前回のプログレ編がありがたいことに好評でしたので、舌なめずりしながら第二弾といきましょうか。まだプログレ編をご覧になっていない方はあわせてそちらもどうぞ。
この企画の説明を改めて。ある音楽ジャンルに入門したい!でも何から聴いていいかわからない!そういうビギナーの方に向けて、「とりあえずコレだけ聴いといて」という5枚の名盤をものすごくベタなチョイスでご紹介するというものです。
今回はタイトルにもある通り、サイケデリック・ロック入門というテーマで5枚セレクトしていきましょう。サイケもプログレ同様、はるか昔のムーヴメント、ものすごく乱暴に表現すればカビの生えた時代遅れのジャンルみたいな認識もされかねないものだと思うんですよ。
ただ、サイケって現代に至るまで強烈な影響を残している音楽性ですからね。今から聴いたって絶対に損のない音楽です。さあ、ビビッドなサイケデリックの世界へ、参りましょう。
サイケの真髄は1967年にあり
まずはサイケの説明を軽くしておきましょうか。
サイケデリック・ロックっていうのは、LSDというドラッグがもたらす幻覚や感覚拡張をロックに持ち込もうとした動きのこと。そう、ドラッグと切っても切り離せないものなんです。ただ、擁護する訳ではないですが当時LSDの危険性はそこまで知られていなかったし、違法薬物でもなかったですからね。
むしろ、LSDによるトリップが精神の神秘を理解する鍵だ、みたいな感じで真面目にその可能性が探求されていた時代なんです。そこから東洋思想の受容なんかに繋がっていったりもした、ものすごく大事な流れなんだってことは知っておいてほしいですね。
さて、そんなサイケですが、今でもロック・ファンには根強い人気のあるジャンルですけど、実はその最盛期ってものすごく短いんですよね。1966年に原型が構築されて、そのすぐ後、1968年くらいにはどんどんシーンから後退していくという、時代の徒花のような音楽。
そして、その中間である1967年、この1年間がサイケの黄金期。もう猫も杓子も、ビートルズもストーンズもサイケをやるという流行ぶり。それくらいロックの中で支配的な存在感を発揮していますし、小難しいことを抜きにとにかくサイケの超名盤が連発されたサイケ・イヤーだったんです。
という訳で、今回は1967年に注目して、この年にリリースされた作品を中心に5枚の名盤を見ていきましょう。
『ハートに火をつけて』(1967)
最初にご紹介するのはザ・ドアーズの1st、『ハートに火をつけて』。9mm Parabellum Bulletじゃないですよ。
サイケってザックリ分けると2つの性質があると思っていて、何かというとギラギラした暴力性とカラフルなポップスなんですけど、この『ハートに火をつけて』に関しては完全に前者。精神を揺さぶりまくる過激なサイケならまずはこの作品ってくらい典型的なサウンドです。
耳を引くのはレイ・マンザレクのキーボードですかね。前回ご紹介したプログレにあるようなテクニカルで流麗なものではなく、チープにも思えちゃうようなサウンドなんですけど、それが結果としてサイケの妖しさを見事に演出しています。
そしてシンガーであるジム・モリソン。ロック界屈指の破天荒ぶりでも有名で、27歳の若さで亡くなってしまういわゆる「27クラブ」の1人ですが、彼の破滅的な歌唱も脳天直撃の衝撃があります。上手い下手ではなく、突き刺さるような野生的な歌声。これがまたサイケの幻惑と相性抜群で。
名曲揃いの名盤、そう言ってしまえば簡単ですけどそういうパワーのある作品です。1曲目の『ブレイク・オン・スルー』や表題曲の『ハートに火をつけて』も勿論名曲ですが、ハイライトはやっぱりラストの『ジ・エンド』。サイケとか関係なくロック史に残る傑作だと思います。歌詞にも注目して聴いてみてほしいですね。
『アー・ユー・エクスペリエンスト?』(1967)
次に紹介するのは「ジミヘン」ことジミ・ヘンドリックス率いるバンドのデビュー作、『アー・ユー・エクスペリエンスト?』。これもジャンル関係なくロック・クラシックの大名盤ですけど、サイケに分類される1枚です。
当然聴きどころはジミヘンのギター・プレイですよね。今から50年以上前の録音ですし、ジミヘンのプレイなんてその後のありとあらゆるギタリストがパクって参照してきたもののはずなんですが、いまだに強烈というのはもうスゴイを通り越して不思議です。
この作品もドアーズの1st同様、クラクラするようなパンチに酔いしれて楽しむ1枚。ブルース由来の泥臭いフィーリングなんかもある作品なんですが、そこはやっぱりサイケの作品ですから。原色感のあるドギツイ鮮烈さがどの曲にもあります。
ちなみに本作は当初イギリス盤とアメリカ盤で収録内容が違うんですよね。個人的にはアルバムとしての展開に無駄のないUK盤が好みなんですけど、入門ということであれば『紫のけむり』でいきなりノック・アウトされるUS盤の方をオススメします。(再発盤ではUK盤の内容にボーナス・トラックとしてシングルも収録されているのでそれがベストでしょうか)
