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5枚de入門!ロック・ファンに捧げる、ヒップホップ編

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人気企画なんて言いながらまだ2回しかシリーズ展開していないこの企画。久しぶりに掘り起こしてみましょう。バックナンバーは↓から。(ネタ切れ起こしてもこれに頼ればしばらくなんとかなるという安心感がスゴイ)

5枚de入門
「5枚de入門」の記事一覧です。

今回紹介するジャンルは、ズバリヒップホップ。このブログにお越しの方は結構ロック畑出身だと思うので、ヒップホップに苦手意識を持っているんじゃないでしょうか。ええ、ちょっと前までの私のことです。

そう、かく言う私も「何がラップだ、何が打ち込みだ。音楽ならメロディと生音で勝負せんかい!」、そんな偏見を少なくとも去年くらいは持っていました。

ただ、より幅広く音楽を楽しむ上でヒップホップを軽んじるのはタブーだと気付いたんですよ。ここ数年はそうでもないにしても、ヒップホップの時代というのは間違いなくありましたから。

今回はヒップホップが苦手な方、あるいはヒップホップに挑戦したいけどどの作品から聴けばいいかわからない方、そういった人をターゲットに、ベタベタなチョイスで5枚のアルバムをご紹介していきましょう。では、参ります。

ヒップホップの二大勢力を理解しよう

さて、例によって作品のご紹介に入る前に、軽くヒップホップの背景を押さえておきましょうか。

当然ヒップホップの本場はアメリカな訳ですが、その中に大きく分けて2つの勢力があるんです。何かというと、西海岸東海岸。この2つの地域でヒップホップは大別することができます。

ものすっごくザックリ両者の特徴を紹介しておくと、西海岸は「ワル」のイメージです。パーティー色が強かったり、ギャングスタ・ラップのような過激なリリックを強みとしたりですね。一般的なヒップホップなイメージに近いのはこっちでしょうね。

一方で東海岸はというと、「インテリ」なイメージでしょうか。もちろん痛烈なメッセージや暴力的なトラックも表現しているんですが、どちらかというとリリックは文学的で知的、サウンドもより凝ったアプローチを多用する印象があります。

断っておきたいのが、あくまでこの特質はものすごく噛み砕いた一般論。例外は沢山ありますし、そもそもヒップホップが全てこのどちらかに分類できるという訳ではないですからね。今日に至るまでこの図式が健在ということもなく。ただ大枠で理解する上で、これくらい簡略化して認識した方がとっかかりやすいのかなとは。

さて、こうした構図を理解してもらった上で、ここからいよいよヒップホップを代表する5枚の名盤を見ていきましょう。

『パブリック・エナミーII』/パブリック・エナミー (1988)

Public Enemy – Don't Believe The Hype (Official Music Video)

いわゆる「名盤ランキング」なんかだと大体ヒップホップの頂点に君臨しているアルバムですね。伝説的グループ、パブリック・エナミーの2ndです。原題は”It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back”。『ジギー・スターダスト』やThe 1975の作品と並んで最も覚えにくいアルバム・タイトルとしても有名だとか有名じゃないとか。

パブリック・エナミーはニューヨーク出身のグループ、つまり東海岸のアーティストですが、そのサウンドはいきなり先程のカテゴライズから離れたパワフルで刺激的なものです。ヒップホップ界の大ネタ、JBの『ファンキー・ドラマー』ももれなくサンプリングされていますしね。

とはいえ、楽曲を1つ1つ鑑賞するとその表情って実に様々なんです。サックスを大々的にフィーチャーした“Show’em Whatcha Got”なんてその好例。もっとも、ビートは相当強烈なんですが。

Show 'Em Whatcha Got

ただ、この作品の真髄はやはりリリックでしょうね。チャックDのラップは実に社会派で直截的。「コンシャス・ヒップホップ」と呼ばれる社会派ヒップホップの先駆的な作品とも言えます。

