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In The Court Of The Crimson King/King Crimson (1969)

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全体の記事数に対してプログレ関連の話題が多すぎて客観性はなくなりつつありますが、許してください。好きなんですよプログレ。

今回ご紹介するのはプログレの開祖、キング・クリムゾンのデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』です。Twitterのアイコンにするくらいには愛着のある作品なんですよね。

こんなに衝撃的なアルバム、他にありますかね?初めて聴いたの中学2年生とかでしたけど、何回聴いても訳わかんないテンションになるんですよね。ドーパミンが噴き出すというか、聴くたびにアルバム・ジャケットの男の顔みたいになります。

ロックを聴くならば絶対に避けられないこの稀代の名盤、今回も余すことなくレビューしていきます。

評価

冒頭でも触れましたが、この作品は「プログレッシヴ・ロックを発明した作品」という評価がされています。

実は60年代のサイケ・ブームの中から、プロコム・ハルムだったりムーディ・ブルースだったりといったアーティストがプログレの原型となる音楽はやってたんですよ。今では「プロト・プログレ」と呼ばれる音楽ですね。

A Whiter Shade of Pale

ただこのプロト・プログレ、名称で差別化されているだけあって、今で言うところのプログレとは若干違うサウンドなんですよ。プログレの「長い!複雑!意味不明!」みたいなイメージとは違うものというか。

で、そこから1歩どころか5歩も10歩も抜け出した作品こそがこの『クリムゾン・キングの宮殿』なんですね。この作品をもってプログレッシヴ・ロックというジャンルが確立された、という評価はまったく妥当だと思います。

余談ですが、この作品につきまとうエピソードである「あの『アビー・ロード』を引き摺り下ろしてUKチャート1位になった作品」、これは誤り。UK最高順位は5位というのが公式記録みたいです。

この作品の衝撃からして、どんどん尾ひれがついていったというのが実情なんでしょうか。新人バンド、それも無茶苦茶尖った音楽性で5位っていうのも結構な偉業なんですけどね。

制作の背景

キング・クリムゾンというと、現在もバンドに在籍する唯一のオリジナル・メンバーであるギターのロバート・フリップのバンドというイメージが強いかと思いますが、実はこの作品制作の段階では彼の存在感はそこまで大きくなくて。

というのも、ロバート・フリップのあの無機質なギター・スタイルは本作の時点では編み出されていないんですよ。結構ギターはシンプル、というか正直なところあまり目立っていません。

じゃあ本作において主導権を握っているのは誰かというと、イアン・マクドナルドという人物。でもこの人、本作発表後早々にバンドを脱退してしまいます。脱退後に発表した『マクドナルド・アンド・ジャイルズ』プログレの隠れた名盤として知られていますね。

Mcdonald And Giles

で、本作でのマクドナルドの活躍は素晴らしいですよ。作曲も彼によるところが大きいですし、フルートにサックスにメロトロンと、本作において重要なサウンドはほとんどが彼の演奏です。マクドナルドなくして『宮殿』は存在しなかったと言っても過言じゃないと思います。

ヴォーカルとベースを務めたグレッグ・レイクも重要ですね。クリムゾンのヴォーカリストというとどうしてもジョン・ウェットンが連想されがちだと思うんですけど、レイクだって負けてない。特にメロディアスな展開が多い本作で彼の果たした役割は大きいですよ。

そんなレイクも次作『ポセイドンのめざめ』発表後に脱退。その後プログレ界のスーパー・バンド、エマーソン・レイク・アンド・パーマーで活動していくことになります。プログレってこういう天下りみたいなバンド間の人事異動激しいんですよ

Lucky Man (2012 Remastered Version)

作品解説

さて、ここからは実際に作品の内容を見ていきましょう。とその前に作品の構造から。

プログレの先駆的作品とあって、いわゆる大作主義、要するにどの曲も長いというのが特徴ですね。44分の収録時間に対して収録曲は全5曲です。以前紹介したイエスの『危機』ほどじゃないにしろ、ポップスの感覚からすれば十分長ったらしく思えてきます。

