この前Twitterの「質問箱」にこんなポストがありまして。
「ブログの「ジョジョ企画」ってありますよね……アレの第2弾、待ってます……」
この質問(質問?)もらうまで私自身その存在を忘れていた投稿だったんですけど、確かに去年の8月にこんな記事をあげています。
確か第6部のアニメ化が決まったタイミングだったかな、それで興が乗って書いたと記憶しています。
で、わざわざリクエストまでいただいておいて無視するのはやってないじゃないですか。それに「ジョジョ」は当然私としても大好きな作品だし、書くテーマはあくまで音楽な訳ですし。
ということで、ひっさしぶりの第2弾、やっていきます。前回は歴代主人公の元ネタ紹介だったので、今回はその逆、歴代ラスボスの元ネタですね。それでは参りましょうか。
ディオ・ブランドー/DIOの元ネタ……Ronnie James Dio
まずは第1部「ファントムブラッド」及び第3部「スターダストクルセイダース」に登場するラスボス、ディオ・ブランドー/DIOの元ネタから。なんで同じラスボスが2回登場するのか、なんで名義が2個あるのか、その辺は是非作品で確認していただければと思います。
これ、元ネタはたいへんわかりやすいですね。ヘヴィ・メタル界最高峰のシンガー、ロニー・ジェイムス・ディオ、あるいは彼が結成したバンド、ディオからです。
ロニーというとレインボーにブラック・サバスに、HR/HMの歴史あるバンドで素晴らしい歌唱を残した名シンガー中の名シンガーですけど、彼の歌唱って「悪魔的」なんですよ。オジー・オズボーンのような怨念を感じるという意味ではなく、迫力のあるハイ・トーンと妖艶さで、人を飲み込むような危険なカリスマを放っているというかね。
そこがディオのラスボスぶりとよく符合していると思いますね。ディオといえば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのみならず、週刊少年ジャンプという偉大なる漫画雑誌の歴史上でも有数の魅力ある悪役ですから。
カーズの元ネタ……The Cars
続いては第2部「戦闘潮流」のラスボス、カーズです。これはディオよりわかりやすい。アメリカのニュー・ウェイヴ・バンド、カーズですね。
1970年代末から勃興したニュー・ウェイヴというムーヴメントの中でも、カーズってかなり初期から活躍していたバンドなんですよね。日本ではなかなか知名度の低いバンドなんですけど、本国アメリカでのセールスと評価は折り紙つきです。
第2部で立ちはだかる3人の敵、「柱の男」と呼ばれる古代生物の名前って、他2人はかなりひねってるんです。AC/DC→エシディシ、Wham!→ワムウ、ってな具合にね。洋楽ネタではありつつ、超古代の人ならざる存在というおぞましさを表現しています。
そこへいくとカーズの安直さたるや……それに、軽快なニュー・ウェイヴであるカーズ(バンドの方です)と、「ジョジョ」シリーズでも一、二を争うしっかりめのクズであるカーズ(ラスボスの方です)の噛み合わなさったらないです。
「ジョジョ」って結構元ネタとキャラクターがマッチすることが多いんですけど、カーズに関しては完全に語感優先でしょうね。なんで数ある洋楽の中からカーズにしたのかはいまだに謎なんですけど、まあ考えるのをやめておきます。
「キラー・クイーン」の元ネタ……”Killer Queen”/Queen
さあ、お次は第4部「ダイアモンドは砕けない」のラスボス、吉良吉影のスタンド「キラー・クイーン」です。言うまでもなく、クイーン初期の名曲、『キラー・クイーン』が元ネタです。
さっきのカーズは元ネタとキャラクターが全く噛み合ってないんですけど、「キラー・クイーン」に関してはもうドンピシャですね。『キラー・クイーン』という楽曲の持つ優美さ、そして気品の中に滲むエロス、それが吉良吉影というサイコ・キラーにバッチリハマっています。吉良吉影の外見はまるっきりデヴィッド・ボウイなんですけどね。
さて、この「キラー・クイーン」というスタンド、「触れたものを爆弾に変える」という能力の他にも様々な能力があるんです。どれもこれもチート級なんですけど、その能力名も全てクイーンから拝借しています。
熱を感知し自動追尾する第二の爆弾「シアー・ハート・アタック」は、『キラー・クイーン』収録の3rdアルバム『シアー・ハート・アタック』からですし(『世界に捧ぐ』に同名の楽曲も収録されていますね)、第三の爆弾「バイツァダスト(負けて死ね)」はクイーン最大のヒット・シングル、“Another One Bite A Dust”(邦題『地獄へ道づれ』)が元ネタです。
前回の主人公編ではピンク・フロイドやプリンスが「ジョジョ」界の大ネタと紹介しましたけど、このクイーンも何度か登場しているんですよね。フロイドにプリンスにクイーン……なんとなく荒木先生の音楽センスが見えてくると思いません?
