今回も今回とて“To Pimp A Butterfly”全訳解説、やっていきましょう。今回で折り返しですね。バックナンバーはこちらから。
今回扱うのはインタールード“For Sale ?”。以前“For Free ?”というインタールードの和訳と解説は行いましたが、タイトルの段階で対になっているのがお分かりいただけるかと思います。
実際に内容の部分でどういった関連があるのかどうか、それは全訳と解説で確かめていただきましょう。それではひとまず、和訳から見ていきましょうか。
“For Sale ?” (Interlude) 全訳
What’s wrong nigga ?
I thought you was keeping it gangsta ?
I thought this what you wanted ?
They say if you scared go to church
But remember
He knows the bible too
どうした?
まだギャングスタであろうとしてるのか?
これがお前の欲しいもんなんだろ?
参った時は教会へ行けってのはよく言う文句だが
覚えておくといい
あいつだって聖書には覚えがあるのさ
My baby when I get you get you get you get you
I’ma go head to ride with you
Smoking lokin’ poking the deja till I’m idle with you
‘Cause I (want you)
Now baby when I’m riding here I’m riding dirty
Registration is out of service
Smoking lokin’ drinking the potion you can see me swerving
‘Cause I (want you)
I want you more than you know
君と一緒に居られるなら……
君と一緒にドライブに行きたいね
タバコを吸って 酒を飲んで ヤクをキメたりしてみたいね 君と一緒に
だって君が欲しいからね
そうそう ところでこのドライブは違法なんだ
この車は登録されてないからね
タバコを吸って 酒を飲んで 見ればわかるだろ? 俺はイカれちまってる
だって君が欲しいから
君が思っているよりずっと 俺は君が欲しいんだよ
I remember you took me to the mall last week baby
You looked me in my eyes about 4 5 times
Till I was hypnotized then you clarified
That I (want you)
You said Sherane ain’t got nothing on Lucy
I said you crazy
Roses are red violets are blue but me and you both pushing up daisies if I (want you)
俺を先週ショッピングモールに連れて行ってくれたよな
お前は俺の目を4回だか5回見てきた
俺がお前の虜になっているって気づかせてくれるまでずっと
そう 君が欲しいんだ
君はシャリーンとルーシーには何の関係もないだなんて言うけど
そんなこと言えるなんて正気じゃない
赤い薔薇 青い菫 ああ なんて詩的なんだろう
でも2人して墓に入ることになるぜ デイジーがそこには手向けられる
もし君を求めようものなら
My baby when I get you get you get you get you
I’ma go head to ride with you
Smoking lokin’ poking the deja till I’m idle with you
‘Cause I (want you)
君と一緒に居られるなら……
君と一緒にドライブに行きたいね
タバコを吸って 酒を飲んで ヤクをキメたりしてみたいね 君と一緒にだよ
だって君が欲しいからね
You said to me
You said your name was Lucy
I said where’s Ricardo ?
You said oh no, not the show
Than you spit a little rap to me like this
When I turned 26 I was like oh shit
お前はこう言ったな
「俺の名前はルーシー」
俺はこう返した「リカルドはどこだ?」ってな
「ああ 昔のテレビ番組のことじゃないよ」お前はそう答えた
そんでお前は軽くラップをしたな 今俺がやってるみたいに
俺が26歳になった時さ 「26歳だってよ マジかよ」ってな感じさ
You said to me
I remember what you said too, you said
“My name is Lucy, Kendrick
You introduced me Kendrick
Usually I don’t do this
But I see you and me Kendrick
Lucy give you no worries
Lucy got million stories
About these rappers I came after when they was boring
Lucy gone fill your pockets
Lucy gone move your mama out of Compton
Inside the gi-gantic mansion like I promised
Lucy just want your trust and loyalty
Avoiding me ?
