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ピエールの選ぶ「オススメ新譜10選」2026年4月編

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どうも、先月ぶりです。今回も今回とて、「オススメ新譜10選」やっていきましょう。

ちょっと4月末に、20年弱音楽を聴いてきた中で一番悲しかった発表があってね。UNISON SQUARE GARDENが活動休止ということで……それについてのお気持ち表明を書いては消し書いては消し、ようやく出来上がったものを読み返すと激痛の自分語りが9割ぐらいだったのでやっぱりお蔵入りにして。そんなこんなで新譜レコメンドの準備が滞っておりました。

まだ飲み込めたとは到底言えないですが、1回きちんと文章にしたので整理はついたかな。それに、MJの伝記映画の日本公開も近付いてきているし、初めてのフジロックも気づけば2ヶ月後。切り替えられるところは切り替えていきましょう。ということで、4月の新譜レコメンド、個人的にオススメしたい10枚はこんな感じでした。

“Vol.II”/Angine de Poitrine

早速フジロック絡みでこいつから。「KEXP」でのライヴ映像がバズったことで一躍注目の的となりました、ケベックのAngine de Poitrine。333歳の宇宙人を自称し、全盛期のPeter Gabrielでもここまでしなかったという悪趣味な出立の2人組です。彼らが如何にトンでるかは件の映像を観てもらえばドン引きとともに理解できると思うんですが、このタイミングで抜け目なくリリースされた“Vol.II”も見事でしたね。

Angine de Poitrine – Full Performance (Live on KEXP)

4/4が来ると一周回って違和感を覚えかねないほどの変拍子の応酬、そして微分音(通常の音階にある全音/半音をさらに細かく分割した音符のことです)を導入した改造ギターから放たれる神経質でミステリアスなニュアンス、これらを容赦なく撒き散らす節操のなさ。仮に彼らのビジュアルを知らなくとも、音だけでそのヘンテコっぷりは明らかですよね。そしてそれらを反復性によって強調することで、ますます聴き手の神経を逆撫でしつつ、どこか人力ハウスのような淡々とした高揚感みたいなものも植えつけてきやがります。いやぁ、えげつねえ。

こういう変態同士がワチャワチャしてる類の音楽、近年であればblack midiがすぐに思いつきはすると思うんですが、変拍子や神経質、それに反復といったキーワードを踏まえると、私の脳裏には当然Discipline期のKing Crimsonが浮かんでもくる訳です。案の定、影響元にプログレッシヴ・ロックもあるようですしね。興味深いのが、逆立ちしたって大衆ウケしない彼らがヴァイラルになっているところですよ。見た目が面白いっていうのは間違いなく強みですけど、それに加えてある種現代的な、(分かりやすいのであえて使いますけど)「ドパガキ」的な価値観に対して一撃で突き刺さって毒を盛ってくる強烈さがややこしさを上回る刺激に繋がっているのかもしれません。

2月に例の動画が話題になってから、そう間を置かずにフジロックへの出演が決まった彼ら。数年前のFrikoもそうでしたけど、フジロックのこの初動の速さは素晴らしいものがあると思います。QuadecaとFriko、それからMitskiあたりが個人的なお目当てではあるんですが、Angine de Poitrineのアクトも間違いなく要チェックでしょうね。いやはや、楽しみでなりません。

※こちらのレビューを書くにあたって大いに参考にさせていただいたnote記事を共有しておきます。日本語ソースでここまで詳細にAngine de Poitrineを語ったものはないと思われますので、気になった方はぜひ!

どこよりも詳しいAngine de Poitrine(アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ)①|Dr.ファンクシッテルー
2026年2月、一本のYouTube動画が突然、大ヒットになりました。 KEXPでのライブというだけでは珍しくはありませんでしたが、そこで繰り広げられるのは、奇妙な恰好と、それ以上に奇妙な音階、そして変拍子で突き進んでいく、まさに誰も観たことがない超ド級の変態バンドでした。 この動画は日本だけでなく世界中でバイ...

