いつも投稿している名盤レビュー、アレってある程度その作品を知っている人や好きな人向けではあるんですよね。
でもそればっかりというのも面白くないなと。「ディアンジェロってどんなアーティストなんだろう?」みたいな人がうっかりやってきて、私のレビュー見たら情報量多すぎて目ん玉飛び出ると思うんですよ。なんなら聴く気なくしちゃうなんてことになるかもしれない。
ということで今回はご新規さん向けの企画、「手を出してみたい音楽があるんだけど、どこから聴いていいかわからない」という人に、「とりあえずコレだけ聴いといて」という5枚をレコメンドしていこうかと。
その第一弾として、もう何度目かわからないけれどプログレッシヴ・ロックを取り扱ってみます。やっぱり性質上難しいジャンルだとは思うんですよね、でもやっぱり聴いてほしい音楽ジャンルの1つですし、この記事で入門してみようという方があれば嬉しいです。では、参りましょう。
プログレは5大バンドから
プログレは難しいって話はしましたけど、でも実は結構入りやすいジャンルだとも思うんですよ。
というのも、プログレの世界には「プログレ5大バンド」なんていうバトル漫画の悪の秘密結社みたいな括りがあるんですね。あくまで日本独自のものみたいですが。
このプログレ5大バンドがなんなのかというと、キング・クリムゾン、イエス、ピンク・フロイド、ELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)、ジェネシスの5組のこと。
で、実際この5大バンドから入っておけば間違いないんです。この5大バンドってそれぞれ音楽性が違うので、ここから入っていけばプログレにどういう個性があるのかというのも見えてきやすいというか。
なので、この5大バンドからそれぞれ1枚ずつ選んでみようと思います。安直ですか?
でもプログレ・ファンの人に聞きたいんですけど、いきなりアモン・デュールIIから入った人います?みんなこっから泥沼にハマった訳じゃないですか。言ってみれば熱い温泉に浸かるみたいなもので、足の先からゆっくりゆっくり慣らして、気づけば訳わからないイタリアン・プログレも大好き!みたいな状況を作るのが理想だと思うんですよね。
『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)
ついこの前個別でレビューしましたけど、やっぱりプログレ入門にはこの作品だと思うんですよね。キング・クリムゾンのデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』です。
やっぱりこの作品に関しては『21世紀の精神異常者』が収録されているっていうのが大きいと思うんです。しばらく前ですけど邦画の主題歌にも使われていたり、最近でもテレビCMに起用されていたり、あのトチ狂った音楽にしてはかなり知名度がある楽曲ですよね。
ただ、コレはレビュー記事の方でも書いたんですけど、あの狂気が暴発した『精神異常者』のおぞましさみたいなものって実は例外的で、作品としては結構叙情的というか、専門的な単語を使うとシンフォニックな世界観なんですよね。
で、「長い!複雑!意味不明!」のプログレ三原則をしっかりと守っている点も入門にピッタリじゃないかと思うんです。聴きやすいプログレなんてプログレじゃないですから……流石に思想強すぎます?
クリムゾン・キングの宮殿 (紙ジャケット仕様)『こわれもの』(1971)
さて、次に紹介するのはキング・クリムゾンと双璧を成すプログレッシヴ・ロックの雄、イエスの『こわれもの』です。
イエスは以前に『こわれもの』の次作にあたる『危機』をレビューしていて、その中で「『危機』が今までに聴いたどの音楽作品よりも好き」みたいなことを言ってるんですよ。
じゃあ『危機』を紹介しろよ、と思うかもしれませんが、あの作品の構成ってアルバム全体で3曲という大作主義の極みみたいなものなので、いきなりアレから入るとちょっと腰が引けちゃうのかなとも思うんですよね。配慮のできる人間ですから私は。
で、この『こわれもの』にもさっき紹介した『宮殿』同様有名曲が入っていますね。1曲目の『ラウンドアバウト』です。
『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメ・シリーズ第一弾のエンディング・テーマに起用されて一躍有名になりましたよね。もともとロックの名曲として有名ではあったんですけど、一気に一般的な曲になった感があります。Twitterでネタ動画の素材に使われたりなんかもして。
で、この『ラウンドアバウト』にも言えるんですけど、『こわれもの』ってビックリするくらい演奏がカッコいいんですよね。ギター、ベース、ドラム、キーボード、ヴォーカルというスタンダードな編成の中で、全員の個性が全力でぶつかり合っている気迫が楽しめます。
こわれもの『炎〜あなたがここにいてほしい』(1975)
ピンク・フロイドもプログレ入門には欠かせない存在ですよね、ここでは『炎〜あなたがここにいてほしい』を紹介しておきます。
さて、あちらこちらから「なんで『狂気』じゃないんだ」という批判が聞こえてくるようです。コレは個人的な感覚なんですが、『狂気』ってプログレじゃなくないですか?
