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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.23

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ああ、久しぶりに連載らしいスパンで投稿できます。今回も「オススメ新譜5選」、やっていきますよ。

前回の結びでもチラッと触れましたけど、先週もまた随分と重厚なリリースでしたよね。下半期に入ってちょっと落ち着いていた感もある2022年新譜、まだまだ飽きさせてはくれません。

そろそろ年間ベストも視野に入れつつのリスニングなんですけど、それでもなお素晴らしい作品群、早速レコメンドしていきましょうか。

“The Car”/Arctic Monkeys

Arctic Monkeys – There’d Better Be A Mirrorball (Official Video)

前回のThe 1975同様、その週の大本命をしっかりベスト1に位置付けられるのは本当に幸福なことですね。全ロック・ファン待望、Arctic Monkeysのニュー・アルバム“The Car”です。

ガレージ・リバイバルの総決算としてデビューして以来、UKロックの先頭を走ってきた彼ら。日本ではどうにも最初期の小生意気で小気味いいロック・バンドの印象が根強いですけど、実はキャリアを経るごとにどんどん深化してるバンドなんですよね。で、本作はその中でも最もディープな領域に到達しています。

本作を聴いて思いつくインスピレーションを挙げてみましょうか。それはフランク・シナトラであり、チェンバー・ポップであり、ネオ・ソウルであり、後期ビートルズ。つまり、ダンディズムを流麗なストリングスと密室性の高いソウル・グルーヴで味付けして、しかもソング・ライティングやアンサンブルは抑制が効いた妙味を見せている。こんなキメラみたいな音楽を提供できたバンド、他にそう思いつきません。

それに後期ビートルズを持ち出したのは、バンドの進化の方向性にも理由があって。初期のガレージ・オルタナティヴがマージー・ビート期、”AM”あたりの方向転換が”Rubber Soul”や”Revolver”のような芸術性の獲得に符合するならば、今作はさしずめ“Abbey Road”の如き円熟の領域です。持ち上げすぎに思えるかもしれませんけど、この進化を目の当たりにできている事実、ロック・ファンとしてまたとない体験だと思ってます。

1stにしろ大ヒットの”AM”にしろ、彼らって「ギター・オルタナティヴ」としてシーンに迎え入れられてきたじゃないですか。ハッキリ言って本作はそういう熱視線に応えるものではないんですけど、「それはそうとしてこれは名盤でしょ?」という不敵な回答を用意してきやがった、そんな感覚です。いやはや、とんでもない傑作。8年後に20’sのロックを振り返る時、この作品は必ず思い出されるでしょうね。

“Stumpwork”/Dry Cleaning

Dry Cleaning – Driver's Story (Official Audio)

ロック・ファンとしてはコッチも楽しみな方、多かったんじゃないでしょうか。去年リリースのデビュー・アルバム”New Long Leg”も好評だったロンドンのポスト・パンク・バンド、Dry Cleaningの2nd“Stumpwork”です。

どこかで触れたかと思うんですけど、去年のポスト・パンク一派の勢いに私はイマイチ乗り切れてなくて。ポテンシャルは感じるけど、作品そのもののパワーとしてはそこまで刺さるものが少なかったんですよ。ただ、この1年でそのポテンシャルをどのバンドも爆発させましたね。それはBC,NRにも言えましたし、このDry Cleaningにも当てはまります。

1stの時点で彼らに感じた「センスはすごいけど曲のエネルギーがなぁ……」という弱点を、むしろ突き詰めた印象です。地下室のようなひっそりとした音響だったり、それにギターの使い方が本当に巧みでね。隙間をあえて残すような表現を軸として、切れ味鋭いサウンドからドリーミーな広がりを生むアプローチまで、本当にセンスがいい。そんでもって、曲はもっと地味に……笑

いや、思わず茶化しましたけど、この地味さがいいんですよ。メロディと呼ぶべきものはほとんどなくて、スパークン・ワード調で淡々と進行していくものばかり。これがさっき触れたサウンド・センスと見事な相乗効果を生んで、気怠げな朝を連想させる心地よさを演出しています。ここは彼らの弱さではなく、意図的な采配と理解すべきだったんですね。

こういう、センスで押し切るタイプの独創的なギター・オルタナティヴって、古くにはTelevisionだったりSonic Youthだったりがあるんですけど、それを現代的にアップデートしたアルバムだと思っています。Twitter上では不衛生極まりないアート・ワークが大不評ですけど、勇気を出して聴くだけの価値がある1枚です。

“Cometa”/Nick Hakim

Nick Hakim – Feeling Myself (Official Video)

アメリカはブルックリンを拠点にするアーティスト、Nick Hakim。Pitchforkなんかではこれまでも高く買われてた人物ですけど、そんな彼がリリースしたフル3rd“Cometa”です。

もう一聴して分かるローファイっぷりなんですけど、単なるザラつきというよりはそこにサイケデリックな残響があって、浮遊感とリアリティを兼ね備えた聴き味になってるんですよね。引き出しもすごく多くて、カオティックな瞬間だったり、あるいはローファイ感を残しつつもループするR&Bテイストだったり、表情が実に多彩で。

