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“To Pimp A Butterfly”全訳解説 M.13 “The Blacker The Berry”

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なんとか新作までに終わらせるべく急ピッチで進行しております“To Pimp A Butterfly”全訳解説、今回もやっていきましょうか。バックナンバーは↓から。

今回やっていくのは“The Blacker The Berry”。本作に限っても、既にラマーは“Alright”“Complexion (A Zulu Love)”でアフリカン・アメリカンに対するメッセージを発信しています。ただ、この楽曲はそれらとは訳が違うもので。

実際、そのリリックの内容を巡っては賛否両論もあったようです。特に同胞であるアフリカン・アメリカンの側から。一体なぜそうした事態になったのか?そして紛糾するほどに強烈なラマーの主張とは何なのか?その辺りを今回は分析できればと。

何はともあれ、ひとまず和訳をお読みいただきましょうか。しちめんどくさい話は解説でたっぷりと。今回は特大ボリュームですからね。

“The Blacker The Berry”全訳

The Blacker The Berry

[Intro: feat. Lalah Hathaway]

Everything black, I don’t want black (They want us to bow)

I want everything black, I ain’t need black (Down to our knees)

何もかも黒 黒なんてお呼びじゃねえ (奴らは俺らを屈服させたいんだ)

全部が黒 黒なんていらねえのさ (跪かせようと)

Some white, some black, I ain’t mean black (And pray to a God)

I want everything black (That we don’t believe)

白もあれば黒もある 黒って訳じゃないぜ (神に祈りを捧げろだと)

何もかも黒 それがいいね (そんな神様 俺らは信じてないのによ)

Everything black, want all things black

I don’t need black, want everything black

Don’t need black, our eyes ain’t black

I own black, own everything black

何もかも黒 何でもかんでも黒けりゃいい

黒なんていらねえ 俺の目は黒くないぜ

俺は黒を持ってる 俺はあらゆる黒を持ってるのさ

[Bridge]

Six in the morn’, fire in the street

Burn, baby, burn, that’s all I wanna see

And sometimes I get off watchin’ you die in vain

朝6時 ストリートに火の手が上がる

燃やせ なあ 燃やし尽くせ 俺はそれが見たいんだ

それと時々でいいからよ お前が無駄死にするとこも見せてくれ

It’s such a shame they may call me crazy

They may say I suffer from schizophrenia or somethin’

キチガイ呼ばわりされるのは悲しいもんだ

奴らは俺が精神異常かなんかだと そう言うんだろうな

But homie, you made me

Black don’t crack, my nigga

でもよダチ公 お前らだぜ お前らが俺をこうしたんだ

黒人はいつまでたっても若々しい そうだろ?

[1st Verse]

I’m the biggest hypocrite of 2015

Once I finish this, witnesses will convey just what I mean

2015年に俺以上の偽善者はいないだろうな

こいつを片付けたら 野次馬どもは俺の言いたいことを伝えてくれるだろうぜ

Been feeling this way since I was 16, came to my senses

You never liked us anyway, fuck your friendship, I meant it

16の時からずっとこう感じてた 直感的にな

お前らは俺らを好きになる訳がねえんだ 友情なんてクソ食らえ そういうことさ

I’m African-American, I’m African

I’m black as the moon, heritage of a small village

俺はアフリカン・アメリカンなんだ 俺のルーツはアフリカにある

俺の肌はまるで月の裏側 アフリカの小さな村が遺してくれた俺の誇りさ

Pardon my residence

Came from the bottom of mankind

俺の住まいに慈悲を

人類のドン底からやってきたんだ

My hair is nappy, my dick is big, my nose is round and wide

You hate me don’t you ?

You hate my people, your plan is to terminate my culture

俺の髪は縮れてるし 俺のアソコはデカイし 俺の鼻は丸くて平べったい

俺が嫌いなんだろ?

俺ら黒人のことが大嫌いで 俺らの文化をぶち壊したい そうだろ?

