟まれた『Simple Simple Anecdote』のさっぱりとした余韻、この曲にも顕著ですけど、ここぞというところで一旦引く。ものすごくメリハリの効いた構築美です。展開の中で違和感を覚える『摂食ビジランテ』にしたって、ここで一旦温度感を変えておきましょうというきちんとした狙いのある施策。『MODE MOOD MODE』もそういう、アルバムのマジックが発揮されたアルバムではあるんですけど、それをよりクレヴァーに、そしてよりドラマチックに確立しています。

そう、『CIDER ROAD』と『Catcher In The Spy』は音楽性において対となる、バンドのサウンドを確立したタームにあたるんですが、この『MODE MOOD MODE』と『Patrick Vegee』はUNISON SQUARE GARDENのアルバム・メイクを確立したタームと言えるでしょうね。そして当然、アルバム・メイクを何よりも重んじる私にとって、この2枚はUNISON SQUARE GARDENへの信頼をいっそう高める絶好の作品でもある訳です。

『Ninth Peel』(2023) ~多数が正義じゃないのでは?~

UNISON SQUARE GARDEN「kaleido proud fiesta」MV

ようやくここまで辿り着きました。目下最新作、『Ninth Peel』ですね。うん、そうですね……記事の運びからいってこの作品をラストに据えることはやむを得ないんですけど、この作品、私の中で全然ピンときてないんですよ。最後にこんなこと書くのは忍びない限りなんですが。

というのも。さっきも書いたように『MODE MOOD MODE』と『Patrick Vegee』ってアルバム・メイクとして本当に見事な作品です。それは田淵智也にとっても理解できていることで、だからこそこの『Ninth Peel』においてはそうしたストーリー性を無視してみるというアプローチを取ったんですね。「いい曲を思いつくままに収録すれば、それはいいアルバム」という理屈です。

もちろん最低限アルバムとしての構築には意識は向いています。ただそれは流麗な展開というよりは、聴き手を振り回すような無邪気さの面において。1曲目の『スペースシャトル・ララバイ』はかなり力の入った、みんな大好きUNISON SQUARE GARDENというナンバーなんですけど、『Cather In The Spy』以降のアルバムでは1曲目はちょっとした意外性を毎回潜ませてきた訳です。そこへいくと、このまっすぐな『スペースシャトル・ララバイ』は一周回って違和感があるといいますかね。

まあそれは狙い通りとしてもです。ホーン・セクションが賑やかな『恋する惑星』からスリリングな『ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ』、そして『Phantom Joke』の正統後継者といえるクレイジーなキラー・チューン『カオスが極まる』へと進む中で、「本当にこの曲ってこの場所で合ってるの?」という釈然としない感覚がずっとつきまとう感は正直否めないです。

UNISON SQUARE GARDEN流シティ・ポップの『City Peel』や洒脱なピアノが効果的な『Numbness like a ginger』、彼らにしては珍しく悲壮感漂うバラード『もう君に会えない』、この辺の曲はいいんですけどねぇ……やっぱり私にとって「アルバム」というフォーマットはすごく特別なものなので、そこの美学が私の中でしっくりこないんですよね。辛うじて、9年ぶりとなる『TIGER & BUNNY』とのタッグから生まれた傑作ポップス『kaleido proud fiesta』から『フレーズボトル・バイバイ』で多幸感を演出して大団円という展開は悪くないと思いますが。

とはいえ、何度も言及しているようにUNISON SQUARE GARDENって毎回何かしらの狙いに基づいてアルバムを放ってきますから。たまたま、この『Ninth Peel』のスタイルが私に合わなかったというだけの話だとは思います。この作品を踏まえ、そしてこの20周年のアニバーサリーを経て、彼らがどういった音楽を鳴らすのかはこれからも期待しながら追いかけたいと思います、たぶん死ぬまで。皆さんもちょっとだけ同じ気持ちでいてくれたら嬉しいですね。それでは結びとしましょう。

おめでとう!ロック・バンドは、幸せだ!

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