この話ここで掘り下げると脱線しすぎるので、いずれ『狂気』のレビューで突っ込んでいきたいところではあります。ちょっとだけ説明しておくと、あの作品ってプログレの方法論を飛び越えた、コンセプト・アルバムという概念の傑作だと思っているんです。
要するに、『狂気』をプログレ入門にするのは個人的に納得いかない訳です。でもフロイドを無視するのはあまりに通ぶってると思うので、『炎』を紹介するというところで落ち着けようかと。
この作品はとにかくエモーショナルな温度感を楽しんでほしいですね。プログレは難しいと再三言ってますけど、この『炎』は割とキャッチーな作品だと思うんです。特にデヴィッド・ギルモアのギター・プレイ、ここに注目して聴くと本当に心地いい1枚なんですよ。
『恐怖の頭脳改革』(1973)
どんどんいきましょう。ELP、正式名称エマーソン・レイク・アンド・パーマーの傑作、『恐怖の頭脳改革』です。
実はこの作品、私が人生で初めて聴いたプログレ作品なんですよ。今にしてみればよくここから入ったなと思わないでもないですが、そういう経緯もあって個人的な思い入れの強い1枚です。
さて、ELPって結構珍しいバンド・スタイルで、ベース、ドラム、キーボードというトリオ編成なんですね。ロックの花形であるギターがいないんです。(楽曲によってはギターも演奏されますが)
で、このバンドの最大の聴きどころはキーボーディスト、キース・エマーソンの超絶技巧。『恐怖の頭脳改革』の2/3を占める超大作『悪の教典#9』はもうとんでもないですからね。レコードだとB面丸々使っても収まりきらず、冒頭部分はA面にはみ出すというスケール感です。
ありとあらゆる鍵盤を縦横無尽に弾き倒す、そのアグレッシヴさはクリムゾンの『精神異常者』にも匹敵するんですが、あちらがジャズをベースにしている一方こっちはクラシック音楽を下敷きにしてます。だから決して破茶滅茶にならず、どういう訳か収まるところに収まるという奇妙さも気持ちいいんですよ。
恐怖の頭脳改革(紙ジャケット仕様)『フォックストロット』(1972)
最後に紹介するのはジェネシスの『フォックストロット』。この中では一番マイナーな作品かもしれませんね。もっとも、プログレの世界に本当にメジャー盤があるのかは疑問ですが。
ジェネシスって80年代にポップス路線で商業的に成功したんですが、そのせいもあってかプログレ5大バンドからハブられることもあるんですよね。(その場合は「プログレ四天王」と言います。やっぱり悪の組織っぽい……)
ただプログレ期のジェネシスもムチャクチャいいんですよ。この時期に在籍していたピーター・ガブリエルというヴォーカリストの猟奇的な演劇性がすごくドラマチックで。
で、結構この時期のジェネシスの最高傑作って人によって意見がわかれるところだとは思うんですが、個人的に入門としてオススメなのはこの『フォックストロット』です。
ハイライトである最終曲の『サパーズ・レディ』、コレも20分超えの超大作ですがそこまで聴きにくい感覚もないというか。とにかく演劇的で、過剰なくらいにドラマチックなので退屈とは無縁なんですよね。
まとめ
さて、今回は入門用の記事ということでギリッギリまで内容を噛み砕いてわかりやすく説明したつもりです。
全力でそれぞれの作品の紹介をすれば1つあたり7000字くらいになっちゃうので、それはもう入門とは言えないですからね。正直言って消化不良な感もありますが、私の語りたいところは皆さんに聴いていただいて補完してもらえれば。
とりあえず、この5枚を聴けばプログレ初心者マークは外せると私は思ってます。そこからは5大バンドの他の作品を聴き進めるもよし、他のアーティストの代表作を聴くもよしです。そこまでいけば十分プログレ・ファンを名乗れるレベルですよ。
この記事も評判よければ他ジャンルで第2弾第3弾……とシリーズ化していきたいですね。次回(があれば)、サイケデリック・ロック編でお会いしましょう。
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