再始動すると宣言した弊ブログ、まずは肩慣らしとして連載モノを復活させていきますよ。「オススメ新譜5選」vol.20、やっていきます。バックナンバーは↓からどうぞ。
マルっと1ヶ月以上サボっていた訳ですけど、やっぱりこの企画があることで無理矢理にでも新譜に向き合う作業が生まれるというのはいい刺激になりますね。せっかく2022年に生きてるんだから、新しく生まれる音楽に触れた方がいいに決まってます。
それに、復帰第1回にはお誂え向きな名作が沢山ありましたから。先に言っちゃうんですけど、泣く泣く選外にした作品がいくつかありますからね。残念さもありつつ、それだけ豊かな1週間だったことはとても嬉しいですね。
前置きはこの辺にして、そろそろ先週のリリースを振り返っていきましょう。それでは、参ります。
“Hellfire”/black midi
サウス・ロンドンのポストパンク、上半期はBlack Country, New Roadがド級の名盤をドロップしましたけど、下半期早々こいつらの登場です。black midiの3rdAL、”Hellfire”。
BC,NRがロックの主人公になる気配を放つ中、このバンドの変わらなさったらヒドイですね笑。相変わらず極めてフリーキー、傍若無人なアンサンブルとリズムで聴き手を振り回す突き抜けっぷりときたらありません。ただ今作は素直な叙情性を感じさせる展開が多くて、プログレッシヴ・ロックとして綺麗にまとまっているのが特色でしょうか。
よく類似が指摘されるKing Crimsonのエッセンスは本作にもあるんですけど、以前までのそれって冷酷なギターとポリリズミックな構築美という、ある種表面的なものだったと思うんですよ。ただ今回は静と動、アルバムとしての流麗さ、そういうより本質的な部分に迫っているのが素晴らしい。
プログレを偏愛する立場から言わせてもらうと、間違いなくバンドの最高傑作でしょうね。音楽性故に聴き手を選んでしまう1枚ではあるんですけど、幸運なことに私はコレ大好物です。年間ベストでも相当優遇してしまう予感を既にヒシヒシと感じていますから。
“Beatopia”/Beabadoobee
こちらもロンドンのアーティストですね。サマソニでの来日も決定している女性アーティスト、Beabadoobeeの”Beatopia”です。
あざとさもある彼女のキュートな歌声を軸に展開される、すごく丁寧なポップスですね。ただ、ポップスとは言ったものの、サウンドのアプローチそのものはとってもオルタナティヴで。美しさの中に鋭さや尖りがしっかりとあって、単に聴き味のいい作品とも言えないフックがあるんですよ。
そんでもって、彼女のソング・ライティングの器用さにも驚かされます。弦楽に導かれる嫋やかなフォークからギターがエッジィに引き立ったエモーショナルなロック・チューン、シューゲイズ的でノイジーなアプローチまで、そのレンジの広さといったら。すごくバラエティに富んでいるのに、どれもこれも愛嬌があるのも堪らないですね。
上半期ベストで、私はかなり「ポップス」を大事にした選出をしたんですよね。それが音楽の本質だと信じているし、最近の音楽潮流からしても重要なファクターだと思っているので。そういう観点からすれば、本作もまた2022年を代表する1枚なんじゃないかと思います。
“Fear Fear”/Working Men’s Club
しょっぱな2枚が結構ズバ抜けた傑作だった感はあるんですけど、こっから先もかなり高水準ではあるんですよね。このWorking Men’s Clubの”Fear Fear”もなかなかに素晴らしかったですよ。ちなみに彼ら彼女らもロンドンのポストパンク・バンドです。やっぱ熱いなロンドン……
ダンサブルなんだけどダウナーで、鬱屈としつつも同時にカラフル。そんな矛盾を孕んだ作品ですね。ポストパンクというところから無理やり引っ張るなら、New Orderっぽさを個人的には感じます。シンセサイザーの使い方が結構アナログというか、それこそポストKraftwerk的な、80’sくらいの方法論に繋がっている気配もありますし。
で、そういう古き良きシンセサイザーが支配的なアルバムである一方、しっかりとロック・バンドとして構築しているのがいいですね。アンサンブルの根っこは実は有機的で、メロディも淡々とはしているけれどちゃんと主張してきますから。エレクトロが苦手でも楽しめる、ロック的な親しみやすさがある1枚ですよ。
新譜としての目新しさや衝撃にはやや欠けるアルバムなのは事実ではあるんです。前述の通り意外なほどにクラシカルなのでね。ただ、その分とても丁寧に作り上げた作品でもあると思いますし、内容だって文句なくいい。個人的にはかなりお気に入りの1枚です。
“Hour Of Green Evening”/Goon
LAのインディー・バンド、Goonの“Hour Of Green Evening”ですね。bandcampでは2枚ほどフル・レングスの作品を既に発表しているようですが、ストリーミング上に流れているのはコレが初なのかな?
