はい、今週もやっていきます。「オススメ新譜5選」のコーナーです。バックナンバーはこちらから。
今週も、って言いましたけど、実は先週このコーナーサボっちゃってるんですよ。色々忙しかったというのと、あとは個人的に音楽に向き合う余裕が精神的にあまりなかったのとで。まあ個人ブログなので勝手にすればいいとは思うんですけど、せっかく毎週やってきた企画なのでちょっと悔しいですね。
ハリー・スタイルズの新譜なんてもう80’sポップスで音楽に目覚めた私からするとうっとりしてしまう極上のポップス・アルバムですし、あと邦楽だとゆうらん船!とろけるようなサイケデリアと情緒が混在した素晴らしい作品です。
……とまあ、ある程度聴いてはいるんですけど。やっぱり投稿できるレベルの文字量に起こすにはそれだけ集中力だったり精神力がいると思うので。ちょっと今回は脱落してしまいました。
ただ、もう復調しましたからね。前回の失態を挽回すべく、久しぶりにやっていきましょう。
“Stand Strong”/Reginald Omas Mamode IV
これはTwitter漂流で発見した新譜です。イギリスはサウス・ロンドンの……一応Apple Music上ではヒップホップになってるのでそう紹介しておきましょう、ヒップホップ・アーティスト、Reginals Omas Mamode IVの“Stand Strong”です。
何故ジャンルで悩んだかというと、ブラック・ミュージックをすごく広範に捉えた1枚なんですよね。ファンクっぽさもあるし、ジャズ的でもあるし、ネオ・ソウルでもある。要するに兎にも角にもグルーヴィーなんです。ここまで気持ちいいグルーヴ感の作品、今年に入って一番じゃないかな。
すごくオーガニックなアンサンブルなんですよね、ハイ・フレットでセクシーに蠢動するベース・ラインにしても、タイトながらしっかりと主張するドラムにしても。それとキーボードの差し込み方もいいんですよ、アクセントとして、実に程よい塩梅で。
46分と決して長大ではない作品なんですけど、収録曲数は17曲というのがまた面白い。アイデアやコンセプトをパキッと締めくくって、次々に展開する小気味よさが味わえるんです。それぞれの楽曲には起伏がある訳ではないので、これが1曲5分とかになるとちょっとまどろっこしくなるんでしょうけど。グルーヴの賞味期限を心得たフォーマットへの気配りにセンスを感じます。
学生の時分によく「グルーヴって何?」みたいな質問を受けたりしたんですけど、これは「グルーヴとは何か」に答えるお手本のような作品と言っていいでしょうね。緊張感とリラックスのバランスも絶妙ですし、ブラック・ミュージックのファンには何はともあれ聴いていただきたい、そんな1枚です。
“Heart Under”/Just Mustard
コレは久しぶりに脳天揺さぶられるロック・アルバムでしたね、アイルランド出身のロック・バンド、Just Mustardの2ndアルバム、“Heart Under”です。
シューゲイズ……なんでしょうかねコレは。少なくとも第一印象はそんな感じなんですけど、聴き進めるとシューゲイズと呼ぶにはあまりに壊滅的というか。むしろインダストリアルと理解すべきなのかもしれません。ただ、インダストリアルにしては甘美なんですよね。アンビエント的ですし。
で、そのノイズが生み出すサウンドというのが面白くて。もちろん無機質でダークな世界観ではあるんですけど、そこにどういう訳だか耽美的な気配がするんです。それも退廃的な。そういう部分に、ゴス・ロックの文脈も感じ取れるんですよね。実際、ザ・キュアーのロバート・スミスはこのバンドをいたく気に入っているようで。
シューゲイズにインダストリアルにアンビエント、おまけにゴス・ロック、そのブレンドのバランスが巧妙なんですよね。どれも漏れなく聴き手を選ぶサウンドではありますし、ともするとクドくなりそうなもんなんですけど。2ndの時点でこのバランス感覚はなかなかすごい。
音楽性が音楽性なだけに、誰にでもオススメできる作品ではないかなというのも率直な感想ではあるんですよ。ただ、冒頭にもありますけど久しぶりに「すげえロックだな」という衝撃があったので、ここは自分の感性に正直にレコメンドさせてもらいます。ダークなロックが好きだって方はまずもって好物なんじゃないかな。
“Cruel Country”/Wilco
今年はとかく00’s以降のインディー系統が活気づいている印象ですけど、ここで彼らのお出ましですよ。Wilcoの新作、“Cruel Country”です。
いやあ、落ち着きますね。オルタナティヴ・カントリーとしてのWilcoに求めたいものが詰まっている、そんなアルバムです。ぶっちゃけ00’sに入ってからのWilcoって色んな方向に出かけていて、ここまで真っ正面からカントリーを表現した作品ってなかったような気がするので。
どこか人を食ったような捻くれた態度も感じられつつ、あくまで温もりのある世界観が如何にもってな感じです。半分以上がライヴ録音らしいんですけど、おかげでサウンドにものすごくネイキッドな質感が宿っていて、秋の暮れのような味わいがあるじゃないですか。
