- 20〜11位
- 第20位 “A Light For Attracting Attention”/The Smile
- 第19位 “learn 2 swim”/redveil
- 第18位 “The Tipping Point”/Tears For Fears
- 第17位 “Warm Chris”/Aldous Harding
- 第16位 “caroline”/caroline
- 第15位 “If My Wife New I’d Be Dead”/CMAT
- 第14位 “Harry’s House”/Harry Styles
- 第13位 “言葉のない夜に”/優河
- 第12位 “Dawn FM”/The Weeknd
- 第11位 “Ugly Season”/Perfume Genesis
20〜11位
第20位 “A Light For Attracting Attention”/The Smile
ランキングを作成する上で、一番困ったのがこの作品の立ち位置です。トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキニーによるThe Smileの1st”A Light For Attracting Attention”。
言いたいことは分かりますよ、「なんでコレをレディへでやらんのだ!」でしょ?私だってそう思いますけど、レディオヘッドで出来ないから別名義なんでしょうし、純粋に作品の質だけで評価すると、”In Rainbows”と”A Moon Shaped Pool”の進歩的ハイブリッドである本作を軽んじるのは流石にやってないじゃないですか。紛れもなくレディオヘッドの進むべき未来を示した作品なわけで。
レディオヘッドとの相違点であれば、ドラムのビートがより有機的でロック的である部分でしょうか。このことで、神秘的な聴き味に加えてロック・アルバムとしてもきっちりフレンドリーになっていると思います。レディオヘッドの別プロジェクトでさえなければ、もっと正当に評価されたでしょうにね。
第19位 “learn 2 swim”/redveil
弱冠18歳のラッパー、redveilの”learn 2 swim”。こいつも上半期のヒップホップではトップクラスの傑作でしたね。
「ヒップホップのニュー・ジェネレーション」を体感できる作品だと個人的に思っているんですよ。何せ彼の影響元って、Kendrick LamarやTyler, The Creatorですからね。プロデュースもredveil自身が手掛けていて、ラップだけでなく、サウンドもひっくるめた全体でのヒップホップに自覚的な1枚です。またこのサウンドも素晴らしくてね。
ソウルやジャズの影響が強くて、ギラギラした若い才能とは裏腹にすごくよく練られているんですね。この辺りも10年代のヒップホップを経由したからこそのアプローチだと思いますし、クラシカルなのにコンテンポラリーなラップ・アルバムとして秀逸だったと思います。
第18位 “The Tipping Point”/Tears For Fears
まさか2022年の新譜ランキングで彼らを扱えるなんて。80’sのシンセ・ポップを代表するアーティスト、Tears For Fearsの実に18年ぶりとなるニュー・アルバム、“The Tipping Point”です。
個人のランキングなんでこの言い訳も不要っちゃあ不要なんですが、この作品をランクインさせたのはただの懐古趣味じゃないんです。サウンドやメロディはもうTears For Fearsの「らしさ」全開なんですけど、それがしっかりと現代的な感性でも受け入れられるレベルで洗練されているんですよね。実際チャート・アクションもかなり好調でした。
そもそもTears For Fearsって、今聴いても古臭さのないタイムレスなポップスですからね。彼らの全盛期に匹敵するクオリティの作品なんですから、そりゃ2022年でも屈指のポップス・アルバムになってるはずです。近年の80’sリバイバルを追い風に、本家本元の威厳を示した作品と言えるんじゃないでしょうか。
第17位 “Warm Chris”/Aldous Harding
女性SSWの作品をとにかくよく聴いた半年だったと今にして思いますが、その中でもかなり個性的だったのがこのアルバムですかね。ニュージーランドのアーティスト、Aldous Hardingの”Warm Chris”です。
ピアノやギターのアコースティックなサウンドが主軸な、密やかなインディー作品……となると如何にもありがちですけど、仄かなサイケデリアが特徴的ですね。アシッド・フォークとまではいかない、ごくごく控えめな退廃の気配があるのが堪らないですね。彼女のやや捻くれた、一筋縄ではいかない作曲もいい味を出してます。
歌唱の部分でも面白くて、芝居がかったとすら表現し得る、すごく自覚的な歌唱の使い分けがお見事です。一聴するとシンプルなSSW作品ではあるんですけど、その実相当に奥深い1枚なんじゃないでしょうか。
第16位 “caroline”/caroline
carolineのセルフ・タイトル作も上半期の重要な収穫でしたね。デビュー・アルバムながら、それこそ去年のBC,NRのような存在感を放っている1枚じゃないでしょうか。
とにかくミステリアスなアルバムです。骨子となるのはオーガニックなインディー・フォークなんですけど、そこに8人組という大所帯から展開される分厚くも曖昧模糊なサウンドスケープと、現代音楽に長じたバックグラウンドに裏打ちされた突拍子もないアイデアが唯一無二の世界観を生み出しています。この作品に似た音楽、パッと思いつかないんですよ。
