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1980年代の洋楽を徹底解説! 幕間〜MTV時代を象徴する、名作ミュージック・ビデオ10選〜

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まさか年を跨ぐことになるとは……ま、まあ気にせず今回も1980年代洋楽史解説、やっていきますよ。ずいぶんと間隔が空いてしまいましたので、本シリーズ及び過去の洋楽史解説のバックナンバーはそれぞれ↓からどうぞ。

歴史解説なんて意気込んでいるので本編ではちょっと意識的に硬い文体にしてるんですけど、今回は幕間なのでいつも通りのラフなスタイルでいきます。いやぁ楽だ。

さて、予告通りこの幕間では1980年代の「光」の象徴、MTV時代を代表するミュージック・ビデオを振り返っていきましょう。本編でも取り上げたビデオもいくつか登場しますが、より映像そのものをお気楽にレコメンドしていくつもりです。では、どうぞ。

“Thriller”/Michael Jackson

Michael Jackson – Thriller (Official 4K Video)

早速大本命いっちゃいましょう。本編でも「MTV時代の覇者」とまで評価しました、マイケル・ジャクソンですね。

ぶっちゃけ歴史的意義であれば“Billie Jean”の方が重たいとは思いますし、楽曲の好みも反映すると個人的には“Beat It”も捨てがたいです。それにアルバム“Bad”からのビデオ群もいいのが沢山ありますからね。ただ、名作ミュージック・ビデオつってんなら“Thriller”以外を選ぶということはできません。

エンド・ロールも含めれば13分オーバーの超大作、楽曲のイントロが流れるまでのドラマ・パート(MJが狼男になったと思いきや、実は映画の一幕で……という件です)だけで4分の尺を割いた映像作品としての重厚さ、これはMTV全盛期にも他に例はありません。それに言うまでもなく、ホラー映画としてよくできた仕上がりなんですよ。この辺は根っからの映画好きだったMJ本人のこだわりも相当にあるでしょうね。

MJは自身のビデオ・クリップを「ミュージック・ビデオ」や「プロモーション・ビデオ」とは呼ばず、「ショート・フィルム」と称していたんですが、正に「ショート・フィルム」の名前に恥じぬ傑作です。今後MTVの栄光を振り返るとき、赤いアウトフィットに身を包み、ゾンビと踊るマイケル・ジャクソンの姿はいつまでも共にあるでしょうね。

“Take On Me”/a-ha

a-ha – Take On Me (Official Video) [Remastered in 4K]

で、順当に”Thriller”を紹介した直後にこんなこと言うのも憚られるんですけども。個人的に最も素晴らしいPVは実はこっちだと思ってます。a-ha“Take On Me”です。

これもまたアイコニックな映像ですよね。アニメーションと実写の融合、こう書くとなんてことない技法ですけど、1980年代にこのアイデアはもうまったくもって革新的。それに、手法自体は手垢がついたものとはいえ、今観たってこれっぽっちも古くならない鮮やかさがこのビデオにはあります。まあ、実写の舞台であるレストランはモロに80’sチックなんですが……でもそれもいい味出してます。

このアニメーション、ロトスコープという実際の動きを鉛筆画でトレースしてアニメに起す手法らしいんですが。これを導入するのを思いついた人は殊勲モノですよ。なにしろこの楽曲、リリース当時はシンプルなビデオが作られたものの見向きもされず、このバージョンの公開で一気にチャート1位まで駆け登った訳ですからね。

“Take On Me”って現代の80‘sリバイバルの中でもしばしば擦られるナンバーでもありますけど、果たしてこのビデオ抜きに北欧はノルウェーのバンドの楽曲がこうもタイムレスな輝きを帯びたでしょうか?私はノーだと思うんですよね。ビデオが音楽を補強する、そんなMTV時代の健全な効果を代表する作品でもあるんじゃないでしょうか。

“Sledgehammer”/Peter Gabriel

Peter Gabriel – Sledgehammer (HD version)

アニメーションを導入したミュージック・ビデオの名作というならこっちも必見ですね。元ジェネシスのリード・シンガー、ピーター・ガブリエルの全米No.1ヒット、“Sledgehammer”です。

思えばこの人、ジェネシスに在籍した時から奇天烈な衣装いやにシアトリカルなステージ・パフォーマンスでも有名でしたから。音楽と映像の相互作用には早くから目をつけていた人物の1人なんですよね。で、その人がMTV時代に何をやったかというと、クレイ・アニメストップ・モーションを巧みに取り入れたアートな映像表現。

