8位『小さな生き物』(2013)
ここからランキングは折り返し。第8位は『小さな生き物』です。ネット上ではこの辺の時期のスピッツが落ち目だったみたいな意見もたまに目にしますけど、そんなことないと思うんですよね。
この作品、スピッツのアルバムで一番暗いアルバムじゃないでしょうか。この前投稿したスピッツの歌詞特集の時にも言及しましたが、東日本大震災の影響です。
元々スピッツってそこまで明るいバンドでもないじゃないですか。『ロビンソン』にしろ『楓』にしろどこかしら影を感じる訳ですが、ああいう音楽に奉仕する暗さではなく、もっと内面的な、情緒的なダークさが滲んでいます。
暗い音楽が大好物な私にとってはそこはむしろプラスなんですけど、やっぱり聴いてて辛くなる部分はありますね。『さらさら』なんて哀悼歌のような鎮痛さを感じてしまうし、『未来コオロギ』にしたって『小さな生き物』にしたって、無理して明るく振舞おうとするメロディの広がり方が痛々しい。
『野生のポルカ』や『潮騒ちゃん』みたいな可愛らしい楽曲もあるので、何も全編ダークなアルバムではないんですけどね。ただトータルの空気感としてはスピッツの中でも異色なのは事実だと思います。
個人的な好き嫌いでいうと『僕はきっと旅に出る』はスピッツでも最愛のナンバーなので、いい面だけを見ればTOP3に入れてもいいくらいなんですが、あくまでアルバム・ランキングなので。全体的な評価ではこのくらいの位置に落ち着きました。
7位『醒めない』(2016)
第7位には比較的最近の作品、2016年リリースの『醒めない』です。
このアルバム、楽曲のレベルだけでいうとこの10年くらいの中で頭一つ抜けてると思うんですよ。よく言う「捨て曲なし」って表現はスピッツの大体の作品に当てはまるんですけど、このアルバムは特にそうですね。
如何にも「オジサンのロック宣言」ってな感じの表題曲『醒めない』でカッコよく始まったかと思えば、シングルの『みなと』でスピッツの面目躍如とも言える綺麗なバラードを展開。この段階で楽曲のパワーが凄まじいのは伝わると思います。
単にポップなだけでもなく、ヘンテコスピッツの成分もかなり強くて。『子グマ!子グマ!』のいきなりシャッフルで壮大なコーラスが始まる展開には「なんじゃそりゃ」と思わずズッコケちゃうユルさがありますし、『ハチの針』は初期を彷彿とさせるヘンテコロック・チューン。
前作『小さな生き物』がどうにも暗い作風だったところから見事に復帰した感がある作風なんですよね。それこそ『みなと』にはその傷痕は残ってはいますけど、もう一歩先に進んだ印象があります。
ただ、アルバムとしてのまとまりでは後に控える上位陣と比べると一枚落ちるというのが率直な意見で。
楽曲毎の相互作用みたいなものがアルバム作品の醍醐味だと思っている私からすると、その作用がやや弱い。なまじ楽曲が強すぎて、独立しすぎていると感じてしまうんです。
それって生半可な作曲のレベルでは不可能なのである意味ではとんでもない強みなんですが、「アルバム」ランキングを作成する上では裏目に出ちゃうというか。ビートルズで例えると『レット・イット・ビー』と同じ惜しさを個人的には抱いてしまう1枚なんです……『レット・イット・ビー』も『醒めない』も大好きですけどね。
6位『フェイクファー』(1998)
惜しくもTOP5入りを逃した格好となります。第6位は『フェイクファー』。
制作がかなり難航した作品なようで、メンバーとしては苦い思い出のある1枚らしいんですが、一介のファンである私にとってはただただ好きなアルバムですね。
リフ中心の楽曲に凝っていた時期らしく、イントロにインパクトのある曲が並んでいる印象です。スピッツの「変」な部分やルーツであるパンク/ニュー・ウェイヴのエッセンスとの相性も面白くて。
『エトランゼ』で優しく開幕したかと思えば、続けざまに『センチメンタル』でロック全開のギター・リフを聴かせる。その意外性とインパクトはこの作品を象徴していると思います。
ただ、その意外性が裏目に出ているのか、バランス感覚にやや欠けるのも正直な感想で。
というよりシングル楽曲を多く収録しすぎなんですかね。代表曲『楓』こそアルバム発表後のシングル・カットですが、B面も含めると全12曲中5曲が既発曲というのは少し危ういバランスだと個人的には思います。
