久しぶりにこの企画をやっていきましょう。ジャンル別に入門にうってつけの5作品をレコメンドしていく、「5枚de入門!」シリーズです。バックナンバーは↓からどうぞ。
今回取り上げるジャンルはソウル/R&B。こちら、Twitter上である方からリクエストいただいた企画になります。それに私もいつかはやらないといけないとは思っていた分野なんですよね。
ただ、やらなかったのにも理由があって。それというのもね、ものすごくシンプルに「5枚じゃ足りない」からです笑
いやいや、笑いごとではなく。そもそもソウル/R&Bというのは、「ロック」と同じくらい広範にわたる語彙なんですよ。歴史の中で様々な分岐と進化を繰り返しているので、それをマルッと5枚でまとめきるのは流石に厳しい。
でもせっかくのリクエストだし、やる価値はある企画だし……ということで、苦肉の策でこうしてみます。時代毎に区切ってシリーズとして敢行する!これでいきましょう。
どれくらいのボリューム感になるかはちょっと見通し立たないんですけど、まあ見切り発車でスタートさせちゃいましょう。まずはPt.1、現代的な感性で聴いても楽しめて、それでいて最もクラシカルな60’sの名作です。それでは参りましょうか。
① “I Never Loved A Man The Way I Love You”/Aretha Franklin (1967)
ソウル/R&B、それも60’sともなれば、まずは彼女を取り上げない訳にはいきません。「ソウルの女王」、アレサ・フランクリンの“I Never Loved A Man The Way I Love You”、邦題『貴方だけを愛して』です。
彼女のカタログから何を選ぶかというのは実は結構慎重な議論が必要で。キャロル・キングによる大名曲“(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”擁する“Lady Soul”でもいいし、あるいは日本では最も知名度の高いであろう“Think”収録の“Aretha Now”でも一向に構わない。ただ、この企画はあくまでスタンダードな選出をキモにしてますからね、どれか1枚となるとこの盤でしょうか。
彼女のルーツであるゴスペル由来の歌唱は余りに力強く、その歌声は強靭さとしなやかさを兼ね備えています。名シンガーに事欠かないソウル/R&Bの領域ですら、彼女が史上最高の歌い手とされる所以がたっぷりと詰まっている1枚ですね。
それにのっけからこんなこと書くのもどうかと思いますけど、「ソウルとはなんぞや?」という疑問は概ね本作で解決できてしまうかと。歌唱の部分が軸ではあるんですが、シンプルで腰の据わったサウンドも絶品です。楽曲の面でも、オーティス・レディングの“Respect”の絶好のカバー筆頭に名曲揃いですからね。
ソウルってものによってはかなり「暑苦しい」作品もあるんですよ。泥臭くて、ブルースの影響を強く押し出したようなタイプの作品ですね。それも当然魅力的なんですが、今日のポップス的にはちょっと馴染みにくい感覚もあるとは思うんです。ただ本作にはそれがないんだな。ホットな情熱を、あくまで上品に、ともすると軽やかさすら纏って表現しています。そういう意味でも古典ソウルの入門には最適の1枚です。
② “Live At The Apollo”/James Brown (1963)
で、さっきチラッと触れた「暑苦しい」ソウル、その真骨頂はこの作品でしょうね。「ゴッドファーザー・オブ・ソウル」の異名を誇る伝説のアーティスト、ジェームス・ブラウンの傑作ライブ・アルバム“Live At The Apollo”です。
JBのレガシーって、60’s後期から70’sにかけて彼が「発明」したファンクの表現が最も輝かしいものだとは思うんです。「ファンキー・プレジデント」なんて異名もあるくらいでね。ただ、彼がファンクに辿り着く以前、クラシックなソウルに従事していた本作を軽んじていいはずがない。
ブラック・ミュージックの殿堂、アポロ・シアターでの演奏を収録した作品なんですけど、そのボルテージたるや尋常ではない。鉄壁のバック・バンドが放つ演奏は寸分の狂いなくソウルの妙味を表現していますし、成立以前ではあるもののファンクに通ずる躍動感があります。ライブ・アルバム特有の生々しさもこのヒリつくリアリティに貢献していますね。
それに何よりJBの存在感たるや!素晴らしいのは彼の表現のレンジですよね。ゴスペル的に朗々と歌うことだってできるし、ブルース的に哀愁を漂わせることもお手の物。そこに加えて吠えるように振り絞るソウルネスだって当然やってのけます。テクニックというより、作品を支配してしまうだけのパワーを感じさせる最高のパフォーマンスですね。
はるか60年前の作品なんですが、もうそんなことまるで気になりません。本作の根っこにある熱量、それって音楽の本質ですからね。ライブ・アルバムの金字塔の1つでもありますし、何よりソウルに入門するのにJBを無視なんてできっこない。そんなものソウルへの冒涜ですよ。
③ “Otis Blue (Otis Redding Sings Soul)”/Otis Redding (1965)
ソウル/R&Bの名シンガーとなると彼を見落とす訳にはいきませんね。老舗R&Bレーベル、スタックスが誇る不世出の天才シンガー、オーティス・レディングの“Otis Blue”です。
時代性もあいまって、オリジナルはわずか3曲の収録なんですが、その分カバーが実に冴え渡っています。レディングが敬愛したサム・クックは3曲も取り上げられていますし、その中でも“Change Gonna Come”のカバーはもう圧倒的です。レディングの土臭い歌声でもって、見事に自家薬籠中のものにしていますから。