“Hell For A Basement”/Drug Bug

2026年4月、あまりにプログレづいておりますよ。お次はDrug Bug、こちらもカナダのアーティストですね。昨年リリースの“a seasons end.”も聴いてはいて、なかなか個性的で印象に残ってはいたんですが、今回の“Hell For A Basement”で一気にクリエイティヴィティが爆発したと思います。たいへんに私好みにプログレしている1枚でしたね。

再生するや否や聴こえてくる小鳥の囀り、そして牧歌的で悠然としたオルガンのイントロダクション。そこから一転して情報過多なバンド・アンサンブルへとなだれ込む、この一連の展開たるや。ええ、かの“Close To The Edge”の冒頭を彷彿とさせてくれるんです。この時点でもうニッコニコですよ。もっとも、ただの猿真似ならYes聴いてればいいわけですけど、仄かにNeutral Milk HotelThe Microphonesな感じもあるヴォーカル・パートであったり、black midi(またblack midiの話してるよこいつ)の初期作“Schlagenheim”を思わせる悍ましいギターのサウンドなんかも飛び出して、かなり手札は豊富な印象です。

それこそ全盛期のYesにも同じことが言えるんですが、展開の派手やかさやあファンタジックな世界観はどうであれ、根っこのところのソング・ライティングがきっちりポップなものになっている。続く“Blood Runs Cold”ネオ・アコースティック的、さらには“Not Worth It”ではサイケ・ポップ的に出力される愛らしさに触れればここのところはよりくっきりするんじゃないかな。前作ではここのところが弱くて「面白い作品」止まりだったところを、説得力を持たせることに成功しています。

それにさっきも書いた通り、楽曲ごとのテイストやアンサンブルの角度も多種多様、かつローファイで生っぽい味つけでまとめてあるので、プロダクションの観点からも全く退屈しない作品ですしね。私にとっての“Close To The Edge”はいわゆる「無人島レコード」、リスナー体験における至上の1枚な訳ですが、そこに言及させられるってなかなかなことです。2026年に入ってから聴いたロック・アルバムなら、暫定的に本作がベストかもしれません。

“My New Band Believe”/My New Band Believe

black midiの話を出したので、本家本元いっておきましょう。かのバンドのベーシストだったCameron Pictonによる新たなバンドMy New Band Believeのセルフ・タイトル1st“My New Band Believe”。プロデュースにはあのCarolineのメンバーがクレジットされていて、「あの日のオルタナティヴ・ロック」が好きなリスナー(もちろん私を含みます)にとってはかなり期待値の高い作品だったのではないでしょうか。

特に前情報を入れずに聴いたので、てっきりGeordie Greepがやってくれたような灼熱の混沌が本作にもあるのかと思いきや、全編アコースティックというのは意表を突かれました。ブリティッシュ・フォークの端正な顔立ちがそこここに覗いています。black midiも最終作あたりではある種の嫋やかさみたいなものを獲得していましたが、ひょっとするとPictonの貢献だったりしたんでしょうかね。もっとも、本作が大人しい作品なのかというと、それはまた別の話。狂気じみた演奏の暴発ではなく、音響派的な編集感覚と無軌道さによって、作品を揺るがしていきます。

編集感覚については“Pearls”という楽曲が分かりやすいですかね。オーケストレーションの唐突さや突如聞こえてくる談笑、具体的な話をすると曲が始まって40秒あたりにはご丁寧に編集の痕跡があざとく残ってもいます。次に無軌道という点は、“Heart Of Darkness”“Actress”といった8分オーバーの大作でひときわ冴え渡っています。プログレッシヴ・ロックのような様式美にのっとったものではない、予期せぬテンションの高低差が堪らないですね。即興的な演奏、特にドラムがいい仕事してるんだ。そして、あくまで基本的には室内楽のエッセンスの効いたフォークで進行するからこそ、この異物感の甚だしさったらないですよ。40分間ずっと、「この安寧はいつ取り上げられるのだ……?」と猜疑心のやむことはとうとうありません。

ハイパーポップが騒がれた3月とは対照的に、4月はアコースティックな作品に話題作が集中していた印象なんですが、その中でも個人的には本作がズバ抜けてお気に入りですね。black midiとは表層的な音楽性こそ異なるものの、根っこのフリーキーさは健在ですし、よりコントラストがはっきりしている分だけ不意をつかれて食らう瞬間も多くて。そうそう、「Skream!」というメディアに本名の藤村太智名義でもうちょっとカッコつけたレビューも寄せているので、そちらもよければぜひ。「藤村太智」で検索するとこれまでに寄せたレビューがいろいろ出てくると思うので、もし気になる方があれば。

My New Band Believe / MY NEW BAND BELIEVE | ディスクレビュー | Skream! 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト
アコースティック、叙情的な旋律、室内楽......これらの要素が、Cameron Pictonのかつて所属したBLACK MIDIと印象を大きく異にすることは事実だ。しかしながら、本作に潜む混沌を聴き取れたとき、ウィンドミル・シーンの衝撃が静かに蘇るのもまた事実。柔らかな装いを前提とするからこそ即興演奏の異物感はいっそ...

