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週刊「ピエールの選ぶ2022年オススメ新譜5選」Vol.4

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ここ最近この企画しか更新できてないですね、すみません。ちょっと諸々忙しくてですね……近日中には溜め込んだ企画を一気に吐き出すつもりですので少々お待ちを。

とはいえ連載モノはなんとか落とさずにいきましょう。「ピエールの選ぶ2022年オススメ新譜5選」Vol.4、やっていきますよ。バックナンバーはこちらからご確認ください。

早いものでもう2月ですけど、その2月の第1週、とてつもなくボリューミーな新譜ラッシュでした。ここで改めて先週リリースされたアルバムを確認していきましょう。それでは参ります。

① “Ants From Up There”/Black Country, New Road

Black Country, New Road – 'Basketball Shoes' (Official Audio)

まあ、まずはコレですね。昨年リリースしたデビュー・アルバム、“For The First Time”が大絶賛を浴びたサウス・ロンドンのポスト・パンク・バンド、Black Country, New Roadが早くも発表した2nd、“Ants From Up There”です。

Yard Actの1stに触れた時に、この作品は引き合いに出しているんですよ。Yard Actが素晴らしかっただけに、そして私が昨年のポスト・パンクの盛り上がりに世間ほど順応できなかっただけに、コレはBCNRの2nd、かなり世間の見る目は厳しくなるんじゃないの?という感じでね。ところがどっこい、こいつはスゴい!

1stに感じた内向性、如何にもポスト・パンク的なあのムード、それを一気に昇華させましたね。ここまで飛躍するとは思っていませんでした。管楽器や弦楽器を主体としたサウンドの構築という手法は踏襲しているんですけど、それが実に開放的です。

相変わらずコアなことはやっています、“Mark’s Theme”なんて、まるでキング・クリムゾン『アイランズ』のようなシンフォニックな優美さがありますし。ただ、その上でポジティヴなんですよね。メロディが一貫して親しみやすい。そこのバランスが見事だなと思います。

アーケイド・ファイアとの比較も散見されましたけど、なるほどと思いましたからね。あそこまで強烈なアンセムや生命力みたいなものはない、あくまでバンド内に留まるスケール感ではあるんですけど。この方向性で拡大していくとポスト・パンクの一群では頭1つ抜けた存在になれるんじゃないでしょうか?それくらいワクワクさせられるロックの名盤です。

② “Laurel Hell”/Mitski

Mitski – The Only Heartbreaker (Official Video)

BCNRの2ndが今週はぶっちぎりかな……なんて思っていたところにこんな作品出てくるんですからたまげましたよ。Mitskiの4年ぶりとなる待望の新作、“Laurel Hell”です。

前作の“Be The Cowboy”が批評的に非常に成功したみたいなんですね(みたい、というのは2018年当時の私は「パンクでロックは死んだ」論者だったので現代批評なんてガン無視していました)。そこから4年の時を経てどう進化するのか、という期待が本作にはかかっていた訳ですけど、なるほどこうきたか!と。

前作のゴツゴツしたインディー・ロック的なサウンド、そこから変貌を遂げ、ものすごくナチュラルで嫋やかなポップスに変貌を遂げています。ポップ・センス自体はそれまでの作品でも感じられた彼女の才能なんですけど、ここまでサウンドの側からアプローチをかけてくるとはね。

その中でも白眉は“The Only Heartbreaker”じゃないでしょうか。Mitskiの鋭い感性によって現代に蘇った1980年代ポップスといった印象です。打ち込みのリズムなんてもろ80’sを思わせるんですけど、古臭かったり懐古主義的ではないんですよね。むしろすごく鮮やかで。シンセサイザーの色彩感覚なんて圧倒的です。

彼女のカタログって一貫して40分に満たないコンパクトなものなんですけど、濃密さでいくと本作が随一かな。33分というこじんまりとしたアルバムですけど、やはりメロディの強度が高い分1曲1曲の訴求力が実に高い。私はあくまで本作は「ポップス」だと思っていますし、こういう「ポップス」って絶対に評価しないとダメだと思うんです。

③ “Big World”/MONDO GROSSO

MONDO GROSSO / STRANGER[Vocal:齋藤飛鳥 (乃木坂46)]

大沢伸一のソロ・プロジェクト、MONDO GROSSOの4年ぶりとなるアルバム、“Big World”です。MONDO GROSSOとはイタリア語で「大きな世界」という意味なので、セルフ・タイトル作と言ってしまってもいいですね。

田島貴男からどんぐりずPORINに至るまで、かなりジャンルレスなシンガーとのコラボレートによる作品なんですけど、コレが面白くて。それぞれのシンガーの個性に楽曲がピッタリと寄り添っていて、それでいてアルバム作品としての軸がブレていない。

個人的にビビッときたのがCHAIとコラボした“OH NO!”、それから齋藤飛鳥が歌った“STRANGER”ですね。前者は小気味いいビートにキュートなメロディが乗っかっていて、そこにCHAIの自信満々の存在感が更にマウンティングする反則技が堪らないですし、後者なんてシューゲイズチックなロック・サウンドと淡々とした齋藤飛鳥の歌声が卑怯なくらいマッチしている。

この振れ幅が、聴いていて飽きないんですよね。次はどんなサウンドが出てくるんだろう?という高揚感が、アルバムの中で持続してくれる。こういう引き出しの多さに、大沢伸一の貫禄を感じてしまいます。