「キング・クリムゾン」の元ネタ……King Crimson
続いては第5部「黄金の風」のラスボス、ディアボロのスタンド「キング・クリムゾン」です。当然、元ネタはプログレッシヴ・ロックで最も偉大なるバンド、キング・クリムゾン。
楽曲が元ネタではないので、ここでは一番有名だろうと思われる『21世紀の精神異常者』を紹介していますけど、ディアボロという清々しいほどのゲス野郎、そして「時間を消し飛ばす」という「キング・クリムゾン」の能力とマッチしていると思いません?いわゆる「ラスボス感」と言いますか。
それと、この「キング・クリムゾン」には「エピタフ」という未来予知の能力もあるんですね。「エピタフ」で未来を予見して、その結果を「キング・クリムゾン」で消し飛ばす。この邪悪なコンビネーションによってディアボロはほぼほぼ無敵なんですよ。いや、マジでラスボス最強はディアボロだと思っています。
で、この「エピタフ」というのはクリムゾンの1st『クリムゾン・キングの宮殿』収録の『エピタフ』という楽曲からきています。こっちは『精神異常者』とは打って変わってメロトロンの咽び泣きが感動的な叙情的大作ですね。
もしクリムゾンに興味が湧いたのであれば、このブログで過去に2回彼らの作品をレビューしているのでそっちも参考にしてみてください。日本では現状サブスクにないのでちょっととっつきにくいですけどね。
プッチ神父のスタンドの元ネタ
第6部「ストーンオーシャン」のラスボスはプッチ神父。DIOの友人であり、DIOが目指した「天国」のために主人公空条徐倫と対峙する訳ですが、彼はその「天国」に到達するために作中でスタンドが2度も変化しているんです。順番に元ネタを紹介していきますね。
「ホワイトスネイク」の元ネタ……Whitesnake
まずはプッチ神父が本来持っていたスタンド、「ホワイトスネイク」です。これはイギリスのハード・ロック・バンド、ホワイトスネイクからですね。元ディープ・パープルのデイヴィッド・カヴァデールが結成したバンドとしても有名です。
ホワイトスネイクって結構媚びたハード・ロックなんですよ。いや、悪い意味じゃなくてね。ブルース由来だったり、メタリックだったり、そういう無骨な表情よりは、壮大なサウンドスケープや叙情的なメロディが面白みですから。
となるとなかなかプッチ神父とは噛み合わないんですけど……邪推するならば、同じくHR/HMから名付けられたDIOとの関連性を持たせたのかなと。音楽の世界でそこまでロニーとホワイトスネイクが近しい存在かと言われると怪しいんですが、大まかな方向性としてね。荒木先生がそこまで考えているとは到底思えないですけど。
「C-MOON」の元ネタ……”C Moon”/Wings
続いて、「緑色の赤ちゃん」を取り込むことで発現したスタンド、「C-MOON」。これはポール・マッカートニー率いるウィングスのシングル、『C・ムーン』からです。
まあ、ウィングスって段階でわかると思うんですけど、「ジョジョ」のラスボスが見せるカリスマとは無縁の楽曲ですよね。ポール・マッカートニーってお気楽ポップスを書かせれば天下一品の人物ですから。
じゃあなんでこの曲なのかというと、この「C-MOON」というスタンドはさっきも触れた「天国」を迎えるためのスタンドなんですけど、「天国」には「新月の時」が必要なんです。つまり、この「月」というキーワードから引っ張ってきたってとこでしょうね。
(『C・ムーン』の歌詞に「僕は天国には行けない」というものがあって、それも関係してるみたいな説もあるんですけど、荒木先生がそこまで考えているはずがないのでここでは軽く流しておきます)
