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まずはここから!1960年代の洋楽を最短で攻略するための10枚の名盤

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前回までこのブログでは「1960年代洋楽解説特集」というシリーズを展開してきました。かの時代に巻き起こった様々な変化やドラマを、時系列に沿って解説するという企画です。もしまだご覧になっていない方があれば是非。かなりの自信作です。

1960年代洋楽解説特集
「1960年代洋楽解説特集」の記事一覧です。

この解説シリーズを読んでいただけたら、1960年代に何が起きたのか1960年代はどういう時代だったのか、そのあたりは網羅できるようになっています。ただ、あくまで音楽シーンの解説ですからね。音楽聴いてナンボです。

ということで今回はこのシリーズの補足というかオマケというか、あるいは本編と言ってしまってもいいのかもしれませんが、1960年代を代表する10枚の名盤を紹介していこうかと。「この10枚を聴けば1960年代の空気感は理解できる」、そんな基準で10枚選んでみました。このブログでは「5枚de入門」シリーズなんてものもありますが、それに似たような趣旨ですね。

では前置きはこの辺にして、早速素晴らしい10枚の名盤をご紹介していきます。それでは、参りましょう。

『プリーズ・プリーズ・ミー』/ザ・ビートルズ (1962)

Please Please Me (Remastered 2009)

いきなりラスボス、ザ・ビートルズの登場です。まずは彼らのデビュー・アルバム、『プリーズ・プリーズ・ミー』を。

ザ・ビートルズが1960年代のみならず、人類史上最高のポピュラー音楽家であることは客観的な事実な訳ですが、その化け物じみた才能が既に開花しているのがこの1stなんですね。

以前Twitterのフリート機能でフォロワーの方と話している時に、「ビートルズをよく知らない人は彼らをロックだと思っていない」なんて話が挙がったんですよ。

これ、結構面白い指摘だなと思っていて。彼らの有名曲って『イエスタデイ』『レット・イット・ビー』みたいに、とにかく耳触りのいいポップスが多いですから。勘違いするのも無理はないと思います。

ただ、この作品はそういう「ビートルズをよく知らない人の誤謬」を吹き飛ばすだけのエネルギーを内包していると思うんです。なにせレコーディングは僅か1日で終えている訳ですから、もう若々しさと情熱がムンムンにほとばしっています。

シングル2曲にラスト・トラックの『ツイスト・アンド・シャウト』と有名な楽曲も収録されていますが、個人的にこの作品で一番好きなのがオープニングを飾る『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』。ノリノリのロックンロールって感じで、如何にも初期ビートルズらしい名曲です。

I Saw Her Standing There (Remastered 2009)

『バック・トゥ・モノ』/フィル・スペクター (コンピレーション)

The Ronettes – Be My Baby (Official Audio)

ごめんなさい、「名盤」を紹介するといいながらこれはいわゆる編集盤1枚のアルバムとして制作されたものではないんですが、それでもこの作品は触れる価値が十二分にあると思うので紹介しておきます。

フィル・スペクターといえば「音の魔術師」とも称された名プロデューサー。一人間としてはかなり難のあった人物で、晩年は殺人の咎で収監されていましたが、全盛期の彼の仕事は晴らしいものばかりです。

「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれるゴージャスなサウンド・プロダクションが彼の個性なんですが、それが60’s的なクラシカルなポップスと組み合わさって生まれる魅力といったらないんですよ。後に出てくる『ペット・サウンズ』の直接の元ネタでもありますし、日本でも大瀧詠一なんかは彼の熱心なフォロワーです。

これだけ影響力のあるアーティストなんですけど、活動がシングル主体だったこともあって「名盤」という価値観が支配的な洋楽の批評ではなかなか注目されにくい存在でもあるんですよ。それってすごくもったいないと思うんです。あくまで「アルバム」というのは指標の1つにすぎない訳で。

ただ、あえて「名盤」という切り口で語るならこういうコンピ盤で触れるのも悪くないのかなと。そうでもしないと聴く機会も見つからないでしょうしね。

『追憶のハイウェイ61』/ボブ・ディラン (1965)

Bob Dylan – Like a Rolling Stone (Audio)