You’re fuckin’ evil I want you to recognize that I’m a proud monkey

You vandalize my perception but can’t take style from me

お前らはどうしようもなく邪悪だ 気づいてくれよ 俺は誇り高いエテ公なのさ

俺のものの見方をお前らは滅茶苦茶にしやがったが 俺のスタイルには手を出させねえぞ

And this is more than confession

I mean I might press the button just so you know my discretion

これはただの懺悔じゃないのさ

つまり 俺の意志をお前らにわからせるためなら引き金だって引いちまうかもな

I’m guardin’ my feelings, I know that you feel it

You sabotage my community, makin’ a killin’

You made me a killer, emancipation of a real nigga

俺は自分の感覚を大事にしてるんだ わかってるだろ

お前らは俺らのコミュニティを妨害して 殺人を誘発させてるんだ

お前らだ お前らが俺を大金持ちにしたんだ これこそが真のニガーの解放

[Pre-Chorus]

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the bigger I shoot

実が黒けりゃ黒いほど 果汁は甘くなるんだぜ

黒けりゃ黒いほど その蜜は甘いのさ

でも黒けりゃ黒いほど 奴らは派手にブッ放す

[Chorus: Assassin]

I said they treat me like a slave, cah’ me black

Woi, we feel a whole heap of pain, cah’ we black

And man a say they put me inna chains, cah’ we black

連中は俺らを奴隷扱いさ だって俺らは黒いから

ああ 俺らはずっと傷を抱えてんだ 何故なら俺らは黒いから

そうだろ 奴らは俺らを鎖に繋いできたんだ 俺らが黒いからだ

Imagine now, big gold chains full of rocks

How you no see the whip, left scars pon’ me back

But now we have a big whip parked pon’ the block

でも考えてもみな 今じゃ俺らは鎖の代わりに宝石だらけのデカイゴールド・チェーンを首に巻いてるぜ

背中に傷は残ってるけどよ もうムチなんて見えやしないだろ

デカイ車だって持ってるし 団地に堂々と停めてやれるのさ

All them say we doomed from the start, cah’ we black

Remember this, every race start from the block, just remember that

俺らは黒いから ハナっから幸せになれやしないってどいつもこいつも言ってやがったが

覚えとけ 人種だって競争だって スタートは同じところなんだってことをな

[2nd Verse]

I’m the biggest hypocrite of 2015

Once I finish this, witnesses will convey just what I mean

俺以上の偽善者が2015年にいるかよ

これを片付けたら 見てた連中は俺の言いたいことを伝えてくれるだろうな

I mean, it’s evident that I’m irrelevant to society

That’s what you’re telling me, penitentiary would only hire me

それってのはつまり 俺が社会に囚われてないことの証拠

お前らが俺に言ったことだろ 俺を雇えるのは刑務所だけってことさ

Curse me till I’m dead

Church me with your fake prophesizing that I’mma be just another slave in my head

俺がくたばるまで呪い続けるといい まやかしの預言で俺を教化すればいいさ

その預言ってのはこうだ 俺の頭の中身なんて奴隷と大差ない

Institutionalized manipulation and lies

Reciprocation of freedom only live in your eyes

制度化された支配と嘘

自由になったことの代価はお前らにしか見えてないのにな

You hate me don’t you ?

I know you hate me just as much as you hate yourself

俺が憎くて堪らない そうだよな?

お前らは俺が憎いのさ お前ら自身を憎むのと同じくらいに

Jealous of my wisdom and cards I dealt

Watchin’ me as I pull up, fill up my tank, then peel out

Muscle cars like pull ups, show you what these big wheels ‘bout, ah

俺の知恵と采配に嫉妬してるんだな

俺の姿をよく見てな 車を停めて ガソリンを満タンに 急発進する俺の姿を

ヤバイ馬力のマッスルカーさ 見ろよ このどデカイタイヤを

Black and successful, this black man meant to be special

Katzkins on my radar, bitch, how can I help you ?

