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週刊「ピエールの2022年オススメ新譜5選」Vol.3

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連載モノがあるとネタ切れがなくていいですね。「オススメ新譜5選」Vol.3、早速やっていきましょう。バックナンバーはこちらから。

……それはそうと、1週間で大体の新譜を網羅するというのは流石にちょっと厳しいんですよ。実際、後から各種口コミだったりレビューの反応だったりを見て追いかけて聴く新譜というのも結構な枚数ある訳で。それをどう扱うのか、ちょっと今考え中です。

とりあえず今回は、この1週間でリリースされた新譜から5枚チョイスしていきましょうか。それでは、張り切って参りましょう。

① “In Free Fall”/Maya Shenfeld

Maya Shenfeld: Body, Electric (Official Video)

今回真っ先に紹介したいのがこの作品。ドイツはベルリンを拠点に活動する女性アーティスト、Maya Shenfeld“In Free Fall”です。

ベルリンでエレクトロ……となるとじゃあ「ベルリン3部作」だ!となるのがロック・ファンの悪いクセなんですけど、実際結構近しいものを感じちゃう作品なんですよね。緊張感と冷酷な色彩感覚が通底していて、電子音の連なりは無機質な美を際限なく振りまいています。

ただ、クラウトロックほどドラマチックではないんですよね。もっと抽象的というか、淡々と、侵蝕するように進行していきます。そこはやはり、あくまで本作がエレクトロ的ロックではなく徹底したエレクトロニカ作品であるという個性ではあるんですけど。

ゾッとしちゃうほど不吉な音像の中にどういう訳か癒しがある、そんな作品なんですよ。アンビエントでもないんですけど、なんなんでしょうかこの特異な安らぎは。クラウとロックや電子音楽にピンとくる方には漏れなくオススメしたい作品なんですけど、案外まったくの門外漢が聴いた方が楽しめるかもしれませんね。度肝を抜かれるという意味では。

② “11:11″/Pinegrove

Pinegrove – "Respirate" (Official Lyric Video)

お次に紹介するのが、アメリカのロック・バンド、Pinegroveの通算第5作となる“11:11”です。

ジャンルとしてはインディー・ロック……なんですけど、ここ20年くらいのロックってなんでもかんでも「インディー・ロック」ですから。あんまり意味のないカテゴリな気がしないでもないです。突っ込んで説明すると、枯れた味わいを主体としつつもメロディはしっかりと情熱的な、ストレートかつ内省的なアルバムかと。

ここまでクラシカルなタイプのロック、2022年にもなるとなかなかお目にかかれないと思います。サウンドもネイキッドな印象で、下手な装飾を施していないというかね。なんだかんだ言ってロックが主食の私みたいなロートルな感性の持ち主にとっては大好物です。

情報を漁っていると、「エモ」という表現がこのバンドに対してよく使われているんですけど、所謂エモ系ロックの感触はあまりなくて。さっきも触れたように内省的なインディー・フィーリングの強い作品なので、エモ特有の聴き手を選ぶクセがないと個人的には思っています。ロック・ファンならばとりあえず聴いて損のない1枚じゃないでしょうか。

③ “Dissolution Wave”/Cloakroom

Dissembler

今回はロック勢がかなり強いラインナップですけど、たまにはそういうのも悪くないでしょう。エモ経由のシューゲイザー・バンド、Cloakroom“Dissolution Wave”です。

シューゲイザーも80’s末から90’s開幕にかけての誕生以降、様々に分岐しつつ今ではロックの一大ジャンルですけど、この作品はぶっちゃけそこまでシューゲイザー感がないのかなと。シューゲイザーの分岐のそれぞれに詳しい訳ではないんですけど、それこそマイ・ブラッディ・ヴァレンタインライドのような、源流となったサウンドとは乖離を感じます。

どういうことかと言うと、とにかく音が荒い。甘さや幻想性を打ち出していたシューゲイザーの印象とは打って変わって、ステレオタイプ的「ロック」により近い凶暴性を感じます。表題曲なんかはなるほど確かにスウィートですけど、サウンドはやっぱり生々しいザラつきが強いですからね。

ハードコアもルーツの1つにあるようで、そういう意識で聴くと腑に落ちる瞬間も多いんですよ。個人的にはラストの“Dissembler”なんてブラック・サバスの『イントゥ・ザ・ヴォイド』を彷彿とさせる禍々しさとシューゲイザーの退廃的美意識の融合ってな印象で、もろ好みですね。