ボブ・ディランも1960年代最重要アーティストですね。この人も名盤揃いですが、「1960年代を理解する」という名目ならやっぱり『追憶のハイウェイ61』でしょう。

いわゆる「フォーク・ロック」の時代の作品として、次作『ブロンド・オン・ブロンド』も並んで傑作とされていますね。むしろ、熱心なファンの方はこっちを最高傑作だとする人も多いみたいで。

ただ、個人的にはこの『追憶のハイウェイ61』がディランの作品では白眉だと思っています。というのも、単純に楽曲レベルのパワーが高い名曲揃いなんです。

まずは何をおいても、冒頭で紹介している1曲目の『ライク・ア・ローリング・ストーン』ですよね。ソースがあやふやで申し訳ないですが、イントロのアル・クーパーのキーボードは「時代の扉を叩く音」なんて表現を見たことがあって、本当に的を得た言葉だなあと感心したのを覚えています。

他にも『やせっぽちのバラッド』『廃墟の街』に、いい曲が本当に多いんですよこのアルバム。それと、是非ともディランの作品を聴くときには歌詞を読みながら鑑賞していただくことをオススメします。歌詞表現は彼の真骨頂ですからね。

Bob Dylan – Ballad of a Thin Man (Audio)

『ペット・サウンズ』/ザ・ビーチ・ボーイズ (1966)

God Only Knows (Stereo / Remastered)

さあ、『ペット・サウンズ』です。もう私にとってこの作品は「『ペット・サウンズ』である」、それだけで十分なんですが、それでは身も蓋もないのでね。

このブログの記事第1号もこの作品のレビュー記事でしたし(作品の内容自体はそちらで詳細に語っています。是非あわせてどうぞ)、他のところでも折に触れて名前を挙げている作品です。

この作品はとにかく高尚というか神聖というか、唯一無二、不可侵の名作ですね。あくまで一般の音楽評論にのっとれば、「ウォール・オブ・サウンド」の延長線上としてのバロック・ポップだとか、ハーモニーの構造がどうだとか、そういう議論ができるんでしょうけど、それはここで語るべきでもないのかなと。

1966年発表の作品ですけど、この作品には歴史的意義や重要性を度外視してなお有り余る普遍的な音楽的魅力があるんです。それこそ、クラシカルな名盤が軒並み順位を落とした2020年のローリング・ストーン誌の名盤ランキングでもこのアルバムは2位をキープしていますし。

すごく押し付けがましいようですけど、「世の中には2種類の人間がいる。『ペット・サウンズ』を理解できる人か、それ以外か」と言いたくなるくらい絶対的な作品なんです。この作品はもう1960年代どうこうじゃなく、音楽に関心のある人はもれなく挑戦していただきたいですね。

『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』/ザ・ビートルズ (1967)

A Day In The Life

この作品も語るまでもないって感じですね。「洋楽史上の最高傑作」の地位にしばらく前まで君臨していた『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』です。

ちょくちょくこの作品のことを「過大評価」なんて言ってしまう私ですが、それでもこの作品って「1960年代のサウンドトラック」みたいな存在感があると思うんです。今回の企画の趣旨からいって外す訳にはいきません。

サイケデリック・ロックのカラフルさもそうだし、この作品以降50年くらいにわたって支配的な価値観となる「作品単位としてのアルバム像」の提示という意味でもそうだし、とにかくこの作品は1960年代ロックの可能性を端的に表しているんです。現代的な感覚でいくとわかりにくい部分かもしれませんが、それでも蔑ろにはできません。

それに、やっぱり「ザ・ビートルズの作品」ですからね。そのクオリティは同時代の他のアーティストと比較しても非凡なものがありますし、その抜きん出た才能が1960年代の音楽を活発にしていた側面は贔屓目抜きにあると思うんです。そのピークとして、私はここで『サージェント・ペパーズ』を推薦しておきます。

実を言えば前作の『リボルバー』の方が個人的には好きですし、さらにその前の『ラバー・ソウル』、あるいは脱サイケ後の『ホワイト・アルバム』『アビィ・ロード』も必聴なんですが。10枚という制約を設けた以上、今回は無念の選外としておきました。(過去に「ビートルズ全アルバムランキング」という企画も敢行していますのでそちらも是非。)

『ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』/ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド (1967)

Heroin (Mono)

ジャケットも有名なヴェルヴェッツの1st。この辺は解説企画の§4.でまとめて扱った作品ですね。あそこの「まとめ」でも書きましたけど、大げさじゃなくあの1〜2年で今日のポピュラー音楽の原型が一気に構築されたので、必然的に必聴盤も多くなるんですよ。

もしかしたら、ここまでに紹介した作品を「古臭い」と感じる人もいるかもしれないとは思っているんです。なにせ今から50年以上前の音楽ですから、事実として古い訳で。ただこのアルバムはちょっと空気感が違うというか、録音やサウンド自体は古めかしくとも、その刺激や危うさみたいな部分はまるで色褪せていません。

今でも音大や芸大の出身でアヴァンギャルドな音楽を志向するアーティストっているじゃないですか。それに通ずるものがヴェルヴェッツにはあるんですよね。つまり、「アートとしての音楽」の追求です。

実験音楽と言ってしまっていいくらいの攻めたアプローチの連続はどれだけポピュラー音楽が発展しようと不滅なんですよね。『ヘロイン』『僕は待ち人』、尖りまくりのエッジィなサウンドはとてつもなく刺激的です。

I'm Waiting For The Man

現代的なロックの価値観で捉えてみれば、実はこの作品こそ最も普遍的なんじゃないでしょうか。それくらいタイムレスな、孤高のアート作品という趣きのアルバムです。

『アー・ユー・エクスペリエンスド』/ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス (1967)

The Jimi Hendrix Experience – Purple Haze (Audio)

ジミヘンも通っておかないとマズイ偉人の1人。エクスペリエンス名義で発表した3枚はどれも必聴ですが、ここでは記念すべきデビュー・アルバムをチョイスしておきます。

この作品はとにかくジミヘンのギターですね。時代背景も相まって、作品全体のカラーとしてはサイケデリック・ロックではあるんですが、演奏自体は相当に根本的というか本質的というか。とにかくド迫力、50年以上前とは思えないくらいアグレッシヴなプレイの連続です。

それに見落としたくないのはギター以外の演奏です。如何せんジミ・ヘンドリックスがギターの神様なだけにスルーされることも多いかと思うんですけど、要するにジミヘンのプレイについていける楽器隊な訳ですからね。そりゃ一流に決まってます。特にドラムのミッチ・ミッチェルはZEPのボンゾ登場以前では最大級のロック・ドラマーの1人でしょう。

歴史的価値ももちろん高いですし、この作品以降ロックにおけるギターの存在感というのは一変することになりますが、そういう背景抜きに、ロックの一番の魅力である最高にクールな演奏の応酬がパッケージされている作品です。是非とも頭を空っぽにして聴いていただきたいですね

『ハートに火をつけて』/ザ・ドアーズ (1967)

Break on Through (To the Other Side)

ザ・ドアーズ「サマー・オブ・ラヴのアンセム」と言っていいアーティストです。この辺りは解説記事でも触れましたね。彼らも最初の取っ掛かりとしてはまずは1stから。

彼らのサウンドは、普遍性とはある意味真逆だと思っていて。どこまでもサイケデリック、どこまでも退廃的、そしてどこまでも1967年的。そう表現したくなる音楽です。

1曲目の『ブレイク・オン・スルー』から過激さは全開、今の感覚からするとチープにも聴こえるキーボードが眩惑的世界観を構築する『ハートに火をつけて』、そしてラスト・トラックの壊滅的な『ジ・エンド』。もうバンドの代表曲がずらりと並んだベスト盤的名盤です。

The End

さっきも言及しましたが、彼らのサウンドはどこまでも時代的。だからこそ時間の経過につれて徐々に批評筋での立場が低迷している感もあるんですけど、それって裏を返せば1960年代を誰よりも体現してしまっているってことですからね。

そういう意味では彼らはザ・ビートルズと並んで1960年代史の中で象徴的な存在です。ザ・ドアーズを聴かずに1960年代ロックを好きということなかれ、そう付け加えておきましょうか。

『貴方だけを愛して』/アレサ・フランクリン (1967)