ただ、その長さを生かしてこれでもかと展開を詰め込んだり、1曲1曲でしっかりと起伏を作ってあったりするので、印象ほどに退屈ではありません。プログレの時間感覚に慣れきった私なんかはごくごく普通に楽しめます。

ただ、これはある程度特殊な訓練を積まないと会得できない感性かもしれませんのであらかじめご了承ください。修羅の道なんですよプログレって

『21世紀の精神異常者』

いきなりハイライトですね、オープニングを飾る『21世紀の精神異常者』です。

King Crimson – 21st Century Schizoid Man (Including "Mirrors")

余談ですけど、今はコンプラ的な問題で邦題が『21世紀のスキッツォイド・マン』になっているらしいですね。馬鹿馬鹿しい話ですよ、「スキッツォイド・マン」なんて言われたところでこの楽曲のイメージはちっとも湧いてこない。

せっかく『21世紀の精神異常者』という、「うん、なるほど」となってしまうクレイジーな名邦題があるんですから、最近のいきすぎた配慮も考えものです。

話が逸れましたね、楽曲の話をしましょうか。

再生すると、冒頭からよくわからないノイズがしばらく続きます。初めて聴いた時、プレイヤーの故障かと思いました。少なくともそれまで聴いてきた音楽じゃあり得ない曲の始まり方でしたから。ましてやアルバムの1曲目ですからね。

それで「よくわからん」とボリュームをあげる、ここまでがテンプレだと思うんですがこれがいけない。いきなりとんでもなく暴力的なイントロのリフが始まって腰を抜かしてしまいます。サックスとギターのユニゾンなんですが、もうそういう楽器がどうこうとか意識できないくらいにパワフル。

このイントロを聴くたびに、恐ろしい化け物、それもとびきり巨大なのが襲いかかってくるようなイメージが湧いてくるんですよ。まるっきりこの世のものとは思えない、異形のサウンド。

で、ヴォーカルもエフェクターかけまくってバリバリに歪みまくってます。この辺も異物感がスゴイですね。しかも歌が始まったかと思えばあっという間に終わってまたあのリフに戻ってしまうという。一体いつになれば息がつけるんでしょうか。

ここまででもうお腹いっぱい、疲弊しきってしまうくらいのハイ・カロリーなんですが、この曲最大のブッとびはこの先に待っています。2度目のヴォーカルを終えてから始まる、インプロ(即興演奏)のパートですね。

一応音楽的に分析するならジャズの影響下にある即興演奏、なんでしょうけど、ジャズとかそういう話じゃないですよねここ。どういう精神状態ならこんな演奏できるんでしょう。これでドラッグやってないっていうんですから理解不能です。

この理解不能っぷりがいいんですよね、呆気にとられているうちにあっという間に7分が過ぎ去ってしまう。その終わり方も、もはや演奏とは呼べない狂ったようなサウンドですから。まさしく『21世紀の精神異常者』と呼ぶに相応しい楽曲です。

『風に語りて』

ここでようやく一息つきましょう。のどかなナンバー、『風に語りて』

King Crimson – I Talk To The Wind

フルートがサウンドの軸になっている楽曲ですね。ついさっきまでの凶悪ぶりからいきなりの方向転換には驚くかもしれませんが、この作品全体を見渡してみると実は『精神異常者』の方が特殊で、こういう情感を揺さぶる音楽性が主体だったりします。

さて、のどかとは言いましたけど、やっぱり普通ではないんですよね。そもそも6分くらいある曲ですし、プログレにどっぷりハマった今だからこそ「この曲はクリムゾンの中ではメロディアスで〜〜」みたいな講釈を垂れることができますが、初めて聴いたときはこれもまあまあ理解不能でしたから。

