第15位 “Hours…” (1999)
これ、意外な位置に思われる方も多いかもしれませんね。1970年代の名作に並んでランク・インしたのは1999年発表の『アワーズ…』です。
これ、本当に見過ごしてはならない作品なんですよ。1980年代中頃から続いたスランプ、そこを抜け出したインダストリアル/エレクトロ路線、その延長線上にありつつ、ボウイが原点回帰したという意味でね。そう、この作品はすごく素直でロック的、クラシカルな響きすらあるアルバムです。「和」のテイストが感じられるのも日本人としては嬉しいところですね。
英国的というか、そこはかとなく退廃的な気品を漂わせつつ、妖気を纏ったカリスマ性抜群の歌声とロック的アンサンブルでまとめ上げる。やっている内容としてはグラム期辺りのスタイルを、現代的にアップデートした印象です。『サムシング・イン・ジ・エアー』なんて、『アラジン・セイン』に入っていたっておかしくなさそうでしょ?ボウイ作品で久しぶりにギターが堪能できる1枚でもありますし。
ティン・マシーンでも原点回帰を図ってはいましたが、あちらは無理やりなギター・ロックだった一方で本作は「デヴィッド・ボウイ」のナチュラルな魅力に自覚的な作品です。以降のボウイの動向、ここは絶対に再評価されて然るべきです。本当ですよ。
第14位 “Heathen” (2002)
『アワーズ』に引き続いての高順位ですね、2002年発表の『ヒーザン』。セルフ・カバーを含む新作『トイ』を制作するもレーベルとのゴタゴタもあって未発表に終わった後で、『トイ』の断片を元に制作されたアルバムです。(『トイ』は先日20年越しのリリースを果たしました)
その経緯からも分かる通り、より原点回帰、人々の求める「デヴィッド・ボウイ」らしさに忠実なアルバムです。ロック調のアプローチも健在ですが、『ヒーローズ』A面を想起させるシリアスなダンディズムも主張していて、ボウイの面白い部分を漏れなくフォローしていると言ってもいい充実感。
『アワーズ』の段階であったエレクトロ期の残滓もこの頃になると減退して、アンサンブルにも生々しさが戻っています。これがまたいいんですよ。演劇性のあるボウイの作曲との相性は、やはり有機的なアンサンブルの方が相応しいというのが連続して聴くと理解できます。
言ってしまえば、本作は「デヴィッド・ボウイ」というペルソナを被った作品なのかもしれませんね。それくらい彼の流儀に忠実で、手堅い独創性に満ちた1枚です。遺作となった『★』に繋がるエッセンスも発見できて、この作品なくして晩年のボウイのレガシーはあり得なかったと断言してもいいくらいですよ。
第13位 “The Man Who Sold The World” (1970)
第13位には1970年代のボウイ大躍進の第一歩となったアルバム、『世界を売った男』です。
この作品を語る上で、ともすればボウイその人より強烈なのがミック・ロンソンですね。以降グラム・ロックの時期のボウイの作品を支え続けた看板ギタリストですけど、彼のプレイが最も生々しく保存されているのがこの作品です。
ボウイなりのガレージ・ロックだと思ってるんですよねこの作品。まあガレージと呼ぶにはロンソンはあまりに上手すぎるし、よく洗練された作品なんですけど。すごく録音状態が生々しくて、ストゥージズの『淫力魔人』のボウイ・ミックスによく似た質感です。そういう意味でもロックの荒さを堪能できるんですよ。
楽曲も一気に粒ぞろいになって、ニルヴァーナがアンプラグドでカバーした表題曲を筆頭に、『円軌道の幅』や『ブラック・カントリー・ロック』といった渋い名曲が並んでいます。「名盤の直前にリリースされた作品、過小評価されがち」の傾向に飲み込まれている感もあるんですが、十分に面白いアルバムだと思いますね。
第12位 “Heroes” (1977)
知名度だけならボウイの中で一二を争う作品だと思います。「ベルリン3部作」の2枚目、『ヒーローズ(英雄夢語り)』ですね。(余談ですがこの邦題大好きです)
レコードでいうとA面にあたる、ヴォーカルの入った楽曲のパートの充実度は正直キャリアでもトップ・クラスだと思っていて。表題曲なんて、もうロックの歴史の中でも屈指の強度を誇ったアンセムじゃないですか。ロバート・フリップの素晴らしいギターも堪能できるし、メッセージも普遍的です。