冒頭を聴いた段階では「ありがちなインディー・ロックだなぁ」くらいにしか思わなかったんですよ。ローファイでスピリチュアルで、言ってしまえばFleet Foxesをなぞるような作品像なのかなと。ただ、聴き進めるとこの印象が如何に浅はかだったかを思い知らされましたね。
不穏さのつきまとう霊的な世界観、これはサイケと言ってもいいんでしょうけどもっと超然としたものを感じます。ただ、それって全体像であったりヴォーカルの気品であったりの話で。実はギターやドラムのサウンドはすごくグランジ的で重たいんですよ。瞬間によってはストーナー・ロックみたいな展開すらありますからね。
神秘的な表現を見せながら、骨組はグランジ。言葉で表すと如何にもちぐはぐでアンバランスな作品に思えますけど、その違和感が興味をそそるんですよね。かなりユニークな作品だと思いますし、インディー好きには結構な確率で刺さるアルバムじゃないでしょうか。
“Happening”/Launder
こちらもLAのミュージシャン、John CudlipによるバンドLaunderの1stアルバム“Happening”。完成までに実に3年もの歳月をかけた難産だった作品のようですね。
この作品に関する情報を集めるにつけ、彼らの音楽を「90年代ローファイとシューゲイズの交差する場所」と表現した批評があったんですね。もうこんな適切な指摘されたら私は何を語ればいいんでしょう。まさしく、ザラついたローファイの質感とギターによる堅牢な音像、その妙味が本質ですから。
ただ、一般にシューゲイズという語彙から想像されるドリーミーな甘さ、それはやや薄いのかなと。むしろもっとリアルな、地に足のついたノスタルジー、そんなものを私は感じます。ローファイなだけあってロック・バンド然としたアンサンブルが通底しているので、80’sインディーみたいなフィーリングもあるんですよね。
シューゲイズって、現代のロックにおいてかなりな頻度で参照される分野じゃないですか。実際私も近々シューゲイズに関するポストを出す予定なんですけど、その中で本作の聴き味ってかなり特殊に思えるんですよね。むしろシューゲイズ以前、70’s〜80‘sくらいのロックに反応する方にもリーチし得るクラシカルな魅力もある1枚かと。
まとめ
ということで、今回チョイスした5枚はこんな感じです。相変わらずすごく素直というかミーハーというか、ここは抑えとかないと……ってラインナップではありますけどね。やっぱベタって大事ですから。
ぶっちゃけblack midiが頭一つ抜けてた感は正直ありますね。何せあんな振り切れた音楽性なのに、リリース当日はTwitterのトレンドにのっかりましたからね。これだけ騒がれたの、今年だと宇多田ヒカルかKendrick Lamarくらいです。
それだけ活発に新譜に対して皆さんが反応する、すごく健全で美しい状況だと思います。その活況にこのシリーズも貢献できるよう、来週以降もやっていきますよ。それではまた来週。
コメント