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「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」オープニング「RYDEEN REBOOT」に見た、「音楽先進国」日本

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今日は雑談的に、ざっくばらんな投稿を。トピックはこちら、5月22日に行われました、「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」について。

平たく言えば「和製グラミー」なこのアワード(実際そういうコンセプトみたいですしね)、とはいえ前評判としてはあんまり振るわないものではありました。忖度なしの私の第一印象を申し上げるなら、「どうせレコ大と大差ないんでしょ?」、これに尽きますね。

ノミネートのラインナップを見ても、批評的な審美眼があろうとなかろうとそりゃそうなるわなという並びでしたし(それ自体は妥当性という意味で、必ずしもネガティヴなものではないんですが)、第1回ゆえの特別措置なのかもしれないですがずいぶん前の作品がノミネートしていたり、宇多田ヒカルの『SCIENCE FICTION』というベスト盤がしれっとノミネートしていたりね。なんだかなぁ……という感じでした。

日本人の批評嫌い、好き嫌いは別としてきちんと議論を戦わせることへの忌避感、そんなのもあってどうせ大した盛り上がりにはならんだろうと高をくくっておりました。で、申し訳ないですが受賞結果もそんな感じでしたからね。Mrs. GREEN APPLE、Creepy Nuts、YOASOBI……まあ、J-Pop的にはそうなるわなという結果でね、レコ大どころかMステでよかったんじゃない?というのは内緒のお話です。賞レースなんてそんなもんだとも思いますが。

じゃあなんでわざわざこうして筆を取るのか、それはひとえに、授賞式のオープニングで放映された映像がたいへんに、たいへんに素晴らしいものだったからに他なりません。一週間経っても熱が冷めませんよ。本当に立派な演出でした。

2日目のGrand Ceremony、この開幕のスピーチを担ったのが細野晴臣。「SYMBOL OF MUSIC AWARDS JAPAN 2025」にYMOが選出されたことを受けての登壇です。

坂本龍一高橋幸宏、鬼籍に入ってしまったYMOの同志2人に謝辞を送った素晴らしいスピーチを受けて始まる「RYDEEN REBOOT」と銘打たれたオープニング・ムービー。これが圧巻ですよ。まずは観てください。

オープニングショー 「RYDEEN REBOOT」 YMO | MUSIC AWARDS JAPAN 2025

まず登場するのがPerfume。これがもう適任すぎてね。YMOからPerfumeという流れは、ラフに「ピコピコしてる音楽」的な捉え方をしても自然だし、大衆性と批評性を兼ね備えたJ-Popとエレクトロの融合というその表現性においても確かに共通している。これっきゃないという人選です。

出で立ちもまたいいんだ。赤の和装に身を包み、頭には水引の髪飾り。このアクセサリーがYMOの1stのアートワークへのオマージュであることは言うまでもありません。そして3人が振り返れば、背負っていた和傘には「わい」「えむ」「おう」の3文字、シビレますね……平仮名ってのがいいじゃないですか。ごくナチュラルに、「日本らしさ」を誇示するような演出でね。

そして流れるは、当然『RYDEEN』のあのフレーズ。「デーレーレー」(過去になく知性に欠けた表現ですが、それくらいエキサイトしているということで)です。オリジナルと比べるとゆったりとした荘厳なフィーリングがありますが、演奏しているのはまさかまさかの砂原良徳ですよ。元電気グルーヴのメンバーでもあり、彼もまた日本のエレクトロにおける超がつく重要人物。この人選もニヤリとしますね。

そんでもって、ここから怒涛のマッシュアップです。星野源の作品にも参加しているトラックメイカーのSTUTSが一気に現代的なビートを刻んだかと思えば、ちゃんみな、そしてNumber_iへバトンタッチ。正直この2組、私のアンテナには引っかからないアーティストではあるんですけど、素直にカッコいいなと思いました。そしてX音楽界隈では定期的に話題に挙がるVaundy『踊り子』『君に、胸キュン』のマッシュアップですって!

ただ、この段階では「面白い演出だな」くらいの気持ちでした。この印象を「やっべえわこれ」というギアにまで持っていったのが、初音ミクの登場ですよ。胸が熱くなるのも当然です。

というのもね、私って「オタク」文化の変遷に直撃している世代だと思っていて。その絶好の例がボカロなんですよ。中高生の頃にボカロのムーヴメントに直撃しましたけど、それは「オタク君が聴いてる音楽」の域を出るものではなかった。リスナーの側も、そのある種の特権を楽しんでいた節もありました。

それがどうです、米津玄師、あえてハチと言いましょうか、がJ-Popのスターになり、ボカロP出身者が次々と大衆的ヒットを打ち出し、今やボカロはJ-Popのルーツと言っていいポジションを獲得。同時に、ネット・カルチャーやアニメといったものの受容も急速に進んでいきました。

そして日本最大、どころかアジアを代表する音楽アワードを目標とするMUSIC AWARDS JAPANの舞台に、初音ミクという「歌手」が登場するに至っている。万感の思いですね。またミクさん、いい役どころを貰ってるんですよ。ちょっと『千本桜』っぽいニュアンスもありつつ『RYDEEN』を歌うんですが、そのコスチューム、さっきのPerfumeよりはるかに明示的にYMOの1stを踏襲しています。笑顔で広げた扇子には「YELLOW MAGIC」の文字まで印してあるじゃないですか。

