ブログの過去記事を見てもらえればわかると思いますが、これまでこのブログでは「名盤」とされるアルバムのレビューを行ってきました。
もちろんそれは今後も続けていきますが、どうしても1つの作品に向き合って4000字くらいの批評をするのって結構なエネルギーを消費しちゃうんです。どうしても時間がかかってしまいますし。
なのでこれまで当ブログを見ていただいていた方のニーズに合っているか自信はありませんが、今回はちょっと違った切り口で記事を書いていきます。
題にもある通り、世の中に数ある「名盤ランキング」、これに対するリアクションや感想を書いてみようという試みです。何回かに分けてシリーズ化できればいいんですけどね、それは手応え次第ということで。
で、第1回ということなので、まずは名盤ランキングといえばコレ!というものからいきましょう。この手のランキングで最も有名かつ最も影響力の大きい、ローリング・ストーン誌が2003年に発表した「Top 500 Albums of All Time」。今回はこちらを見ていきましょうか。
ランキングの内容
流石に500作品丸々この記事に貼り付ける訳にもいかないので、ここではトップ100を引用します。引用元の記事のリンクを置いておくので詳細が見たい方はそちらも確認してみてください。
- 1. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club/The Beatles
- 2. Pet Sounds/The Beach Boys
- 3. Revolver/The Beatles
- 4. Highway 61 Revisited/Bob Dylan
- 5. Rubber Soul/The Beatles
- 6. What’s Going On/Marvin Gaye
- 7. Exile On Main St./The Rolling Stones
- 8. London Calling/The Clash
- 9. Blonde On Blonde/Bob Dylan
- 10. The Beatles/The Beatles
- 11. The Sun Sessions/Elvis Presley
- 12. Kind Of Blue/Miles Davis
- 13. The Velvet Underground & Nico/The Velvet Underground
- 14. Abbey Road/The Beatles
- 15. Are You Experienced/The Jimi Hendrix Evperience
- 16. Blood On The Tracks/Bob Dylan
- 17. Nevermind/Nirvana
- 18. Born To Run/Bruce Springsteen
- 19. Astral Weeks/Van Morrison
- 20. Thriller/Michael Jackson
- 21. The Great Twenty-Eight/Chuck Berry
- 22. John Lennon/Plastic Ono Band/John Lennon
- 23. Innervisions/Stevie Wonder
- 24. Live At The Apollo/James Brown
- 25. Rumours/Fleetwood Mac
- 26. The Joshua Tree/U2
- 27. King Of The Delta Blues Singers/Robert Johnson
- 28. Who’s Next/The Who
- 29. Led Zeppelin/Led Zeppelin
- 30. Blue/Joni Mitchell
- 31. Bringing It All Back Home/Bob Dylan
- 32. Let It Bleed/The Rolling Stones
- 33. Ramones/Ramones
- 34. Music From Big Pink/The Band
- 35. The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars/David Bowie
- 36. Tapestry/Carole King
- 37. Hotel California
- 38. The Anthology/Muddy Waters
- 39. Please Please Me/The Beatles
- 40. Forever Changes/Love
- 41.Never Mind The Bollocks/Sex Pistols
- 42. The Doors/The Doors
- 43. The Dark Side Of The Moon/Pink Floyd
- 44. Horses/Patti Smith
- 45. The Band/The Band
- 46.Legend/Bob Marley & The Wailers
- 47. A Love Supreme/John Coltrane
- 48. It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back/Public Enemy
- 49. At Fillmore East/The Allman Brothers Band
- 50. Here’s Little Richard/Little Richard
- 51. Bridge Over Troubled Water/Simon & Garfunkel
- 52. Greatest Hits/Al Green
- 53. The Birth Of Soul/Ray Charles
- 54. Electric Ladyland/The Jimi Hendrix Experience
