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独断と偏見と愛で選ぶ、2022年上半期アルバムTOP30

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10〜1位

第10位 “God Don’t Make Mistake”/Conway The Machine

Conway The Machine – Piano Love [Official Audio]

上半期のヒップホップ、ベストはコレっきゃない……と言いたかったんですけどね。どこぞのKendrick Lamarとかいう大天才が帰ってきたせいで二番手に甘んじる格好です。Conway The Machine“God Don’t Make Mistake”

クラシカルなヒップホップとして申し分ない名作、それが第一印象ですね。感覚で言うと去年のTylor, The Creatorに近いかな。私個人がヒップホップに求める魅力というものを余すことなく掬い取っている作品なんですよ。内省的なムードにしろ、芯の太いビートや、派手すぎないけれどしっかりと技ありのトラックにしろ。「そうそう、コレが聴きたい!」ってな具合にね。

週間レコメンドの方で「自分の中でまだまだ評価上がりそう」と書いたんですが、案の定でしたね。クラシカルだからこそ、何度も鑑賞しても決してくたびれない。強靭なラップ・アルバムだし、なんならヒップホップの入門たり得る1枚ですらあるんじゃないでしょうか。

Conway the Machineの「God Don't Make Mistakes」
アルバム・2022年・12曲

第9位 “Laurel Hell”/Mitski

Mitski – Love Me More (Official Video)

私の音楽感性の根っこって「ポップス」なんですよ。そりゃプログレも好きだし“Kid A”も好きだけども。そういう、「ポップス」を重んじる人間にとって、このMitski“Laurel Hell”は心に沁み渡る1枚でした。

オルタナ的な文脈で評価されてきた彼女ですけど、本作はそうしたダウナーな気配を纏いつつ、サウンド・プロダクションの段階で極めて自覚的にポップスに挑戦しています。それも80’sのシンセ・ポップソフィスティ・ポップのような、古き良きタイプのものへと。

この80’sリバイバルって近年の音楽シーンの中では1つのトレンドではあるんですよ。ただ、本作はこれまでMitskiが培ってきた音楽性との調和が実に見事。深淵で高尚な印象すらある一方で、軽快で丁寧なポップスとしても成立する作品になっているんですね。現代的なのにどこか懐かしい、そんなアルバムです。

第8位 “The Opening, Or Closing Of A Door”/Kristine Leschper

Kristine Leschper – "Ribbon"

割と順当に世間で騒がれた名作が上位に並ぶ中、ここで私の趣味を大爆発させておきましょう。Kristine Leschper“The Opening, Or Closing Of A Door”です。

オープニングこそ神秘的で静謐なオーラの漂う、女性的な気品を展開するんですが……鬱蒼と茂る密林を連想させるパーカッシヴな楽曲もあり、バロック調の優美さを演じる瞬間もあり、その全体像はなかなかに混沌としています。楽曲自体はコンパクトなものが並んでいるんですが、印象としてはプログレッシヴ・ロックにも似た、独創性に満ち満ちたアルバムなんですね。

もうとにかく私の大好物がズラリと並んだ1枚、そんな作品です。これが年間ベストに入るメディアは多分ないと思うんですけど、多分このブログでは年末にもう1回紹介することになるでしょう。それまでに是非チェックしていただけると嬉しいです。

第7位 “our hope”/羊文学

羊文学「光るとき」Official Music Video (テレビアニメ「平家物語」OPテーマ)

これも優河同様、随分騒がれましたね。騒がれて当然のアルバムなんですけど。現代J-Rockを牽引するロック・バンド、羊文学“our hope”です。

現代的なインディー/オルタナの咀嚼のレベルが元から高いバンドではありましたけど、本作はそのサウンド・プロダクションの練り上げ方とそこに対するメロディの当て方が格段に成熟しています。きっちりとキャッチーに仕上がっているんですよ。非常にドリーミーでオルタナティヴなサウンドで、コンテンポラリーなオルタナだというのに。

ただ、そのサウンドもよくよく聴くと肉感的でね。ロックが古くから表現してきた、賞味期限つきの焦燥感、そこもよく描き切っています。こんなアルバムが邦ロックとしてリリースされてくれるなら、シーンに何の心配もいりません。下手したら10年後とかの邦楽名盤ランキングに顔を出してもおかしくないクオリティの1枚です。

第6位 “Chloë And The Next 20th Century”/Father John Misty

Father John Misty – Kiss Me (I Loved You) [Official Audio]

Father John Mistyもやってくれましたよね、このアルバム、“Chloë And The Next 20th Century”は惚れ惚れとするスウィートな名盤です。

40’sとかのレベルで懐古主義に走り、徹底的にロマンティックでモノクロームな世界観を描いているんですね。それも、言われなければ2022年の新譜とは思えないほど秀逸に。それだけ精緻な音楽作品ですし、作曲には一切の隙が感じられません。

ドラマティックな美しさが堪らない、往年の名作映画を鑑賞したかのような感動が得られる1枚です。その狙い澄ましたロマンチシズムがあざとくて苦手という方もあるでしょうけど、ベタに弱い私なんかには突き刺さる作品でした。

第5位 “Ants From Up There”/Black Country, New Road

Black Country, New Road – 'Concorde' (Official Video)

Black Country, New Roadはこの2nd、“Ants From Up There”で化けましたね。文句なくいいアルバムでした。

昨年のデビュー作が蝶よ花よと持ち上げられていたんですけど、ぶっちゃけその段階では「いいにはいいけどそんなにか?」くらいの印象でね。作品としてはやや散漫だったので、このあとどう転ぶかで初めて評価できるバンドだと思っていたんですよ。