④ “Godmother”/Josephine Foster

Guardian Angel

こちらはフォークの作品ですね。アメリカの女性SSW、Josephine Fosterによる“Godmother”です。

フォーク、と言ってもこの作品はかなりオルタナティヴな質感です。作品の軸はあくまでも濃厚な影を感じさせるFosterの歌声で、それを支えるアコースティック・ギター。よくあるフォークのフォーマットではあるんですけど、作品に通奏低音として鳴り響くシンセサイザーが実に怪しげで堪らないんですよね。

どこかサイケデリックというか、宇宙的な神秘を感じるんです。音色も独特で、神秘的ではあるんだけれどチープというか、いやにキッチュな瞬間もあったりして。楽曲によってはFosterの存在感を押し退けて前面に出てくる展開もあるんですけど、前提がフォーク音楽故に実に不安になるアンバランスさが面白い。

掴み所のない作品、というのが総じた印象のアルバムです。そんなもの紹介するなというお叱りの声もあるかもしれませんけど、その掴み所のなさ、得体の知れなさ、触れがたさというのが魅力の作品も数多くある訳で。本作はそういう名作の一群に属するものだと思っています。そういう作品に限って中毒性が高いというのもよくある話。

⑤ “Return”/Deathcrash

deathcrash – Doomcrash (Official Audio)

最後の1枚はポスト・ロックのバンド、Deathcrash“Return”ですね。実に5分の3がロック系統というたいへん現代的でないチョイスになったことを、ここでお詫びしておきます。ただ、海外のレビュー・サイトでも今週の新譜の中ではTOP3に入るポイントを獲得している話題作ではあるんですよね。

名前からしてメタル系なのかなと思い身構えたものの、むしろこの美意識はプログレッシヴ・ロック的と言っていいでしょうね。かと言って大仰な展開や変拍子がある訳でもなく、ただただ重心の低いダウナーなロックが神秘的に演奏され続ける、そういった作品です。

アコースティックな楽曲もあれば、ものすごく凶暴なギターを爆発させる展開もあって、かなり多彩なアルバムではあるんです。ただ、作品全体の印象としてはものすごくモノトーンというか。いい意味で、ですけどね。つまり、作品の温度感や空気感の統一感が素晴らしいんです。思うに、ドラムのグルーヴ感がかなり一定だからじゃないかな。

とにかく暗いアルバム、それに尽きる1枚ではあります。批評家って暗いアルバム評価しがちですからね。ただ、暗さの表現に対する引き出しの数が見事な1枚でもあるんですよね。陰鬱なロックが好きなら、きっと気に入ってもらえるんじゃないかと思います。

まとめ

今回の5枚の中で気になる作品、あったでしょうか?当然どれも胸を張ってオススメできるアルバムですので、よろしければ是非。

実は今回のチョイスって、割と話題作に触れられていないんです。Twitterのタイムライン上でかなり絶賛されていたAmber Markの”Three Dimensions Deep”だったり、各種レビュー・サイトで軒並み高得点だったImarhanの”Aboogi”だったりですね。

当然これらも聴いた上でのチョイスなんですけど、この辺の作品に個人的にそこまで感動できなかったというか……聴き込みが足りないのかもしれませんし、私のセンスが壊滅的なだけなのかもしれませんが。

ただ、そういう作品も定期的に振り返っていくつもりですし、来るべき上半期ベストではその辺りの作品がしれっとランク・インしているかもしれませんからね。

さあ、明日はアニマル・コレクティヴBlack Country, New Roadにと、注目のリリースが結構多いですからね。今から楽しみです。それではまた次回。

コメント

  1. 八尾のアイアンマン より:

    コメント失礼致します。
    週刊オススメ新譜5選、楽しませていただいております!新しい音楽に触れる機会が増え、非常に喜ばしく思っています。

    かなり前にコメントさせて頂きましたが、「目が明く藍色」のレビュー、まだ心待ちにしておりますのでお手隙の際に執筆していただけたら幸甚でございます。よろしくお願い致します。

    • pierre より:

      コメントありがとうございます!
      そして申し訳ありません……『目が明く藍色』のレビュー、すっかり失念しておりました。
      近日中に必ずや投稿いたしますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです!

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