サウンド・メイキングの素晴らしさだけでいくと、今年でも有数なんじゃないでしょうか。一貫してディープでダークなんですけど、岸壁にひっそりと咲く一輪の花のような、触れ難くも蠱惑的な美しさが表現されていて。ローファイ・インディーの文脈でも鑑賞し得る代物ではあるんですが、それだけだとこの艶は出ないんですよね……

それでいてメロディやグルーヴの部分ではソウル的というか、セクシーさや甘さを押し出しているのがまた心地よいじゃないですか。かと言って主張が強いということもなく、むしろ音楽全体の中に溶けていくような輪郭のぼやけ方をしている。徹底的にメロウで、作品に奉仕するような歌心があるんですよ。

Twitter上でこの作品に対して、Marvin GayeThe Microphonesを接続した1枚」という評価を目にしたんですが、思わず膝を打ちました。まさしく、本作はこのまるで無関係に思える2点に、きっちりと1本の線を引いてしまった神業なんですよね。それこそ、ソウル・ファンが聴いてもひっくり返る1枚だと思いますよ。

“Can You Afford To Lose Me ?”/Holly Humberstone

Can You Afford To Lose Me?

リリースが今週の月曜日とイレギュラーなタイミングだったことで、あんまりレビュー・サイトでも目にしない作品なんですが。Twitterで目に留まったことで拾えた作品です。Holly Humberstone“Can You Afford To Lose Me ?”

既発のEP2枚と新曲をブレンドしたコンピレーション的な立ち位置の作品で、オリジナル・アルバムではないみたいなんですが……いやいや、この完成度は何事でしょう。私が心から求める、上質なポップ・ミュージックのお手本のような作品じゃないですか。Taylor SwiftCarly Rae Jepsenの新譜が正直しっくりこなかった中で、こんな収穫があるとは。

オープニングのタイトル曲なんて、プリンスの美メロバラードを彷彿とさせるセクシーさと荘厳さを兼ね備えているし(実際、プリンスのカバーを発表してますね)、美しくも荒涼としたサウンドの中で歌い上げるタイプの楽曲にはアデルのような存在感すら発見できます。でもサウンドはしっかりと現代的で、それでいてゴテゴテした流行りのポップスとは距離を置く控えめな意匠でね。

それに何よりメロディですよ、もう真っ正面からキャッチーなポップスの王道ばかりじゃないですか。こういう真っ直ぐさ、ともすると避ける方もあるでしょうけど私は手放しに絶賛したいです。今年は宇多田ヒカルにしろHarry Stylesにしろ、ポップスであることに悪びれず、そこに音楽的野心をたっぷり含ませた傑作がいくつもリリースされましたけど、その中に加えたってなんら問題ないでしょうね。

正式なオリジナル・アルバムは来年完成らしいんですけど、もう既に楽しみです。ここまでワクワクさせられるニュー・カマー、私が新譜を漁り出してからは初めてじゃないかな?上半期ベストの時だったか、「ポップであること」を重視したいと主張しましたが、私のこの哲学にブッ刺さる1枚です。

Can You Afford To Lose Me? by Holly Humberstone on Apple Music
Album · 2022 · 11 Songs

“hugo”/Loyle Carner

Loyle Carner – Hate

最後はUKヒップホップから。この企画でUKヒップホップを扱うの、下手したら初になるんでしょうか……?Loyle Carnerの3rd、“hugo”です。

この作品を最初に聴いた時の感想として、「インディー・ロックっぽいな」というのがあったんですね。特にトラックの部分で。ヒップホップとインディー・ロックってそうそう結びつかない分野だと思うんですけど、ひっそりとしたモードを貫きつつ、ビートや上物でしっかりと独自性と遊びをアピールする練り上げ方には通ずるところがある気がします。

それにLoyle Carnerのラップ・プレイもいいんですよ。すごく誠実というか、内省的なラップです。そもそもがブリティッシュ・アクセントでのライミングって、やっぱりUSヒップホップにはない気品が生まれるじゃないですか。そこに加えて、トラックと呼応するように抑制の効いたクールなフロウがツボを抑えています。

今でこそヒップホップも大好きですけど、それでもマチョチズムが過ぎるものやトラップ的な騒がしさが強いものは未だに苦手でね。その中で、このアルバムはすごく身軽にまとまっているし、ナチュラルな聴きやすさがある。ヒップホップが苦手な方にも文句なくオススメできる1枚じゃないでしょうか。

そうそう、昨年の年間ベストで私がヒップホップから最上位につけた作品って、DaveLittle Simzなんですよ。2人ともUKヒップホップのアーティストな訳ですけど、やっぱり私の性に合うんでしょうかね。このアルバムも年間ベストに送り込みたいですけど、さあどうなるか。

まとめ

いやぁ、先週はいい作品が多かった。どれも年間ベストに入れたくなるだけのお気に入りですし、書いていて楽しかったです。

で、The 1975とArctic Monkeysという怒涛のリリースが続いた訳ですが、明日はネームバリューとしてはややこじんまりしてますかね。その分色眼鏡をかけずに、リラックスして楽しめると思うんですが。今回はこの辺りでお暇しましょう。また次回。

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