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ピエールの選ぶ「2023年オススメ新譜10選」2月編

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もう3月も終わるらしいですよ、おっかないですね。今回は月間連載のこちら、「オススメ新譜10選」の2月編と参りましょうか。1月編は↓からどうぞ。

いやはや、遅れに遅れ申し訳ないです。ちょっと大規模な企画の準備中でして、3月はこっちその準備に追われていました。その影響で新譜もそこまで熱心に追えてはいなかったんですが……それでも10枚、しっかり自信を持ってオススメできる新譜は見つけてきましたよ。早速見ていきましょうか。

“Heavy Heavy”/Young Fathers

Young Fathers – 'Drum' (Official Audio)

2月で一番騒がれてたアルバム、多分これでしょうね。スコットランドはエディンバラの3ピース、Young Fathers“Heavy Heavy”。マーキュリー・プライズも受賞した過去を持つ注目株の彼らでしたけど、この最新作でしっかり飛躍してきました。

過去作の時点でなかなか言語化の難しい音楽性ではあるんですが、大別するならオルタナティヴ・ヒップホップになるんでしょうかね。ただ、本作にヒップホップの要素って驚くほど希薄です。ヴォーカルはリズムに奉仕するスタイルではあるもののラップとは言えないですし、そもそもそれぞれの楽曲のトラックがラップするにはあまりに主張が強いですから。エレクトロなタッチのものもあれば、壮大なゴスペルを持ち出したナンバーもあって、サウンド面での縦横無尽の表現力が痛烈な作品ですね。

で、そんなフリーキーな音像の中で一貫しているのが生命力にも似た根源的なエネルギーの躍動なんですよ。肉体の内から滲み出る歓喜をそのままパッケージしたような、そんな力強さがどの曲にもある。表面的なスタイルこそ手を変え品を変えってな具合なんですけど、聴いた時の感動の質感が祝祭感というフレーズで共通していることでアルバムとして非凡なトータリティを獲得しています。そこのところが最初妙にちぐはぐに思えて、このアルバムを掴み損ねていたんですけど、よくよく聴いていくとその通奏低音の快感に気づかされました。

もっとも、かなり難解な作品だとは思うんです。わかりやすいメロディがあるでもなく、ひときわ輝くアンセムがあるでもなく、全体像は奇天烈で独創的ですから。ただ、そのエネルギーの途方もない密度に気づけば一気に引き込まれもするんですよ。正直まだまだ理解しきれているとは思えないんですが、この1年で折に触れて聴き返すことになりそうな予感があります。そんな奇妙な魔力、底知れぬ魅力を内包した1枚では間違いなくあるんじゃないかと。

“My 21st Century Blues”/RAYE

RAYE, 070 Shake – Escapism. (Official Music Video)

さあ、そのYoung Fathersと同日リリースされた、イギリスの女性ソウル・シンガーRAYE待望の1st“My 21st Century Blues”。こっちも素晴らしかったですね。文章の並びからいってこっちを後に紹介していますけど、今のところはこのアルバムの方が好みですから。

とにかく耳を引くのが彼女の歌声です。決してパワフルとまではいかないまでも、すごく腰の据わったじっくりした貫禄ある歌いっぷり。「私なりの21世紀ブルース」なんてタイトルですけど、まさしくブルースを感じる渋い歌唱ですね。とりわけネオ・ソウルの流儀に忠実な滑らかな楽曲群との相性は格別です。彼女は作曲家としてこれまで色んなアーティストに楽曲提供してきましたけど、その作家性を彼女自身に適応させたことで見事なマリアージュを果たしています。

このソウルのクラシカルなテイストに、現代的なエレクトロ・サウンドを織り交ぜるサウンド・メイクのセンスも流石ですね。先行シングルとしてヒットを飛ばした“Escapism.”なんかに顕著ですけど、ポップ・チャートも抜け目なく意識したサウンドになっていて。これでついついソウル・クラシックにのめり込んじゃうと玄人好みにはなるでしょうけど、現代のトレンドからはやや乖離してしまうでしょうから。そこも彼女の作曲家としての嗅覚の鋭さですね。