余談ですけど、この一幕を見てHMOとかの中の人。(PAw Laboratory.) による初音ミクのYMOカバー『Hatsune Miku Orchestra』を思い出した方も多かったようですね。かく言う私もその1人ですが。当時あのアルバム聴いて盛り上がっていた誇り高きかつての「ニコ厨」たちも、まさかあのヴィジュアルがNHKで流れるとは思っていなかったでしょう。

ライディーン (Cover)

そしてそして、ピアニスト かてぃんによる独奏を挟んでからの展開、これが笑っちゃうくらいカオスでね。『チーム友達』から『北酒場』『新宝島』ときて『私の一番かわいいところ』『可愛いだけじゃだめですか?』って……もう無茶苦茶。間違いなくこの映像のハイライトです。

だってヒップホップと演歌とJ-Rockとアイドルを、テクノを軸に繋ぐんですよ?しかもそのすべてが、日本で一定以上のネーム・バリューがあるヒット曲。このなんでもありな節操のなさ、最高に日本文化してるじゃないですか。

そこからも10-FEET新しい学校のリーダーズYUKIとまったく脈絡のない展開が続き、しかも最後に登場するのは岡村靖幸という。詳しくは語りませんが、岡村ちゃんって公共放送出ていいんでしたっけ……?いえ、冗談ですよ。でも、攻めた人選であることに変わりはないかなと。

最後にはダンサーによるパフォーマンスがあって、プレゼンターを務めた菅田将暉が視聴者を会場に招き入れて完結(ここはYouTubeではカットされていますが)。いやあ、いいもん見た!

この手の「全員参戦!」的な演出、類似するものはいくつか思いつくんですよ。例えばこの

God Only Knows – BBC Music

BBC Musicによる『神のみぞ知る』のビデオであったり、あるいは

ロンドン五輪の「ぼくの考えたイギリス音楽列伝」的パフォーマンスの数々であったりね。それらと比べて、まったく遜色ない出来栄えだったと思います。

さっきも書きましたが、その何でもありっぷりがとにかく痛快。細川たかし個人的に本映像の最優秀男優賞です。最優秀女優賞はミクさんですね)とFRUITS ZIPPERが1つの映像に同居するの、面白すぎるでしょ。そんでもって、それらのどちらも誇るべき日本の音楽として堂々とアピールする。最高にクールです。

その軸がYMOというのもいいですよね。国際的に見ても極めて先進的なアーティストだったし、J-Pop的な認知度も高く(YMO知らなくても『RYDEEN』はどこかしらで耳にするでしょう)、「なんでそうなるの?」という日本文化特有のガラパゴスっぷりも発揮されている存在ですから。「はっぴいえんど中心史観」がますます強固なものになってしまったのは嬉しいやら恐ろしいやらですが。

さて、比較するのも野暮だと分かったうえで話題に挙げますが、2021年の東京オリンピックの開閉会式、あれが本当にダメダメだったじゃないですか。なんで日本を世界にアピールする場でクイーンを流してしまうのか、卑屈な島国根性丸出しでね。「世界から愛される日本」みたいなポジションに甘んじる態度がもう情けなくって。これは政治的な話ではなく文化的な話です。

それがどうです、今回の映像はむしろ「これが日本です、変わってるけどイケてるでしょ?」という、あっぱれな驕り高ぶりがあるものになっていて。こうでなくっちゃいけない。それくらいのナルシシズム、自国文化に対して持つべきだと常々思っていました。少なくともこの国は、そうするだけの土壌があるんですから。

そうだ、以前こんな投稿をしたんですよ。

山下達郎がサブスク解禁はあり得ないと明言したところをきっかけに、この国は「音楽後進国」であると結論づけた内容になっておりまして。そことの対比として、今回「音楽先進国」とタイトルに書いた訳です。

ただ元の投稿読んでもらえばちゃんと書いてるんですけど、この国の音楽の充実にはケチのつけようがない、それははっきりしています。それを上手く出力する手段や、シーンやリスナーの意識のズレが、それだけの豊かさをもってして「後進国」たらしめている、そういう理屈で強い言葉を使っているに過ぎません。

ところがどうです、今回の映像を見れば、希望めいたものが湧いてきました。何様だとお叱りを受けることを承知で申し上げましょう。なんだ、ちゃんと国産音楽を誇れるんじゃん!しかも内輪のイベントではない、国際的な発言力のあるアワードを目指そうという場で。

尤も、別にこの映像が日本における大衆文化の意識高揚の第一歩だ!みたいな大袈裟な話をするつもりはありません。これに関しては諦めているしそれが健全だとも思っているんですが、日本の音楽がどうだとかそこへの意識がどうだとか、そんな話多くの人は興味ないですから。

それでも、あるいはだからこそ、こういう文化への誇りを大衆に向けて発信したこの映像にものすごく安心感があったんですよね。これがお茶の間に流れて、なんだかいいなと思う人が多ければ、そんなに酷いもんじゃないなと。胸を張ってそう言えるものを見せてくれた、それだけであの授賞式には大きな意義があったんじゃないかなと思っております。ではでは、今回はこんなところで。

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