ただ、B面のエレクトロ・パートがやや弱いかな。前作にあたる『ロウ』との比較にはなるんですが、どうにもとっ散らかっている感覚が拭えないんです。なまじA面が素晴らしいだけに、そこのちぐはぐさが「アルバム作品」としてはあまりに惜しい。
傑出した名曲は、ある意味ではアルバムの均衡を破壊してしまう。これは私の音楽体験の中で何度か実感した美学なんですが、それが当てはまるボウイ作品です。いや、無茶苦茶いいアルバムなんですよ。すごく高いレベルでの話です。
第11位 “Lodger” (1979)
「ベルリン3部作」の最後の1作となる、『ロジャー(間借人)』ですね。そんでもってこの作品、「ベルリン3部作」と「1980年代ボウイ」の架け橋でもあります。
「A面に歌モノ、B面にインスト」という『ロウ』と『ヒーローズ』に共通したフォーマットは本作にはなくて、もっとポップな方向に振り切っていますね。とはいえイーノやヴィスコンティが一筋縄ではいかない作風に仕上げてくれています。
そう、この一筋縄ではいかないヘンテコ・ポップス、これこそ1980年代初頭にボウイが展開したキャラクターだと思うんですよ。それは『スケアリー・モンスターズ』で最初に発揮されたと思われがちですけど、しっかり「ベルリン3部作」の段階で「UKニュー・ウェイヴの親玉」感溢れるサウンドを構築しているんです。
ボウイとイーノの邂逅くらいにしか「ベルリン3部作」を解釈していないと、このキャッチーな『間借人』が軽薄に聴こえてしまうかもしれませんけど。キャリア追いかけて聴いていくと、このアルバムなかなかどうして侮れません。次作と合わせて、ボウイのキャリアでもかなり面白い時期の作品ですよ。
第10位 “Let’s Dance” (1983)
ここからTOP10の発表となります。まずはナイル・ロジャースをプロデュースに迎え大ヒットを記録した、『レッツ・ダンス』です。
前作同様ニュー・ウェイヴのサウンドに接近するのかと思いきや、急激に舵をディスコ・サウンドに切ったのが本作ですね。ソウルの時代よりも遥かにブラック・ミュージックらしい気がします。それは何を置いても、ナイル・ロジャースという、ディスコ・サウンドの代名詞的名プロデューサーの手腕でしょうけど。
でもってこの作品、ロック的に聴いても楽しいんですよ。ヨーロピアンな質感は流石の「UKロックの裏ボス」の貫禄があるし、加えて言うなら本作に参加した当時無名のギタリスト、スティーヴィー・レイ・ボーンの存在が大きいと思います。
『チャイナ・ガール』なんていう一見典型的なディスコ・ソングに、彼のギターが加わるだけで一気に骨太になりますから。ファンク的なカッティングにも、彼のギタリストとしてのフィールがよく出ていて面白い。
そう、楽曲の強度という点では本作ってボウイのカタログでも最高級ですよね。それゆえに「セル・アウト」と認識されてしまうことも少なくないですし、この作品を好きだと軽々しく口にできない感覚もあるんですが、いやいや、表題曲筆頭にここまでキャッチーでダンサブルなボウイ作品を嫌えという方が難しい。
第9位 “1. Outside” (1995)
どうにも上位は1970年代〜『レッツ・ダンス』までの諸作品が独占しそうな感もありますが、これは数少ない例外の1つでしょうね。長いスランプから完全に立ち直った音楽的カムバック作品、1995年発表の『アウトサイド』です。
「ベルリン3部作」以来となるブライアン・イーノとの共演、これがまず面白いポイントで、それこそ「ベルリン3部作」と地続きな印象もありつつ、よりインダストリアル的というか、残酷な無機質性を押し出しています。この時期ボウイはNILを愛聴していたみたいで、彼の最大の才能である「自身のスタイルを損なわず、アップデートする」という手法もここにきて復活です。
ただそれ以上に、ボウイの作曲のキレが素晴らしい!名盤には必ずしも突き抜けた傑作は必要ないというのが私の持論ですが、作品の強度の上で名曲の存在はどうしたって不可欠ですから。そこへいくと、『ハロー・スペースボーイ』や『ザ・モーテル』、表題曲なんかもそうですね、この辺りの「ミステリアスな表現物」としての精度って抜群なんですよ。