楽曲自体は軽妙なR&Bテイストなんですけど、もう映像がブットんでます目に悪いカラフルさが悪趣味スレスレの芸術性を生み出し、サイケ的ですらありますから。でもすごく面白いのがここまでしっちゃかめっちゃかな映像なのにもかかわらず、ギリギリのところでポップなビデオでもあるんですよね。ここがヒットに繋がった要因でもあるでしょう。

この曲もMTVでのヘビー・ローテーションを勝ち取り、見事チャート1位を獲得しています。実はP・ガブリエルにとって唯一の全米1位なんですけど、この曲のヒットでチャート首位から陥落したのが古巣ジェネシスの“Invisible Touch”だったというのは有名な話。そもそもプログレのファンからすると、ジェネシスやらP・ガブリエルやらが全米チャートに登場すること自体若干むず痒いんですが……まあ、どちらもプログレのプの字もない楽曲ですからね。これぞ1980年代のポップス化ってことですか。

“Rhythm Nation”/Janet Jackson

Janet Jackson – Rhythm Nation

「マイケル・ジャクソンの妹」、それだけで一体ジャネット・ジャクソンがどれだけの色眼鏡をかけられてきたか想像に難くはないんですけど、“Rhythm Nation”のビデオは彼女の重たいバックボーンを消し飛ばすに足るアイコニックな傑作です。

がらんどうの工場を舞台に、従えたバック・ダンサーと一糸乱れぬパフォーマンスを見せるジャネット・ジャクソンの姿、なんてクールなんでしょう。やってること自体はお兄ちゃんと同じなんですが、ダンサーとのユニゾンによる視覚的な切れ味はこのビデオの方が上手ですね。もちろんマイケル・ジャクソンによる革新あっての表現なのは事実ですけど、そこにしっかりと「ジャネット・ジャクソンの表現」を加えてくるのが素晴らしい。

ここまでに挙げたビデオのような映像効果の上での仕掛けというのはない、モノクロで実にシンプルな作りなんですが、それがむしろいっそう彼女のダンスを引き立てているのも抜け目ないですよね。ゾンビもアニメーションも必要としない、ダンスだけで映像作品として成立させるだけのクオリティを、「凝ったもん勝ち」な感もあるビデオ時代に打ち出したという意味でも大きな価値のある作品かと。

”Slave To The Rhythm”/Grace Jones

Grace Jones – Slave to the Rhythm (official video)

今回取り上げる楽曲の中では一番マニアックなチョイスになりますかね?とはいえ当時ヒットもしましたし、十分有名なナンバーではあるんですが。ジャマイカのシンガー/女優、グレイス・ジョーンズ“Slave To The Rhythm”です。

彼女のアルバム・カバーも多く手がけたフランスのアーティスト、ジャン=ポール・グードが制作したこのビデオ、如何にも彼らしい「イメージ集」といった趣の作品に仕上がっていますね。映像全体に脈絡がある訳ではなく、どぎつい芸術性を伴ったアイデアを次々に畳み掛けるという手法を取っています。まるで現代アートの画集をめくっているような高揚感と不気味さが堪らないじゃないですか。

そもそもがジョーンズってあのアンディ・ウォーホルのミューズとしての性格も持っていたので、アートへの接近は得意とするところなんですよ。実際このビデオでもいくつかウォーホルによる意匠が登場しますからね。トレヴァー・ホーンによる極上のプロデュースをBGMにしてしまうだけの、真なる映像芸術と言えるビデオです。ここまでアーティスティックなPV、いくらビデオ時代の1980年代といえど他にはちょっと思いつきませんね。

“Purple Rain”/Prince & The Revolution

Prince – Purple Rain (Official Video)

この角度からプリンスを語るってのも考えてみれば斬新な気がしますね。今回チョイスしたのは映画“Purple Rain”のフィナーレを飾ったタイトル曲のビデオ・クリップ。

映画のワン・シーンの切り抜きなので当たり前ではあるんですが、映像の見せ方がミュージック・ビデオっぽくはないんですね。映画全編を観ていないと、「誰だコイツ」みたいなシーンもちらほらあって。なので独立した映像作品として評価するのはちょっと難しい節もあるんですけど……