この曲に関するトリビアを挟んでおくと、ボブ・ディランの名曲『風に吹かれて』のアンサー・ソングとされることが多いみたいですね。

「友よ、その答えは風に吹かれている」と歌ったディランに対し、「風に語りかけたところで、聞こえやしない」と返すクリムゾン。この時期のクリムゾンにはピート・シンフィールドという作詞専属という珍しいパートのメンバーがいるんですが、この深淵な詩世界は彼の貢献です。

当時ってラブ&ピースなサマー・オブ・ラヴが終わってしまって、ベトナム戦争も泥沼化して、みたいなすごく暗い時代だったんですよね。そう聴くとこの一見優しい楽曲も、そういう諦めみたいなものが漂う切なさが滲んできます。

『墓碑銘』

さあ、この曲もクリムゾン屈指の傑作ですね。メロトロンの轟音から開幕する『墓碑銘』です。

King Crimson – Epitaph (Including "March For No Reason" and "Tomorrow And Tomorrow")

このメロトロンという楽器、当時最先端のシンセサイザーなんですがプログレとは切っても切り離せない深い関係があるんです。プログレといえばメロトロンってくらいで、プログレ・ファンはもれなくメロトロンの音が大好物と言い切ってもいいと思います。

そんなプログレの典型サウンドから始まる訳ですが、前曲の流れを引き継ぎつつ、もっと荘厳というか、緊張感のあるムードが特徴ですね。如何にも「これぞプログレ」という温度感。

その緊張感はサビ(サビなんてものがプログレの世界にあるのかは疑問ですが)の一節、「混沌、これこそを我が墓碑銘としようぞ」という部分でクライマックスを迎えます。わかりやすく書くと「confusion, (ジャーン!)will be my epitaph(ジャーン!)」の部分です。

そこからもメロトロンが楽曲を塗りつぶすように広がったり、ギターが味付けしたり、緊張感の中で色々手を変え品を変え聴かせてくるんですよね。こういう要素がギチギチに詰まっているのもプログレらしいところです。

歌いっぷりも大したもんです。プログレって必然的に歌の役割って小さくなるんですけど、この朗々としつつも悲壮感のある歌唱は素晴らしい。さっきも書きましたけど、もっとグレッグ・レイクのヴォーカルは評価されていいと思うんです。実にドラマチックですよね。

ここまでくると『21世紀の精神異常者』のことなんてすっかり忘れちゃってませんか?この景色の移り変わり方もこの作品のすごいところですよね。普通あんなにブッとんだ曲があれば作品のイメージってそれで決定されそうなもんですけど、このアルバムはそれぞれの楽曲が凄まじいので引っ張られ過ぎないんですよ。

『ムーンチャイルド』

別名「プログレ入門最初の関門」(今命名しました)こと、『ムーンチャイルド』です。

King Crimson – Moonchild (Including "The Dream" And "The Illusion")

この曲も御多分に漏れずメロトロンの洪水と寂しげなメロディが印象的です。ちょっとした小品のような感触すらありますね。実際、このひっそりとした歌のパートは2分そこそこで終わるんです。

「もう終わりか、物足りないな」、そんな風に思ったそこのあなた。ご安心ください。まだ9分ほどこの楽曲は続きます。それも意味不明な即興演奏が延々と。

プログレ聴いてみようって人がこの作品を手に取ったとして、ここを乗り越えられるかどうかでその後の音楽人生は大きく変わると思います。まだ『精神異常者』みたいに意味不明ながらも圧倒される超絶技巧なら聴いてる側も楽しめるんですよ。ただこの曲のインプロに関してはそういう類のものじゃないんです。

ドラムもギターも、なんかずっと無意味な音を出してるだけ。ちょっと太鼓トコトコ鳴らしてみたり、シンバル軽く叩いてみたり、ギターもただただランダムに思いつきで弾いているだけなんです。はっきり言って退屈、理解できるできない以前の問題です。