こういうストレートなメッセージ性って、歌詞からしか感じ取れないものではないと思っています。ロックにだって、サウンドや歌声に宿る切実さというのはありますよね。それはこの作品にも言えることで、勿論リリックを理解すればより楽しめますが、その剥き出しの主張は作品全体から感じることができるはずです。

『ストレイト・アウタ・コンプトン』/N.W.A. (1988)

N.W.A. – Straight Outta Compton (Official Music Video)

西海岸のヒップホップを代表するサブ・ジャンルが「ギャングスタ・ラップ」。2枚目に紹介するのは、そのギャングスタ・ラップの開拓者にしてシーンの重要アーティスト、N.W.A.のデビュー作です。

ヒップホップの「ワル」のイメージは大体このグループのせいと言ってもいいと思います。リリックの内容を踏まえずとも、もうとにかく怖そうで悪そう。マイクをリレーしながら代わる代わるにラップするスタイルも取るんですが、全員もれなく怖いというのはスゴイです。

当然リリックだって怖いですよ、一番顕著なのは『ファック・ザ・ポリス』という曲。もうタイトルからモロですね。当時の警察の腐敗を批判するこの楽曲、1992年に起こる「ロス暴動」を予言するかのようです。そう、彼ら如何にもワルですけど、その主張はどこまでもリアルで実際的です。

F***k Tha Police

聴きものはやはりアイス・キューブのラップでしょうか。グループの中でもラッパーとしての存在感なら抜群です。こういったグループのヒップホップは、是非誰のラップか意識して聴いてみると個性が掴めて面白いと思います。

同時にトラックも素晴らしいんですよね。この辺りは後にプロデューサーとしても大成功を収めるドクター・ドレの貢献です。このアルバムでも『ファンキー・ドラマー』は何度かサンプリングされてますし、同時代のヒップホップから60’sのソウルまでを見事に接続しています。この辺に注目してみると、ロックのファンもすんなり入門できる気がしてるんですよね。

『燃えよウータン』/ウータン・クラン (1993)

Wu-Tang Clan – C.R.E.A.M. (Official HD Video)

ウータン・クランは東海岸を代表するグループ。彼らの記念すべきデビュー作、その名も『燃えよウータン』はヒップホップ屈指の名作と名高いクラシックです。

10人のMCが入れ替わり立ち替わりリレーしていくスタイルなんですが、本当に全員が個性的で。ヒップホプ初心者にありがちな「どのラッパーも同じに聴こえる……」みたいな問題(ええ、もちろん私のことです)がこの作品からは感じられません。とてもキャッチーでバラエティ豊か、聴いていてシンプルに楽しめる充実感があります。

サウンドもさっき紹介したギャングスタ・ラップとは違った質感で、誤解を恐れずに言うとどことなくチープな感もあるんですよ。サンプリング元もカンフー映画の一節だったり、なんとなくB級感があります。もっともこのグループはカンフー映画に精神的な部分で影響を受けているので、決しておふざけではないんですが。

ただ、このレトロ感が絶妙にクセになるんですよね。その激しすぎないトラックが、さっき触れた個性的なラップを引き立てているというのもこの作品の聴きどころ。まるで「歌モノ」かのように、実に自然にラップに耳が向くような作品です。

さっきのN.W.A.が西海岸の象徴的サウンドだとするなら、このアルバムは東海岸の古典的名作です。聴き比べてみて、どっちのサウンドにより惹かれるかで今後のヒップホップ探究を占ってみるというのも一興かもしれませんね。最終的にはどちらの陣営ももれなく制覇していただきたいところではありますが。

『イルマティック』/ナズ (1994)

Nas – N.Y. State of Mind (Official Audio)

歴史的意義の部分を脇に置いて、単に音楽としての完成度だけで評価するならこのアルバムがヒップホップの頂点ではないでしょうか。東海岸が誇る最高のリリシスト、ナズのデビュー作です。

彼が登場するまでのヒップホップ界には、「西高東低」と呼ばれる格差があったとされています。西海岸がチャート・アクションでも批評筋でも優勢で、東海岸は苦境に甘んじていた。そんな中登場したナズは、デビュー作にしてその勢力図を破壊してしまうんです。それほど優れた作品がこの『イルマティック』