それと、サウンド自体はデジタルな質感なんですけど、真ん中にメロディがキッチリ立っている、「歌モノ」なのもいいじゃないですか。あくまでJ-Pop的に鑑賞できてしまう、ある意味での手軽さもある作品です。客演の豪華さも踏まえて、少なくとも日本ではもっと騒がれていいんじゃないでしょうか。

④ “Summer At Land’s End”/The Reds, Pinks And Purples

The Reds, Pinks and Purples – 'Let's Pretend We're Not In Love' (Official Video)

アメリカはサンフランシスコ出身のソングライター、Glenn Donaldson率いるローファイ・インディー、The Reds, Pinks And Purples“Summer At Land’s End”です。これ、今週1の掘り出し物でした。

最初に想起したのは、やはりベル&セバスチャンですね。メランコリックでノスタルジックな、とろけるように甘い世界観、それをこの作品にも強く感じます。特にギターの音がいいんですよ。ここまで丁寧にローファイなサウンド、久しぶりに聴きました。

ギターのアルペジオが目立つ点や低音域が豊かなヴォーカル、この辺にザ・スミスとの類似も感じたんですけど、あそこまで退廃的でも陰気でもありません。「地の果ての夏」という如何にも情緒的なタイトルから連想する通り、どこか爽やか、それでいてちょっぴり切ないというバランスが私好みです。

こう言うと悪口に聞こえちゃうかもしれませんけど、一切引っかかりがないアルバムなんですよ。まるで空気のように、自然と耳と心に馴染んで、聴き終えた後はスッと消えていく。何か派手なもの、斬新なものを求めている人には向かないアルバムかもしれません。

ただ、そのさりげなさがいいじゃないですか。きっとこの作品、大手メディアが出す2022年の年間ベストとかには入らないんでしょうけど、それでいいと思っています。ただただ私が好きで、それでも普段は忘れていて、ふとした時に聴き返す。そんな愛聴盤になってくれそうです。

⑤ “Time Skiffs”/Animal Collective

Animal Collective – We Go Back (Official Video)

Pitchfork2022年初のBest New Albumsに選出したことでも話題を呼んだ、アニマル・コレクティヴ“Time Skiffs”。オリジナル・アルバムとしては6年ぶりになるんでしょうか。

アニマル・コレクティヴと言えば、「21世紀の『ペット・サウンズ』」とまで謳われた世紀の傑作“Merriweather Post Pavilion”があまりに名盤ですけど、本作はその流れで聴いちゃうと掴みにくい気がします。ほら、あの作品ってとにかく情報量が膨大で、電子音の洪水のようなアルバムじゃないですか。

ただ、このアルバムはもっとわかりやすいですから。下手に深追いするよりも、ただ緻密なサウンドスケープに身を委ねるのがミソだと思います。かく言う私が、最初何度か聴いた時どこか消化不良でしたから。「何か見落としていないだろうか?」といった強迫観念に囚われてしまっていました。

そもそもが、インディー・サイケデリックという趣きの作品ですからね。メロディやサウンドの随所に感じるインド的なテイストは、ジョージ・ハリスンに端を発するインド風味サイケデリアの延長線上にあるものと捉えていい気がします。その上で、インディー的な捻くれ方、一筋縄ではいかないややこしさもしっかり残っているのが彼ららしい。

私個人の経験から言って、クラシカルなロック、それこそサイケデリアなんかがお好きな層とこの辺のインディー・シーンってある程度断層がありそうなんですけど、そういう方にこそ手に取ってほしいアルバムですね。インディー・ロックがロックのメインとなった現代の感覚で描くサイケデリア、きっと面白い発見があると思いますよ。

まとめ

さあ、今回も今回とてミーハーなチョイスですね。個人的にThe Reds, Pinks, Purplesをご紹介できたのは大きいんですけど、他は割と順当かな。流石は話題作、名盤でした。

ただ、アニマル・コレクティヴの時にも触れたPitchforkのBest New Albumsには結構懐疑的で。BCNRは妥当ですし、アニマル・コレクティヴもPitchforkのインディーへの偏執を思えば理解できますが、ケイト・ル・ボンよりはMitskiじゃない?というのが未だに拭えません。いや、ケイト・ル・ボンの新譜もよかったですけどね。

それでも、PitchforkがBest New Albumsを同一週リリースの作品群から3つもセレクトすること自体かなり異例ですから。それだけこの1週間が濃密だったということです。実のところ、紹介したかったアルバムはまだいくつかあるんですよね……

と、まるで峠は越えたかのような物言いをしていますけど、明日はぶっちゃけこれまで以上の激戦区になりそうです。何せBig ThiefSpoonalt-Jという、インディー・ファン垂涎もののリリースが揃って明日ですからね。

それに、スーパーボウルのハーフタイム・ショーにも出演するメアリー・J・ブライジも明日リリースです。面白いところで言うとライドのギタリスト、アンディ・ベルのソロ作品なんかもありますからね。

割とネームバリューは無視で選んでいるので、今名前を挙げた有名どころが実際来週の5枚にどこまで残っているのかも楽しみにしていただけると嬉しいです。これでこの5組でハイ終わり、みたいなオチになったらそれはそれで笑ってください。それではまた次回!

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