It’s not so easy I’m at these functions accordingly
Kendrick, Lucy don’t slack a minute
Lucy work harder
Lucy gone call you even when Lucy know you love your Father
I’m Lucy
I loosely heard prayers on your first album truly
Lucy don’t mind ‘cause at the end of the day you’ll pursue me
Lucy go get it, Lucy not timid, Lucy up front
Lucy got paper work on top of paper work
I want you to know that Lucy got you
All your life I watched you
And now you all grown up then sign this contract if that’s possible”
お前はこう言った
こう言ったんだぜ 忘れもしない
「ケンドリック 俺はルーシー
君が俺をここに呼んだんだ そうだろケンドリック
普段はこんなことしないけど
でもこうして君とは会えた ケンドリック
俺といれば安心さ
俺には無数の逸話があるからな
俺が後ろを追いかけてきたラッパーにまつわる逸話さ そいつらがつまらない奴だった頃の話
俺はポケットを金でいっぱいにしてやれるぜ
俺に任せればお前のお袋をコンプトンから連れ出すことだってできる
前に約束してたみたいなバカデカい豪邸にな
俺が求めるのはお前の信頼と忠誠 それだけさ
おいおい 俺を避けるのか?
それは楽じゃないぜ 実は俺にはいくらだってやりようってのがあるんだから
なあケンドリック 俺は時間に厳しいんだ
俺はしっかり働くぜ 俺はお前を呼び寄せるんだ たとえお前が主を愛していると知っていてもなお
俺はルーシー
なんとなくではあるんだが 実はお前が1stで祈ってるのを聞いたよ
俺にとってはそんなことどうでもいい だって最後にはお前は俺が欲しくて堪らなくなるから
俺は絶対にやってやるんだ 俺は怯んだりしないからな 正々堂々とやるぜ
俺にはやらなきゃいけない書類仕事が山ほどあるんだ 契約書だったり金勘定だったり
気づいてもいいんじゃないか お前はもう俺のもの
お前のことを子供の頃からずっと見てたぜ 今じゃお前も26歳 さあこの契約書にサインしてくれ」
Get you get you get you get you
I’ma go head to ride with you
Smoking lokin’ poking the deja till I’m idle with you
‘Cause I (want you)
Now baby when I’m riding here I’m riding dirty
Registration is out of service
Smoking lokin’ drinking the potion you can see me swerving
君と一緒に居られるなら……
君と一緒にドライブに行きたいね
タバコを吸って 酒を飲んで ヤクをキメたりしてみたいね 君と一緒に
だって君が欲しいからね
そうそう ところでこのドライブは違法なんだ
この車は登録されてないからね
タバコを吸って 酒を飲んで 見ればわかるだろ? 俺はイカれちまってる
だって君が欲しいから
君が思っているよりずっと 俺は君が欲しいんだよ
解説
イディオムを巧みに操る詩才
さて、ここからは解説です。手始めにリリックに登場する、解説が必要であろう内容に補足説明を加えていきましょうか。
まずは「君はシャリーンとルーシーには何の関係もないだなんて言うけど」、このシャリーンというのは前作“Good Kid, m.A.A.d City”に登場するラマーの恋人です。そして「ルーシー」は、後で詳細に解説しますがこの楽曲でメインとなる悪魔ですね。
ここで「ルーシー」は「君の恋人と俺には何の関係もない」と言っていますが、“For Free ?”でラマーの恋人がラマーの富や名声を食い物にしようとしていた事実を踏まえると、シャリーンは「ルーシー」に唆されてしまったと読解することができると思います。そのことを分かっているからこそ、ラマーは「正気じゃない」と反論している訳ですね。
続いて、ここからはリリックの内容そのものとはそこまで関係のない表現の話ではあるんですけど。「赤い薔薇 青い菫 ああ なんて詩的なんだろう」という表現、これちょっと意訳したんですが、本来ならば「薔薇は赤く 菫は青い」というだけのリリックです。
これ、アメリカではある種ネット・ミーム化している一節で、元は何かの詩から引用しているものですけど、このフレーズを使えば後に何を続けても詩的な響きが生まれるというお決まりの文句だそうです。