黒人と成功 あの黒人が成功したことは特別なことに思えてくるだろ

俺の車のシートをKatzkin製にすることだってできるさ ビッチ共 何がお望みだい?

How can I tell you I’m making a killin’ ?

You made me a killer, emancipation of a real nigga

どうすりゃ伝わるかな 俺が大成功したってことを

お前らのおかげなんだぜ 俺が大金持ちになったのはな これこそがニガーの解放さ

[Pre-Chorus]

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the sweeter the juice

The blacker the berry, the bigger I shoot

実が黒けりゃ黒いほど 蜜は甘くなるんだぜ

黒けりゃ黒いほど その蜜は甘いのさ

なのに黒けりゃ黒いほど 奴らは派手に撃ってやがる

[Chorus: Assassin]

I said they treat me like a slave, cah’ me black

Woi, we feel a whole heap of pain, cah’ we black

And man a say they put me inna chains, cah’ we black

連中は俺らを奴隷扱いさ だって俺らは黒いから

ああ 俺らはずっと傷を抱えてんだ 何故なら俺らは黒いから

そうだろ 奴らは俺らを鎖に繋いできたんだ 俺らが黒いからだ

Imagine now, big gold chains full of rocks

How you no see the whip, left scars pon’ me black

But now we have a big whip parked pon’ the black

でも考えてもみな 今じゃ俺らは鎖の代わりに宝石だらけのデカイゴールド・チェーンを首に巻いてるぜ

背中に傷は残ってるけどよ もうムチなんて見えやしないだろ

デカイ車だって持ってるし 団地に堂々と停めてやれるのさ

All them say we doomed from the start, cah’ we black

Remember this, every race start from the block, just remember that

俺らは黒いから ハナっから幸せになれやしないってどいつもこいつも言ってやがったが

覚えとけ 人種だって競争だって 始まりは同じところからなんだってことをな

[3rd Verse]

I’m the biggest hypocrite of 2015

When I finish this if you listenin’ then sure you will agree

俺は2015年で一番の偽善者さ

こいつを終えた後 もしお前らがこの曲をちゃんと聴いてたんなら 俺の言ってることに同意するだろうな

This plot is bigger than me, it’s generational hatred

It’s genocism, it’s grimy, little justification

この展開は俺にどうこうできるもんじゃない 積年の恨みってやつさ

これはジェノシズムだ 汚らしい行いだぜ そこに正義なんてあるもんかよ

I’m African-American, I’m African

I’m black as the heart of a fuckin’ Aryan

I’m black as the name of Tyrone and Darius

俺はアフリカン・アメリカンだ 俺のルーツはアフリカにあるんだ

俺の肌の黒さときたら クソッタレアーリヤ人どもの腹ん中みたいだろ

俺の黒さってのはTyroneとかDariusって名前くらいなもんだ

Excuse my French but fuck you ___ no, fuck y’all

That’s as blunt as it gets, I know you hate me, don’t you ?

乱暴な物言いですまないな でも言わせてもらうぜ クソ食らえ どいつもこいつもクソだ

そんくらい露骨なんだ お前らは俺が大嫌い そうだよな?

You hate my people, I can tell cause it’s threats when I see you

I can tell cause your ways deceitful

俺らが憎くてしょうがない だって俺らと会ったらお前らはビビっちまうから

お前らのやり口が嘘っぱちだから

Know I can tell because you’re in love with that Desert Eagle

Thinkin’ maliciously, he get a chain then you gone bleed him

お前らはデザートイーグルが大好きだからだろ そうだよな

悪知恵を働かせて 誰かがお前らの縛りから抜け出したらそいつをいじめちまうのさ

It’s funny how Zulu and Xhosa might go to war

Two tribal armies that want to build and destroy

ズールーとコサが戦争になるかどうかなんて 笑えるよな

自分たちの繁栄と相手の破滅を願ってやまない軍隊を組織する2つの民族さ

Remind me of these Compton Crip gangs that live next door

Beefin’ with Pirus, only death settle the score

まるですぐそこにいるコンプトンのクリップスを思い出すな

パイルズを罵って 何人殺したかってのを競ってるような連中

So don’t matter how much I say I like to preach with the Panthers

Or tell Georgia State “Marcus Garvey got all the answers”