アルバム後半の即興演奏なんて、もはやプログレッシヴ・ロックと言ってしまえる大胆さです。優美でありながらフリーキー、そこのバランスがプログレ好きな私にはドストライクで。上半期のロック・バンドによる作品の中では、群を抜いての掘り出し物だと思いますね。
第15位 “If My Wife New I’d Be Dead”/CMAT
80’sリバイバルなんて今更私が指摘するまでもなく近年のポップスのトレンドですけど、そういう前提があるのにこの傑作がスルーされがちなのは如何なものでしょう?CMATの“If My Wife New I’d Be Dead”です。
フル・レングスの作品はコレが初なんですけど、惚れ惚れするくらい丁寧な作りの楽曲が並んでいます。個々の楽曲の強度でもってアルバム作品として成立させる美学もMTV時代チックですし、それをやれちゃうだけのソング・ライティングの巧みさときたら。ともすると手堅すぎる印象も受けるんですけど、彼女の個性的な歌声と細やかなアレンジがいい塩梅に効いているじゃないですか。
Harry StylesやMitskiを持ち上げるなら、この作品だって担がないとダメだと思うんですよね。キャリアの浅さ故かサウンドの説得力やスタイルの確立はやや見えにくいんですけど、だからこそピュアにポップスとして受け止められる、そんな名作です。
第14位 “Harry’s House”/Harry Styles
まあ、ポップス好きを自称する私がコレを選出しないのは嘘ですよね。セールスだけなら間違いなく上半期の目玉作品、Harry Stylesの“Harry’s House”です。
「元1Dのソロ作品」なんてナンパな理解じゃ到底楽しめないアルバムなんですよ。むしろCMAT同様に、80‘sポップスという、音楽史上でも最も豊かな土壌から汲み取るべき作品で。今年最大のヒット・シングル、“As It Was”なんて現代に蘇った“Take On Me”じゃないですか。エレクトロ的なアプローチも、やはりソファスティ・ポップの文脈で語ることのできる質感ですしね。
作品としてはどこかダークで内省的なんですけど、そこにアイドルとしてのある意味でのチャーミングさがあることで大衆的にもなってしまう、彼自身のプレゼンスも大事ですね。これは彼のキャリアの為せる技です。アイドルがここまでカッチカチのポップスを作り上げた、そしてセールス上でも批評上でも大成功した、なんと素晴らしいことでしょう。
第13位 “言葉のない夜に”/優河
女性インディー・フォークがここ数年の洋楽シーンの中で活気付いているのはTaylor Swiftの“Folklore”以降明らかなんですけど、まさか邦楽からそこに匹敵する1枚が登場するとは。優河の“言葉のない夜に”です。
朝靄がかかったような幻想的なサウンドに、嫋やかで柔らかなメロディが溶け込むまろやかさがとにかく美しい作品です。邦楽というのは「歌」の文化だと私は常々思っているんですけど、この作品に関しては旋律の存在感が洋楽的というか、音楽全体に奉仕するようにメロディが広がっていくんです。
別に洋楽と邦楽の間に貴賎なんてものはないんですけど、インディー・フォークの潮流の中で論じ得る作品としてはこの方向性は大正解だと思います。思わずうっとりとしてしまう繊細で濃厚な美しさがたっぷりと広がる、上質な音楽作品です。
第12位 “Dawn FM”/The Weeknd
今にして思えば、本作のサプライズ・リリースは名盤続出、阿鼻叫喚の2022年を予言していたのかもしれませんね。当代最高のR&Bアーティスト、The Weekndの“Dawn FM”です。
彼のキャリア・ハイに位置付けてしまってもいい充実の名作なんですよね。オルタナティヴR&Bの領域を拡張し、絶えず内向的でありながら人々の心を鷲掴みにしてきたThe Weekndの集大成と言える内容です。架空のラジオを想定したコンセプト・アルバムなんですけど、淀みない展開とダークながら甘美なメロウネスが本当に心地いい。
そのダークな世界観に一筋の光が差し込んでいる、絶妙な温度感と明度も素晴らしいんです。ここに辿り着いたのがもう天晴で、ポップスとして強靭でありながら、彼のアーティスティックなスタイルはなんら綻びを見せていない訳ですから。コンスタントに名作をドロップしてくれる彼の、1つの境地がこの作品だと思います。
第11位 “Ugly Season”/Perfume Genesis
6月はほぼ丸々「オススメ新譜5選」をサボり倒していたんですが、それでも最低限のチェックはしていました。その中で、このPerfume Genesisの“Ugly Season”は図抜けた名作でしたね。
極めて音響的なアルバムですよね。鳴っている音の1粒1粒にすごく意味を感じるし、それらの連なりとしての総体には冷酷な美が通底している。とてつもなく知性的で、その完成度は最早狂気の域です。D・ボウイの大名盤、“Low”のB面を連想するコメントが多かったのも頷けるというか。本作はインストではないですけど、作品の意図としてはかなり近しいものを感じますから。
身体芸術の伴奏音楽として制作された経緯があるみたいなんですけど、そうした使用目的があるからこそ、より音楽として独立している感もあるんです。自覚的と言い換えてもいいんですけど。それに決して難解ではないですし、徹底して理知的に構築された冴えた名作ですね。
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