Respect

ここまでロックの名盤が続きましたが、ブラック・ミュージックにも目を向けてみましょう。今回ピックアップしたのは「ソウルの女王」アレサ・フランクリンの実質的デビュー・アルバムです。

ロックが激動の10年史をひた走る中、ソウルにとっての1960年代は実に穏やか。質実剛健とした高品質の作品が数多く生まれた訳ですが、そういう空気感をこの作品は象徴していると思います。どういうことかというと、「アレサ・フランクリンのいい歌を聴く」、それだけの作品なんです。

フランクリンは言ってしまえば「ポピュラー音楽史上最も歌の上手い人」。その人が実に堅実な名曲をこれでもかとパワフルに歌い上げる。正直そこの魅力を嗅ぎ取ることができればこの作品は理解したと言っていいと思います。

これはブログでも何度か触れていますが、日本人の洋楽観って「ロック一辺倒」なきらいがあると思うんです。どうにもブラック・ミュージックへの関心が薄くなりがちというか。ただ、ロックだって元を正せばブラック・ミュージックですから。体の内側から何かが込み上げてくるソウルの熱烈さを、女王の素晴らしい歌唱と共に楽しんでいただければと思います。

『レット・イット・ブリード』/ザ・ローリング・ストーンズ (1969)

Gimme Shelter (Remastered 2019)

最後にご紹介するのはストーンズから『レット・イット・ブリード』。1960年代も終わろうかという1969年にリリースされた傑作です。

この作品から感じ取ってほしいのは、紆余曲折あった末の着地点としての泥臭いロック。サイケだコンセプト・アルバムだと言ってきましたが、最後にロックはアメリカ南部のルーツに帰着したんです。

同年にはツェッペリンの2ndキング・クリムゾンのデビュー作という重要作も多いんですが、ストーンズがルーツ路線に立ち帰り、そして傑作を次々に生んだという過程は重要だと思っているんです。というのも、ポピュラー音楽がこれまでにないほど広い視野を手に入れた中、ストーンズはその最深部にある本質をブレずに表現した訳ですから。

1曲目の『ギミ・シェルター』からもう妖しさが全開ですよね。その妖しさというのも、ハード・ロックのセクシーさやプログレの不穏さとは表情を異にする、徹底的なまでにアーシーな質感で。派手なプレイが収録されている訳でもなく、どちらかと言えば心地よいサウンドをメインにしておきながらどこまでもロックンロールなんです。

『貴方だけを愛して』で触れた「日本人のブラック・ミュージックへの感度の低さ」という文脈でもこの作品は聴く価値ありですね。退屈に聴こえるかもしれませんが、この作品から豊満に漂う土の匂いというのはロックを理解する上で重要なピースの1つですから。

まとめ

久しぶりにアルバム作品にメンションする記事だったのでテンションが若干怪しいですが、以上が私ピエールの選ぶ「1960年代を最短で理解する10枚」です。

ものすごくベタなチョイスではあるんですが、これでも相当苦労しました。キング・クリムゾンを選んでいないのは我ながらゾッとしますし、JBのライヴ盤がないなんて我が目を疑います。

ただ仕方ないことなんですよね。土台10枚だけで1960年代を完璧にフォローするなんてのが無理難題なんですから。当然この記事をお読みになっていただいた方には、この10枚で満足することなく更なる探求をしていただきたいと思います。それこそ私の解説記事に名前の挙がったアーティストをなぞるだけでも結構なボリュームでしょうし。

解説記事の冒頭でも触れましたが、1960年代というのは今日のポピュラー音楽の基礎となる時代なんですよね。まずはこの時代を押さえることで、そこから時系列に沿って音楽を掘り下げることができるようになります。例えばジミヘンにピンとくるものがあるなら、そこから3大ギタリストのカタログや、あるいはスティーヴィー・レイ・ボーンに飛んでみるなんてことが。

ポップスの歴史はざっくり60年もある訳で、それを全てさらうなんてのは気の遠くなる作業です。だからせめて、何らかの取っ掛かりは欲しいところ是非ともこの記事をその取っ掛かりにしていただければと思いますそうするに足るだけのセレクトである自負は相当にありますからね。それではまた。

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