だから無駄なんだ どれだけ俺がブラック・パンサーとともに説教したところで

どれだけ俺がジョージア州に対して「マーカス・ガーヴェイは正しかった」と主張しても

Or try to celebrate February like it’s my B-Day

Or eat watermelon, chicken, and Kool-Aid on weekdays

どれだけ黒人歴史月間を自分の誕生日みたいに祝ってみせたところで

スイカを食って チキンもな ジュースを飲んだって どれだけこの身を捧げようと

Or jump high enough to get Michael Jordan endorsements

Or watch BET cause urban support is important

MJが認めてくれるくらい高くジャンプしたって

市民の支持を気にしてBETを見てみたところで 何もかも無駄なんだよ

So why did I weep when Trayvon Martin was in the street ?

When gang banging make me kill a nigga blacker than me ?

なのにどうしてだろうな どうして俺はトレイボン・マーティンが死んだ時に泣いたんだ

ギャングどもの抗争が俺より肌の黒い同胞を殺させている まさにその時に

Hypocrite !

この偽善者が!

解説

この楽曲で主張しているテーマ自体は一貫しているので、今回はヴァースの流れに沿って解説していこうと思います。取りこぼしたくない部分が多いので、下手に掻い摘むよりはそっちの方が誠実かなと。

イントロ〜ブリッジ

まずはイントロから。黒がいいと言ったり黒なんていらないと言ったり、なかなかこの段階でややこしいんですよ。

1つ前の“Complexion (A Zulu Love)”で、ラマーは黒人であることを誇りに思うべきだと主張しました。であれば、黒を拒む理由はどこにもありませんよね。ただこの楽曲では、同胞であるアフリカン・アメリカンに対して苛烈な主張をしている。つまり、誇りに思いたい黒人というアイデンティティには、御し難い問題もあるとここで彼は暗示する訳です。

合間に語られる部分は、まあシンプルに差別を行ってきた白人へのdisと捉えていいのかな。黒人を屈服させ、思想や信仰の自由すらを奪ってきた彼らに対する批判。

続いてブリッジです。歌い出しの「朝6時 ストリートに火の手が上がる」ですけど、ここはIce-T“6’N The Morning”からの引用でしょうね。

6 'N the Mornin' (2014 Remaster)

で、ここでのラマーは破壊衝動を露わにします。ストリートに火の手が上がったことを喜び、人が無駄死にする様を見て楽しむとまで言ってのける。当然そんな非人道的な主張はまかり通らないので批判されるんですけど、「キチガイ呼ばわりされるのは悲しいもんだ」と自己正当化に走る始末。

ただ、そこにはキチンと意味があるんです。続くラインですね。「でもよダチ公 お前らだぜ お前らが俺をこうしたんだ」。ラマーの破壊衝動は、彼の地元の生活に原因があると。何度もこのシリーズで言及している通り、ラマーの故郷コンプトンはアメリカでも最悪のゲットーですから。犯罪と暴力が日常だった彼が破壊衝動を募らせるのは自然だし、だからそのことで罵られるのは我慢ならないということです。

ここで彼は、この楽曲を貫くテーマである「黒人同士の暴力」をようやく明示するんですね。コンプトンはその人口のほとんどをアフリカン・アメリカンやヒスパニック系が占めていますから、そこで起こる犯罪の被害者も当然同胞である訳で。実際、ラマーの楽曲では犯罪に巻き込まれ命を落とした彼の友人への言及が度々見られます。

こうなると、ブリッジの冒頭でIce-Tを引用したのが示唆的でね。”6’N The Morning”は警察権力の暴力を訴えた楽曲で、要するにその構図は「白人→黒人」です。