「メイド・イン・ヘブン」の元ネタ……”Made In Heaven”/Queen
そして、「C-MOON」がケープ・カナラベルの地で更なる変化を経た姿が「メイド・イン・ヘブン」。こっちの元ネタは、クイーンのラスト・アルバム『メイド・イン・ヘヴン』、及びその表題曲でしょうね。
元々はフレディ・マーキュリーのソロ楽曲だったんですが、彼の死後発表されたアルバムの中でリアレンジされクイーンとしても発表されました。流石にマーキュリーのソロまで聴いてるってことはないと思うので、元ネタとしてはクイーンのヴァージョンでしょう。
これ、珍しく歌詞との符合が多く見られるんです。「全ては天の思し召し」というタイトルにしろ、「運命に全てを委ねている」という歌い出しにしろ。これがどういう意味で符合しているのかは、「ジョジョ」を読んでください。第6部は現在アニメ化の真っ最中なのでそっちを楽しみにしてもらってもいいでしょう。
【番外編】「ステアウェイ・トゥ・ヘブン」の元ネタ……”Stairway To Heaven”/Led Zeppelin
さて、これでプッチ神父のスタンドの元ネタは紹介し終わった……と思いきや、ちょっとニッチな話しましょうか。
最終形態である「メイド・イン・ヘブン」、コレ実は単行本化のタイミングで変更になった後のスタンド名なんです。じゃあ初出時、ジャンプ連載時にはどういう名前だったかというと、「ステアウェイ・トゥ・ヘブン」です。
元ネタは明らかですね。レッド・ツェッペリンの代表曲にして、ロックの歴史に燦然と輝く聖典“Stairway To Heaven”(邦題『天国への階段』)です。
正直、こっちの方が合ってると思うんですよ。それは『天国への階段』という楽曲の存在感がジョジョ第6部を締めくくるにふさわしいものだという意味でもそうだし(『メイド・イン・ヘヴン』はやっぱり地味ですし……)、そしてこの楽曲の徐々に壮大になり、アコースティックなバラードからハード・ロックへとなだれ込むという構成がスタンド能力によく合致しているという意味でも。
スタンド名の変更ってコレ以外にも何回かあった気がするんですけど、それって「間違えてスタンドの名前被っちゃった」という如何にも荒木先生らしい適当な理由なんですよ。ただ、この「ステアウェイ・トゥ・ヘブン」に関してはそんなこともなく。むしろ、ここで使うために温めていた感すらあるのに。
で、コレは真偽不明の噂なんですけど。「ステアウェイ・トゥ・ヘブン」が登場する第6部最終巻が発売されるタイミングで、ジミー・ペイジが来日したみたいなんですね。で、ペイジというとなかなかの守銭奴で有名でしょ?だからケチをつけられて揉める前に名前を変更した……ということらしいです。
「D4C」の元ネタ……”Dirty Deeds Done Dirt Cheap”/AC/DC
続いて第7部「スティール・ボール・ラン」より、ファニー・バレンタイン大統領のスタンド「D4C」。コレは作中でも正式に使われている略称で、正しくは「Dirty Deeds Done Dirt Cheap」(本編でも英語表記です)。元ネタは、AC/DCが1976年にリリースしたアルバム、及びその表題曲ですね。
AC/DCらしい痛快でパワフルなハード・ロックなんですけど、まあコレも曲だけで見ればそこまで親和性は高くないと個人的には思います。何しろ大統領って今のところ唯一の「高潔なラスボス」ですからね。ハード・ロックのガヤガヤした猥雑なカッコよさとはちょっと温度感が違います。