とはいえアルバムとしては1時間越えの長大な作品ですし、サウンド、コンセプト共に硬派で取っ付きにくく、代表作とまで持ち上げるつもりもないんですけど……プログレ筆頭に「小難しい作品」の大ファンからすると、この作品は全盛期の作品と肩を並べる1枚だとは本気で思っています。
第8位 “The Next Day” (2013)
後期から晩年にかけての作品が抜け目なく上位に入ってくるあたり、やはりボウイの才能って衰え知らずですね。第8位には『ザ・ネクスト・デイ』です。
前作以降沈黙を貫き、引退説まで囁かれた中で突如リリースされた本作ですが、『アワーズ』辺りから続く1970年代の作風への再接近ですね。その中でも頭一つ抜けているというか、そのスタイルの完成形を見たのがこのアルバムだとすら思っています。
スタイルとしてはそれこそ『アワーズ』以降の作品と共通なんですけど、楽曲のクオリティがすごく高い。よりナチュラルで、より成熟したボウイ流ロック・クラシックみたいな印象を受けますね。『ヴァレンタイン・デイ』や『ホエア・アー・ウィ・ナウ』、それから後半の『ユー・フィール・ソー・ロンリー・ユー・クッド・ダイ』あたりは素晴らしい出来栄えです。
この作品の段階でボウイは66歳ですけど、これまでの彼の作品にはなかった枯れた味わいみたいなものも表現されていて。「侘び寂び」の境地というのは穿った見方かもしれませんけど、ボウイの齢を重ね細くなった歌声や、余白を残したサウンドスケープって、新境地になり得たんじゃないでしょうかね。
第7位 “Aladdin Sane” (1973)
ジャケットも有名なグラム期の名作、『アラジン・セイン』が第7位です。
印象としては、一番素直にグラム・ロックやってる作品なんですよね。『ハンキー・ドリー』はもっと気品があるし、『ジギー・スターダスト』はもっとクラシカルでアーティスティック。この作品のいい塩梅の乱痴気騒ぎと退廃のテイストこそ、マーク・ボラン由来のグラム・ロックって感じです。
ドライヴ感とでも言うんでしょうか、オールド・ウェイヴのロックが持っていた求心力と推進力をものすごく感じるアルバムなんですよ。それは単に『ジーン・ジニー』のようなロック調の楽曲だけでなく、表題曲のようなフリーキーで妖しげなミディアム・ナンバーでもね。
本作を最後にボウイは「ジギー・スターダスト」を葬り去り、グラム・ロックとしてのデヴィッド・ボウイは終焉しますが、この作品は「デヴィッド・ボウイ第1章」の完結に相応しいと思います。第2章以降もぶっ飛んでるのでこの位置に落ち着いちゃいましたけどね。
第6位 “Scary Monsters (And Super Creeps) (1980)
TOP5入りこそ逃したものの、これも大好きな作品ですね。「1980年代ボウイ」の開幕を告げる『スケアリー・モンスターズ』が第6位です。
「ベルリン3部作」と大ヒット作『レッツ・ダンス』に挟まれたせいか如何せん知名度に欠ける感もあるんですけど、本作のクオリティって素晴らしいですよね。さっき『間借人』のところで触れた「UKニュー・ウェイヴの親玉」らしさが一番ある作品じゃないかな。
そもそも「ベルリン3部作」が、ロックとエレクトロの融合という点でニュー・ウェイヴを大いに先取りした作風な訳でしょ?その成果を捨て去らず、しっかりボウイの正統派ロック・スターとしてのプレゼンスに調和させています。だからこそ生まれる、このヘンテコ・ポップス感が堪らない。
「1980年代ボウイ」という表現を使いましたけど、ここでの転身にボウイは自覚的だと思うんですよね。名曲『アッシェズ・トゥ・アッシェズ』で『スペース・オディティ』の「トム少佐」をただのジャンキーだったと種明かししていることからも明らかで。またしても新たなスタイルに脱皮することを宣言しているかのようです。
実際、抜け目なくヒットも記録していますしね。彼がただのカルト・スターで終わらなかったのって、この作品が相当大きいように思います。グラム・ヒーローで終わっていたら、「史上最も影響力のあるアーティスト」との賞賛はなかったはずですから。この作品もまたボウイの本質の1つを誇示する名盤です。
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