ただ、ラマーが問題にしたのはそこではない。「黒人→黒人」という構図にスポットを当てたんです。その対称性故に、彼はIce-Tを引いたんではないでしょうか。

1stヴァース

ここからはヴァースの内容を。「2015年に俺以上の偽善者はいないだろうな」とありますが、2015年は言うまでもなく“To Pimp A Butterfly”のリリース年です。要するに、俺は今世界で一番の偽善者だと。じゃあこの「偽善」とは何なのか?それは楽曲のラストで明かされる部分になってます。

で、さっき書いた通りこの楽曲の本意は「黒人同士の暴力」への批判なんですけど、その構造が生まれるのはそもそも犯罪に走らざるを得ない差別の歴史ゆえで。このヴァースではそうした差別に対して怒りを表現しています。

何度も繰り返される「俺が嫌いなんだろ?」が実に端的に差別の根深さ、制度上は撤廃されてもなお心情の中に巣食う差別意識を抉り出しているし、自嘲気味に「俺の髪は縮れてるし 俺のアソコはデカイし 俺の鼻は丸くて平べったい」と黒人の外見的特徴を持ち出し、自分のことを「誇り高いエテ公」とまで言い切ってしまう。

ただ、この辺りの表現、言葉こそ乱暴ですけど“Complexion (A Zulu Love)”にも通ずる自負もしっかりと感じられるんです。事実として彼はアフリカン・アメリカンであり、そのことは隠すようなものでもなんでもないと主張している訳で。

この一節で私が想起したのは、”To Pimp A Butterfly”の翌年にビヨンセがリリースした“Formation”という楽曲のこの部分。

I like my negro nose with Jackson Five nostrils

私は自分の鼻を気に入ってるの ジャクソン5みたいで素敵でしょ

“Formation”より引用(抄訳:ピエール)
Beyoncé – Formation (Official Video)

つまり、白人的な感性に依存しない、アフリカン・アメリカンとしてのあるがままの美しさを肯定しようというメッセージ。これ、エンパワメントとして本質的だと思います。

話が傍に逸れましたが、リリックの内容に戻ります。次に注目したいのが「お前らは俺らのコミュニティを妨害して 殺人を誘発させてるんだ」という箇所ですね。さっきも書きましたが、黒人が犯罪に走る背景には彼らの生活苦があります。そしてそれを助長させているのが、白人層の偏見や差別であると。

そして続く「お前らだ お前らが俺を大金持ちにしたんだ」という部分。実際にはこの「大金持ち」は“killer”となっているんですけど、直訳すれば当然ここは「殺人者」なんですよね。直前のリリックを踏まえるとなおさら。

ただ、ラマーは“good kid, m.A.A.d. city”で自身のことを「いい子ちゃん」としていますから、彼に殺人の過去があるとは考えにくい。なので、ここでは「最高」を意味するスラングとしての”kiling”から引っ張ってくる形で訳出しています。こういうさりげないダブル・ミーニングというか、多義的に言葉を重ね合わせる辺り流石のリリシストっぷりです。

プレコーラス〜コーラス

さあ、こっからはプレコーラス。タイトルにも冠せられた“The blacker the berry”に始まる一連のフレーズですね。

先に触れておきたいのが、このリリックは2パックからの引用だということ。前曲でもタイトルを持ち出した“Keep Ya Head Up”から持ってきています。

Keep Ya Head Up

全訳ではかなり直訳しているんですよ、「実が黒けりゃ黒いほど 蜜は甘くなるんだぜ」とね。ここではもう少し踏み込みましょう。この「実」というのは言うまでもなくアフリカン・アメリカンの肌の色ですから、「黒い肌の奴の中身はイカしてる」くらいに理解できますね。

要するに、ここも「アフリカン・アメリカンの礼賛」なんですよ。肌の黒さはその内面の豊かさを語る、だから誇りに思おうと。しかしながら、最後に「でも黒けりゃ黒いほど 奴らは派手にブッ放す」とくる訳です。