ただ、ここでケンドリック・ラマーの如才ない部分が、「でも2人して墓に入ることになるぜ デイジーがそこには手向けられる」と続けている点です。これもイディオムで、直訳するならば「デイジーが俺とお前に手向けられる」とだけになるんですが、デイジーというのは愛する人の墓に供えられる花として有名なんですよ。
つまり、「デイジーが手向けられる」というのは死を意味する訳です。薔薇と菫の登場するイディオムの後に、続けざまにデイジーに絡めたイディオムで花という関連性を持たせつつ含みのあるリリックを畳み掛ける……流石の詩才ですね。
「ルーシー」の囁きと”For Free ?”との対照性
ここからリリック全体の読解です。前曲“Alright”で登場した「ルーシー」が、この楽曲でも重要な役割を担っています。というより、リリックの大部分が「ルーシー」によるラマーへの語りかけなんですよね。さっきも書きましたが、この「ルーシー」は「ルシファー」と同義、すなわち悪魔のことです。
直接この「ルーシー」が悪魔だという言及はないんですけど、冒頭のリリック、「参った時は教会へ行けってのはよく言う文句だが 覚えておくといい あいつだって聖書には覚えがあるのさ」という部分で仄めかされていますね。
この「参った時は教会へ行け」、原文では“if you scared go to church”となっている部分、これは2パックの楽曲にも登場するリリックです。さあ、ここで2パックの名前が登場しましたが、この伏線が極めて重要であることだけはこの段階でお伝えしておきましょう。
少し話は脇道に逸れますが、伏線という意味だと「俺が26歳になった時さ 「26歳だってよ マジかよ」ってな感じさ」というリリックも後々に活きてくる部分です。本作のクライマックス、“Mortal Man”において、黒人男性が26歳まで生き延びることは極めて稀だとラマーは語ります。そういった意味で、この26歳という年齢は彼にとってすごく重要な数字なんですよね。
さて、話を「ルーシー」に戻しましょうか。この「ルーシー」は悪魔ではあるんですけど、いわゆるキリスト教的な、天使と対になるところの悪魔ともやや意味合いが違っていて。
“Wesley’s Theory”で登場した「アンクル・サム」がアメリカ資本主義社会の暗部の象徴だったのと同様、この「ルシファー」も社会、あるいは人間の欲の権化として理解すべきでしょうね。
そうした比喩でいけば、”Wesley’s Theory”でも”Alright”でも登場した”mall”、「ショッピングモール」もメタファー的に理解できます。ありとあらゆるものが陳列され、金によってそれを手に入れることのできるショッピングモールも、資本主義の象徴として引用されているんでしょう。
この記事の冒頭でも書きましたが、この”For Sale ?”というタイトル、明らかにもう1つのインタールードである“For Free ?”と対になっていますよね。「売り物なのか?」と「無料なのか?」という問いかけな訳ですから。
で、リリックの構造も対照的です。”For Free ?”ではラマーを食い物にしようとする恋人への痛烈な反撃が主体でしたが、この”For Sale ?”ではラマーに囁きかける「ルーシー」の甘言がメインですから。
「ルーシー」は彼が多くのラッパーに成功を与えた事実をアピールし、ラマーの母親をコンプトンという最悪の街から脱出させ豪邸に住まわせてやることを提案し、それでもなお「ルーシー」を拒むラマーには自身の執念深さを説き、逃げ切ることはできないと釘を刺します。
当然この「ルーシー」は実在の存在ではないものの、このいやらしさ、非常にリアリティがあります。スターダムにのし上がってからのラマー自身の経験が下敷きになっていることが窺えますね。
ここで面白いのが、リリックの内容から言って、“For Free ?”と”For Sale ?”は本来順序が逆なんですよ。だって、悪魔の唆しがあり、そこに対する反撃、というのが展開としては適切だし美しいと思いません?
でも”To Pimp A Butterfly”において、ここは裏返った形で収録されています。これはおそらく、「ルーシー」の誘惑は現在進行形であり、終わることがないラマーが背負うべき業であることを示唆しているのではないかと私は考察します。
たとえ”For Free ?”で恋人を完全に論駁しようと、「ルーシー」は違う手札を切ってなおラマーに接近してくる。なにせ「ルーシー」自身が「おいおい 俺を避けるのか? それは楽じゃないぜ 実は俺にはいくらだってやりようってのがあるんだから」と言ってのける訳ですからね。
まとめ
さて、このシリーズに関しては久しぶりの投稿ではありましたが、今回は”For Sale ?”の全訳解説に挑戦してみました。
予告する形にはなりますけど、ここから先、どんどん”To Pimp A Butterfly”の詩世界は抽象的に、難解になっていきます。実際、次の”Momma”なんてソクラテス的な価値観に根ざしている訳でね。
ここから後半戦に差し掛かる”To Pimp A Butterfly”全訳解説、是非ともお楽しみいただければと思います。それではまた。
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