で、転んだ結果がコレですよ。最高じゃないですか!アーケイド・ファイア的と言ってもいい、親しみやすく雄大で、独自的な創造に溢れたインディー・ロックとして申し分ありません。特にホーン・セクションの扱いが抜群に上手くなりましたよね。このサウンドの分厚さと雄渾さ、素晴らしいと思います。20‘sのロックを一身に担ってほしい、そんな期待を思わず抱いてしまう名盤でした。

第4位 “Dragon New Warm Mountain I Believe In You”/Big Thief

Big Thief – Change (Official Audio)

第4位にUSインディーの雄、Big Thief“Dragon New Warm Mountain I Believe In You”。聴いた当初は流石に上半期TOP3は確実だと思っていたんですけど、いかんせん2022年が豊作すぎました。

以前にも本作を「疎」の音楽と表現したんですけど、サウンドスケープの規模感、空間的な広がりの大きさに対して、空白の占めるスペースが非常に多い作品です。それは決して薄味で作りが甘いという意味ではなく、むしろ逆。どこまでも恣意的に、緻密にこの「疎」を構築している手腕には惚れ惚れとします。

そして作曲が極めて高水準ですね。インディー的なアイデアの妙味というのも堪能できる一方で、やはり前提には人情味溢れる温もりと穏やかなメロディがある作品になっています。ある種70’sライクというか、ノスタルジックな1枚ですよね。それでいてインディーを通過しているんですから、本当にタイムレスな名作ですよ。

第3位 “春火燎原”/春ねむり

春ねむり HARU NEMURI「生きる / Ikiru」(Official Music Video)

まあ、コレも入りますよね。Twitter上で新譜のリアルタイムでのリアクションはあまり投稿しないようにしているんですけど、例外的に絶賛してしまいましたよ。春ねむり“春火燎原”です。

この作品を語るのってとにかく難しいんですよ。ポエトリー・ラップなんでしょうけど、彼女の「言葉」(「歌」とも「ラップ」とも形容できない以上、彼女から発せられるものは「言葉」としか私には表現できません)、そしてトラックが放つ情念じみた気迫に圧倒され続けるんです。この感覚、他の作品ではちょっと例えられないんですよね。

急にスクリームを差し込んだり、宮沢賢治の『よだかの星』を朗読したり、作品の中での振れ幅ももう恐ろしいくらいです。才能の爆発、なんて陳腐な表現しかできないのが悔しいくらいエクストリームな傑作。言葉を呑んでしまう激烈なエネルギーに是非とも打ちのめされてください。

春ねむりの「春火燎原」
アルバム・2022年・21曲

第2位 “Mr. Morale & The Big Steppers”/Kendrick Lamar

Kendrick Lamar – Savior ft. Baby Keem & Sam Dew (Official Audio)

これを1位にしておくのが一番無難な気はするんですけどね。実際悩みはしたんですけど、首位が強すぎた……第2位はKendrick Lamar待望の新作、“Mr. Morale & The Big Steppers”です。

リリースからこっちずっと聴いてますけど、いやはや本当に「重要」な作品です。それも音楽シーンの中でというより、Kendrick Lamarという天才のレガシーにとって。それはリリックにも色濃く表れている部分ですけど、音楽作品としてもそうです。

だって、もう“TPAB”は歴史的傑作として不動の地位を確立してしまっているし、ピュリッツァー賞も取ってしまったし、彼の扱いってそれこそかつてのザ・ビートルズのレベルになりつつあると思うんですよ。セールスや大衆的評価というより、絶対的な才能の象徴として。

事実、リリース当日から盛り上がりは半端じゃなかったですから。それにしっかりとアルバム作品としてのクオリティによって応え、加えてリリックでは彼自身の問題と社会を紐付け、1つの回答をも提示する。これを偉業と呼ばずして何とするんですか?

第1位 “BADモード”/宇多田ヒカル

宇多田ヒカル『BADモード』

ああ、悔しい。結局宇多田ヒカルには勝てなかった……てな訳で、私にとっての上半期ベストは宇多田ヒカル“BADモード”です。

新譜としては異例のディスク・レビューを敢行する程度には衝撃的な作品でしたね。なのでここで語るべき内容は正直あまりないというか、音楽的な話は散々っぱらそっちでやったので、まだ読んだことがない!って人は是非ご覧ください、自信作です。

宇多田ヒカルって、邦楽における最大のゲームチェンジャーの1人でしょ?邦楽史上最大のセールスを記録した伝説の1st“First Love”で、彼女は日本の音楽に同時代的なR&Bのセンスをもたらすことに成功した訳ですから。ただここにきて、彼女は再度「邦楽」のフィールドから同時代的なフロンティアに立ってみせたんです。

この事実、もっと騒がれないといけません。日本人はやたらと国際的な評価を気にしますけど、この作品は間違いなくワールドワイドに受け入れられる1枚なんですから。賞レースでどうこうじゃない、純粋な音楽作品としての品質という意味でね。

まとめ

いやぁ書いた書いた。復帰作にしてはかなりヘヴィな記事になってしまいました。お楽しみいただけたでしょうかね。

何度も何度も言ってるんですけど、2022年のリリース内容、ちょっとヤバすぎると思うんです。コロナ禍でストックされた才能が一斉に放出されているんでしょうけど、それにしても名盤が多すぎる。

これで下半期にはThe 1975BeyoncéArctic Monkeysに……と大物のリリースが来る訳でしょ?今から年間ベストどうしたもんかと思わず頭を抱えたくなりますよ。

そんな贅沢な悩みを抱きつつ、下半期も音楽を楽しんでいきたいですね。しばらく放置してきたこのブログもこのポストを機に再始動していきますので今後ともよろしくどうぞ。それでは今回はこの辺りで。

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