- 55. Elvis Presley/Elvis Presley
- 56. Songs In The Key Of Life/Stevie Wonder
- 57. Beggars Banquet/The Rolling Stones
- 58. Trout Mask Replica/Captain Beefheart
- 59. Meet The Beatles/The Beatles
- 60. Greatest Hits/Sly & The Family Stone
- 61. Appetite For Destruction/Guns N’ Roses
- 62. Achtung Baby/U2
- 63. Sticky Fingers/The Rolling Stones
- 64. Back To Mono/Phil Spector
- 65. Moondance/Van Morrison
- 66. IV/Led Zeppelin
- 67. The Stranger/Billy Joel
- 68. Off The Wall/Michael Jackson
- 69. Superfly/Curtis Mayfield
- 70. Physical Graffiti/Led Zeppelin
- 71. After The Gold Rush/Neil Young
- 72. Purple Rain/Prince & The Revolution
- 73. Back In Black/AC/DC
- 74. Otis Blue/Otis Redding
- 75. Led Zeppelin II/Led Zeppelin
- 76. Imagine/John Lennon
- 77. The Clash/The Clash
- 78. Hervest/Neil Young
- 79. Star Time/James Brown
- 80. Odyssey And Oracle/The Zombies
- 81.Graceland/Paul Simon
- 82. Axis: Bold As Love/The Jimi Hendrix Experience
- 83. I Never Loved A Man The Way I Love You/Aretha Franklin
- 84. Lady Soul/Aretha Franklin
- 85. Born In The U.S.A./Bruce Springsteen
- 86. Let It Be/The Beatles
- 87. The Wall/Pink Floyd
- 88. At Folsom Prison/Johnny Cash
- 89. Dusty In Memphis/Dusty Springfield
- 90. Talking Book/Stevie Wonder
- 91. Goodbye Yellow Brick Road/Elton John
- 92. 20 Greatest Hits/Buddy Holly
- 93. Sign ‘O’ The Times/Prince
- 94. Bitches Brew/Miles Davis
- 95. Green River/Creedence Clearwater Revival
- 96. Tommy/The Who
- 97. The Fleewheelin’ Bob Dylan/Bob Dylan
- 98. This Year’s Model/Elvis Costello
- 99. There’s A Riot Goin’ On/Sly & The Family Stone
- 100. In The Wee Small Hours/Frank Sinatra
(全ランキングはこちらから)
こういうラインナップです。非常に有名なリストなので最上位の顔ぶれは知っているという人も多いと思いますが、ある程度リストを下ると面白い並びに気づくこともあるかもしれませんね。
さて、ここからが本番。このリストの性格や、個人的に優れていると思う点、いただけないポイントをここからは解説していければと思います。
保守的なリスト
一言で言ってしまえば、このランキングは「保守的」、それに尽きます。
上の一覧では発表年を省略しましたが、年代別に見ると
- 1950年代……4枚
- 1960年代……37枚
- 1970年代……42枚
- 1980年代……11枚
- 1990年代……5枚
- 2000年代……1枚
という内訳なんです。もう偏りが凄まじいですね。当然、現代の我々がこのリストを振り返る時にはこれが2003年のものだということは理解しないといけないんですが、それにしたって懐古的です。
90年代の作品が少なくなるのは仕方ないと思うんです。まだまだ評価も固まり切っていない作品だってあったでしょうし、そこは結論を急ぐべきではないでしょう。
とはいえ80年代からの選出はもう少しなんとかなったのでは?ヒット作を満遍なく、という感じのチョイスですが、ロックにおいて重要なポスト・パンクから90’sオルタナに接続するサウンドを完全シカトというのはちょっとやりすぎです。
80年代以降の作品に関しては「とりあえず入れてみました」感が拭えないんですよね、『ネヴァーマインド』が大健闘の17位ですけど、全体を見渡した時にむちゃくちゃ浮いてませんか?むしろこの価値観でいくならもう少し順位は下がっていて然るべきでしょう。
そしてその80’sに割かれなかった枠はというと、もうビートルズとディランに大盤振る舞いしてますね。間違いなくポピュラー音楽における偉大さでは頂点に位置するアーティストだとは思うんですが、流石にこれは過剰な感もあります。ビートルズなんてトップ100圏内に8作品ですから。ちょっとその偏りは不健全な気はします。
もう1つこのリストのコンサバな点を指摘するならば、ポピュラー音楽の本当に最初期のレジェンドが揃い踏みというところでしょうか。ロバート・ジョンソンに始まり、チャック・ベリーにリトル・リチャード、エルヴィスにバディ・ホリーと50年代以前のアーティストがかなり多く登場していますね。