まとめるならば、R&Bにおいて外様であるイギリス人だからこその熱心な研究の末に生まれた素晴らしいソウル・アルバム、そんな印象ですね。その丁寧なソウルへのリスペクトに私は不意にAmy Winehouseを思い出したりなんかして。欲を言えばもう少し作曲的な部分での個性を堪能してみたいという気持ちでもあるんですけど、1stとして提示するには申し分ない作品です。次作にも期待が持てますよ。

“あのち”/GEZAN with Million Wish Collective

GEZAN with Million Wish Collective 「We Were The World」(Official Music Video)

もうちょっとYoung Fathersとの関連で語ってみましょう。邦楽であれば2月最大の注目アルバムはGEZAN“あのち”だったと思うんですけど、この作品、不思議なことに私の中で”Heavy Heavy”とすごく似た印象を抱きました。つまりは難解な作品ということでもある訳ですけど、今回紹介するかギリギリまで悩んだくらいです。

GEZANは前作の“狂”がもう泣く子も黙る傑作でしたし、私もあの作品には打ちのめされたんですけど、”狂”ってディープではあっても明朗な作品ではあったじゃないですか。あの煮えたぎった創作意欲が、しっかり曲単位での精彩を放ちながらアルバムとしてシームレスに連結されている訳ですから。ただ、この”あのち”はもっとフリーキーな作品なんですよ。それはまず、管楽器やパーカッションに加え、コーラス部隊にMillion Wish Collectiveを迎えて生み出された音像から明らかで。なにやらエネルギッシュではあるものの、その本質がどうにも見えてこない。そんな第一感でした。

で、Young FathersとGEZANを交互に聴く生活をしばらく送っている中で、この”あのち”も結局は生命力のアルバムなんだという気づきがありまして。やっぱり似てるんですよ、この2枚。ただ、”あのち”はより日本的プリミティヴな民族性を持ち合わせた作品です。つまり、祭りのようなにぎにぎしさ、手放しの楽観主義。それはパーカッシヴなビートだったり、ポジティヴィティに溢れたコーラスの賑やかさだったりに表現されている部分です。それにコロナ禍や血生臭い世界情勢を念頭に置いているであろうコンセプチュアルな詩世界も結局は肯定的に綴られているし、John Lennonや忌野清志郎を持ち出してとぼけたように、しかし朗々と歌うマヒトゥ・ザ・ピーポーの表現力も歓喜に満ちている。

まあ、アルバムとしては流石に”狂”を越える作品だとは思っていませんよ。あれはやっぱり別格ですから。ただ、その次なる一手としてこの”あのち”は実に有意義でした。レベル・ミュージックとしてのGEZANが変革を遂げているのがあらゆる点で如実に表れているし、なにより音楽的な密度、これは情報量というよりやはり生命力の沸騰ですけど、において優れている。十分に名作と呼ぶに足る1枚ではあるでしょうね。

“How To Sink Slowly”/BrokenTeeth

BrokenTeeth – 추락 (Sleepwalk to Sink)

1月編でParannoulの新譜を真っ先にレコメンドしましたけど、2ヶ月続いて韓国産シューゲイズをオススメすることになるとは思ってませんでした。ただ、聴いちゃった以上これを無視するのは不誠実ですね。BrokenTeeth“How To Sink Slowly”です。

Parannoulは単にシューゲイズとしての評価というよりあの温かみのある世界観やベッドルーム・ポップ的なハンドメイド感もポイントだったんですけど、こっちはもっとシンプルにシューゲイズとして秀逸な作品という印象ですね。しっかりギターはエモーショナルに作品を包み込むし、メロディはそのギター・サウンドに溶け込むようにスウィートだし、ドリーミーでメランコリックな作品像も抜かりなく構築されている。かの“Loveless”“Nowhere”といったシューゲイズの傑作に非常に似た質感を持った作品です。