“Superbloom”/Jessie Ware

2025年にはOlivia Dean、そして今年に入ってからも3月のRAYEとUKソウル・ディーヴァは大盛況なわけですが、そこに見事加わる格好となったのはJessie Wareです。その圧倒的な貫禄の割にアルバム・デビューからは15年ほどとまだまだ脂が乗っている彼女、3年ぶりのニュー・アルバム“Superbloom”ではそのタイトルに違わぬ大輪の花を咲かせてくれました。

どうです、この正々堂々たるディスコ・エネルギーの発露は。前作“That! Feels Good!”でもたいそうエレガントなディスコ・ソウルというのは聴こえてきたものの、本作はよりゴージャスに、かつ威厳を伴った仕上がりです。これをトゥー・マッチと見る向きもあるかもしれませんが、なにぶんRAYEが2026年のトゥー・マッチを現状1人で背負ってくれている点、そして何よりJessie Wareの見事な歌いっぷりがサウンドの華やかさにきっちりと張り合っている点において、プラス材料に働いていますね。“My Valentine”での情熱的な歌唱なんて、シンセとコーラスが飛び交う賑やかな世界観の中でも主役の座を片時も譲っていません。

それにロマンチックなバラードをやらせても、“16 Summers”“Love You For”のようにオーセンティックに歌い上げることだってお手のもの。この辺りの楽曲で、それこそOlivia Deanに対して「いいこと、あなたもいずれこうなるのよ」と歌い諭すような懐の広さを感じましたね。また、この2曲は彼女の子どもたちへ向けられたものとのことで、このふくよかさにはそうした背景も影響していそうです。なんにしろ、偉大なソウル・シンガーが年齢を問わず兼ね備える円熟味と説得力を、アップ・テンポであれスロー・ナンバーであれ難なく纏ってみせるのは流石ですよ。

あまりに真正面からディスコ・ソウルをやっているものだから、プロダクション的な鮮度には欠いているのは事実だと思います。“Ride”、あるいは“Mon Amor”でのシンセサイザーなんて相当に配慮が行き届いてはいるもののね。ただ、その上で最初に書いたUKディーヴァたちの活躍、意地悪な言い方をすればハードルが上がりきっている中、聴き劣りしないどころか真っ向勝負できるだけのハイ・クオリティなソウルを提示できているというだけで、十二分にレコメンドの対象になるというもの。

“Fading Forward”/Les Imprimés

ソウル繋がりで、続いてはノルウェーから。Morten Martensというアーティストのソロ・プロジェクトLes Imprimésの2nd “Fading Forward”です。長らくプロデュースやスタジオ回りの裏方として活動していた人物のようですが、2023年より本名義でソロ活動を活発化。ヴィンテージ・ソウルの再解釈を出発点としていたところから、本作で見事ジャンプ・アップした印象を受けます。ソウルの甘やかさをよりじっくりと熟成させた、上質なウイスキーのような1枚ですね。

そう、全体として目立つのは甘さです。メロディ、そして音数を絞って構築するグルーヴが、ソウルの気持ちいいところをきっちり捉えた素晴らしい仕立てじゃないですか。“Get Lost”ではスパイシーな色気を感じさせ、かたや “With You”では80’sブルー・アイド・ソウルを思わせる軽快さを表現。彼はマルチ奏者でもあり、本作でもほとんど全ての演奏は彼自身の手によるもののようなんですが、いやはや上手いもんです。そしてこれは1stで強く主張していたクラシカルなソウルのモードの延長線上だと思うんですが、全体的にややいなたさがあるのも効いています。60’sっぽいニュアンスがあるというか、ネオ・ソウル以降の洗練されたフィールじゃないんですよね。

そしてそこに乗っかるサウンド・プロダクションは輪をかけて天晴れですよ。メロウな残響の中で鳴っている音はきめ細やかであってローファイベッドルーム・ポップの影響下にもありそうなモダンな設えになっています。これをソウル・クラシックど真ん中の作曲に合わせることで、ありそうでなかった時代感を生んでいるんです。各々のリスナー体験の中で構築された時間軸をも溶かしてしまう巧みさに、畑違いですがCindy Leeの怪作“Diamond Jubilee”を思い出したりなんかもしてね。ただ、本作に関しては意図的な時間の捩れというよりは、Morten Martensのコーディネートがたまたまそういう聴き味をもたらしている、というだけだとは思います。