結果として、楽曲レベルではスピッツでも屈指の粒ぞろいにもかかわらず、作品としてはどうしても散漫な印象にもなってしまうのかなと。かなり厳しいレベルでの批評というか、言いがかりと思われても仕方なさそうではありますが。
表題曲『フェイクファー』で壮大かつ淋しげにまとめるラストは個人的に大好きなんですが、そこに至るまでの道のりがほんの少しもったいないというのが偉そうな感想です。小綺麗にまとまっていると『フェイクファー』はむしろ活きてこないのかもしれませんが……
5位『三日月ロック』(2002)
ここからいよいよTOP5の発表です。第5位にランク・インしたのは2002年発表の『三日月ロック』。
このアルバム、ファン人気が高い作品ですよね。世間一般での有名曲はそこまでないんですが、とにかく「ファンの求めるスピッツ」にピッタリハマった作品。
1曲目の『夜を駆ける』、そして最終曲の『けもの道』、この2曲の人気の高さは言うまでもないとして、『水色の街』に『ミカンズのテーマ』、『エスカルゴ』あたりの通な楽曲が並んでいます。
ただ、ちょっと王道すぎるのが個人的には引っかかるんですよね。多分これは今作からプロデュースを務める亀田誠治の影響だと思うんですが。
スピッツと亀田誠治のタッグとしては初の作品なんですけど、まだそこのバランスがうまく取れていないように思えてしまいます。メロディは草野マサムネ節全開ですけど、サウンド・プロダクション全般を見ると結構亀田らしさ、言い換えると「王道J-Pop」感が強く出ているんですね。
これは別に悪いことでもないですし、最新作『見っけ』に至るまでこのタッグは継続中ですから相性はいいんですけど、こと本作ではそこがほんのちょっぴりだけ気になります。
まあ気になったところで王道感溢れる「J-Pop」スピッツが展開され、楽曲にもいい具合にクセが出ている訳ですから素晴らしいアルバムなんですけどね。残る4枚に比べると聴きかえす頻度は劣るのかなということでこの位置に。
4位『さざなみCD』(2007)
第4位は『さざなみCD』。2007年のリリースで、活動の規模感としてはやや落ち着いてきた頃の作品ですね。
ただ、このアルバムの充実度はヒット連発の90年代後半の諸作に匹敵します。
とにかく抜け目がないアルバムなんですよね。全体としては爽やかな印象なんですが、しっかりと要所に脂っこいポップスを挟み込むというか。
脂っこいというのは別に悪口ではなく、一般的な音楽好きがスピッツに求める音楽性ということです。『群青』や『魔法のコトバ』、『ルキンフォー』あたりのヒット曲を、うまい塩梅でサラリとしたヘンテコロックに絡ませているんですよ。
じゃあ大衆的なセルアウト作品なのかというと全くそうではなくて、ヘンテコロックの部分も驚くほどクオリティが高くて。
2曲目の『桃』なんてスピッツのアルバム曲の中ではトップクラスの名曲ですし、アルバム後半を彩るゴツゴツした『ネズミの進化』の意外性も素晴らしいですからね。
それからこの作品もスピッツの名盤の例に漏れず締めくくり方が見事ですね。『漣』から『砂漠の花』でとんでもなく清浄にまとめ上げることで、実にスッキリとした余韻のあるアルバムです。
3位『ハチミツ』(1995)
一般的な最高傑作はこの作品でしょうか、出世作となった『ハチミツ』が第3位です。
スピッツに限らずアルバム作品には「温度感」だったり「空気感」だったりがありますし、個人的にはそこを楽しむのが名盤鑑賞のキモだと思っているんですが、この『ハチミツ』はそれが実に秀逸。本当に暖かで優しい作品です。
最大公約数的な魅力があるアルバムですよね。前作『空の飛び方』で見出したスピッツの音楽性を、より高次に押し上げつつポップさを追究することに成功しているというか。
ロック路線だと『涙がキラリ☆』に『トンガリ’95』、ポップス路線だと表題曲『ハチミツ』に『愛のことば』と名曲尽くしですし、『あじさい通り』や『Y』みたいな作品のカラーに奉仕するバイプレイヤー的楽曲にも隙がありません。
そしてダメ押しのように大ヒット曲『ロビンソン』が収録されている訳ですが、面白いことにこの『ハチミツ』の中での件の曲の存在感はごくごく控え目で。
普通ここまでの大ヒット曲ならアルバムの主役として大々的にフィーチャーすると思うんですが、『ハチミツ』の世界観を邪魔しないようにひっそりと収められています。とはいえその完璧な美しさは損なうことなく、むしろアルバムのストーリーの中でその魅力は引き立っているんですが。