ただ、もうプリンスの存在感だけで画が保つったらないですね。彼のアイコニックなキャラクターって、あのデヴィッド・ボウイと並び立つポピュラー音楽史上最大のものですから。とにかくミステリアスでエロティック、目が離せなくなる特殊な引力を持っています。出立ちもいいじゃないですか、イメージ・カラーでもある紫の衣装はまるでサイケデリック・モーツァルトのようで、あのユニークなフォルムのギターもキマってます。

本編でも触れた通り、今日からプリンスのレガシーを振り返ればアーティスティックな個性が目立ちがちなんですが、でも彼は最高のポップ・ミュージシャンでもあった訳ですからね。その性質を見抜く上でも、”Purple Rain”は重要な資料の1つなんじゃないでしょうか。

“Material Girl”/Madonna

Madonna – Material Girl (Official Video) [HD]

お次はマドンナですね。本編でも取り上げた“Material Girl”です。ちなみに、MJ、プリンス、マドンナは全員1958年生まれ。なにやら因果を感じてしまいますね。今や存命なのはマドンナだけなんですが……

閑話休題、ビデオの話に戻りましょう。言うまでもなく、マリリン・モンロー『ダイヤモンドは女の親友』のパロディとなっている本作なんですけど、マドンナのあけすけなセックス・アピールがこれでもかと発揮されてます。男たちを翻弄する美女、エロティックではないものの流石に露骨すぎるくらいでね。でも、この力強さが彼女の強みですから。

それにこの当時のマドンナ、そりゃ人気者になるよなってな美貌の持ち主ですよ。いや、今でも綺麗なんですけどね。でもこの可憐さとあざとさ、そして体中から放つ自信に満ち満ちたスターのオーラが半端じゃないです。このキラキラした存在感も如何にも1980年代って印象で。マドンナの場合、こういう外見上の長所をビデオ時代に乗っかって表現できたのが成功の秘訣なんじゃないかと思っています。この魅力って、サウンドからではなかなか掴み取れない類のものですから。

“Girls Just Wanna Have Fun”/Cyndi Lauper

Cyndi Lauper – Girls Just Want To Have Fun (Official Video)

続いて紹介するのはシンディ・ローパー“Girls Just Wanna Have Fun”。この辺の流れは本編の繰り返しになってしまいますね。ただ、それだけあそこで触れたアーティスト達って80’sポップスの中心にいた存在ばかりなんです。

このビデオも大好きなんですよねぇ……ローパーを中心に、様々な人種の女の子たちが笑顔で首を振るシーンなんて最高にキュートですし、皆を巻き込んで踊り狂う百鬼夜行さながらのラストなんてもう手放しにハッピー。これこそ、我々が今日思い出す80’sポップスでしょ?そりゃあCGの使い方はなんともダサイ時代を感じるものではありますけど、もうそれも込みで愛おしいです。

そんでもって、やっぱりシンディ・ローパーってキャラクターがキャッチーですからね。それは甲高くもパワフルな歌声のみならず、けばけばしいカラフルさを誇示するファッション・センスにも言えることで。”Time After Time”や”True Colors”みたいなバラードも彼女は得意ですけど、映像作品として切り取るならこの手のキラキラしたポップスの方が断然向いてますね。

“Hungry Like A Wolf”/Duran Duran

Duran Duran – Hungry like the Wolf (Official Music Video)

アメリカのポップ・スターが続いたのでここいらでイギリスにも目を向けましょうか。ニュー・ロマンティックもMTV時代を追い風に一大ムーヴメントとなったという話は本編でもしましたが、その中でもクラシックとなったのがデュラン・デュラン“Hungry Like The Wolf”

エチオピアでのロケを敢行したこのビデオ、1980年代のミュージック・ビデオに特有の「その映像に何の意味が?」という印象の最たるものじゃないでしょうか?いえ、馬鹿にしたい訳じゃなくてですね。映像単体で如何にして魅せるか、そこのところを意識した結果としてむしろすごく重要だと思います。事実、他にはない熱気に満ちた映像に仕上がっていますし、楽曲の持つまぶしいポップネスをいっそう引き立てているようにも思えますから。