ソウルってどうしてもオーセンティックにならざるを得ないというか、真っ直ぐな作曲が伴ってしまうので、聴いていて目が覚めるような斬新さはロックやエレクトロほどには勝ち取りにくいという印象が個人的にあるんですよね。少し前ですがJill Scottの新譜なんかも、充実はしていたものの「オススメ新譜10選」的な視点では選外になってしまった。そこへいくと、その真っ直ぐな作曲を活かしたうえで聴き味はユニークという本作はかなり魅力的。ソウル愛好家から先鋭的な新譜を求めるリスナーまで、幅広く納得させられる1枚だと思います。

“Pornografia Auditiva”/Bia Soull

ブラック・ミュージックというところでいうと、こちらも秀逸でした。ブラジルの女性アーティスト、Bia Soullの1stアルバム“Pornografia Auditiva”ヒップホップの側面も持ちつつ、ブラジリアン・ファンクエレクトロ、そして民俗的なテクスチャも織り込んだ、大変に多層的かつ好奇心をそそられる1枚でしたね。あくまでヒップホップとして語るのであれば、4月の個人的ベストはこの作品です。

本作は跳ねたエレクトロ・ビートミステリアスなヴォーカルから立ち上がるので、この時点ではちょっと掴みどころがないなと思っていたんですけどね。2曲目の“Óleo de coco”でいきなりtoma toma toma……と謎のラップ(?)を披露。えらくスレスレのユーモア・センスだなと思いきや、ポルトガル語で「ざまあみろ」みたいな意味らしく、そうなれば途端に挑発的に聴こえてくるから不思議なものです。いずれにせよ、すごく大胆なフックになっていますね。そこからもツンとした佇まいで、しかし情熱も迸らせながら、どっしり構えたベースの低音に痺れる“Viciada”にポップスに振り切った“Malandro TouchScreen”と多彩なトラックを渡り歩く様が痛快です。

その中でも、“Desgraçadinha”のパーカッションであったり、アルバムを締めくくる“Putinho piru rodado”“Coração puro”でのアコースティックな柔らかさには、MPBのクラシカルな要素を感じられます。それで言うと冒頭2曲で聴こえてくる土着的な匂いのある笛の音色もですね。こういうローカルなテイストもきちんと取り入れつつ、でも遊び心や野心をしっかりとサウンドで発揮している。全ての楽曲で客演を招いていることからも、ブラジルでオルタナティヴなブラック・ミュージックをやるとなった時に切れるカードをありったけ使っているような、そんな意気込みを感じますね。しかもそれで散漫にならず、1曲1曲の練度も高いというのがなお気持ちいい。

1月編でバイレファンキの紹介をしましたが、ブラジルで固有に成立/発展していったファンク・ミュージックというのは今後ますます存在感を増していくんじゃないかな。ほら、アメリカのブラック・ミュージックがどうしてもパッとしないし、Bad Bunnyのセンセーションもあったので、必然的にリスナーの視点は他の地域に向くでしょうから。その中でこういう、紛れもなくブラジルっぽい、かつ尖ったサウンドが出てきたというのはいいタイミングでもある気がします。

“Tanquemante”/Inundaremos

続いても南米から。そして前回に引き続き、今回もチリから素晴らしいインディー・アルバムをご紹介します。というより、このレビューを書くにあたって調べたらチリのアーティストでびっくらこいてます。なんなんだあの国の豊作っぷりは。さて、ということでInundaremos“Tanquemante”です。アルバムとしては第2作にあたるんでしょうか。

弾むような電子音と爽やかなバンド・アンサンブルが交差するオーバーチュアに始まったかと思えば、チェンバー・ポップ的な装飾もお手のもの、一方その頃華やかさの裏ではキッチュなシンセサイザーが鳴っていたり、ギターがしっかり歪んでいたり。もっと包括的な音楽性にしたって、フォークかと思えばドリーム・ポップのようでもあり……いやいや、手広すぎるでしょう。インディー・ロックのリスナーが聴きたいものがここに大体詰まってます“8veces”という曲を聴いてみてくださいよ、あまりにサウンドスケープが拡張するもんだからこちらの体感時間までも巻き込まれ、8分くらいに感じます。