とにかく優しい、春の訪れと共に聴きたくなるアルバムですね。スピッツ入門には最適の1枚だとも思っています。
2位『ハヤブサ』(2000)
大名盤『ハチミツ』を抑えての第2位は、スピッツ最大の異色作『ハヤブサ』。
スピッツ・ミーツ・オルタナティヴって感じのアルバムですよね。90’sのロックに接続できる部分も結構あるんじゃないかと思います。
スピッツの「暗さをド級のメロディで隠す」という常套手段が本作では控えめで、むしろゴリゴリのロック・サウンドで暗さを無理やり疾走感やポップネスに還元しているような印象です。
シングルの改作『メモリーズ・カスタム』やオルタナ精神滲む『放浪カモメはどこまでも』なんてその代表格だと思いますし、そこに加えてスピッツ史上最高のキラー・チューン『8823』ですよ。
「スピッツって『ロビンソン』の人たちでしょ〜?ロックじゃなくな〜い?」みたいに思っている人にこの『8823』をぶん投げるだけでスピッツのファンになるという研究結果も出ている通り、いわゆる「スピッツ」像を破壊するとんでもなくアグレッシヴなロック・ナンバーです。
そんなアルバムなのに『ジュテーム?』からの『アカネ』でとびきり静かに、優しく締めくくるのがニクいですよね。アルバムのダークな空気感を損なわず、「スピッツの作品」としての落とし所をきちんと見つけているというか。
洋楽ロックに敏感な人はこの作品もれなく好きだと思います。それくらい「J-Pop」感がいい意味でない、尖った傑作です。
1位『名前をつけてやる』(1991)
さあ、栄えある1位は2ndアルバム『名前をつけてやる』。
この作品はよくシューゲイザーからの影響を語られますけど、正直その指摘は個人的にはピンときてなくて。
むしろ「最高のJ-Popバンド、スピッツ」の原石というか、かなり素直な印象の作品なんですよね。
1曲目の『ウサギのバイク』に始まり、表題曲の『名前をつけてやる』に『鈴虫を飼う』、『プール』……シンプルでさらりとした楽曲がとにかく胸を打つんです。
それでいて『日曜日』みたいな気持ち悪いロックもしっかりやっている、この一筋縄ではいかないスピッツらしさが一味違いますね。
あとこの作品の一番美味しいところはラスト2曲ですよね、『恋のうた』からシングルの『魔女旅に出る』の流れ。
この時期のスピッツの楽曲では特例的な豪速球ドストレートのメロディで、しかも『魔女旅に出る』ではストリングスを大々的にフィーチャーして狂乱のラストを演じるのはもう反則です。
アルバムの温度感もすごく一定で、無駄がなく純度が高いと思います。私にとってはケチのつけようのないアルバムなんですよね。
まとめ
さて、ここまでお付き合いいただきありがとうございます。これが私ピエールの選ぶ「スピッツ全アルバム作品ランキング」。今一度まとめておきましょうか。
- 名前をつけてやる
- ハヤブサ
- ハチミツ
- さざなみCD
- 三日月ロック
- フェイクファー
- 醒めない
- 小さな生き物
- 空の飛び方
- 見っけ
- 惑星のかけら
- スピッツ
- とげまる
- Crispy!
- インディゴ地平線
- スーベニア
アルバム・ランキングという試み自体はビートルズ以来ですけど、世界中で議論の交わされる奴らと違ってスピッツはこういうテーマがそこまで活発じゃないじゃないですか。
それは往々にして日本人の批評嫌い、「好きなもんは好きで何が悪いの」的発想もひょっとしたら影響しているのかもしれないですけど、まあそれはひとまずひとまず置いておくとして。
この手の企画の度に言ってますが、ランキング自体には大した意味はないんですよね。意味があるとそれば、作品をどのように解釈して自身の血肉にするか、そういう受け手の感性だったり審美眼だったりに対してです。
実際私もいろんな発見できましたしね、インタビューやエピソードで知ってはいても、実際に音楽からつかみ取れるかどうか、もっと言えばそれを言語化できるかというのはとても重要な気がします。
最後小難しい話しちゃいましたが、要するにスピッツってどのアルバムもいいよね、いいバンドだよねってことが言いたいだけの記事です。お楽しみいただけたなら何より。それではまた。
コメント