この典型的シューゲイズがかえって新鮮で。近年のインディー・ロックの中で、シューゲイズってある種の語彙として様々に引用されているじゃないですか。そういう、フレーバーとしてのシューゲイズに多く触れていたところに、このギターで世界観を曖昧模糊に押し広げる真っ向からの表現が突き刺さります。それにその世界観の広げ方は際限なく壮大で神秘的、ポスト・ロック的ですらあるんです。私みたいなプログレおじさんは壮大であればあるほどニンマリしちゃう習性があるので、ここのところも嬉しいポイントでした。

Parannoulの新譜は結構騒がれていた一方で、BrokenTeethに関してはそこまで声があがってるのを見かけないのが不思議でね。まあ、あちらは過去作で評価を盤石のものにした中でのリリースだったので話題性は違ってくるんでしょうけど、作品のクオリティとしてはこっちもなんら遜色ありませんから。韓国のシューゲイズ・シーン、やっぱり見逃せません。

“Food For Worms”/Shame

shame – Adderall (Official Audio)

ロック・アルバムつながりでこっちもいきましょう。今日活況に沸くサウス・ロンドンのポストパンク・シーン、その先駆者でもあるShameの新譜“Food For Worms”です。

前作“Drunk Tank Punk”もかなりの傑作で、私も年間ベストで第11位につけました。ただ、個人的には前作を凌ぐ勢いで好みの作品ですね。ギターのトリッキーな発想力はそのままに、よりゴミゴミとした難解さに接近している印象があります。変則的なリズムも相変わらずですが、今回はリズムのみならず楽曲の展開そのものでもかなり凝った構成になっているんですよ。それこそblack midiBC,NRといったサウス・ロンドンの後続勢のスタイルに近いようにも思えます。

でも本作に特有なのが、クラシカルなロック・アルバムの佇まいがある点じゃないでしょうか。その表情を強めているのがギターの音色ですね、実に正統派の歪みがかかっていて、印象としてはすごく硬派なオルタナティヴ・ロック・ギターです。ヴォーカルのCharlie Steenの歌声ってすごく低い位置で聴き手に忍び寄るようなカリスマ性を持っているんですけど、その分ギターが全面的にサウンドを牽引しています。ここのバランス感覚、すごくよくできているんですよね。

全体として色んなアイデアを詰め込んだ作品なので、アルバム全体のまとまりはちょっとグチャっとしている感は正直あるんですよ。そこはパンク的な直線性があった過去作に譲るところなんですけど、それ以上にこの音楽的な手数の豊富さを私は評価したい。ここ数年のポストパンクに反応した人であれば、抑えといた方がいいアルバムじゃないでしょうか。

“This Is Why”/Paramore

Paramore – Running Out Of Time (Official Video)

引き続きロック・アルバムを。エモ/ポップ・パンクのバンドとして根強い人気を誇るParamore。最近はサッド・ガールの界隈からもリスペクトを表明されているので、ある意味ホットなバンドとも言えるかもしれません。そんなParamoreの最新作“This Is Why”には思わず唸りましたね。

というのも、ごく個人的なセンスの問題なんですけど、私Paramoreあんまり得意じゃなかったんですよね……というより、エモ・ロック全般苦手な部類です。なんでしょうね、あの定型的な激情がしっくりこないんですよ。人気があるジャンルなのは理解してますし、別にエモを否定したい訳ではないんですが。ただ、この”This Is Why”はすごく馴染みがいい。だって本作、カテゴリとしてのエモ・ロックでは断じてないですからね。

淡泊なようでいてエモーショナルでもある、その絶妙なサウンドスケープに特に顕著なんですけど、すごく現代インディー的なんですよ。土台となるリズムのタイトなシンプルさだったり、その上に乗っかるギターのアプローチの面白さだったりはポストパンクっぽさもあってね。それにヴォーカルのHayley Williamsの可憐かつ真に迫った歌声は、女性インディーらしい共感をしっかりと表現できています。質感としてはやはりエモ的なんですけど、きっちりサウンドの方向性に寄り添った緊迫感があるのが巧妙じゃないですか。さっきサッド・ガールを話題にあげましたけど、その文脈で聴くと支持されるのも納得です。