他にもザ・ローリング・ストーンズの大ヒット“Satisfaction”からモータウンの名曲“My Girl”と、一口に「ブラック・ミュージック」と言ってもその範囲はかなり多岐にわたっています。しかも決してオリジナルに歩み寄るのではなく、彼のキャラクターで染め上げる。そういう態度で数々の名曲を歌い上げてしまうレディングの歌いっぷりは流石と言うしかないですね。
そうそう、本作を語る上で欠かせないのが、バックを務めるブッカーT&ザ・MG’sの演奏です。スタックスの数々の名作を彩った名うてのプレイヤー揃いのバンドなんですが、隙のないリズム隊に華やかなブラス、実に気の利いたギターと、それぞれに最高の役割を果たしています。それも、きちんと主役はオーティス・レディングの歌声だと弁えたさじ加減なんですよ。ソウルの名演という点でも見逃せない作品です。
数少ないオリジナルに関しても、アレサ・フランクリンのところで触れた“Respect”の原曲がありますから。楽曲単位の力強さでも、歌唱の面でも、演奏の面でも、どの観点からしてもそれはそれはガッチガチの1枚です。
④ “The Supremes A’ Go-Go”/The Supremes (1966)
60’sソウル入門となるとモータウンの存在は流石に外せません。ヒットの規模だけならこれまでの3人より遥かに巨大ですからね。どのアーティストにするかは悩ましいところですが、ここは無難にザ・スプリームスとしておきましょう。
あくまでアフリカン・アメリカンにとってのドメスティックな音楽だったR&Bを、白人層にもリーチし得る甘い味付けで仕立てることで大ヒットを連発したインディー・レーベル、モータウン。数々のスターを輩出した偉大なレーベルですが、その中でも60’sの看板アーティストの1組がダイアナ・ロスが在籍したザ・スプリームスですね。
ホーランド=ドジャー=ホーランドというモータウンお抱えのソングライター・チームに、バックを務めるはモータウン・サウンドの要となるセッション・バンド、ファンク・ブラザーズ。これぞモータウン!と言うべき布陣から繰り出される楽曲群はもうとびきりポップでキュートです。ここまでに紹介した作品とはかなり聴き味が違うのがご理解いただけるかと思いますし、このキャッチーさって現代でも参照されるスタイルですからね。
サウンドや作曲も上質なんですが、ダイアナ・ロスの歌声も見事なもんです。モータウン至極の1曲、“You Can’t Hurry Love”なんかに象徴的ですけど、すごく華があって軽やかで、それでいてソウルの深みという領域も心得ている。ここまでソウルをハッピーに歌いこなしたシンガーって、この時代だと彼女くらいじゃないでしょうか。
60’sのモータウンってシングル主体の活動だったので、所謂「名盤ランキング」ではなかなか触れられないジャンルにはなってしまいます。それでもソウル/R&Bを楽しむなら絶対に通ってほしい音楽性ですし、その中でも最初の1枚にはこの作品がピッタリなんじゃないかと思ってます。
⑤ “Diana Ross Presents The Jackson 5″/The Jackson 5 (1969)
さあ、今回紹介する最後の作品がこちら。これもモータウンのアルバムですね、ザ・ジャクソン5のデビュー・アルバム、“Diana Ross Presents The Jackson 5”です。
私がMJシンパなのはこのブログの読者の方にはバレてるとは思うんですが、それを抜きにしたってこの作品は必聴だと思ってます。それに、モータウンから2枚というのも決して偏ってるとも思いません。それくらいモータウンは巨大なレーベルだし、ジャクソン5は素晴らしいグループですから。
作曲、演奏がカチカチなのはモータウンですから当たり前として、先ほども触れた「甘い味付けのソウル」がより突き詰められていますね。バブルガム・ポップとも表現される音楽性です。史上最高のポップス、“I Want You Back”を聴いてくださいよ。訳がわからないくらいキャッチーでしょ?それでいてベース・ラインは最高にグルーヴィー、ものすごく計算され尽くされた楽曲です。そのクオリティが持続してる作品なんですね。
そんでもって、当時11歳の「マイケル坊や」の歌いっぷりがもう恐ろしいくらいに素晴らしい。正直、R&BシンガーとしてのMJの最良の時期はこの最初期にあると思ってます。それは“Who’s Loving You”を聴けば即座に理解できますね。「大人顔負け」とかそういう次元じゃあない、瑞々しい歌声と老練なまでの表現力が共存した奇跡的な歌唱じゃないですか。
革新的な作品だったり、大きな影響力を持つ記念碑的名盤だったり、その辺も当然入門の上では重要なんですよ。ただ、結局音楽として一番消費期限が長いのって「ポップ」な作品だと思っていて。そういう意味でこの作品はいつまでも古びない1枚ですし、「ソウルっていいじゃん!」となるためには是非とも聴いてほしい作品です。
まとめ
さて、ひとまずPt.1としてはこんなラインナップでまとめてみました。ソウル/R&Bのファンならば必ず通っている作品揃いではありますが、あくまで「入門」のためのご紹介ですからね。ベタベタの作品であるべきでしょう。
どれも紛うことなき古典ではあるんですが、決して史料として聴く価値がある、それだけの「お勉強」的な作品群ではありません。音楽作品として当然どれも秀逸だし、その輝きはまったく色褪せていませんからね。未聴の作品があれば是非。
次回のPt.2はニュー・ソウルに特化した内容になるでしょうか。ソウルが一気にアーティスティックになっていく、そんな時代を象徴する作品をご紹介できればと思っています。それじゃあ今回はこんなところで。
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