ここに、黒人の犯罪に対するラマーの怒りと嘆きが込められています。黒いことは誇りのはずなのに、肌の黒い奴らは犯罪に手を出している。敬愛する2パックの言葉を借りて、そのことを非難しているんですね。

そしてAssassinによるコーラス、ここは比較的シンプルです。アフリカン・アメリカンの社会的虐待の歴史への言及、そしてセルフ・ボースティング的な成功のひけらかし。ただこれは、アメリカという社会でシビアな立場にあるアフリカン・アメリカンが成功を収めたことの自負の表明でしょうね。

特定のリリックに言及するならば、最後の箇所でしょうか。“race”という単語が、「レース」「人種」のダブルミーニングになっていますね。黒人差別を扱った楽曲ですから、差別する非黒人層に対して「お前らだって俺らと同じ人間で、アフリカから生まれた人類だろ」という反論。そして、黒人がアメリカで成功するのは困難だという現状に対しても「競争は同じスタート地点から始まるはず(そこに人種の壁があっていいはずがない)」と対抗しているんですね。

こういう含意、当然弁を弄せば誰にでも表現は可能です。ただ、ヒップホップのモードにのっとってここまでの表現ができてしまう才覚たるや……

3rdヴァース

さて、2ndヴァースは主張としては1stヴァースと同様、黒人差別に対する反発をセルフ・ボースティングを交えつつ打ち出しているものなのでここでは割愛しまして。最後に3rdヴァースを見ていきましょう。

ここにきて、リリックの角度が変わってくるんですよね。まずはここ、「この展開は俺にどうこうできるもんじゃない 積年の恨みってやつさ」。憎しみを抱くのは当然被差別人種だったアフリカン・アメリカンの側の訳で、となると「この展開」というのは「ブラック・ライヴズ・マター」(以下「BLM」)を念頭に置いたものなのかなと。

それをコントロールできないと言うんですよ。ということは、制御すべきものだと考えているという理解ができる。アフリカン・アメリカンが権利と自由を訴えるムーヴメントだというのにですよ?違和感があります。

その違和感の理由を探る手がかりになってくるのが、次に出てくる「これはジェノシズムだ」というライン。これ実はラマーによる造語で、字面からわかるように「虐殺」を意味する”genocide”を語源とするものです。直訳するなら「虐殺主義」でしょうか?ただ、語義としては「特定の人種に対する敵意や差別」というもののようで。

で、なんですけど。直前のリリックも踏まえるならば、この「ジェノシズム」の主語って非黒人層ではなく、黒人層なんじゃないかなと。過熱するあまり暴徒化するBLMの中では、暴力や略奪が度々発生しています。それは最早白人への怨嗟に突き動かされただけの衝動的な破壊でしかない。それを指して、「ジェノシズム」と言っているんじゃないでしょうか。

そして話題は一転し、ズールーコサというアフリカの民族へ。ここでズールーを持ち出しているのは当然前曲とのリンクでしょうけど、そこに加えてズールーとコサの対立の歴史にもスポットを当てています。そこから更に、同じく苛烈な対立関係にあるコンプトンのギャング組織、クリップスパイルスのトピックへ。

ここで初めて、彼は「黒人→黒人」の暴力の構造を指摘します。どちらのギャングもその構成員は黒人ですからね。彼らが互いを憎み、血で血を洗う抗争を繰り広げたところで、そこで流れる血はどこまでいっても黒人のものでしかない。

ズールーとコサの対立にしても、この2つの民族は同じアフリカ系ですから。文化や歴史がほんの少しねじれているだけで、その本質は同胞のはずです。だというのにそこには長きに渡る因縁が横たわっている。これと同じ悲劇が、LAギャングの世界でも繰り広げられているとラマーは言っています。

この問題提起の後、ラマーは「無駄なんだ」と断った上で様々な対アフリカン・アメリカンへの歩み寄りの手段を列挙していきます。何をしたところで、ズールーとコサが対立し続けているように、「黒人→黒人」の暴力は止められない。諦念を滲ませながら彼は現状の厳しさを語っているんです。