ただ、このスタンド名を語る上で外せないのはその邦訳ですよね。基本的には「D4C」(英語綴りの頭文字をそれぞれ取っています)と呼ばれるんですけど、その正式なスタンド名は「いともたやすく行われるえげつない行為」……カッケエ。
直訳するなら「はした金でやる汚れ仕事」ってな感じで、如何にもAC/DC的なダーティーでロックな意味になるんですけど、それを「いともたやすく行われるえげつない行為」と訳せるセンスがもうとんでもなく素晴らしい。この邦訳だけで、「D4C」をスタンド名にしてくれてよかったと心から思います。
で、この「D4C」が「聖なる遺体」の力によって進化した能力が「D4C-ラブトレイン-」。「受けた不幸を別の誰かにおっ被せる」という大変無敵かつ大変えげつない能力なんですけど、この元ネタはおそらくオージェイズのヒット曲、『ラヴ・トレイン』からかなと思います。
ここにきてAC/DCと一切関係ないフィリー・ソウルというのが違和感しかないんですけど、AC/DC絡みで元ネタが見つからないもんで。まあ、その辺荒木先生適当ですからね。
「ワンダー・オブ・U」の元ネタ……”The Wonder Of You”/Elvis Presley
最後にご紹介するのが、第8部「ジョジョリオン」のラスボス、透龍くんのスタンド「ワンダー・オブ・U」。透龍くんなんてくん付けで呼んでいるのは、それがラスボスの正式名称だからです。「ユー(You)」を「U」なんて表記していますからてっきりプリンス絡みかと思いきや、元ネタはプレスリーなんですよ。
コレ、おそらく「ジョジョ」の長い歴史で唯一スタンド名の元ネタが作中で明示された例じゃないかな。透龍くんがプレスリーの”The Wonder Of You”を聴いているシーンがあるんですよ。流石に狙っての演出でしょうから。
個人的に「ジョジョリオン」は全く評価できないんですけど(荒木先生どぉなっちゃってんだよってレベルでストーリーが散漫だし、カタルシスもないんです……)、ただこの「ワンダー・オブ・U」はいいセンスしてると思います。とにかくべらぼうに強いんですよ。
何しろ、スタンド及び本体に危害を加えようとするだけで(これは正体を探るだけでも該当します)、この世の災厄が降りかかるという理不尽極まりない能力ですから。またこの「災厄」ってのが、空からいきなり飛行機のドアが降ってくるとか、そのレベルの理不尽さでね。
「ジョジョ」って毎回毎回ラスボスが無理ゲーレベルで強いんですけど、この「ワンダー・オブ・U」はトップクラスの化け物スタンドでした。だからこそ、「キング」ことエルヴィスなのかなとも思ったりね。
まとめ
さて、久しぶりの第2弾、お楽しみいただけましたでしょうか?(リクエストくれた方が読んでなかったら結構悲しくなります)
「ジョジョ」なんてもう30年から歴史のある作品ですから、もう元ネタ掘り下げるだけでかなりの量の洋楽に触れることができるんですよね。まあロックが多めではあるんですけど、日本人どうせみんなロック好きだしちょうどいいでしょう。
第3弾……どうしましょうかね。部毎に絞って紹介してもいいかなとは思うんですけど、結構量多くなるのでね。プレイリストにでもまとめてサラーッと解説とかでもいいかもしれませんね。まあいずれということで、それではまた。
コメント
無茶なリクエストに応えていただいて
ありがとう…それしか言う言葉が見つからない…
書くべき内容は明白だった分、いいネタとして重宝しました笑
こちらこそリクエストいただきありがとうございました!ましてジョニィ・ジョースターからの要望だったとは……