とはいえ、このリストってアーティストからジャーナリストといった音楽関係者へのアンケートを元に作成されているので、それほど編集部の作為というのはないはずなんですが。昨年の改訂といい、どこまでアンケート結果に忠実なのかは個人的には正直疑問視しています。
編集盤からの選出
このリストの性格として他に特徴的なのが、ベスト盤やコンピレーション・アルバムが登場しているというもの。
これは前チャプターの内容とも関連するんですが、アルバムを1つの単位とみなす価値観って60年代中期頃から生まれたものなんですよ。それこそこのランキングのトップ3が発表されたタイミングです。
そうなると、それ以前のアーティストには「名盤」というものがそもそもない、と言えてしまうんです。当然優れた音楽ではありますが、それは「アルバム」というフォーマットでの表現ではありませんからね。でもこのリストはその時代のアーティストからの選出も重視しています。だからこその編集盤なんです。
これ、個人的にはナンセンスかなと思っています。あくまでこのランキングは名盤ランキングな訳ですから、そこに忖度をする必要はないじゃないですか。レイ・チャールズが上位にいないところで、彼の偉大さにケチがつくはずがありませんから。そして、ここがこのリストの一番ブレているポイントだと思っていて。
どういうことかと言うと、アルバムをアート作品と捉えた功績によって『サージェント・ペパー』を史上最高のアルバムとしておきながら、一方では楽曲集に過ぎない編集盤に多く枠を割いているんですよね。百歩譲ってじゃあエルヴィスの『サン・セッションズ』が楽曲集として魅力的だとして、彼の音楽はそもそもアルバムで聴かれていなかったんですからこのコンピ盤が偉大な作品とも言いにくいでしょう。
ここはストーン誌の保守性が悪く出た部分でしょうね。もっと割り切って、「名盤のランキングだからベスト盤は対象外!」くらいの基準でもよかったのではないかと思います。それはそれでレジェンドを軒並み下位にすると、今度は別な人から叩かれてしまうのでしょうけど。
「オールド・ウェイヴの教科書」
あんまり批判的な物言いが続くのもよくないですし、この辺でこのリストのいいところを。
保守的、というのがこのランキング最大の性質だ、という話をしましたけど、それって言い換えれば「外してない」ってことなんですよね。きちんとオーソドックスな作品やアーティストを順当に拾っていっている、そういう印象です。
90年代以降のシーンは基本的に反映されていないので、ヒップホップやオルタナティヴ・ロックはかなり数が少ないですが、その分80年代までの音楽はかなり手厚くフォローしていますし、名前は有名だけど作品は聴いたことがないみたいな古典的スターも網羅しています。
このリストを順番に聴いていけばロックを中心に、洋楽の大まかな流れというのは大体抑えられるのではないかと思います。やや古典に偏ってしまうかもしれませんが、いきなりアンダーグラウンドな作品に手をつけるのも考えものですしね。
それに私個人としても、音楽体験の中で「名盤」というものを意識し始めた最初期にこのランキングに触れたもので、個人的な愛着というのもあるんですよね。さっきまでこき下ろしておいてどの口がという話ではあるんですが。
洋楽を本格的に聴いてみたい、満遍なく理解してみたい、そういう方の教科書となりうるランキングであるというのはこのリストの極めて優れている点ですね。
『サージェント』史観の成立
このリストは数ある名盤ランキングでも最も影響力がある、という話を冒頭でしました。ではその影響力とは何かというと、『サージェント・ペパー』こそが音楽史の最高傑作だ、という1つのイデオロギーを確立した点にあります。
最近でこそこの風潮も衰退しつつありますが、一昔前までこの理念ってかなり根強かったように思います。少なくとも私がビートルズを聴き始めた10年前くらいまでは確実に有力な主張でした。
もちろんあの作品が名盤であることは明白ですし、「史上初のコンセプト・アルバム」という偉業は評価されて然るべきではあるんですが、ここまで支配的な価値観になったのはこのリストの影響が大きいのかなと。
元々老舗雑誌ではありますし、今でもローリング・ストーンの権威って健在じゃないですか。そのメディアが出した結論ともなれば人口に膾炙するのも当然です。しかも、前提として『サージェント・ペパー』は紛れもなく傑作であるという事実がある訳ですからね。
でもなかなかないと思うんですよ、これほどまでに多種多様な洋楽の世界における最適解が一定期間多くの人の中で共有されていたことって。その是非は置くにしても、そうした史観の確立はこのリストの重要な意義になっていると思います。
まとめ
あくまでスピンオフ企画ですから小規模な記事にするつもりが、ついつい過去最大のボリュームとなってしまいました。
この手のランキングを「無意味だ」という人も決して少なくないと思いますが、私は有意義なコンテンツだと考えています。勿論、その結果に対してああでもないこうでもないと与太話をする楽しさもあるんですが、それ以上に音楽観を豊かにしてくれると思っていて。
個人の感性に基づいて音楽を判断することは言うまでもなく大切なんですが、その作品の意義や歴史における重要性、それらを理解することで「点」である音楽が「線」として繋がり、さらにそれが「面」として広がりのあるものになると思っているんです。
その「面」の形成の助けとなるのがこうした批評やランキングで、自分なりの世界が生まれたらその後は大いに肯定も否定もできる。そういった地図の役割は小さく見積もっていいものではない気がします。
何はともあれ、今回はローリング・ストーン誌の名盤ランキングのレビューでした。今後このリストを参考にするとき、このレビューが何か参考になれば嬉しいです。
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