そして楽曲を締めくくるリリック、ここがあまりに強烈で。この楽曲の主張を決定づけるラインです。「なのにどうしてだろうな どうして俺はトレイボン・マーティンが死んだ時に泣いたんだ ギャングどもの抗争が俺より肌の黒い同胞を殺させている まさにその時に」

トレイボン・マーティンというのは、口論がこじれた末に丸腰にもかかわらず射殺されてしまったアフリカン・アメリカンの青年の名前です。この事件が「正当防衛」として処理されたことに全米で抗議の声が上がり、「BLM」に発展したという、ある意味では象徴的な人物。

彼の死にラマーは涙を流したと語る一方で、そのことを疑問視しています。何故か?トレイボン・マーティン少年がヒスパニック系、つまりは非黒人に撃ち殺された事実に対しては悲しみや怒りが湧き上がるにもかかわらず、黒人が黒人を殺しているゲットーのリアルには目を向けていないからです。

起こっている現象、黒人の血が無為に流されている結果に何の違いもないというのに、そこに人種の壁があるというだけで一方は全米規模の社会運動に発展し、他方はギャング犯罪として臭いものに蓋をする。その態度を指して、ラマーは「偽善」ときっぱり言ってのけます。ここで、「俺は2015年で一番の偽善者さ」の種明かしもされるという訳です。

この指摘と批判を、「BLM」のアンセム“Alright”を生み出したケンドリック・ラマーが提示した事実。ここが極めて重要で。

ラマーが本作で扱う「アメリカ社会の闇」は、単に「人種差別」というステレオタイプに当てはまるものではないんですよ。その闇は黒人社会の側にも横たわるものでもあり、一人の成功したラッパーの周囲、あるいはラッパー自身のうちにも生じている。

この縦横無尽の洞察たるや……その洞察が黒人社会に手厳しく向けられたからこそ、この楽曲のリリックは批判を受けたのでしょうね。ただ、ラマーが新たなるアフリカン・アメリカンの伝道師なのであれば、彼のポジティヴなメッセージだけを受け止めるのではなく、痛烈な批判をも受け入れねばならない。彼はあくまで「ケンドリック・ラマー」として主張しているに過ぎないんですからね。

まとめ

いやあ、長い。ここまで時間かかるとは思いませんでした。ただ、そうしなくちゃいけない楽曲だと思います。

本編で触れるタイミングが見つからなかったのでここで。ラマーがBLMに関して言及したコメントを見ておきましょう。ビルボード誌に掲載されたインタビューの抜粋です。

What happened to [Michael Brown] should’ve never happened. Never. But when we don’t have respect for ourselves, how do we expect them to respect us? It starts from within. Don’t start with just a rally, don’t start from looting — it starts from within.

マイケル・ブラウンに起こったこと(役者注: M・ブラウンは2014年に白人警官に射殺された。事件翌日にはファーガソンで暴走が発生し、これは「BLM」の過激化を象徴する一件でもある)は、絶対にあってはならない。絶対に。でも俺たち黒人が自尊心を持ってないのに、どうやって白人から敬意を払ってもらえるんだ?自分自身から始めなくちゃいけない。集会や略奪じゃない、自分たちの意識を変えるところから始まるんだ。

原文出典: https://sublyrics.info/column-200130-1/ (抄訳:ピエール)

このラマーの発言は、一部の黒人層からも批判を集める結果になりました。まるで責任が黒人社会の側にあるかのような意見を、「キング・ケンドリック」の口から聞きたくはなかったと。

ただ、これこそラマーの偽らざる本心です。自尊心がなく、自暴自棄の末に黒人同士での犯罪や暴力がまかり通っている現状を是正しなければ何も始まらない。この辺に「ジェノシズム」のコンセプトを感じたりもする訳ですが。

そろそろ次の楽曲に移らないといけませんね。うっかり1万字オーバーの投稿となってしまったので……次回は“You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)”でお会いしましょう。

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