じゃあこのパートに存在意義がないのかというとそういうことでもなくてですね。このパート、「最終曲への壮大な前フリ」だと個人的には解釈しています。つまり、9分続く果てしないイントロなんですよね。

プログレ作品ですから前提としてアルバム単位で聴くという価値観があって、最終曲に辿り着くにはここを乗り越える必要がある訳ですよ。それに、これだけ名盤とされているんだから、わからないだけできっと魅力があるんだ、そんな風に集中してこの謎の時間に向かい合う。

そこで極限まで高められた緊張感、それを最終曲のイントロが解き放つことによって生まれるカタルシス。これがもう最高なんですよ。そこを味わうためだけ、いわば舞台装置として機能しているパートなんです。

よく「『ムーンチャイルド』のインプロは飛ばしちゃう」みたいな声も聞きますけど、痛いほど気持ちはわかる、わかるがぐっと我慢してほしい。そんな風にいつも思っています。ここを楽しめないことには『クリムゾン・キングの宮殿』を100%楽しんだとは言えませんから

クリムゾン・キングの宮殿

いよいよ、さっきからしつこいくらいに言及してきた最終曲、タイトル・ナンバーの『クリムゾン・キングの宮殿』のお出ましです。

King Crimson – The Court Of The Crimson King

まずはやっぱり冒頭のドラムですね。果てしなく続いた意味不明の時間はもう終わるんだというファンファーレのようですらあります。そして雲海のように広がるメロトロン。皆が心待ちにしていた「プログレッシヴ・ロック」の帰還ですよ。もうここだけで泣けちゃいます。

楽曲の展開は結構『墓碑銘』に似通った部分もあるというか、ボーカル主体で訥々と進行して一気に壮大にサウンドが開けるスタイルは共通ですね。初期のクリムゾンの一つの典型パターンでもあります。

まさに大団円、壮大なコーラスで幕引き、ああよかったよかった……で終わるような作品じゃないことはここまで読み進めた人ならお気づきでしょう。最後にもインプロが挿入され、トドメをさすようにもう一度最終曲のテーマが力強く演奏されて真のフィナーレを迎えます。もうクドイくらいに展開を詰め込んできてます、映画なら一周回って駄作になりそうなくらい。

ただ、そこを名盤にしてるのがこの作品のえげつないところなんですけどね。この過剰なまでの仰々しさを、とんでもなくスッキリとアルバム作品として落とし込んでいるんです。聴き終わった後のあの言いようのない爽快感、是非とも味わってほしいと思います。

まとめ

今回はいつもと違って素直に全楽曲に関して触れていくというスタイルを取ってみましたが、こっちの方が読みやすかったりするもんでしょうか。作品の質感によってその辺を使い分けてみようかとも思ってますがどうなんでしょう。

ともかく、以上が『クリムゾン・キングの宮殿』の全容です。本当によくできた作品なんですよね、プログレッシヴ・ロックのすべてがこの1枚に凝縮している、そう言ってしまっていいくらいの内容です。

よく「この作品は○○の金字塔だ!」みたいな表現をしますけど、そういう作品ってそのジャンルがある程度煮詰まってきた状態から生まれると思うんですよね。ただこの『宮殿』に限っては、原点にして頂点というか、プログレを定義したと同時にやれること全部やっちゃった、みたいな1枚なんですよ。

決して聴きやすいとは言えない作品ですし、何をどうしたって『ムーンチャイルド』の壁はそびえ立ってはいるんですが、それでもやっぱりこの作品は聴いていただきたいですね。そして幸か不幸かプログレという底なし沼にハマってくれれば……その時は温かく歓迎します。

クリムゾン・キングの宮殿

コメント

  1. […] すよね。ええ、いの一番にレビューを敢行した『クリムゾン・キングの宮殿』以上に。 […]

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