彼女たちのカタログに真剣に向き合ったことって実は久しくなくて、この新譜で「Paramoreってこんなバンドだっけ?」となって思わず総ざらいしたんですけど、結構前からエモ・ロックの外側にいこうというチャレンジはしてたみたいですね。ただ、今作でそれはかなりの部分達成できたんじゃないかな。だってこの通り、エモが苦手な私に刺さってるんですから。

“Dogsbody”/Model/Actriz

Model/Actriz – Crossing Guard (Music Video)

まだまだロック・アルバム、いきましょう。2月は本当にロックが面白いタームでしたからね。その中でも一番エッジィだったのがこの作品、アメリカはニューヨーク出身のロック・バンド、Model/Actrizの1stフル“Dogsbody”です。

窮屈なポストパンクの装いで展開される暴力的なノイズ・ロック/インダストリアル、一言で説明するならこんな感じですかね。まず耳を引くのがビートで、もうとにかくカッチカチでパンチが効いているんですよ。その平坦なビートの感覚ってそれこそポストパンク的でもあるんですけど、この作品に関してはインダストリアルの冷酷なメタリックさに奉仕するための手段でしょう。無機質で冷たいサウンドの岩盤を削り取るようにして、そのビートが暴れ回る。その痛烈さが心地いいですね。

で、ビートの上に乗っかるギター、そしてヴォーカルはそれ以上に危なっかしいですよ。ギターなんてメロディ楽器としての役割をほぼほぼ放棄して、轟音のノイズをまき散らす装置として機能しているし、ヴォーカルは絶えず狂気を孕んでいて。ただ、刺激的でクールなアプローチではあるんですけど、この過激さって個人的にはやや危ういと思っています。というのも、5分ないし10分くらいの時間であれば興味深く聴けるんですけど、アルバム・サイズになるとちょっと飽きてくる単調さもあるんですよね。ものすごく意地悪に表現すると一発芸的といいますか。

ただ、このアルバムはそこを見事にクリアしている。サウンドの暴力性とは裏腹に意外にもダンサブルなタッチもありつつ、アルバムの緩急もしっかりと練られていてね。音だけで勝負するのではなく、曲レベルでもよく書けているしアルバムとしての冴えも十分。手を変え品を変え発展するポストパンク・リバイバルの中で、こういうカードの切り方もあったかと感心してしまいました。

“Norm”/Andy Shauf

Andy Shauf – "Wasted On You"

さて、ここいらでロックからはちょっと離れて。シンガー・ソングライターのアルバムをご紹介しましょうか。カナダのアーティスト、Andy Shauf“Norm”です。SSW系統に目ざとい方の支持がかなり厚いアーティストのようですけど、浅学ながら私は本作で初めて触れました。

いやはや、これは確かにすごい。フォークを基調としつつチェンバー・ポップ的な意匠も施し、電子的な彩色すら辞さないサウンド・メイキングの緻密さはインディー・フォークの手本のようです。それらが生み出す嫋やかでいてどこか不穏な表情もまた素晴らしいですね。サウンドそのものは結構分厚くまとまっているのに、どういう訳だか虚無的といいますか、実体のない幽玄の美しさがあります。この侘しさ、現代インディーというよりは1960年代末期くらいのフォーク作品の手触りに近しいような気がしますね。

で、カナダ出身で侘しいフォーク系SSWとなれば当然Neil Youngな訳ですけど、メロディの部分でもなかなかどうして彼に似ているんですよ。素朴で噛み締めるような味わい深さは”Harvest”でYoungが見せた作曲センスを彷彿とさせますし(実際、本作のインスピレーションの1つに”Harvest”はあるみたいです)、女性的なか細さを持つ歌声が見せる儚げな佇まい、これもやっぱりNeil Youngっぽいですよね。Youngってそれこそ90’sのグランジ勢からも支持されたタイムレスなアーティストですけど、それをよりインディー的にひそやかに還元してみせた作品という印象です。