そして、この手のサウンドに可憐な女性ヴォーカルが乗っかってくるのが実にユニークだと思いません?さっきも触れたフォークやドリーム・ポップのような、本作のエッセンスになっている音楽性ならなんてことない話ですけど、それらが絵巻物のように連なって生まれた広大かつ複雑に入り組んだ音像の中に、どういうわけだか人懐っこさ軽やかさが潜んでいるというのがなんとも魅力的。Weyes Bloodがなぜか脳内でチラつくんですけど、あっちはもっとしめやかですもんねぇ。それにBC, NRの現在のスタイルも近いかと思いきや、あっちはプロダクションそのものがフレンドリーな部分も大きいですから。

この作品に食らった感動、性質としてはFrikoの1stに近いものがあるような気がします。こんなインディー・ロック、どうやって嫌いになれっていうんだ!みたいなね。そんでもってそのFrikoの最新作が残念ながら期待に応えてはくれず(これは多分ハードルを勝手に上げすぎただけです、悪くない出来ではありましたよ)、その穴埋めをチリのバンドがやってくれるとは。チリのオルタナの歴史、本当にきちんと調査してみたいと思います。

“Cruel World”/Holly Humberstone

Xにも書いたんですが、皆さんHolly Humberstoneの話してます?誰も話題に上げてないような気がします。もしかして私しか知らなかったりするんでしょうか。フル・レングスとしては1stにあたる“Can You Afford To Lose Me”以来、個人的にかなり信頼しているSSWなんですがね……だとすれば聴いてほしいのでここで紹介しましょう。なにしろ最新作“Cruel World”は実にしっくりくる私好みのポップスでしたから。

本作はオープニングの“So It Starts…”とクロージングの“Beauty Pageant”(むちゃくちゃ名曲です)では有機的なストリングス等を交えていますが、実質的なオープナー“Make It All Better”のような淡々とした、そして滑らかなシンセをベースにした仄暗い世界観を軸にしています。目立って斬新ということはないにしろ、どこか密室的にコントロールされていて、すっきりと聴けちゃう上質なプロダクションだと思いますね。一瞬脳裏にBillie Eilishの最新作がよぎったんですが、あちらほどディープではない、もっと軽やかでシンセ・ポップとしても飲み込めるほどよい塩梅なのではないかと。

それは彼女の作曲にしたってそうです。パッと見の印象がガーリーだから誤解されがちなのかもしれませんが、RadioheadPrinceを影響元に上げる、かなりしっかり「こっち側」の人なんですよ。それがメロディ・センスにもよく出ていて、確かに第一感はポップなんですけど、どこか冷めたような態度が常にあって、上手い具合にフックになっています。ビートの軽さに逆行した“White Noise”や、本作では最もサウンドスケープを広く取った印象の“Drunk Dialling”なんかでよく伝わる性質じゃないでしょうか。そしてそれは“Die Happy”“Peachy”といったバラードになると、メランコリックな深みを強める作用を持ってもいて、これまた見事です。

間違いなくポップな作品でありつつ、それがシーンやトレンドに対して提供したものではなく、あくまで彼女の中でしっくりくる表現として選択されている印象があって、すごく支持できますね。現代の女性SSWに当てはめるなら、方向性こそ違うもののClairoFaye Websterにも似た信頼感というか。それにダークなニュアンスはさっき書いたような「こっち側」のリスナーにも刺さりうるだろうし、もっと話題になってほしいんですけどねぇ……

“Sd-3”/Loukeman

なんかエレクトロを紹介するのが毎回のノルマみたいになってますが、単にいい作品が毎月出てるだけです。カナダはトロントを拠点とするLoukemanの第3作“Sd-3”。アートワークのイラストは過去作と共通で、1stではモノクローム、2ndではショッキングピンクときて今回はレインボー。なるほど、虹色というのは本作に当てはめるに相応しい色彩かもしれませんね。今ちょっと虹色とかフルカラーとかに食らっちゃうお年頃なんですけど、まあそれは別の話。