で、CD2枚組という大作の格好の中で、メロディが芯になっているのがまた嬉しいポイントです。すごくノスタルジックで、穏やかで。このシリーズでも何度か言及していると思うんですけど、個人的に1時間オーバーの作品はそれだけでかなりシビアな評価になってしまうんですよね。「アルバム」としての評価であれば。ただ、これほど滑らかで人間味溢れる作品に仕立ててくれれば文句なしです。
それこそカントリー・ロックの先駆けであるグラム・パーソンズから地続きに楽しめるような、虚飾のないナチュラルな名作ですね。彼らのレガシーには“Yankee Hotel Foxtrot”という不可侵の最高傑作があるので、本作をキャリア・ハイだ!とは言いませんけど、無難に無茶苦茶いいアルバム、そんな感じです。
“Walk Through The Stars”/ピーナッツくん
ショート・アニメの主人公にしてVtuberにしてヒップホップ・アーティストという、肩書きだけ見るとなんともクレイジーなコンテンツ、その名もピーナッツくんの新譜“Walk Through The Stars”です。
存在自体は認知していたんですよ。結構音楽ファンの中でも温度感が上がっていましたし、すごく現代的な存在の仕方で興味もありましたからね。ただアーティストとして向き合ったのは今回が初で。いやはや、これはすごい才能ですね。これまで気づいていなかったのが恥ずかしい。
ヒップホップ、と言ってももうバキバキにハイパーポップ的で、多層的なサウンドのギラつきがとにかく心地いい。トラックがとにかくキマってますよね。今回の作品を聴いて思わず過去作もチェックしてしまったんですけど、トラックに対する執念レベルのきめ細やかさはトップだと思います。
それにもちろんヒップホップでもあるんですけど、いわゆる「ラップ」してる印象もそこまでないんですよ。悪い意味じゃなく、トラックとラップの間に距離感がまるでないというか。渾然一体とした、総合で「ピーナッツくんの音楽」になっていると感じさせる調和の妙なんだと思うんですけどね。
そもそも、ヒップホップは極めて個人性の高いカルチャーじゃないですか。誰が何を言うのかという部分に比重があったと思うんですけど、それを虚構の存在(しかし存在はする)というキャラクターが演じてみせることの意義って大きいんじゃないかと。実際、リリックもすごく面白くてね。今後digっていかないといけないコンテンツです。
“C’MON YOU KNOW”/Liam Gallagher
日本人大好きオエイシスことOasisのヴォーカリスト、ギャラガー兄弟のやんちゃな方ことリアム・ギャラガーの新作“C’MON YOU KNOW”です。ソロ名義としては3作目にあたりますね。
個人的に実は日本におけるオアシスの絶大な支持というのをそこまで理解できていなくて、好きなバンドではあるもののキャリアを全て追いかけている訳でもないですし、解散後の2人の活動もきちんとチェックできてはいないんですが。でもこのアルバム、いいじゃないですか!
全体的にほんのりサイケの風味があって、同時にカラっとしたおおらかさもある。その上でど真ん中にあるのはふてぶてしいロックンロールという、これ以上なく痛快なアルバムです。作曲もかなり好調ですよ、どの曲にもしっかり強度が感じられて、バラエティにも富んでいますからね。
あと、リアムのヴォーカルも流石ですね。年を経るごとに劣化していったのは事実としてそうだと思うんですけど、少なくとも本作ではそういう衰えは感じられないかな。多分年を取って声が細くなるタイプなんでしょう、それが結果的に音域のレンジを広げることに繋がっていますし、やっぱジョン・レノンの直系にあるこの声質はカッコいいったらありません。
正直、このアルバムでリアム・ギャラガー及びオアシスへの見方が結構変わりましたね。「2ndまでで終わり」とまでは言わないですけど、割とそれに近い立場を取ってしまっていたので。これはもう一回ちゃんと聴かないといけません。そうさせてくれる程度にはクールなロック・レコードですよ。
まとめ
さあ、2週間ぶりとなったこのシリーズ、今回はこんなチョイスでお届けしました。
そろそろ2022年上半期ベストに取り掛からないといけない時期ですね。この企画で毎週新譜のレコメンドはしてきたので、その半年分の総括みたいな内容にはなってしまうかと思うんですけど、今のところランキング形式を予定しているのでそこで差別化するつもりです。
まあ、とりあえずは明日のリリースですよね。サマソニで来日するポスト・マローンを始め、ロック・バンドにSSWに、結構話題作がいろんなジャンルにわたっている印象です。今後個人的に忙しくなるのでどう時間をとって向き合ってやるかは思案しているところなんですけど、ちゃんとチェックして行きたいです。それではまた次回。
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