今回も素知らぬ顔で遅刻しましたが、ほっぽり出すことなく更新しましょう。「オススメ新譜5選」のコーナーです。バックナンバーは↓からどうぞ。
2022年も早いもので1/4が終わりましたが、3月を締めくくる先週のリリースも素晴らしいアルバムがわんさか出ていましたね。本当に今年は豊作だ……
その中から厳選した、私ピエールの選ぶ5枚の個人的オススメ作品。早速見ていくことにしましょう。
“Warm Chris”/Aldous Harding
まずはニュージーランドのシンガー・ソングライター、Aldous Hardingの“Warm Chris”です。
サイケ風味の香る、怪しげで心地よいフォーク・ポップ。なんて甘美な響きなんでしょう。嫌いな人いませんよね。ピアノを主体とした軽やかで密やかな音像ではあるんですけど、そこに潜む得体の知れなさにグングン引き込まれてしまいます。
Aldous Hardingの歌唱も素晴らしいですよ。その歌声のキャラクターの多彩さといったらないです。芝居がかった、とまでは言えないひっそりとしたものではあるんですけど、楽曲によって表現をかなり大きく変貌させるのはなかなか変態的なギミックですね。作品の奥行きもグッと深まります。
上品なポップではあるんだけれど、どこか屈折していて一筋縄ではいかない。Twitterを見ていて本作からある時期のキンクスを連想されている方が何人かいて、すごくしっくりきたのを覚えてます。レイ・デイヴィス的、「綺麗なポップスだ……ああ、そっちの方向にいくのね!?」みたいな面白みがもう堪らない傑作です。
“LABYRINTHITIS”/Destroyer
続いてはカナダのインディー・バンド、Destroyerの“LABYRINTHITIS”です。タイトルがしちめんどくさい。
インディー・ロックとしてすごく心地よく聴ける1枚ですよね。浮遊感というか、インディー特有の陶酔感はしっかりと表現されているんですけど、アンサンブル自体は結構タイトで。ドラムなんてすごくカッチリしていて、ファンク/ディスコをインディー・ロックに落とし込むという彼らの姿勢が窺い知れます。
ミステリアスな魅力もある作品で、ここはDan Bejarのヴォーカルも一役買っていると思います。すごく憂いを含んだ、斜に構えた歌声でね。決してメロディで訴えかける作品ではないんですけど、この歌唱が作品の色彩を決定づけているのは間違いないと思います。
そしてサウンドスケープが実に巧妙なんですよ。インディー的な知性がよく感じられて、“Eat The Wine, Drink The Bread”みたいなファンク・ナンバーもしっかりインディー・ロックに変貌させてみせます。アルバムとして実に隙がない、結構なお点前の作品でした。
“Tell Me That It’s Over”/Wallows
LAを拠点とする新進気鋭のインディー・ロック・バンド、Wallowsの“Tell Me That It’s Over”です。
サウンドの根本としてはギター・ロックなんですよね。それもリズムの推進力の強い、言うなればThe Strokes的な方向性。ただ、それを極めてキャッチーに着色している印象です。いろんなサウンドが乗っかっていって、結果的にロックとしての突破力以上にポップスとしての親しみやすさが勝っているんですよ。
いやはや、最高のアプローチですよね。ロック・バンドがポップスに向かうことで時折生じる軽薄さがなく、インディー・ポップとしての矜持が感じられるし、それにロックとしてもしっかり楽しめる。個々の楽曲に関してもすごくメロディの強度が高いし、よく練られた作品だと思います。
春の訪れとともにこのハートウォーミングな作品に向き合えるの、とんでもなく幸福なことだと思いますね。オルタナ系統が好きな方にも刺さる作品ですし、ポップスが好きな方にも当然刺さる、カバーしてる領域の広い如才ない名作になっているんじゃないでしょうか。
“Gifted”/Koffee
今回はやたらワールドワイドなチョイスになっていますね、ジャマイカのアーティスト、Koffeeの“Gifted”です。
ジャンルとしてはジャマイカなんですから当然レゲエなんですけど、単にレゲエのアルバムとも言い切れない多様性のある作品です。爽やかなサウンドなんてすごくポップで洗練されている印象を受けますし、ラップが登場する楽曲も多いんですよ。
したり顔で語れるほどレゲエに通じている訳ではないんですけど、レゲエに感じるある種の土着性がいい意味で希薄なんですよね。洒脱なポップスとして堪能することができるし、トラックに関しては滑らかなヒップホップのような聴き方だってできますから。
残念ながらサブスクでは未解禁のアルバムなんですけど、フィジカルで入手する価値のある作品だと自信を持ってオススメできる1枚です。現代的なブラック・ミュージックの名作として、レゲエに距離感を抱いている人でも絶対に楽しめる作品ですからね。
“Melt My Eyez See Your Future”/Denzel Curry
ヒップホップからはDenzel Curryの新作を。“Melt My Eyez See Your Future”です。
現代ジャズのテイストを大いに盛り込んだトラックが秀逸なアルバムですね。現代ジャズとヒップホップとなると、このブログでも現在猛烈にパワープッシュしているケンドリック・ラマーの“To Pimp A Butterfly”にも通ずる技法ですけど、この作品はもっとジャズに忠実で、アダルティな妖艶さに溢れていますね。
で、トラックが練られた作品ではありますが、そこに乗っかるDenzel Curryのラップもお見事です。ダウナーでドープ、作品に寄り添った重心の低さに聴き入ってしまいます。ただ、それ故にややこじんまりした印象も否めないのは事実で、そこを批評筋なんかには指摘されています。
言わんとせんことは確かにわかるんですよ。サウンド・メイキングで圧倒しつつ、ラップの説得力もある作品となると、それこそ”To Pimp A Butterfly”やLittle Simzの“Sometimes I Might Be Introvert”のような大名盤がある訳で。そこと比較されるのは酷な話なんですが、逆に言うとそういう作品と比較されるだけの完成度を伴った1枚でもあるということでね。
まとめ
さて、今回の5枚はこんな感じです。前回が邦楽マシマシでしたけど、今回はいつも通り洋楽メインで扱いました。
別にこれバランスを取りに行った訳ではなく、藤井風や中村佳穂、それに優河の作品と比較した時に、サカナクションやアジカンの新譜がどうしても弱く聴こえてしまったが故なんですよね。今回遅刻したのも、このあたりを聴き込んでからにしたかったからという理由が全体の15%くらいはありますから。
そうそう、これはTwitterで先に投稿したんですけど、1〜3月までの新譜の中で個人的なベストをパッと10枚ピックアップしてみるとこんな感じになりました。
いやあ、ワクワクするラインナップですね。中でも宇多田ヒカルとBig Thiefはぶっちぎっている感もあるんですけど、ここに挙げた10枚のみならず、今年の新譜は本当にすこぶるいい。
そんなことを言ってるうちからレッチリは新譜出してますし、ケンドリック・ラマーも動き出しますし、ホント今年の年間ベストどうしましょうかね。嬉しい悲鳴を挙げながら、今回はこの辺りでお暇します。それではまた次回。
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