それに流石はアイドル的人気を博したデュラン・デュラン。エキゾチックな風景の中にあって全員が全員実にハンサムです。そういう魅せ方が実に上手いバンドですよね。カルチャー・クラブもその点では長けていましたけど、意外にも彼らビデオ自体は結構シンプルだったりして、どちらかというとボーイ・ジョージのキャラクター性込みのアピールじゃないですか。そこへいくとデュラン・デュランはMTVを最も巧みに利用したニュー・ウェイヴ・バンドだったんじゃないかな。

“I Want To Break Free”/Queen

Queen – I Want To Break Free (Official Video)

引き続きイギリスのバンドですけど、この辺からオチに向けて舵を切りますよ。売れ線に全力で便乗することにかけてクイーンは他の追随を許さないバンドだった訳ですが(褒めてますよ)、彼らがMTVのムーヴメントを無視するはずがないんです。“I Want To Break Free”は、そんなクイーンの姿勢を知るために絶好のビデオが制作されています。

イギリスの長寿ドラマ『コロネーション・ストリート』のキャラクターに扮したメンバー全員の女装が有名ですよね。ロジャー・テイラーの女子高生姿なんて笑えちゃうくらいハマってるんですが、面白いのがやっぱりフレディ・マーキュリー。ピンクのセーターで掃除機をかける主婦の出立ちながら、その口には見事なヒゲが蓄えられています。

いやね、女装するけどヒゲを剃らないというのはまだ理解できますよ。1980年代のフレディ・マーキュリーにとってあの口髭は1つのトレード・マークだったんですから。ただ、ギター・ソロに入ってからのバレエ団との退廃的な絡み合い、そこではヒゲをバッサリ剃ってるんです……逆でしょ。この悪趣味スレスレの美意識、流石クイーンじゃないですか?

ただその悪趣味さ故か、MTVでは放送禁止の扱いを受けてしまったんですよね。そこに若干同性愛差別のニュアンスを感じなくもないんですが、このビデオが色んな意味でふざけ倒しているのは事実なのでMTVの判断もわからないではないです。ただ、この曲を頭の中で再生する時に大体女装したメンバーの姿が一緒についてくる人も多いでしょうから。文句なく印象的なビデオではあるんですよね。

オマケ “Separate Ways (World Apart)”/Journey

Journey – Separate Ways (Worlds Apart) (Official Video – 1983)

……ハイ、MTVビデオ特集のオチはこの作品っきゃないです。ジャーニー“Separate Ways”ですね。

なんですかこの切ないほどの予算の少なさを感じさせる作品。唐突なエア・バンドの段階で笑い転げそうになるんですけど、やけに真剣なメンバーの表情や、コテコテの「産業ロック」調の楽曲そのものもあいまって、もう全編通して膝から崩れ落ちそうになるくらいダサイ。Googleで「Separate Ways」と検索してみてくださいよ、検索候補一覧の筆頭に「ださい」って出ますから笑

ただまあ、一応解説本編の真面目さに寄り添うとですね。確かにMTV時代は多くのアーティストがこぞって映像表現に力を入れてたんですが、みんながみんなそうだった訳でもないんですよ。特にジャーニー筆頭に「産業ロック」の一派って、シンプルなビデオが目立ちます。

それにしたってこれは擁護できないですけどね……適当にライブ演奏の映像でも使えばいいじゃないですか、それがなんでこうなるかな……脳にこびりつく映像という意味では、もしかしたら”Thriller”や”Take On Me”より上かもしれません。完全に悪目立ちなんですけどね。

まとめ

さて、今回はこんな感じでお気楽にPVを振り返っていきました。お楽しみいただけたでしょうか?

これ以降も、例えばガンズの”November Rain”だったりニルヴァーナの”Smells Like Teen Spirit”だったり、インパクトのある名作ビデオってたくさんあります。ただ1980年代って、やっぱり独特の質感だったり匂いだったりがあるんですよね。

本編では事実を中心に淡々と解説を進行していますけど、やっぱりこうして実際に作品に触れるということもやらないとそこんところの時代の気配ってやつは伝わってきません。歴史解説なんてあくまで音楽鑑賞の補強に過ぎないですから。

このシリーズも2か月ぶりの更新になっちゃいましたけど、今回の投稿をアイス・ブレーキングとしてちょうどいい塩梅で解説に戻れそうですね。次回はこれまでになくドキュメンタリー的な切り口で、1980年代における最大の音楽イベントについて語っていこうと思います。それではまた次回の解説でお会いしましょう。

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