ヒップホップのアルバムって、ロックやポップスのレコードと比べてかなり収録時間が長い傾向にあるんですよ。いわゆる「アルバム文化」の外側から出てきたが故の現象だと思うんですが、この『イルマティック』は実にコンパクトで構成的に洗練されています

またサウンドも実に流麗で。ヒップホップのマッチョなイメージとはかなりかけ離れた洒脱なトラックです。ナズのラップも新人とは思えない余裕と絶妙な枯れ具合でね。夜にお酒を飲みながら聴きたくなるようなシックなクールさがあります。

サンプリングも結構面白くて、個人的にビビッときたのがMJの『ヒューマン・ネイチャー』をサンプリングした“It Ain’t Hard To Tell”。JBやPファンクはサンプリング元として人気ですが、敢えてのMJというのがこの作品の普遍性とポップネスを象徴している気がしますね。

Nas – It Ain't Hard to Tell (Official Video)

『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』/ケンドリック・ラマー (2015)

Kendrick Lamar – Alright

最後に紹介するのは一気に時代が飛んで2010年代の作品。ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』です。

このアルバム、リリース当時から「10年代のマスターピース」と誉れ高かった訳ですが、5年くらい経った今でもその評価って全く霞んでいませんよね。どころか、10年代のみならず、もはやオール・タイムの名盤の中でも屈指の傑作としての地位を確立しつつあります。

このアルバム、かなりシリアスで社会派なんですよ。アメリカにおけるアフリカン・アメリカンの立場や社会の抱える闇、それからスターとなった彼自身の苦悩が見事なリリックで小説的に表現されています。リリシストとしてコンシャスな姿勢が一貫している彼ではあるんですが、その最高到達点と言ってしまっていいと思います。

サウンドのアプローチも素晴らしくて、冒頭からPファンクの創始者ジョージ・クリントンがゲスト参加。しっかりブラック・アメリカンのエンパワーメントを表現しつつ、現代的ジャズの吸収も見られるという。ジャズとヒップホップというのは元々親和性が高くて、90年代くらいから盛んに取り入れられていたモードではあるんですが、この作品はその最新版ですね。

Wesley's Theory

ロック・ファン的には、この作品がデヴィッド・ボウイの遺作『★』に影響を与えたという点も見逃せません。「ヒッポホップの名盤」という枠組みを越えた、普遍的な音像がこの作品には通底しています。『★』と聴き比べてみるのも面白いですよ。

御多分に漏れずかなり長い作品なんですが、是非とも歌詞をじっくり楽しみながら聴き込んでほしいですね。ある種のコンセプト・アルバムというか、1つの物語がそこには確かに存在します。僅か数年でロック・クラシックと肩を並べるだけのことはある、問答無用の大名盤です。

まとめ

さて、今回はヒップホップ入門ということで、厳選した5枚のアルバムを紹介しました。

これまでのプログレやサイケと違って、なにせ「ヒップホップ」って大きな括りですから。個人的にもかなり取り零しがあるなというのが正直なところです。この5枚は間違いなく必聴だと思うんですが、この5枚だけが必聴盤という訳では全くないのでね。あくまで最初の第1歩に過ぎないということは強調しておきます。

冒頭の繰り返しにはなるんですが、ロック・ファンとヒップホップ・ファンの間には結構大きな溝があると思っていて。批評の文脈でもそうですし、ファンの音楽観にも対立構造みたいなもの生まれているのかなと。

全くもって勿体無い話ですよ。私は軸足がロックにありますけど、さっき名前の挙がったボウイだけじゃなく、レディオヘッドだったりレッチリだったり、ヒップホップをロックに取り入れているアーティストは山ほどいる訳で。我々が思っているほど、音楽自体の間にはそう大きな隔たりはないんです。

この記事で紹介した5枚の名盤で、ひとまず「ヒップホップも悪くねえじゃん」、そんな風に思っていただけたら何よりです。それではまた。

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