まずはアルバムの構造ですよ。ほとんどの楽曲がシームレスに接続されている、あるいは曲間を極めて短く設定することで、作品全体が1つのトラックかのように流麗に繋がっています。こういう手心があるだけで個人的には嬉しいんですが、でも音楽性としてはそれこそフルカラー、非常に振れ幅が大きいです。アコースティック・ギター、そして極端なエフェクトをかけたヴォーカルがひときわ目立つ素材ではあるんですが、そもそもこの2つの食い合わせがいいとは思えないじゃないですか。まして通常のアルバムには存在する「曲」という区切りを活用しないんですから、その共存は本来かなりシビアなはず

でも、それがなぜか上手いことハマってるんですよねぇ……“What !”及びそこを起点とするトラックの流れが個人的にはイチオシなんですが、目も眩むヴォーカルの色彩感覚から、急遽厳粛なアコースティック・アンサンブルが始まるんですよ。朝靄のようにかかったエコーにはエレクトロニカの残滓こそありますが、にしたってすごいハンドリングです。……と感心するも束の間、間もなくして全体像は一気にアブストラクトになり、ビートで畳み掛けるエレクトロらしい展開に向かっていくのがなおニクい。ここまでやっておいてバランスを欠かないのは、さながら自転車が進み続けるように、1つのテクスチャに頼らず次々に展開を進めていくその大胆さゆえなんでしょうか。

この時間あたりの圧倒的な情報量でもって、しかしどういうわけだかノスタルジックな気持ちにもさせられるというのは、ヴェイパーウェイヴが示したそれにも通ずると思いますね。あそこまで露骨ではなく、本作にはもっとトラック・メイクの作為みたいなものは感じられますが。思うに、アコースティック・ギターが効いているのがいいんだろうな。完全にコンピューターに閉ざされた作品ではない、最低限の人間的な手つきが聴こえてくるのが安心感に繋がっているんだと思います。3月のハイパーポップともまた違った質感の名作でした。

“Still, You Dance”/座布団忍者

さあ、4月編では国産の音楽も紹介しておきましょう。3月編ではしっくりくる1枚を見つけられず仕舞いでしたからね。こちらは座布団忍者、昨年リリースした“B132”は複数の方がメンションしていた印象ですが、アルバム至上主義に囚われた精神的ロートルは本作で初めましてとなります。そしてそんなロートルをなんとも喜ばせる1枚として、この“Still, You Dance”は屹立していると感じますね。これは上手い1枚ですよ。

流行に乗っかるわけじゃないですが(実際リリース当時にXで似た言及をしています)、本作は「はっぴいえんど中心史観」の不適なダイジェストだと感じています。基本的には飾らないメロディが主役で、グルーヴィーと呼ぶにはやや素朴すぎるバンド・サウンドでもって進行していく訳ですが、“Mr.Dの逆襲”がなんだか渋谷系っぽいなと思ったのが運の尽きでしたね。素朴なのに逐一センスの高さを感じさせるアンサンブルの絶妙さにサニーデイ・サービスを連想し、“待合室”で唐突にやってくるドゥー・ワップにナイアガラがよぎり、“ロボット”の〆のヴォコーダーはYMO、なんなら“誰かが見た幻”はもろ山下達郎“快速電車”大貫妙子……ね?ことごとく「はっぴいえんど中心史観」でしょ?

正直偶然の一致とは思えないくらい明示的だと思いつつも、一方で無意識でこうなったと言われても納得はいきます。今挙げたようなアーティストって日本の名盤を漁れば否応なしにぶつかる名前ですし、わざとらしくやるならもう少し照準を絞ると思うんです。そこでこうして隈なく「はっぴいえんど中心史観」に手をつけるのは、本作においてリファレンスしたものがたまたまそういう一群であっただけなのかもしれません。それに、複数のソングライターを擁するバンドでもありますからね。各々が持ち寄ったらこうなりましたという真相でも違和感はないかな。それに、少なくともこの朝靄のような録音の質感は現代インディーを意識しないと作りえない。まるっきりの懐古趣味というわけでもなさそうです。

なので、「『風街ろまん』は過大評価で〜〜」とか言いたくなる人、あるいはそこに是が非でも反論したくなる我々のようなややこしいリスナーのことは一旦置いておいて、もっとしれっと聴いちゃった方がよいアルバムではあるんだろうと理解してます。元も子もないですが、本作を楽しむのに頭でっかちな知識なんていらないですよ、普遍的にポップな1枚なので。若いバンドなのでフレッシュなリスナーが増えてほしいとも思う一方、頑固な「日本語ロックおじさん/おばさん」にこそ届いてほしい1枚でもあることは、最後に強調しておきましょうかね。

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