『夜明けの口笛吹き』(1967)
3枚目はピンク・フロイドのデビュー作、『夜明けの口笛吹き』です。ここまで3枚ともデビュー作なんですけど、そのくらいこの時代ってロックに活気があって、次々に伝説的アーティストが登場していたんですよ。
ピンク・フロイドはプログレ入門の時にも名前を出しましたよね、「プログレ5大バンド」の一角です。でも実はフロイドのスタート地点はサイケ・ロックなんですよ。
ただ、プログレ期のフロイドとは全く違うアーティストとも言えるんですよね。看板ギタリスト、デイヴィッド・ギルモアはまだ加入前ですし、本作の中心である初代リーダー、シド・バレット。彼の存在感が尋常ではないんです。
間違いなく60年代ロックにおける最大の天才の1人だと思うんですが、ドラッグに呑まれ、廃人となってしまいます。そんな彼が残した数少ない音楽作品の1つがこのアルバムなんですよ。こういう悲しい未来を暗示するような危うさは、この作品にも色濃く映し出されています。
かなりザラついた質感のサウンドの作品で、ギラつき度合いでいうと今回ご紹介する5枚の中ではダントツです。はちゃめちゃな展開も多くて、ドラッグのトリップを音像で表現し切っている、そんな印象もあります。特にインスト・ナンバーの『インターステラー・オーバードライヴ』、この曲の眩惑的サウンドなんて格別ですよ。
『マジカル・ミステリー・ツアー』(1967)
どんどんいきましょう。4枚目はザ・ビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』。元はアメリカ編集盤でしたが、内容が良すぎてUK公式カタログに認定されたという変わった遍歴の作品です。
ビートルズ入門なら、この作品から入るのってどうなの?とは思うんですよ。さっきも言った通り元は編集盤なので、バンド側の意図とは違った流れになっていますから。ただ、サイケ入門ならこの作品をこそ私は推薦したいんです。
というのも、1966年、作品でいうと『リボルバー』からザ・ビートルズはサイケの時期に突入していく訳ですが、この作品の楽曲群はその完成形と呼べる仕上がりになっています。特にジョン・レノンの楽曲、これはスゴイ、もう完全にブットんでる。『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』に『アイ・アム・ザ・ウォルラス』ですからね。
ただ、そこはザ・ビートルズですから。どっぷりサイケであっても楽曲のキャッチーさは非凡なものがあります。ポール・マッカートニーの曲はサイケ風味ですけどしっかりとポップですから。さっき触れたサイケの持つ2つの性質、その両方が味わえる作品なんですよ。
マジカル・ミステリー・ツアー『オデッセイ・アンド・オラクル』(1968)
さあ、最後にご紹介するのはザ・ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』。今回の5枚の中では唯一1967年の作品ではありません。
ただ、今回の5枚の中で個人的に一番好きな作品はこの1枚なんですよね。サイケの最高傑作とすら言っていい、それくらい素晴らしいアルバムです。
サイケの鮮やかさを耳当たりのいいメロディに紐付けた、いわゆる「サイケ・ポップ」の作品なんですけど、もう最高です。爽やかで切なくて、甘くてとろけそうで。捨て曲一切なしの作品なんです。
ラストを飾る『ふたりのシーズン』が一番有名だとは思うんですが、「『ふたりのシーズン』以外がいい」なんてことを言う人もいるくらいにどの楽曲も素晴らしいんですよね。『今日からスタート』なんて、ごくごく短い小品ですけどもう言葉が出なくなるくらいにキュートな名曲です。
まとめ
さあ、サイケ入門と称して5枚の名盤を紹介していきました。この5枚でとりあえずサイケデリック・ロックの魅力は大まかにつかみ取れると思います。
サイケってその後の1970年代ロックの直接のルーツでもあるんですよ。それこそプログレだってそうだし、ハード・ロックに関してもツェッペリンの1stなんかは結構サイケっぽいですしね。だからサイケをおさえることで、ロック全体の見通しがよくなると思うんです。
それに、まだまだサイケで聴いてほしい作品はあるんですよ。ストーンズがサイケをやった『サタニック・マジェスティーズ』も面白いし、今回はジミヘンに枠を譲って紹介できなかったクリームなんかも必聴ですから。
それに現代ロックでもサイケってまだまだ深掘りされていて、オージー・サイケなんていうオーストラリア発のサイケ・ロックは最近のロック・シーンを盛り上げてくれてます。この5枚でサイケ入門を果たした後も、まだまだ奥深いサイケの世界を楽しんでほしいと思います。
それではまた。次回は……ファンクですかね、予定なのでいきなりテクノ入門とかになってるかもしれませんが。
THE DIG presents サイケデリック・ロック (シンコー・ミュージックMOOK)
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