それでいてドラマチックでもあるんですよ。Shaufはストーリーテラーとしての詩才においても高く評価されていますけど、そこがサウンドにもしっかり反映されている。やっぱり内省的で侘しくはあるんですけど、そこにはためくようなナチュラルな機微があります。この手のアルバムっていきおい地味になりがちなんですが、サウンド・アプローチの豊かさと作曲家としての申し分ない才能でじっくりとした名作に仕上がっているんじゃないでしょうか。

“Carousel (An Examination Of The Shadow, Creekflow, And Its Life As An Afterthought)”/Vylet Pony

Vylet Pony – Let's Fly To The Castle

引き続いて非ロックを。今回はヒップホップからはチョイスできずじまいなんですが、かわりにエレクトロニカ系列からこいつですね。Vylet Pony“Carousel”です。副題はべらぼうに長いので割愛。

さてさて、この作品は間違いなくエレクトロニカではあるんですけどね。より具体的にどういう音楽性かと問われるとかなり答えに困ってしまいます。まずサウンドから見てみましょうか、もう最高にトリッキーですよ。ダイナミクスを巧みに操る音色、音質、音圧の妙が抜群で、まったく予想だにできない自由奔放なアプローチの数々には目が回りそうになります。でも生音を使うときは使うし、バッチバチの電子音に溺れない引き算のサウンド・メイキングだってできている。この時点でなかなかどうして興味深いじゃないですか。

ただ、それじゃ済まないのが本作のさらなる面白さ。というのも、メロディの部分でも非常に凝った作品なんですよね。ガーリーでキャッチーな表情が主ではありますけど、それでもアグレッシヴなときはしっかりアグレッシヴという絶妙な匙加減です。あくまで軸はサウンド・プロダクションにある作品だとは思うんですけど、言うなればさっき表現した自由奔放なアプローチの中にメロディをすら内包している、そんな感覚でしょうかね。だからPonyが歌い続けるということもなく、気まぐれにその上質なソング・ライティングが顔を出してはまた去っていく。なんたるわがままっぷりと思うかもしれませんけど、決してアルバムとして支離滅裂ではないのが素敵です。

「回転木馬」と名付けられた本作、なるほど言い得て妙ですね。まさしくメリーゴーランドのようにぐるぐると回り続ける作品像からの連想でしょうけど、そこにはスリリングさだけでなく愛らしさも確かにある訳ですから。ジェットコースターというにはあまりにキュートで、観覧車というにはあまりに目まぐるしい。「回転木馬」という一語でピシャリと本作のヴィジョンを言い当てているような気がします。

“Dominion”/zopp

You

この作品を仮にも「オススメ新譜」と銘打った企画で紹介するのはちょっと後ろ髪を引かれる思いではあるんですが、よかったもんは仕方ない。最後にご紹介するのはイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、zoppの2nd“Dominion”です。ええ、この企画ですらプログレ、推していきますよ。

プログレッシヴ・ロックの中でも、Soft MachineHatfield & The Northらが盛り上げたカンタベリー一派のサウンドに影響を受けているのがもう一聴だに理解できます。古めかしくも大仰なサイケデリアを表現するキーボードにしろ、ジャズ的な静謐の中にある緊張感にしろ、もう何から何までお見事なまでのカンタベリー・ロック。よくこんなもの2023年に出しやがったもんです。もちろんこれ以上なく褒めてますよ。

現代のプログレッシヴ・ロックって、ポスト・ロックやメタルと結びついて独自性を獲得しているものがほとんどなんですよ。それゆえに私のようなロートルなプログレおじさんはついていけないきらいがあったんですが、この作品はそんなことない。カンタベリー・ロックにどこまでも忠実に、古豪を参照しながらその妙味を抽出してみせる研究の態度がサウンドに滲み出ています。だからこそ、新譜レコメンドでこの作品に触れるのは躊躇いがあるんですけどね。

完全に私の趣味でねじ込んだ1枠ですので、はっきり言ってあまり参考にはならないと思います。ただ、もし何かの手違いでこの最先端のトピックを扱った投稿にプログレ・ファンの方が紛れ込んでいるのであれば是非とも聴いていただきたい。久しくなかった、古き良きプログレの名盤ですからね。

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